【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第十二話「強奪──廻り続ける復讐の連鎖」

『……旦那、既に響は居ない』

「……そうか。全員帰投してくれ」

 

 通信を終え、弦十郎は思わずため息を吐いた。

 あれから……響が二課を去ってから数日。街の至る所で破壊活動がされていた。

 駆け付けた装者が調べた所、そこはマリア達──正確にはウェル達──の隠れアジトと思われる痕跡が見つかり、また紫色の雷が落ちたという目撃情報から、響の仕業だと考えている。

 さらに破壊活動が続いている事から、まだ彼女はマリア達を見つけていないという事であり、二課は彼女が取り返しの付かない所まで堕ちる前に確保するつもりであった。

 

「……司令。日本政府からまた」

「わかった。俺が何とか誤魔化しておく」

 

 また、今回の響の行動を理由に、彼女を拘束後こちらに引き渡すようにと日本政府が圧を掛けてきた。

 どうやら彼女の融合症例としての力を危険と判断したらしく、扱いが聖遺物に対するソレであった。

 弦十郎はその命令に抗議しつつ追及を躱しているが──それも時間の問題だ。

 

 さらに、問題はまだある。

 月の落下についても各国の機関は消極的であり、月の落下について隠蔽していた米国政府と情報の共有や、方針を定めてから調査するべきだと、あまりにも保身的に動かれ歯痒い想いをしていた。

 

「……こんな幼き子が、立ち上がらないといけない世界に──」

 

 映し出される本来の姿のマリアを見て弦十郎はため息を吐いた。

 二課の皆も彼女の正体に驚き、顔を顰めていた。

 誰だって、子どもが戦場に立つ事を喜ぶ者は居ない。そして、そこまで強い覚悟を強いる彼女が居た環境に──思う所もあった。

 

 対して装者達は複雑な心境だった。

 どうしても比べてしまう。自分たちと彼女を。

 

「──ままならんな」

 

 弦十郎の虚しい呟きが、発令室に響いた。

 

 

 第十二話「強奪──廻り続ける復讐の連鎖」

 

 

【ブイブイ】

「うん。大丈夫だよコマチ。わたしがしっかりアナタの痛みを、アイツらにぶつけるから」

 

 頭の奥にコマチの声が響く。

 その声は怨みで篭っていた。

 痛いと、苦しいと、助けてくれと。自分の仇を取ってくれと響に昏く囁いていた。

 それを彼女は頷いて肯定し、復讐の炎を滾らせながら街を歩く。

 

【ブイブイ】

「そうだね。許せないよね」

【ブイ……ブイ】

「うん。わたしも許せないよ」

【ブーイ……】

「そうだね──同じ目か、それ以上の痛みを、辛さを、悲しみを……!」

 

 既に次の目的地は見つけている。

 協力者は嗤いながら教えてくれた。

 今回は当たりだろう、と。

 そしてそれは正しく、響は目の前の廃倉庫から人の気配を感じ取っていた。

 

 響の体から結晶が生え、黒雷が纏わり付く。

 バキバキと不快な音が響き──ガングニールのギアが形成された。

 

 今の彼女に胸の歌は要らない──いや、ない。

 コマチが好きだった歌が──いつか聞かせてあげると言った歌をもう思い出せなかった。

 約束も──もう果たされる事はない。

 好きだと言ってくれるコマチも──もう居ない。

 

「──ぅあああ!!」

 

 拳を叩き付ける。するとシャッターはひしゃげ、紙のように吹き飛んだ。

 中に入り、視線を奥に向けると──。

 

「──ミツケタ」

 

 そこには、生命維持装置に繋げられた切歌を庇うように立つ調と、さらに彼女達の前に立ちペンダントを握り締めるキリカが居た。

 

「お前は……!」

「久しぶりだね、キリカ。──いや、アンタはホムンクルスだったっけ。なら……」

 

 彼女の視線が眠り続けている切歌へと向かう。

 その目を見た調がゾッと背筋を凍らせて、両手を広げる。

 

「な、何する気……!?」

「──決まっているでしょう」

 

 響の体が、心が闇に染まる。

 そしてニヤリと人を恐怖させる笑みを浮かべて、調にとって信じられない事を言い出した。

 

【ワタシトオナジメニアワセテヤル──ソイツヲコロス】

「──」

「ま、待つデス!」

 

 絶句する調。叫ぶキリカ。

 

「切歌は何もしていないデス! コマチを喰ったのは、アナタの復讐相手はネフィリムの筈デス! それに──」

【ナニヲイッテイル?】

 

 しかしそれに響は取り合わない。

 

【ニクイノハオマエラゼンインダ──絶望を、苦しみを、痛みを! お前らに与えなきゃ気が済まない!】

「っ……!」

【誰よりも……何よりも……護りたかった!】

 

 しかしもう居ない。ネフィリムに喰われた事によって。

 

【だけど、それをアイツに──オマエラに奪われタんだ……!】

 

 許せない相手が目の前に居る。

 大切な人が側にいない。

 

【オマエらが憎くて、憎クテ……気が狂いそうになる……! 造られた存在であるオマえに、この気持ちガ分かるかぁあッ!!】

 

 その言葉にキリカは悲しそうな目をし、調の目つきが鋭くなる。

 

【モウ、この手をツナグ相手がイナイ。オマエラが、ウバッたんだ!】

 

 体から生えた結晶を引き抜き、それを黒雷で握り砕き──人を殺す為の刀へと変える。

 コマチと手を取り合う手は既になく、他人の命を、大切なものを壊す力を握り締めていた。

 

【コレは、ワたシの日陰を奪っタお前ラをコロす為の手ダ──ッ!】

 

 その言葉を最後に──響は彼女達に襲い掛かる。

 調達は胸の歌を歌おうとするが間に合わない。

 その前に響が切歌の前に既に移動しており、刀を振り翳していた。

 

「切ちゃん!!」

「切歌!!」

 

 二人の少女が腕を伸ばし──バチンッと障壁が響を弾き飛ばした。

 

「──!?」

 

 弾かれた響は驚いた表情をし、感じた力に──苦い顔をする。

 

【ソコニいるノカ──フィーネ】

 

 顔を上げた先の二人、いや三人の中に──フィーネが居ることを感じ取った響。

 反対に調達は何が起きたのか理解できずに居た。

 しかし、これで時間は稼げた。

 ペンダントを握り締めて少女達は胸の歌を歌う。

 

「Various shul shagana tron」

「Zeios igalima raizen tron」

 

 調が纏うのはシュルシャガナ。ボール型の浮遊物に座り二体のドローンロボを従えて響を睨み付けていた。

 キリカが纏うのはイガリマ。手に持つ鎌で切歌と調を守るべく、刃先を響に向けていた。

 

「切ちゃんを狙うのなら容赦しない」

「例えクリスの友達であろうと、その所業は許せないデス」

 

 その言葉に響は──。

 

【──オマエラガソレヲイウノカァアアアア!!】

 

 激昂し、二人に襲い掛かった。

 キリカが前に出てイガリマの鎌で受け止め、その隙を調のドローンロボが突撃する。

 

【コザカシイ!】

 

 しかし響が手に持った刀を一振りするだけでキリカもドローンロボも吹き飛ばされた。

 それを見た調は頭部に付けた装飾が響へと向け、砲身からビームを放つ。

 が、それすらも響は咆哮の一つで掻き消した。

 

「っ、強過ぎる……」

「このままだと不味いデス……」

 

 明らかに戦力不足で、力負けしていた。

 このまま時間が経てば、Linker頼りの調とキリカは負け、大切なものを失う。

 それは、嫌だった。

 許せなかった。

 認められなかった。

 だから──。

 

「っ──」

 

 プシュッと軽い音がし、キリカの身にLinkerが打ち込まれる。

 それを見た調が悲鳴を上げた。

 

「お前、何して──」

「Linkerの過剰投与からの絶唱……! それしか手は無いデス!」

「やめろ! そんな事したらただでさえお前の体は──」

「あたしは!!」

 

 キリカが、調の静止の声を止めて叫ぶ。

 

「あたしは、切歌の代わりにはなれないから…….だからこうする事でしか、調の役に立てないデス!」

「──っ」

「調は切歌を守るデス──あたしが絶対に助けるデス!」

 

 そして彼女は──己の命を賭して歌を歌う。

 

──Gatrandis babel ziggurat edenal

 

──Emustolronzen fine el baral zizzl

 

 イガリマの対象の魂を一閃し物質的な防御を無力化する。

 その力を用いて、響に対抗しようとしていた。

 

 ──しかし。

 

──Gatrandis babel ziggurat edenal

 

──Emustolronzen fine el zizzl

 

 響が絶唱を歌った途端、キリカのギアからフォニックゲインが抜け、全て彼女に取られてしまう。

 いまだに謎の多い響の力。しかし、彼女の絶唱は、この力の性質を見る限り──強奪、と見るべきだろう。

 

 常に奪われ続けた彼女の絶唱の力が強奪とは、なんて皮肉だろうか。

 

「──そんな」

【ダマラセテヤル!】

 

 力が抜けて膝をつくキリカに向けて、響は拳を構える。

 体中に荒れ狂う熱と痛みをぶつけんと振り被る。

 絶唱二人分により生じた高エネルギーが、キリカ達に牙を剥く。

 

【死ね】

 

 そして殺意と憎悪の塊が──放たれた。

 自分たちに放たれた暴力の嵐に、キリカと調は呆然とそれを見て。

 

「ダメえええええ!!」

【!? 未来!?】

 

 その射線状に未来が両腕を広げて立ち塞がった。

 

 

『そんな、響が……それにコマチも……!』

『悪い……止め切れなかった……!』

 

 響が去った翌日の事、未来は奏から事の顛末を聞いていた。

 コマチが死んだ事、響がまた独り復讐に走った事を聞き、彼女は涙を流した。

 

『絶対、あたし達が連れ戻すから……だからその時は、未来がアイツを受け止めてやってほしい』

『わたしが……?』

『ああ。光彦が居ない今、アイツの隣に居てやれるのはお前くらいだ──あたし達は振り払われてしまった』

『……響』

 

 未来は、闇の底にいる響を想い──。

 

 

「わたしが助けるんだ──もう二度と独りにしない!!」

【グ、クソ、ニゲ──】

 

 響は何とか攻撃を逸らそうとして、しかしそれもできず、胸の奥が騒ついたまま、こちらを見据える未来の姿を見る事しかできず──。

 

「Granzizel bilfen gungnir zizzl」

 

 歌が空から聞こえ──響の意識は衝撃と共に途絶えた。

 

 

 ◆

 

 

「彼女はすぐに目覚めるわ──移動するわよ」

 

 瓦礫と化したアジトにて、マリアは切歌が入ったポッドを担ぐ。

 残り二人の調とキリカは戦闘の余波で体をフラフラさせながらも立ち上がり、頷いた。

 

 切歌は、マリアの介入により傷付く事なく守られた。

 もし一歩でも遅かったら取り返しのつか無い事になっていただろう。

 

「……」

 

 しかし、それはマリア側から見たらの話で──彼女は間に合っていないと、遅かったと強く思っていた。

 そう思う原因に対して、悲しみを帯びた視線を向け──自分が何を言っても無意味だと突き付けられる。

 視線に気付いたキリカが、彼女に近付き訪ねた。

 

「あの……立花響は──」

「──わたし達にできる事はないわ」

 

 だって。

 

 

「わたしは──彼女の敵だから」

 

 その言葉を最後にマリア達は立ち去った。

 

 そして。

 

 目を覚ました響は。

 

 地獄を見た。

 

「え──」

 

 絶唱により吹き飛んだアジト。

 瓦礫が周りを囲んでおり、響が放った一撃の苛烈さを物語っていた。

 調たちを殺せたのか。その事を確認するにはあまりにも破壊尽くされていた。

 

 だが、それ以上に──響は目の前の光景に言葉を失った。

 

 気を失う前に見たのは、両手を広げて涙を流しながら響の名前を呼ぶ未来の姿。

 そして目の前にあるのは──彼女が付けていたリボンが血溜まりに落ちている光景。

 

「あああ……」

 

 装者でもない普通の少女にあれを止める術は──生き残る術はない。

 ならばどうなったのか? その答えを突き付けられた響は己の手を見て──血で汚れていると、認識し──。

 

「ぅ──」

 

 腹の中の物を吐き出し──しかし何も出ず、零れ落ちるのは後悔のみ。

 

「──あああああああああああ!!!」

 

 どうしようもなく、呪われた自分に嫌悪した響は泣き叫び続けて──陽だまりを失ったのだと、消したのだと、ゆっくりとじっくりと噛み締めて──ずっとずーと……泣き続けた。

 

 彼女に寄り添い、日陰になる者も。

 傍に立ち、温かく受け止めてくれる陽だまりも──もう居なかった。

 

 

 

 その後、クリス達が駆け付けるが響の姿は無く。

 そしてそれからすぐに小日向未来の行方が知れない事が発覚した。

 

 悲しみは、止まらない。

 

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