【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第四話「おや? 奏 と 翼 の ようす が ……?」

『光彦! 10万ボルト!』

『ピッピカ、チュウ〜〜〜ッ!!』

 

 二課発令所のモニターに、奏と光彦の姿が写し出される。

 光彦は奏の指示を受けて雷撃をノイズに放ち、煤へと変える。

 その殲滅能力は瞬間的に奏や翼を超えており、頼もしくもありまた危険であった。

 故にこうして奏が指示を出してそれに従う光彦を見せる事で、なんとか日本政府からの追及を躱していた。

 だがそれでも上からの圧力は続いており──。

 

「光彦くんが戦線に参加して一月か……」

 

 決して短くない時が流れていた。

 

 

 第四話「おや? 奏 と 翼 の ようす が ……?」

 

 

 カーッ! 奏ちゃんのシンフォギアスーツやらしか! やらしか女ばい! 

 

 そう訴えかけるも奏ちゃんには届かない。

 この前エッチな本を突きつけて、キミはこれくらいエロいよ! って伝えようとしたけど、本が串刺しにされて「そんなモノ拾うなっ!」とほっぺニギニギされただけだった。すまないな、川辺に捨てたであろう前の持ち主よ……。

 その点翼ちゃんはマシだ。マント付けてて露出が少ないし、ぺったんこだし。むっ、殺気。

 

「むっ、外したか」

 

 いつの間にか奏ちゃんの部屋に入って来た翼ちゃん。

 俺を掴もうとしていた手が空振りに終わり、こちらを渋い表情で見ていた。

 この子俺が体付きの事を考えていたら察知して襲ってくるんだよね。

 草むらに潜んでいる野生のポケモンより怖い。

 

 それより何の用ですか翼ちゃん。

 

「暇だからな。ちょっとお前で遊ぼうかと」

 

 お前()じゃなくて、お前()なんですね……。

 そう言う翼ちゃんの手には、俺専用のブラシが。

 んー、だいたい何がしたいのか分かるけど、この子俺に対してツンデレ過ぎじゃないですかね? 

 

「……(ソワソワ)」

 

 ……仕方ない。

 俺は部屋のソファに上がり寝転ぶ。すると翼ちゃんも隣に座り、俺を抱き上げて膝に乗せるとブラッシングし始めて……って。

 

「ピカカカカ!?」

(いててててて! 逆毛はいかん! 痛い!)

「あ、わ、悪い! やっぱり慣れてなくてな……」

 

 俺が痛み出すとすぐに止まり、今度はちゃんとブラッシングしてくれる。

 あー……さっきは痛かったけど、やっぱり気持ちいいな……。

 

 さて。奏ちゃんを盗られたと嫉妬して何かと俺に意地悪していた翼ちゃんだが、時間が経ち、戦場で背中を預け続けた結果、ようやく俺の事を認めてくれたとの事。

 

 オレっ子だけど可愛いものは普通に好きなのか、みんなが見てないところで俺を撫でている(甘えるをしたら奏ちゃん同様あざといと言われた。何故)。

 さらにこうして隠れて俺のブラッシングもしている。

 でも普通にみんなにバレている。

 ついでに奏ちゃんが俺にデレデレなのもバレている。

 人気者は辛いぜ。

 

「光彦って凄いよな……」

「ピカ?」

「だって、お前家に帰りたいのにオレ達の手伝いをしてくれるって言ったじゃないか」

 

 ああ、そのことか。

 二課の戦力として前線に出て暫くして、奏ちゃんがやっぱり反対だって言い出したんだよね。その時の俺は初めこそニート生活辞めさせられて戦いに乗り気じゃなかったけど、俺が戦わなかったら人がたくさん死ぬと自覚したら、そりゃあね……。

 だから新聞とか使って俺の意志を伝えた。当然奏ちゃんは渋面を浮かべたけど、今は俺に指示を出したりして呼吸を揃えて戦っている。

 何故か人に指示されて動くと技の威力が上がるんだよね。

 何でだろう。

 

「……お前みたいな奴を本当の【防人】って言うんだろうな……」

 

 ……サキモリ? 

 

「……少し、話を聞いてくれるか」

 

 神妙な顔をして、翼ちゃんは語り始めた。

 昔からこの国を守っている自分の家の事を。

 しかしその護国の為に涙を流した人がいる事を。

 ……父親からも冷たくされ家出した事を。

 防人である事を捨てた事を。

 弦十郎に着いていき、装者になった事を。

 そして、奏に出会い──彼女に憧れた事を。

 

「姐さんは、ノイズによって家族を失った。それでも折れず立ち上がり仇を取るために戦い──いつしか当たり前のように人を守る為に戦っている」

 

 でもノイズに対する憎しみは消えてないだろうけどね。

 それでも翼ちゃんの言う通り、奏ちゃんが戦う理由は敵討ちだけではないのは確か。

 

「オレは……そんな奏の姐さんに憧れた」

 

 あー……奏ちゃんもそれっぽいこと言ってたな。

 一人称をオレにして、女の子らしからぬ言動をし始めたのも奏ちゃんを意識してのもの。

 本人は「あたしそんなにガサツか?」と割と不満そうにしていたけど。

 

「でもダメだな……()()を見ていると情け無くなる」

 

 オレは半端者だ。

 翼ちゃんはそう言ってギュッと俺を抱き締めた。

 そして背中に顔を押し付け、じんわりと温かいモノが広がっていくのを感じた。

 

 

 

 

 

「翼がそんな事をね……」

「ピッ!」

 

 という訳で奏ちゃんに全て暴露した。

 ちなみに奏ちゃんと了子さんは俺の言葉を何となく理解している。だから意思疎通する時は二人に頼っている。

 

 翼ちゃんの話を聞いた奏ちゃんは神妙な顔で頷く。

 もしかしたら察していたのかもしれない。

 

「あたしはそんな上等な存在じゃないんだがな」

 

 俺はそんな事無いと思うけどなー。

 奏ちゃんも翼ちゃんも、それに二課の人達もみんな頑張っていて凄いと思った。

 ……間に合わなくて死んでしまった人達のことを本気で後悔しているのを見て、俺も手伝いたいなって思った。

 だから。

 

「ピカピ、チュウ、チャァ……」

(俺が好きな奏ちゃんの事をたいした事無いって……奏ちゃんが言わないで)

「……まさかお前に慰められるとはな」

 

 グリグリと俺の頭を撫で付ける奏ちゃん。

 ぬあー、頭が取れるー。

 鳴き声を上げてされるがままにされているとピタリと手を止める奏ちゃん。

 どうしたの? 

 そう思っていると抱えられてギュッと抱きしめられる。

 

「翼の悩み聞いたんだ。ついでだからあたしの話も聞いておくれよ」

「ピカー」

 

 仕方ないなー。

 奏ちゃんの頼みだ。聞こう聞こう。

 

「……翼はさ、あたしの戦う理由について偉く褒めてくれたけどさ。正直これで良いのかなって思ってる」

 

 どういう事だろう。

 

「シンフォギアを纏ってノイズを見る度に、家族の事を思い出す。憎しみを思い出す。

 シンフォギアを纏って人を助ける度に、誰かを守りたいと思う。

 ……翼と一緒に歌っていると、もっともっと歌いたいと思う」

 

 でも、奏ちゃんが震えた声で呟く。

 

「いつか忘れてしまいそうで怖いんだ。家族の事を。

 それにあたしだけが生きている事も辛い……! 

 いつも思う。何であたしが生き残ったのか。助けられなかったのか。

 生き残ってしまったあたしが、復讐の事以外考えても良いのか……」

 

 うーむ。奏ちゃん、気付かないうちに悩んでいたようだ……。

 でも正直言うと、そこまで悩む事なのだろうか。

 奏ちゃんの家族なら復讐よりも、奏ちゃんがしたい事をして欲しいって思うだろうし……。

 

 それに俺は奏ちゃんの歌が好きだ。翼ちゃんの歌も好きだ。

 戦場で二人の歌を聴いていると胸がポカポカして、力と勇気が湧いてくる。

 それにこの前奏ちゃん達に助けられた人達も言っていた。

 二人の歌が聞こえたから、生きるのを諦めないで済んだって。

 だから、奏ちゃんは……。

 

「ピカピーカ」

「……ははは。悪いな。お前に言っても仕方ないよな……でもスッキリしたよ」

 

 そう言うと奏ちゃんは立ち上がり「旦那に呼ばれてるから行くわ」と言って立ち去って行った。

 うーん……伝える前に行っちゃったな。

 肯定されるのが怖かったのか。否定されるのが嫌だったのか。

 それは分からないけど……。

 

「ピカピー……」

 

 奏ちゃんも翼ちゃんも、もう少しだけ自分に素直になっても良いんだけどな……。

 

 

 

 

 

 という訳で、力を借りるべくやってきました了子さんの元へ。

 

「私も暇では無いのですが……」

 

 ごめんって。許してくださいって。

 それは置いといてどうすればあの二人を元気付けられるのでしょうか。

 

「……随分とご執心なようで」

 

 飼い主とその親友だからね! 

 

「はぁ……そういう所はいつまで経っても変わりませんね」

 

 ……? まぁ自分の性格はそうそう変わらないと思うけどね。

 それはそうと了子えもん〜。二人を元気付ける道具出してよ〜。

 

「そんな物ありませんし、作りませんよ」

 

 なじぇ〜。

 

「それは……」

 

 ……? 了子さんが何やら言い淀んだ。

 どうしたのだろうか。

 しかし彼女は首を横に振ると口を開く。

 

「物はありませんが、提案はできます」

 

 お? ホント? 

 

「ええ。良いですか、今から一月後に──」

 

 

 ◆

 

 

 あれから一ヶ月。

 奏は翼と光彦と共に装者としての日々を過ごしていた。

 その間、二人はあれ以来己の悩みを胸の奥に仕舞い込んでいた。

 

『お疲れ様です。周囲にノイズの反応はありません』

『二人はそのまま帰投してください』

「ピカ!」

『おっと……三人、ですね』

 

 オペレーターの藤尭の言葉に、光彦が不満気に声を上げると彼は苦笑しながら訂正した。

 それに満足した様子の光彦は、奏と翼に振り向き一声上げる。

 

「ピカピ!」

「そうだな、帰るか」

「んー、今日はオレが前に出たからそこそこ疲れたぜ」

「と言っても数が少なかったし、連携も様になってきたから負担は減ってきただろ?」

 

 二人と一匹の連携はこの二ヶ月で洗練されている。

 元々コンビネーションが抜群だった二人に加え、雷撃を主にサポートする光彦の参入は割とバランスよく纏まっていた。

 奏と翼が前に出て戦うタイプ故に、遠距離タイプの光彦は大きな戦力となる。

 

 しかしそれ以上に光彦のやる気が違った。

 

「ピカ♪ ピカ♪」

「今日もご機嫌だなコイツ」

「ああ。ここ最近はこうだよな……それにあたし達の真似をしたのか、戦闘中歌っているし」

 

 光彦、戦闘中にピカチュウの歌を歌う! 

 

「でも舌を噛んでたよな」

 

 しかし、舌を噛む……! 

 

「光彦、お前は歌わなくても良いんだぞ〜」

「ピカ〜」

 

 雑談をしながら奏達はリディアンに戻り、その地下の本部へと向かった。

 エレベーターで降り、廊下を歩いていると翼が違和感に気づく。

 

「……? 人の気配が少ない。いや、これは集まっている?」

 

 何をしているんだろう。まさか襲撃!? と考え……その割には空気が殺伐としていない事に彼女は首を傾げる。

 そんな彼女を光彦がグイグイと押す。

 気にするな。早く行け。

 そんな意思を感じた。

 そして押されているのは奏も一緒で、戸惑っている。

 

「どうしたんだ光彦? いったい──」

 

 しかし光彦は答えず、二人はそのまま食堂に通され──。

 

『誕生日おめでとう! 天羽奏さ──ん!!』

 

 大量のクラッカーと祝辞の言葉に二人はポカンとした。

 反対に後ろの光彦はサプライズが成功したと笑みを浮かべている。

 そしてすぐに翼がハッと正気を取り戻し──膝から崩れ落ちた。

 

「そ、そうだった……! オレとした事が姐さんの誕生日を……!」

「つ、翼そう落ち込むなって」

「プレゼントもしっかりと用意したのに……!」

「それで忘れるってそれはそれで凄いな」

 

 なお、そのプレゼントは翼の汚部屋に埋まっており発掘は後日となる。

 漫才を続ける二人に、弦十郎と了子が歩み寄る。

 

「サプライズは成功したようだな、奏」

「苦労したのよ? 奏ちゃんにバレないように、それとなーく翼ちゃんを誘導したりして」

「貴女の仕業か了子さん!」

 

 どうやら翼が忘れていたのは了子の仕業らしい。

 うがー! っと喰ってかかる彼女に、了子は苦笑しつつ弁明する。

 

「仕方ないでしょう、あの子のお願いだったもの」

「あの子?」

 

 彼女の物言いに奏が怪訝な表情を浮かべ、視線を辿ると……そこにはラッピングされた何かを持っている光彦がこちらに歩いて来ていた。

 それも赤と青の二つだ。

 光彦はそれを「ピカ!」と鳴いて二人に差し出す。

 

「これ、あたしにか?」

「え? オレも?」

「ああ。光彦君の代わりにオレと了子くんが買いに行った。翼のは誕生日を過ぎていたから、だそうだ」

 

 まぁ、渡す理由は別にもあるんだがな。

 弦十郎の言葉を聞きながら二人は箱を受け取り中を開けてみる。

 するとそこには……。

 

「ネックレス……?」

「それもこれって……」

 

 光彦からのプレゼントはそれぞれ赤と青をした翼のネックレスだった。

 受け取って驚いている二人に了子は口を開く。

 光彦の想いを代弁する為に。

 

「翼、羽……つまりフェザーのネックレスには、空高く羽ばたいて大きな風を起こすイメージから、現状からの変化や出逢いといった意味もあるわ。そして、現状に満足していない……不安のある人の()()()()()()()()()()()()()物でもあるの」

「! それって……!」

「光彦……」

「それとね」

 

 了子は優しい笑みを浮かべて、光彦が最も言いたい事を伝える。

 

「二人の歌が好き」

『!!』

「みんなを、誰かを助ける歌が好き。隣で聞いていると胸がポカポカして──勇気が花咲くように、戦う事が、守る事が、頑張る事ができるって」

『……』

「だから──恐れないで。胸の歌を信じて」

 

 光彦からの伝言はそれで終わりなのだろう。

 了子はそれだけ言うと、弦十郎を伴って別のテーブルに向かう。弦十郎もまた優しい顔で二人と一匹を見て、彼女に続いた。

 

 沈黙が続く。しかし気まずくは無かった。

 しばらくして奏が光彦を抱き上げ、それを翼が横から添えるように手を回す。

 

「ありがとう、光彦」

 

 初めに口を開いたのは奏だった。

 

「お前みたいなちっちゃい奴に元気付けられて、背中押されたら前に進むしか無いよな。

 いや、違うな。私がそうしたいんだ。それを変な理由つけて悩んで──らしく無かったよ!」

 

 次に翼が感謝の言葉を告げる。

 

「ありがとう光彦。オレ、怖かったんだ。言葉遣い変えて、カッコよく決めてても臆病なんだ。それを隠そうとしていた。これで良いのかって分からなくなってた。

 でもお前はそんなオレを認めてくれるんだな……。

 うん、ありがとう。オレまた悩むかもしれないけど、頑張るよ。そしていつか姐さんやみんな……そしてお前みたいになる」

 

 二人の笑顔と感謝の言葉を受けて、光彦は心の底から笑顔を浮かべた。

 

「チャア〜!」

 

 それを見た二人はギュッと光彦を抱きしめ──この日、ツヴァイウィングが誕生した。

 胸の歌でみんなを、誰かを助けたい。

 思いっきり歌いたい。

 誰かの泣いた顔を、歌で笑顔にしたい。

 そんな想いが込められた何処までも飛んでいく雷光煌めいて羽ばたく両翼。

 一歩踏み出した二人を皆が祝福した。

 

 

 

 

 

 

 そして、それから数日後。

 光彦はとある日まで悪夢を見る事となる。

 

 その身を煤へと変え、風に吹かれて消えていく奏と。

 そんな彼女を抱き締めて泣き叫ぶ翼。

 そしてそれを呆然と見つめる──無力な自分を。

 

 

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