【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
「それではフロンティアの封印を解きましょうか」
「ええ、そうですね……」
ウェルの提案にナスターシャが肯定する。
しかし……。
「と言っても、機械的に制御された神獣鏡ではできないでしょうが」
「――!? 何故それをっ」
「ミス・マリアに感謝して下さいナスターシャ教授。彼女の誠意により僕はあなた方に協力しているのですから」
ウェルの言葉により、ナスターシャはマリアの独断を此処で初めて知る。
「――マリア、あなたまさか」
「ごめんなさいマム。でもこれがおそらく最適解」
「そうそう。協力して欲しいのなら、騙すのではなく誠意が必要ですからね〜。フィーネの名を騙ってまで、自分たちの優位性を崩したくなかったようですが」
どうやら、マリアがフィーネではない事も彼は知っているらしい。
操縦棍を握りながらナスターシャはタラリと額に汗を流す。
この局面でこちらの嘘がバレたのは不味い、と。
下手をすれば計画に支障が――。
「マム、気にする事ないわ」
「マリア……?」
「フロンティアは目前。彼の目的もまたフロンティア。そして封印を解く手段は確立している――確かに私たちの間に仲間意識は無いのかもしれないけど、状況的に裏切っても損をするだけ」
故に心配はない、と彼女は言い切った。
その真っ直ぐな目にナスターシャは動揺が収まり、冷静になり理解した。
彼女の言う通りだ。ならこのまま最後まで進むまで。
(――彼に似てきましたね、マリア)
その胸に娘の成長を喜びながら。
「仲間意識がないだなんて酷いな〜」
「あら? あなたにそれがあるのかしら?」
「んっん〜。そう言われると僕も口を閉じざるを得ませんが――」
ジロリとマリアを見て、彼は言った。
「貴女にはそうそう背中を預けられそうにありませんね」
「奇遇ね。わたしも全く同じ思いよ」
不敵に笑い合う二人を乗せたエアキャリアはフロンティアが眠る海域に到着し――アメリカの哨戒部隊の母船を占拠後、ソロモンの杖を使い二課を呼び寄せ……全ての決着を付ける為の狼煙をあげた。
◆
「――それが本当の姿か? マリア・カデンツヴァ・イヴ」
「今さら本当か嘘かの是非を問うなんて、野暮だと思わない? 天羽奏」
アメリカの哨戒船のドッグにて、マリア達と奏達……シンフォギアを纏った装者達は対峙していた。
互いに相手を強く見据えてビリビリと空気が重い。
そんななか、マリアは確認するように二課の装者に尋ねた。
「ガングニールの融合症例――立花響はどうしたの?」
「――それを、お前らが聞くのか!? FIS!?」
「響は、あなた達を独りで――」
彼女の物言いに思わず翼とクリスが激昂し、それを見たマリアは呟いた.
「なるほど.随分と働き者なのね」
「――あたしからも聞きたい事がある」
マリアの一言一言に感情を顕にする翼とクリスを……そして自分の怒りを抑えながら、奏は努めて冷静に問い掛ける。マリアがどうぞ? と促すように掌を彼女に向けると――ギンッと槍のように鋭い眼光が向けられる。
「未来を――小日向未来を拐ったのはお前達か?」
奏は、責任を感じていた。
響の事を話し、その重みを彼女に課した結果――今回の行方不明に繋がったのではないか、と。
そして血溜まりの中にあった彼女のリボンと、それがあった場所がマリア達の元アジトである事が――無関係だとは思わなかった。
正直外れて欲しかった――しかし、マリアは奏達を見下したような笑みを浮かべて。
「――だとしたら、どうするの?」
小馬鹿にしたかのように、逆に尋ねた。
「――取り戻すに、決まってんだろ!」
それに奏は叫び返し――彼女達の最後の戦いが始まった。
◆
「はあああああああ!!」
「っ……!」
「どうしたどうした――さっきの威勢は、虚勢だったのか!?」
マリア達と奏達の戦闘は――二課側が有利に働いていた。
これまでの戦闘と比べて、何故奏達が、それも数で負けている彼女達が押しているのか?
様々な要因があるが――一つはマリアの戦力ダウン。
「――遅い!」
「ちっ――」
マリアは、ガングニールと波導の力を併用する事により二課を圧倒していた。しかし今回はガングニールしか纏っておらず、パワーもスピードもテクニックもスペックもリーチも――全てが落ち、その力は奏たちと同程度。故に今までのはちゃめちゃが起きず、マリアは苦戦を強いられていた。
「コホコホ、カハッ」
「――キリちゃん?」
二つ目はキリカの不調。シンフォギアを纏っているのもやっとな状態で、顔を青くさせて息切れを起こしている。
さらにそれを気にしてか調の攻めが消極的な上、キリカを守るかのように動き、戦場で機能していない。
「まったく、世話の焼ける……!」
「ごめんデス、調……」
三つ目は、セレナ以外の装者の体内のLinkerによる汚染が、まだ除去されていない事。
先日の戦いの後、ウェルは急かすようにフロンティアに向かった。
道中体内洗浄を行われたが――適合係数は依然として低いままだ。
(――明らかに疲弊している。それなのに何で戦うのキリちゃん……!)
セレナが奮闘するが彼女のギアはサポート型で、三人共攻撃的なギアの二課と比べてFISは火力負けしている。
「単体なら――負ける気がしねえ!」
「くっ……!」
マリアが波導の力を使えば形成逆転は可能だが――そうなると、
戦況を見たナスターシャが、ウェルに提案をする。
「現状、そちらのキリカと調博士が足枷となっていますが――二人を退かせますか?」
「そもそも勝手に飛び出したのはあの二人なんですがね――まぁこれで理解したでしょう。さっさと連れ戻して下さい」
彼の賛同を受け、ナスターシャは二人のギアに通信を繋げようとして――エアキャリアが大きく揺れた。
「っ――何事ですか?」
「ちょっと待って下さいね――ちっ、どうやら主役の登場のようだ」
舌打ち混じりに吐き捨てた言葉と彼の視線。それを追って船を見下ろしたナスターシャは――ゴクリと生唾を飲み思わず呟いた。
「あれは――魔物?」
――戦場に、闇が堕ちた。
【グルルルルルル……!】
「――響?」
呆然と呟いたクリスに向かって――響が鋭い爪を振り被って彼女に襲い掛かった。
それを激突していた奏とマリアが気付き、それぞれの槍を割り込ませてクリスを守った。
しかし……。
「くそ、なんて力だ……!」
「暴走している……!」
ギリギリと二人の槍を押し始め、その膂力に二人は険しい顔をした。
「クリス! 奏!」
「姉さん!」
仲間を助けようと戦闘を中断して駆け付ける二人。
それを自分に襲い掛かる外敵と判断したのか、響は腕から生えた結晶を力む事で砕き――それを黒雷に変えて翼達に向かって薙ぎ払った。
『!?』
翼はアメノハバキリをボードに形態変化させて射程範囲から緊急脱出。空へと飛んで響の雷を回避しようとする。
セレナは、自分を、仲間を、そして姉を今まで守り通してきたエネルギーシールドを展開して防ごうとする。
だが、響の雷は――あまりにも暴力的だった。
空へ飛んだ翼に向かって黒雷が角度を変える。
「なに!?」
それを翼はボードを駆使して逃げ続け、しかし徐々に黒雷がバチバチとギアの端やボードに擦り始め、ついには――。
「が――」
翼に一つの黒雷がタッチし――意識を失った瞬間、今まで追って来ていた黒雷が彼女に殺到し――黒焦げになった翼は海へと墜落した。
「つばさあああああ!?」
その光景を見せられていたクリスが叫んだ。
まだ終わりではない。
翼を襲った黒雷は次にターゲットを探し――下に生意気にも耐え忍んでいるセレナを見つけ、落ちた。
「かっ――」
許容範囲を超える黒雷にセレナは倒れ伏し――さらにその肉体を貪り喰らおうと彼女に襲い掛かる。
一度、二度、三度――何度も何度も黒雷が音を立てて襲い、セレナは気絶と覚醒を繰り返し――最後にはピクピクと痙攣するだけとなった。
「――」
変わり果てた妹にマリアは絶句し……ギンと響を睨み付け――。
「――パヴァリア光明結社……! お前らの仕業か!」
その後ろに居るであろう黒幕に向かって叫んだ。
「聞こえているのでしょう!? ああ、答えなくて良い――ただ、これだけは覚えておけ」
戦場で滅多に感情を荒げないマリアが――怒りに燃えながら叫んだ。
「いつか絶対に潰す! 首を洗って待っていろ!」
そう言って彼女は槍で響を弾き飛ばし――波導の力が込められた石を取り出した。
「――波導は、我にあり」
マリアの体と宝玉から蒼い炎――波導が放出される。
放出された波導は、マリアの背後で犬型の巨人へと形成され、まるで彼女を見守るかのように、しかし威風堂々と佇む。
「我が心に答えろ奇跡の石――進化を超えろメガシンカ!」
かつて教えられた言霊を口にし、マリアと背後の巨人が石を媒体に繋がり――マリアの元に光と波導が集っていく。
やがて光は力の繭となって彼女を包み込み――それをブチ破って出て来たのは、大人の姿になり黒いガングニールを纏ったマリアだった。
マリアはアームドギアを形成すると、奏達に向かって叫んだ。
「一旦戦闘中止! アレを止めるぞ!」
「――くそ! 分かったよ!」
複雑そうな表情を浮かべながらも、奏は響を止めるべく了承。
後ろの意気消沈としているクリスに向かって叫びながら、マリアに続く。
「クリス! 翼は緒川さんが回収してくれる! あたし達は響だ!」
「――っ。分かった!」
奏の言葉にクリスは従い、イチイバルを構える。
(響……!)
スコープ越しに見る友達は闇に呑まれて、変わり果ててしまった。さらに翼を襲い、傷付けた。
その事実がクリスの胸を締め付け──だからこそ止めなければ、と強く思う。
「キリカ! 調博士! アナタ達はセレナを連れて撤退を!」
「で、でも――」
キリカが咳き込みながらマリアの言葉に眉を顰めていると。
「――了解」
「し、調!?」
「黙ってて――舌、噛む」
調が有無を言わさずキリカを抱え、セレナはドローンロボで回収しエアキャリアへ帰投した。
それを見送ったマリアは前に出て奏とクリスに叫んだ。
「わたしが隙を作る。畳み掛けろ!」
波導を駆使し、響の動きを先読みするマリア。
獣のように襲いかかってくる響の爪が、大気を、甲盤を切り裂くが、マリアは無傷だ。
【ウウウウウウウウ】
苛立ち始める響。唸り声を上げる彼女を牽制しながら、マリアは二人に指示を出す。
「天羽奏! 万雷を叩き込め!」
「――!」
「彼由来の力なら、彼女の意識を呼び起こせるかもしれない――そこに一撃を叩き込め雪音クリス!」
本来なら敵である彼女の指示に従う事はあり得ない。
だが、響を助ける手段が分からない以上、マリアの判断に賭けるしかなかった。
……何より、彼女の純粋な怒りが、この瞬間は共に戦って良いと思わせた。
「ハア!!」
波導弾を放ち、牽制。
響は両手両足を使って獣のように走り回り、マリアは波導弾を連続で放つ。
その間に奏は槍を掲げ胸の中の雷を解放するべく集中し、クリスは狙撃体勢に入り救う為の弾丸を放たんとその時を待つ。
「天羽奏、まだか!?」
「――くそ、なんでだ……? 力が定まらねえ……!」
「――なに?」
しかしどういう訳か、奏はなかなか万雷を放てずに居り、それどころか力が霧散しているのを感じた。
マリアが怪訝な顔をすると同時に――彼女が突如膝を突いた。
(――何故? まだ時間は)
突然の不調に戸惑うマリアに、響の拳が遠慮無く打ち込まれる。
吹き飛んだマリアは壁にめり込み、彼女の中の波導が乱れる。
それにより、マリアは理解した。
「これは、呪いによる汚染? それで彼の奇跡の力に影響が――」
だが、響の悪感情でそこまでの力が発揮されるのかと疑問に思い――マリアは、彼女の胸に何かが刺さっているのを波導の力によって見つけた。
「――アレ、か……!」
呪いに関する聖遺物。それが彼女を闇の底に引き摺り込んでいる。
それを理解したマリアは、思わず呟いた。
「――このままでは、彼女を救えない」
「どういう事だ!?」
「立花響は、憎悪と怒りを呪いで汚染されて闇の底に沈んでいる――掬い上げるには、呪いが邪魔だ」
「つまり……響は助けられないって事」
「――その前に、獣と成り果てて死ぬ」
『――っ』
「だが! わたしの目の前でそうはさせない!」
痛みを堪えて立ち上がったマリアは、響に向かって叫んだ。
「立花響! お前の敵は此処にいるぞ! 仇を討ちたいなら――こんな所で呪いに、闇に、力に呑み込まれるな!」
しかし――響には届かない。
「ウオオオオオオオオオ!!」
呪いを撒き散らしながら雄叫びを上げ、そのままマリア達に向かって走り出し――。
「Rei shen shou jing rei zizzl」
光が、戦場に切り込んだ。
◆
「――未来!? その姿は……」
奏は、未来の無事に安堵しつつも彼女の姿に言葉を失った。
加えて先ほどの聖歌。
彼女は――未来は、装者として此処に立っている。
その事に奏は驚きと戸惑いにより、なんて声を掛ければ良いのか分からなかった。
「奏さん……クリス……そしてマリアさん。わたしは、響を救いたい。だから、どうか力を貸してください」
「でも――」
クリスが言い淀んでいると、彼女達、さらに二課の本部に向かって通信が入る。
『お話の所失礼します』
「この声は、あの時のメガネ……!」
『はいそのメガネです。時間がないので手短に言いますね』
ウェルは、響を救う為の手段を彼女達に伝えた。
そして当然ながら反論される。
「無茶を言うな! 未来は今までロクに戦った事がないんだぞ! それを――」
『オレからも承諾しかねる。――響くんをこんな状態にさせた我々が言える立場ではないが、もし未来くんに万が一の事があれば――』
「大丈夫です」
しかし彼らの心配の声に、未来は笑顔で答えた。
「弦十郎さん。奏さん。わたしの事を想って響の事を教えてくれてありがとうございました。そして勝手な事をしてすみません」
『未来くん……』
「だから、後でうんと説教してください――響と一緒にそちらに戻りますから」
弦十郎は――言葉が出なかった。
自分たちの無力さ故に響も未来も立たなくて良い戦場に立ってしまっている。
それなのに、当の本人である彼女が大丈夫だと、帰ってくると言って来た。
認める訳にはいかない。大人として。
だから――全力でバックアップをする。
『奏! クリスくん!』
「言われなくても分かっている!」
「うん……わたしも力になる」
二課側が援護態勢に入り、マリアもまた波導を滾らせて無言で未来の隣に立つ。
『2分40秒。それが制限時間です。ちなみに勝算は如何程で?』
「――思いつきを数字で語れますか?」
『……クハハ。科学者の僕にそれを言いますか? ――時間経過すれば体が持ちません。お気をつけて』
そこで通信が途絶え、未来は前に出て響の前に立つ。
「響……」
【グウウウウウ……】
「一緒に帰ろう? 皆待ってるよ?」
【――ガアアアアアア!!】
しかし、届かない。
響は雄叫びを上げて未来に殴り掛かり、それを彼女は空へと飛んで避ける。
それを響が体に電気を走らせて、電磁浮遊し追走する。
【ウオオオオオオオオオ!】
「響!」
響の闇に染まった拳と、未来の眩い光の閃光が激突し、お互いに弾かれる。
すると……。
【グウウウウウ……ウ、ア……】
「っ! 響!」
今まで獣同然だった響の声に、彼女の心が浮かび上がった。
魔を払う神獣鏡の力が、響にタッチしたのだ。
しかし、彼女は未だに闇に囚われたままだ。まだ、呪いも憎しみも怒りも――悲しみも晴れない。
だから――マリアを見つけて彼女は叫んだ。
【――マリアアアアアアアアアアアア!!!】
「響!」
マリアに向かって突っ込もうとした響の前に、未来が立ち塞がる。
響は彼女の前で止まり、叫んだ。
【ジャマヲ……スルナアアアアア!!】
全身から黒雷を放出し、未来を自分の前から消そうとする。
どうやら錯乱しているようで、未来が無事な事にも気付いていないようだ。
しかし神獣鏡の光により届かず、未来はジッと彼女を見据えていた。
「響、わたしが言った事を覚えている?」
未来は語る。胸の想いを。
「わたし諦めないって。思い出してもらうのを絶対に諦めないって言ったよね?」
太陽に対する想いを。
「今でもそれは変わっていない。だから、響が辛い時には側に居たい。苦しい時は助けたい。挫けそうな時は支えたい」
【……】
「だからお願い響! あなたはそんな暗い所に居てはいけない!」
未来の必死な訴えに、響は――。
【――ダマレ!!】
それを拒絶する。
【ワタシは、わたしのコの手ハ、呪われている! だからアイツを、コマチを殺シタ!】
「……」
【アンタにわたしの気持チノ何ガ分カル!? モウわたしを助けてくれる日陰ハイナイ!】
「……」
【ダカラ復讐ヲスルと決めタ! 殺スと決めタ! 壊スと決めタ!】
「……響、違うよ」
しかし未来は語り続ける。
「響の手は呪われてなんかいない。人と手を繋ぐ事ができる優しい手」
【戯言を! ヨク見ロ!】
そう言って響は右手に体から引き抜いた結晶の剣を、左手に黒雷を握り締めて目の前の彼女に見せつける。
【ワタシの手にあるノハ、人を殺す力ダケダ! もう誰トモ手ヲ繋グコトナンテ――】
「嘘だよだって――」
響、握ってなんかいない。
未来がそう言うと共に、響の手から剣と雷がボロボロと崩れ去った。
――それに驚く響だが、元よりそうであった。
彼女が握った暴力はすぐに消え去り、響はほぼ常に無手となっている。
まるで誰かと手を繋ぐために。
だがそれでも響は認められない。
【だが! もう遅イ! ワタシはもうそちら側に行かない! 日向を歩けない! 独りが良い――ダカラ】
もう――わたしの事は諦めてくれ。
響は弱々しく、懇願するかのようにそう言った。
――だとしても!!
「――小日向未来は、絶対に響を見捨てたりしない! 独りにしない! 諦めない!」
【――】
「絶対にっ!」
未来は歌った――胸の歌を。
「Gatrandis babel ziggurat edenal」
親友を――お日様を助けるために。
「Emustolronzen fine el baral zizzl」
彼女は命を賭ける。
【絶唱……!?】
それに対して響は――心を震わせた。
その歌を唄ってはダメだ。
唄ってしまったら取り返しのつかない事になる。
未来も死んでしまう。また殺してしまう。
――コマチのように。
それは、ダメだ。認められない――認めてはいけない。
何故なら彼女は、響にとって――。
「Gatrandis babel ziggurat edenal」
――未来を助けないと。
「Emustolronzen fine el zizzl」
――わたしの、陽だまりを!!
空に向かって響が
その似た現象を見た事のある調が呟いた。
「あれは、強奪する絶唱? でも――」
なんて綺麗なのだろう、と見惚れていた。
甲盤から見上げながらマリアは一人呟いた。
「ようやく、彼女の手を繋いだのね」
遅すぎるわよ、と何処か嬉しそうに彼女は言った。
「そう言えば、光彦が言っていたな。アイツの腕がアームドギアだって」
訓練中、アームドギアを出せない響に全員が不思議がっていた時にコマチが言った言葉だ。
響は色んな人と手を繋ぐから武器を持たない。拳を握り締めるだけではなく、手を繋ぐ事ができる優しい力だと。
その意味を、彼女は今理解した。
そして、光の中から出て来たのは――エクスドライブした神獣鏡を纏った未来だった。
純白のギアを纏った彼女は、自分の中に感じる温かい力に、やっぱり響はあの時と変わっていないと――涙を流していた。
【ア、アアアアアアアア!?!?】
呪いに犯された響が悶え苦しむ。
【ヤメロ……その光でワタシを照らスなッ!! もう、ワタしに日陰は無い! 優しく守ってくれるあの温モリは……!】
しかし、その光は――彼女を助ける為のお日様の光だ。
未来が言う。
「響、あの時と同じ事を言わせて貰うね――わたしは響に手を伸ばす事を……諦めたくない」
それは、彼女を闇から掬い上げる言葉。
「だからお願い響――響の本音……聞かせて」
それは、彼女を闇から救う言葉。
【グウウ……!】
響の心が軋む。悲鳴を上げる。
【望みナンテナイッ! ワタシはヒトリがイイ……】
――違う……苦しい……独りはもう嫌だ……。
【モウわたしを助ケテクレルあいつはイナイ。ダッタラ始めからヒトリの方が……】
――望んだらダメだ。助けを求めたら、また誰かを殺してしまう……。
――そんな事、分かっている筈なのに、なんでこの人ならって思ってしまうんだ。
――思ったらダメなのに。
――ダメ、なのに……。
「――お願い……助けて」
その言葉に対して、彼女は当然こう答える。
「もちろん!」
――ようやく差し伸ばした手を、未来はしっかりと掴み取った。
第十四話「暁光――翳り裂く閃光」