【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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あおい安室さんから素晴らしいモノを貰いました!


【挿絵表示】


他にもパワプロ風の絵も描かれています!

https://twitter.com/aoiamuro/status/1348226423153061888?s=21


第十一話「勇者──しかし彼女達にとってはただの優しい先輩」

 これは、遠い昔のお話。

 

 

「此処に居ましたか、リオル」

『ナターシャ?』

「ナスターシャ、です。何度間違えるんですか」

 

 FISの研究施設に、それは居た。

 完全聖遺物キマイラ。

 過去に捕らえた際にありとあらゆる聖遺物と融合させその能力の拡張に成功し、しかし一時逃げられてしまう。

 しかし再び彼らの前に現れ、特に抵抗される事なく確保する事ができた。

 

 ネフィリムとはまた違う自立型聖遺物。

 その聖遺物である彼は、窓から覗ける外を見上げており、そこにナスターシャが二人の子どもを連れてやって来た。

 

『その子達は?』

「レセプターチルドレンです。この子達もまた、フィーネの魂を宿す可能性を秘めています」

 

 ナスターシャの言葉に──リオルは唾を吐いた。

 

『幼い子どもを連れて来て実験動物扱い。気に食わないな』

「……」

『ナスターシャ……此処の奴らはいつまでこんな事を続けるんだ? 大人がイタズラに子どもを傷付けて──俺はそれが許せない』

 

 険しい顔でギュッと拳を握るリオル。

 しかし今の彼には制御装置が付けられ、さらに施設を分けられる事により下手な行動はできなくなっていた。

 

 無力感。

 それに苛まれている彼は、半ば八つ当たり気味にナスターシャに言葉をぶつけた。

 彼女に喰って掛からないのは、ナスターシャの真意を知っているからだろう。

 リオルは視線を外から二人の少女へと向ける。視線を向けられた二人はピクリと体を震わせてナスターシャの影に隠れる。

 

『……孤児か?』

「えぇ……彼女達の両親は」

 

 ナスターシャはそれ以上の言葉は続けなかった。リオルが視線で言うなと強く訴えた為に。

 リオルは二人に近付き、にこやかに笑みを浮かべながら手を差し出す。

 

『初めまして。俺はリオル。君達の先輩だ──俺は君達を歓迎しよう』

 

 身長はリオルの方が低い為、自然と見上げる形になる。

 しかし堂々とした佇まいに彼女達は気圧され──。

 

『か、かわいい……!』

『……は?』

 

 ……る事なく、リオルに目を輝かせて飛び付き無遠慮にペタペタと触り出した。

 

「お人形さんみたい!」

『人形じゃない、生きてる! だから耳を引っ張るな!』

「リオルだから……リッくん! アナタは今日からリッくんね!」

『リっくん!? いや、さっきも言ったけど俺は君達の先輩だから! だから……』

「じゃあリッくん先輩!」

「姉さんそれ可愛い!」

『ちょ!?』

 

 一気に打ち解けた三人を、ナスターシャが微笑まし気に見ていた。

 やはり子どもは笑っている方が良い。

 リオルに険しい表情は似合わない。

 

 できるのなら、彼らに少しでも幸福が訪れて欲しいと彼女は思った。

 

『助けてナターシャ〜!』

 

 

 第十一話「勇者──しかし彼女達にとってはただの優しい先輩」

 

 

 

 マリアとセレナはあっという間にリオルに懐いた。周りの大人が厳しく冷たい者ばかりで、同じ立場の子どもたちも何処か暗かった。

 だからいつも優しく笑顔にしてくれる彼の事を大好きになるのに、時間はかからなかった。

 

 反対に、マリア達以外の子ども達は、リオルから遠去かる。

 嫉妬ではなく、未知への恐怖と諦め、そして大人達の態度から。

 リオルは同じ実験体にも関わらずある程度自由が認められている。それは、大人達がリオルに下手に逆らえば命が無く、まだ彼の要望に応えれば実験に素直に従ってくれるから。

 それを知らない子ども達は、リオルと関われば同じように見られてしまうと、彼を拒絶した。

 

 異端は、排除される。

 

 だからこそ、マリアとセレナの存在は大人達にとって予想外のものだった。

 今までの実験と別のデータが取れると判断し、彼女達はリオルと一緒に居る時間が増やされた。

 

 その事を知ってるリオルは複雑に思いながらも、彼女達のことを大切にした。

 

「見てリッくん先輩〜。絵を描いたんだ!」

『ほう。セレナは絵が上手だな。これは……俺とナターシャとセレナとマリア。それに……』

「うん! 今はみんな仲良くなれないけど、いつかは!」

 

 その絵には、たくさんの子ども達がリオルに集まり笑顔を浮かべていた。

 とても優しい光景にリオルは嬉しいそうに笑い、背伸びしてセレナの頭を優しく撫でた。

 

「わ、わ!?」

『セレナは本当に優しいな──ありがとう』

「? どういたしまして!」

 

 この日、リオルに一つ宝物が追加された。

 

 

 ◆

 

 

 数年が経った。

 

「ふっ! はっ! てやぁ!」

『もっと踏ん張るんだマリア! そして心を乱すな!』

 

 訓練室にて、マリアがリオルに稽古をつけて貰っていた。

 年齢を重ねて、身長も体重もマリアの方が勝っているのだが、リオルは彼女の拳や蹴りを尽く払い落とし、そして回避していく。

 

「っ、なんで当たらないの……!? 目隠ししているのに!」

 

 さらにマリアの言う通り、リオルは布で目元を覆い視覚情報を遮断した状態で彼女の攻撃に対処していた。

 ハンデを物としないその動きに次第にマリアは焦り。

 

『はい』

「あっ……」

 

 スパンッと綺麗に足払いが決められ、体勢を崩したマリアはそのまま倒れ込み──しかしその前に背中と膝裏に手を差し伸ばされ支えられる。

 痛みに備えて思わず閉じていた目を開くと、マリアの視界にはこちらを優しく見守るリオルの姿が。

 

『大丈夫か?』

「……えぇ」

 

 頬を赤く染め上げながらプイッと顔を背け、そんな彼女に苦笑しながらリオルはソッとマリアを下ろす。

 若干名残惜しそうにしているマリアだったが、すぐに表情に影を落としてため息を吐く。

 

「リッくん先輩みたいに強くなりたいけど……そう簡単にはいかないわね」

『強い? 俺が? ──ははははは! 俺が強いか!』

 

 何気ない一言だったが、リオルにとってはそうではなかったらしくひとしきり笑って──悲しい表情を浮かべながら言った。

 

『俺は強くなんか無いよ。ずっと弱いままだ』

「弱い? アナタが?」

 

 リオルの言葉を聞いてマリアは信じられない気持ちだった。

 何故なら、彼女にとってリオルは尊敬する相手で、目指している者で、憧れで──大好きな先輩だからだ。

 だから、彼が自分を弱いと言っている事が、我慢ならなかった。

 

「アナタは強いわ! わたしやセレナ、マムだけではなく、たくさんの人を守っている! それはアナタが強いから──」

『マリア。そこは勘違いしてはいけない』

 

 興奮するマリアを、リオルが止める。

 

『強いから守るのと、守れるから強いのは違うんだ』

「……意味がよく分からないわ」

『俺もだ。……ただ、人にはそれぞれの強さと、弱さがある』

 

 ギュッと握り締めて己の拳を見つめるリオル。

 その目には果たして何が映っているのだろうか。

 守ってきた命か、それとも──。

 

『腕っ節が強いだけじゃ全ては守れない。だからといって力が無ければできることも限られてくる。

 俺はまだ弱い。弱いから強くなれる。成長できる。進化できる──そう信じている』

「弱いから、強くなれる……」

 

 その言葉を聞き、マリアは胸の奥が熱くなり──深く刻み込まれた。

 

『お、良い顔になったな──組み手続けるか?』

「──うん! お願い!」

 

 今度は、リオルもヒヤッとするほどマリアは絶好調だった。

 

 

 ◆

 

 

「やはり機械での完全聖遺物の制御は無理か!?」

「このままでは……!」

 

 暴走したネフィリムにより、基地は崩壊の危機に瀕していた。

 それを不安そうに見ているマリアとセレナ。

 ナスターシャは他の研究員と共になんとか対処しようとしているが、それも無駄だろう。

 

 このままでは皆死ぬ。

 

 それを許せないと思ったからこそ──リオルは、その力を手に入れた。

 

 光に包まれ、体が大きくなり、身に宿す波導が比べ物にならない程、爆発的な増大する。

 

「──ルゥオオオオオオオ!!」

 

 守る者のために立ち上がったのは、波導の勇者ルカリオ。

 鋼の如き堅い意志と鍛え抜かれた闘志を待つ戦士の名だ。

 

【グオオオオオオオオオオ!!】

 

 リオル──否、ルカリオの波導を感じたのか、雄叫びを上げる完全聖遺物ネフィリム。

 このまま放っておけば、この研究施設にいる皆が、彼の事を恐れていた子ども達も、ナスターシャも、マリアもセレナも──全員コイツに喰い殺される。

 

 それは……嫌だな、とルカリオは強く思った。

 

「リっくん先輩……?」

 

 親しみと敬意が混ざった結果妙な呼ばれ方をされたながらも、今では気に入っている呼び名に彼は優しい笑みを浮かべた。

 それと同時に、こう呼ばれるのも、これが最後なのかもしれないと思い寂しく思った。

 

 大きくなった腕を伸ばし、ルカリオを茫然と見上げるセレナの頭を撫でる。

 

『アイツは絶対に止めるから、これからも姉妹仲良く元気でいてくれ』

「なんでそんな事言うの──待って! 行かないで!」

 

 静止の声を振り切って、彼はネフィリムの前に飛び出した。

 最後にチラリと後ろを見た際、セレナは泣いていた。

 そして、そんな姉妹の隣で、マリアは覚悟を決めた顔でルカリオを──先輩を見据えていた。

 ……止めても来るんだろうな、とルカリオは苦笑する。

 

 彼はネフィリムの前に立ち、構える。それと同時に──背後から歌が聞こえた。

 

「Seilien coffin airget-lamh tron」

 

 そして、隣にアガートラムのギアを纏ったマリアが降り立った。

 その力で、何処か懐かしさを感じるその力で、ネフィリムを止めるつもり──ではなく。

 

 ただ大好きな先輩の隣に立ち、共に戦いたい。

 そして弱さも強さも共に背負いたいと思ってこの場に立っていた。

 それが分かっていながら、ルカリオは彼女を止める事ができなかった。

 

 ──無理はして欲しくない。

 ──だが、止まらないのなら。

 ──先輩が頑張るしかないだろう……! 

 

『説教は後だ──行くぞ』

「うん」

 

 スーッと深く息を吸い──力を解放させる。

 そして──。

 

『──波導は、我にあり』

 

 ──基地が大きく揺れた。

 

 

 そして。

 

「姉さん……姉さん!!」

 

 片腕を失ったルカリオと、絶唱を歌いなんとかネフィリムを基底状態に戻したものの、命の灯火が消えかけているマリアが、戦場に残された。

 

「くそ、せっかく起動したネフィリムが!」

「キマイラもやばいぞ。このままだと」

「面倒な事をしやがって。装者を見つけるのも大変なのに、無駄に命を使って」

 

 そして投げ掛けられるのはどこまでも冷たい大人達の言葉。

 セレナは振り返って泣きながら叫んだ。

 

「なんでそんな事を言うの!? リッくん先輩も! 姉さんも! アナタ達を助ける為に……それを!」

『よせ、セレナ』

 

 そんなセレナを血塗れのルカリオが止めた。

 体に走る痛みに悶えながら、しかし目の前の少女の胸の痛みを受け止めようとしている。

 

「でも!」

『こういう事は、よくある。例え守ったとしても感謝されない……それどころか何故助けてきたと掴み掛かってくる人だっているんだ』

「……っ」

『そしてマリアもその事を分かっていた』

 

 故にこのまま彼らが息絶えようとも──この残酷な世界から見れば当然の事。

 人は、人を傷付けてしまう。

 そして傷付けまいとすれば、己が傷付く。

 

 痛みが人と人を繋ぐ。

 

 正しいとは言い切れないが、間違っているとも言い切れない。

 

 だからここでマリアが死ぬのも──もしかしたら世界が望んだ事なのかもしれない。

 

『──だとしても!』

 

 それでも彼は──手を伸ばし、人と手を繋ぐ事を諦めない。

 

『マリアだけは助けてみせる!』

「リッくん先輩……?」

『これは、俺の我がままだ! 彼女にこれからももっと世界を、未来を──輝く明日を見て欲しいという、俺の我がままだ!』

 

 ルカリオの残っている腕がマリアの胸に触れる。

 

『波導最大──生きるのを諦めるな、マリア!!』

 

 彼らを中心に、基地の瓦礫を吹き飛ばすほどの波導が荒れ狂い、そして──。

 

 

 

「ここは……?」

 

 目覚めたマリアの体は──幼く、縮んでいた。

 マリアの命が尽きかけた事。ルカリオも瀕死状態だった事もあり、彼女が問題なく生命活動ができる肉体年齢まで圧縮した事により起きた事象。

 

 そして。

 

「これは……」

 

 マリアの視界に揺らめく蒼い炎のようなモノが見えた。

 それは、波導だった。

 生きとし生きる者全てが持つ生命エネルギー。

 それを彼女は継承していた。

 

 しかし。

 

 それよりも。

 

「あああ……ああああああ──!!」

『泣くなよセレナ。……俺も悲しくなる』

 

 泣き叫びながらセレナに抱き付かれ、徐々に体が消えていくルカリオから──目が離せなかった。

 マリアは起き上がるなり駆け出して、しかし体が縮んだことにより足を縺れさせて、ルカリオの前で転んだ。

 それを驚いた表情で見ていたルカリオが、心配そうに彼女の名を呼ぶ。

 

『大丈夫か、マリア?』

「……大丈夫、じゃない」

 

 マリアの頬に一筋の涙が描かれ、しかしそれは次々と流れていく。

 

「大丈夫じゃないわよ! アナタが!」

『……まぁ、そうだな』

 

 困ったように笑いながらそう言う彼に、彼女は喰ってかかる。

 

「どうして! どうしてなの! どうしてアナタが……リッくん先輩が……!」

『……どうしてと言われても、決まっているじゃないか』

 

 セレナを撫でていた手を離して、マリアの頭に手を乗せるルカリオ。

 ネフィリムに喰われた際、吸収されない為に自爆させたが──その事を彼は少し後悔した。

 もう泣いている二人を、同時に頭を撫でてあげる事も、抱き締める事もできやしない。

 それでもこの胸に抱いた想いは伝える事ができる。

 

『マリア……セレナ……そして、ナターシャ』

 

 彼は泣いている二人と、必死になって駆け付けたのであろう息を乱したナスターシャを見て、最期の言葉を送った。

 

『俺は君達の事が大好きだ。大切だった。失いたくなかった。──だから、俺はこの選択を取り続ける』

 

 彼は幾千年も前から、続けていた。

 

『その為ならこの命惜しくない』

 

 その時、その時代の大切な人を守る為、救う為に。

 

『許せとは言わない。残していく君達に』

 

 そして最期は、涙を流して──別れる。

 

『だから──ありがとう。俺に、君たちを守らせてくれて。救わせてくれて』

 

 その言葉を最期に──ルカリオは光となって消えた。

 

「あああ……あああああ!!」

 

 セレナは泣いた。泣き続けた。

 彼との思い出が深ければ深いほど、彼女の悲しみは強くなる。

 優しい故に思ってしまう。自分が代わりになれれば、と。

 そしてすぐに分かってしまう。それを彼は止めていただろう、と。

 セレナは泣き続けた。喉が枯れても。涙が流れなくなっても。

 

 ナスターシャも涙を流していた。

 ルカリオの存在は、彼女の心を救っていた。

 この施設に所属しているが故に救えない命を、子ども達を、彼は恐れられながらも救っていた。

 そしてナスターシャの苦悩を理解し、寄り添ってくれたからこそ──胸の痛みが収まらない。

 

「……ナスターシャと言っているでしょう──この馬鹿息子」

 

 そして。

 コロンとマリアの前に一つの球状の結晶が転がり、彼女はそれを拾った。

 

 波導を継承した彼女にはすぐに分かった。

 これには、彼の波導が遺されている。

 マリアはそれをギュッと握り締めて──。

 

「──まだ、伝えてなかったのに」

 

 その想いに決別し、キッと力強く空を見上げる。

 

「──わたしは、わたしのまま明日へ突き進む。だから見ていて先輩」

 

 ──必ず追い付いてみせるから。

 

 

 こうして、FISは完全聖遺物キマイラを失い。

 別れに悲しむ彼女達は未来へと歩き出し──かつての先輩と敵として相対し、再び殺した。

 




なお直近の勇者
「おっぱああああああい!!」
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