【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第十三話「侵蝕──その命の使い方」

「響……」

 

 マリア達の所有するエアキャリア内にて、少女──未来は、心配そうに窓の外を見ていた。

 

 彼女は、生きていた。

 

 しかし響の傍に居る事なく、日常に帰るわけでもなく、武装組織フィーネ達と行動を共にしていた。

 何故彼女が此処に居るのか? それは──。

 

「あなたの親友なら大丈夫ですよ。少なくとも命は」

「……」

 

 未来に充てられた部屋に無遠慮に入ってきたのはウェル。

 彼はにこやかな笑顔を振り撒きながら響は無事だと言う。

 ……それでも言葉の節々から、胡散臭さが抜けないが。

 

「本当、何ですよね……? アナタに着いて行けば響を──親友を救えるって」

「当然ですとも! 僕はただ善意で彼女を助けたいと思っていましてね」

「……」

「そして都合よく、偶然にも──いや、これは奇跡! 運命! 君が我々の前に現れたのは必然だったんだ!」

 

 ウェルは心底嬉しそうに高笑いを続けた。

 嬉しくて嬉しくて堪らない。

 感情を、表情を繕えない程に笑い続け──未来の視線に気づきコホンと咳払いする。

 

「ともかく、安心して下さい。君の望みは直に叶うから」

 

 それでは失礼します、と言いたい事を言ったウェルは退室した。

 そんな彼をため息混じりに見送り──少し前の事を思い出す。

 

 

 第十三話「侵蝕──その命の使い方」

 

 

 両腕を広げ、響の絶唱に包まれる寸前──マリアの波導が相殺した。

 力と力の衝突により、周辺一帯は爆心地のように吹き飛ばされるが、それをマリアはマントを器用に伸ばし、切歌の入ったポッド、調、キリカを包み込み、自分は未来の前に立ちアームドギアで衝撃を吸収。

 そしてそのままカウンターを響に叩き込んで気絶させた。

 絶唱の嵐が消え去り、響が倒れ込む。

 

「響!」

 

 そんな彼女に未来が駆け寄った。その際に衝撃で破れていたリボンがスルリと彼女から解け落ちる。

 

「響! 響! 返事をして!」

「──安心して下さい。気絶しているだけです」

 

 彼女の名を叫び続ける未来の元に、男──ウェルが現れる。

 彼は端末を操作し、響の簡易的な身体検査をして──顔を曇らせる。

 気絶しているだけなのは確かだが──それ以前の問題だった。

 

「不味いですね。このままでは聖遺物と融合が進み、彼女は人間として死にます」

「──そんな……!?」

 

 誰に聞かせる訳でもない、しかし大きなウェルの独り言に未来が反応を示す。

 本来なら親友が敵対している者の言葉を信じる事はないだろう。だが、その前に奏から響の状態を聞いていた未来は、彼の言葉が戯言でも虚言でもない事が分かってしまった。

 だから思わず縋ってしまった目の前の男に。

 

「どうしたら……」

「ん?」

「どうしたら、響を助けられるのですか!?」

 

 未来は必死で気づかなかった──目の前の男が笑っていた事に。

 ウェルは笑みを引っ込めて穏やかな表情を浮かべると、未来に問い掛けた。

 

「彼女を救いたいですか?」

 

 未来の答えは──肯定だった。

 力強く頷き、彼好みの目で真っ直ぐとウェルを見据えた。

 それに気を良くした彼は、未来の懇願の手を掴み取った。

 

「良いでしょう! ならば僕たちに着いてきて下さい──最高の力を授けましょう」

 

 ウェルは手に入れた。あの力を使いこなす少女の愛を。

 未来は手に入れるだろう。親友を取り戻す力を。

 それをマリアは複雑そうに見ていた。

 明らかに戦いとは無縁の少女が巻き込まれようとしている。それも、響にとって大切であろう存在が──。

 

「では僕たちは先に行きます」

「……あの、響は?」

「……申し訳ありませんが、今は一緒に連れて行く事はできません」

「……」

「彼女を救う為です──呑めないのなら、この話は」

「分かりました──待っててね響。すぐに助けるから」

 

 最後に眠る響にそう伝え、未来はウェルに着いて行った。

 

 それをマリア達は見送ると、自分たちも追い掛けるべく後処理を行う。

 と言ってもデータを消して、切歌の入っているポッドを回収するだけなのだが。

 

「──コホッ」

 

 その最中、乾いた咳がマリアの鼓膜を震わせる。

 振り返ると、キリカが青い顔をして何度も咳込み、何かに耐えているようだった。

 しかし咳は次第に酷くなり、ついには──。

 

「コホ、コホ──カハッ」

「──!?」

 

 大量の血を吐き出し、立っていられず膝を突いた。それを見たマリアはすぐに駆け付け背中を摩り、調は無表情でその様子を見ている。

 その間もキリカの吐血は止まらず、ビチャビチャと地面を赤く染めた。

 

「これは、絶唱の後遺症? いや、違う、これは──」

 

 キリカの波導を見てマリアは察していた。

 彼女の波導は普段から何処か不安定だった。ウェルと合流した際には安定しているのだが、時間経過と共に乱れ、その度にタイミング良くウェルが現れたり、アジトに帰ったりしていた。

 その疑問は今この瞬間理解した。

 マリアはこの事を知っているであろう調に尋ねた。

 

「調、キリカは──」

「絶唱の後遺症でしょう。無茶をしたしっぺ返し」

「いや違う。彼女のこの吐血は──」

「──だったらなに?」

 

 調は震える声でマリアに聞く。

 

「今ここで言っても仕方が無い──わたしには関係ない」

「そんな言い方っ」

「──良いのデスよマリア……調の言う通りです」

 

 少しだけ体調が戻ったのか、それでも青い顔でマリアの追及を止めて調を庇うキリカ。

 口元の血を拭うと彼女はマリアに自分の事を話した。

 

「お察しの通り、あたしはもう長くないのデス。切歌の代わりとして作られたあたしの最大の欠陥は──この短い命」

「っ……」

 

 ギリっと調が奥歯を噛み締める音が響く。

 

「だから、あたしは頑張らないといけないのデス。この残された短い時間を使って本物の切歌を助けるデス。……そうすれば、あたしの事も少しは覚えてくれるかなって──」

「──あり、得ないから……!」

 

 しかしそれを調が否定する。

 

「そんな事しても、わたしの中には残らない」

「調……」

「馬鹿な事考えている暇があれば、もっと時間を有意義な事に使って」

「──それでも、あたしは……」

 

 それ以上、二人がその事で口を開く事は無かった。キリカも調も耐え忍ぶ顔をして黙々と作業をし、マリアもまたそれ以上の追及はしなかった。──できなかった、が正しいのだろう

 

 そして。

 

「彼女はすぐに目覚めるわ──移動するわよ」

 

 マリア達はその場から離脱し、その際に風が吹いて未来のリボンがフワリと浮き、キリカの吐いた血溜まりに落ちた。

 

 

 ◆

 

 

 エアキャリアに着いたマリアは、ウェルをナスターシャとセレナが居る操縦室へと呼び出した。

 二人にも情報を共有させる為だろう。

 マリアは早速ウェルに詰め寄った。

 すると彼はあっさりと肯定した。

 

「ええ、そうですよ。それが何か?」

 

 表情を変える事なく、それどころか無表情で答えるウェルに、セレナが思わず彼に掴みかかって叫んだ。

 

「そんな……そんな言い方っ!」

「うるさいなぁ……服が伸びるでしょうがっ!」

 

 しかしウェルも苛立ち混じりにセレナの手を振り払い、襟元を正すと深呼吸して落ち着きを取り戻す。

 それを見ていたマリアは、自分の妹を戒める。

 

「セレナ、貴方も落ち着きなさい」

 

 先ほどウェルを追及していた怒りを見せず、冷静な声を出すマリア。

 そんな姉にセレナは反抗する。

 

「でも、姉さん!!」

「──セレナ」

 

 しかし、マリアがもう一度静かに妹の名を呼ぶとセレナは押し黙った。

 タラリと冷や汗が流れる。

 今のマリアは──本気で怒っている状態だ。

 怒りで熱くなっていたセレナは冷水を掛けられたように静かになる。

 

「ごめんね──続けてミスターウェル」

「──ふむ。簡単な話です。如何に天才の僕でも、最高傑作の彼女の寿命だけはどうにもならなかった」

 

 科学技術で作られたホムンクルス。人造人間。

 フィクションの話でよくあるように、キリカは短命である。寿命を伸ばすには技術的に不可能であった。

 

「……さらに彼女はありとあらゆるシンフォギアを使えるように調整しましたからね。その調整で体はボロボロ。特殊Linkerの使用で蓄積される汚染。さらに先ほどの絶唱で寿命は削られる始末」

「……」

「でも安心してください。この天才の僕が解決してみますから!」

 

 もし、ホムンクルスの寿命問題が解決されれば、現代の科学は何歩も前に進むだろう。

 実際、キリカの存在は現時点でどの国も欲しがる程に価値が高く、日が経つほどに昇り続けている。

 裏ルートでウェルにコンタクトを取り交渉してくる国も多い。

 

「まっ、今のところは頷いた事はありませんが」

「──その為に、彼女を利用しているのですか?」

「人聞きの悪い! 君は僕の事を何だと思っているんだ!」

 

 憤慨しながらウェルはそう言い。

 

「まだまだ手放すつもりはありませんよ──彼女にはフロンティアに着くまで頑張って貰わなければなりませんからね」

 

 そう言ってウェルは心底楽しみだと言わんばかりに、怪しい笑みを浮かべた。

 その笑みにセレナはゾッとし、マリアはジッと見据えていた。

 

 

 ◆

 

 

「どうした、食べないのか? オレの奢りだぞ」

「いや、奢るのは良いんだけど……」

 

 現在、翼とクリスはファミレスに来ていた。

 時刻は夜の八時を過ぎており、少し遅めの夕食を摂りに来たのだろうか。

 しかし──。

 

「多くない?」

 

 テーブルに上にはナポリタン、ピザ、グラタン、カレー……と所狭しとたくさんの料理が置かれていた。

 とても二人で食べ切れる量ではない。

 乙女達のカロリーを賭けた戦いが、今始まる……! 

 

「いくら何でも多過ぎる……」

「これくらい入るんじゃないか?」

 

 そう言って翼はクリスの豊かな胸を強く睨みつけた。

 乙女達の胸囲の格差を賭けた戦いが、今始まる……! 

 

「はぁ、頼んだものは仕方ない。翼はそっち食べて。わたしはこっち側を」

「……? 食べないぞ?」

「は?」

「夜八時以降の食事は摂らない事にしているんだ」

 

 何を言っているんだこいつは、とクリスが信じられない目で翼を見る。

 

「何を考えているの???」

「……? 何って、奢ろうと思っただけだが」

 

 どうやら嫌がらせではなく、本当にクリスが全部食べると思って頼んだらしい。

 流石に善意からの行動にケチを付け辛く、クリスは押し黙る。

 

「……奏は?」

「用事だ。それに奏もこの時間は食べない」

 

 孤軍奮闘、決定。

 

「…………」

 

 クリスは、ガッとフォークを掴んで戦いに挑む。

 後日ダイエットという孤独な戦いにも挑む事になるが。

 

 

「本当に食べるのか」

 

 クリス完食。

 翼驚愕。

 

「──今度からはイチイバルだから」

「わ、悪かった」

 

 流石にクリスの苦しそうな声に、自分の勘違いに気付いたのか、申し訳なさそうに翼が謝る。

 

「そ、それにしても綺麗に食べるな。クリスはテーブルマナーが得意なのか?」

「……昔フィーネに叩き込まれた。何処かの誰かみたいになって欲しくないって」

「なるほど。了子さんの近くにはよっぽどアレな人が居たんだな」

 

 よっぽどアレな人を見ながらクリスはため息を吐き──本題に入る。

 

「それで、此処にわたしを連れて来たって事は、話がしたいって事だよね?」

「っ……よく分かったな」

「翼は分かりやすいから──響の事?」

「……」

 

 現在、響の扱いは悪い。

 命令違反に加えて悪戯に力を振り回し、街の至る所で破壊活動を行なっている──もはやテロリスト扱いだ。

 既に日本政府からは立花響は見つけ次第拘束しろと命令が出されており、二課は苦い顔をしている。

 翼達も暗い表情をしており──何より、響に拒絶された事が堪えていた。

 さらにコマチを失ったショックも癒えていない。

 

「響は……オレ達のことどう思っていたんだろうな」

「……」

「オレはあいつの事を仲間だと思ってた。だから──あの言葉が悲しかった」

 

 ──アナタたちは慣れているからそんな綺麗事が言えるんだ! 

 

「ホント、慣れる訳無いんだよなぁ……」

「……」

 

 翼の言葉を受け、クリスもまた思い出していた。

 

 ──思い出してだと? アイツの優しさを? 

 ──この道を歩けばどんな顔をするかだと? 

 ──かつて、わたしからアイツを奪ったお前が、それを言うのか……!? 

 ──それはお前が一番分かっているのじゃないのか!? 

 ──言ってみろ雪音クリス!! 

 

「……わたし、響の叫びに答えられなかった」

「……」

「──だから、答える為に連れ戻す」

「……!」

 

 クリスは──諦めていなかった。響と再び手を取り合う事を。言葉を交わす事を。……想いを伝える事を。

 

「そしてそれは奏も翼も一緒だよね?」

「──」

「だから頑張ろう。絶対に取り戻そう。そして仲直りするんだ」

 

 喧嘩をしたら仲直り。

 本気でぶつかり合って思いを伝える。

 彼女はその事を学んでいた。

 だから諦めない。諦めるわけにはいかない。

 

「──フ」

 

 ──後輩が頑張っているのに、先輩が腑抜けていられないな。

 

「分かった──オレも頑張ってみるよ」

「違う」

「え?」

「オレ達……でしょ?」

「──そうだな」

 

 響を助ける為、彼女達は決意を新たに決めた。

 

 そして翌日、彼女達はアメリカの哨戒船からの救助要請により──戦いに赴く事になる。

 全てを取り戻すための、最後の戦いに。

 

 

 ◆

 

 

「──ハア、ハア、ハア……!」

 

 響は独り、裏路地で息を荒げて苦しんでいた。胸を抑え、脂汗を掻き、涙が次々と流れ出る。

 

【ブイブイ】

【どうしてわたしを殺したの? 響……】

「違う……わたしは、わたしは……!」

 

 頭を抑えて苦しみ悶える。しかしすぐに自分にそんな資格は無いのだと言い付ける。

 彼女達はこれ以上の苦しみを抱いて死んだ。

 自分が殺した。

 この、呪われた手で。

 

「──苦しんでいるようだね、随分と」

 

 そんな彼女の前に、一人の男が現れる。

 誰だ? と思う前に、その()を聞いて、この男が誰なのかを理解した。

 

「お、まえは……!」

「予想以上だ、僕が考えるよりもずっと。だから出張って来たんだ。これを君に渡す為に」

 

 男が取り出したのは──ドヴェルグ=ダインの遺産。

 

「さあ抜くと良い。魔剣ダインスレイフを」

 

 そう言って男は手に持っていたその欠片を──響の胸に突き刺した。

 グチャリと腕ごと突き刺さり、血飛沫が飛ぶ。

 男が腕を抜くと血が流れ出て──しかしすぐに結晶が飛び出して、まるでカサブタのように塞ぐ。

 

「あ、あ、ああああああ──!!」

 

 しかし、響は未だに悶え苦しみ、胸から闇と黒雷と燻んだ結晶が、此処は自分の場所だと言わんばかりに彼女の体から這い出てくる。

 それに上出来だと言わんばかりに笑みを浮かべて眺めていた男は、ふとある事に気付いて忌々しげに呟く。

 

「まだ残っていたのか、アカシアの力が。未だに助けようとしているのか、この少女を?」

 

 響の胸元から弱々しく紫電が飛び出し、闇、黒雷、結晶に触れて次々と分解しようと奮闘する。しかし力も数も負けており、やがて逆に取り込まれるようにして打ち消され──響は闇に呑まれた。

 身体中の至る所から結晶を生やし、四肢からバチバチと黒雷を迸らせる。

 グルルルルルルと獣のように唸りながら、世界を睨んでいた。

 

「行ってくると良い、復讐に。その為に受け入れたんだろう、その力を」

【アアアアアアアアアアア!!!】

 

 雄叫びを上げて響は跳び上がり、それを男は笑みを浮かべて見送った。

 

 響が目指すのは海のその先。

 マリア達のいる場所──フロンティアの眠る海域だった。

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