【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第十五話「未来――晴れて歩む日向」

 ──さぁ、仕上げだ。

 

 陰でヒトデナシが笑う。

 

 ◆

 

 

【グ、アアアアアア!!?】

「響!?」

 

 突如苦しみ出す響。

 未来が声を掛けるが、胸から溢れる呪いがそれを阻む。

 下から波導を用いて見ていたマリアには、全てが見えていた。

 胸のダインスレイフが活性化し、響を蝕んでいるのを。

 

「小日向未来!」

「──!」

「やる事は変わらない──一気に駆け抜けるぞ!」

「──はい!」

 

 未来はアームドギアを構えて、かつて零れ落としたお日様を取り戻しに行く。

 

 

 第十五話「未来──晴れて歩む日向」

 

 

♪ (暁光)……苦しむキミの明日(あす)を♪ 

 

 未来のアームドギアと響の拳が激突する。

 聖遺物由来の力を打ち消す未来の神獣鏡だが、彼女のギアの出力が響の闇の出力に負けている。

 

 だとしても、諦める訳には行かない。

 

♪ (永愛)……嘆く過去の涙を♪ 

 

 光を放射し、それを響は避ける。

 しかし力任せで無理矢理な肉体の操作は、響に痛みを与え──それが傷の代わりに結晶となって表に現れる。

 

【アアアアアア!?】

「っ……!」

 

♪ 照らし乾かすような 存在になりたい (I believe you) ♪ 

 

 痛みに悶える響に、未来は泣きそうになる。

 変わり果てたその姿に悲しみを覚える。

 

♪ 例えどの世界の 違うキミに出会ったとしても♪ 

 

 それでも彼女は変わらず手を差し伸べる。

 例え響が変わろうと、忘れられてしまおうと。

 

♪ 待ってるいつでも必ず (I love you) ♪ 

 

(誰かが響を操っている。誰かが響の体を好き勝手している。──誰かが、響を奪おうとしている!!)

 

 その誰かが彼女を苦しめている。

 なら──。

 

「──絶対譲らない!」

【グア!?】

 

♪ と再びキミに歌う♪ 

 

 もう隣から離れないように。

 温かい手を放さないように。

 未来は戦う。

 

♪ 守られるのではなく♪ 

 

 彼女を傷付けるのではなく。

 

♪ 守る為に歌う♪ 

 

 救う為に戦う。

 

 だから──。

 

──信じて

 

 と未来は手を差し伸ばす。

 例え自分を傷付ける拳であろうと受け止める。

 その為に彼女はこの力を手に入れた。

 

♪(聖煌)……もう二度と泣かせない♪

 

 腕を結晶で覆い杭のように尖らせた響が、未来に突っ込む。

 

「はぁ!」

「マリアさん!」

 

♪(響信)……すべてを抱きしめたい♪

 

 ギチギチと響の腕を受け止めるマリア。

 波導の力が残り少ないのか、その表情は険しい。

 

「わたし()()が援護する!」

「そういうこった!」

 

♪どんなキミだっていい わたしには最愛 (I trust you) ♪ 

 

 奏が槍で響を弾いて距離を稼ぐ。

 

♪きっとキミはキミを 今は忘れているだけだから♪

 

【グ──】

「行かせない!」

 

 甲板に落ちた響が再び飛び上がろうとするのを、クリスが狙撃で阻む。

 

 

♪繋ぐ勇気をもう一度……(I love you)♪

 

 さらに追撃の光が未来から放たれ、響は回避行動を取らざるを得ない。

 

♪どんな闇が広がり♪

 

 動きを止める為に未来達は甲板に降り立つ。

 

♪空を忌み尽くしても♪

 

 マリアと奏が先行し、それに未来も続く。

 

♪陽だまる為の太陽(ヒカリ)♪

 

 しかし響は狙撃を弾き、奏を掴んでマリアにぶつけた後、未来へと突撃した。

 響の拳が未来のアームドギアと直撃する。

 

「くっ……!」

 

 当たれば常人なら即死。ギアを纏った装者でもただでは済まない拳。

 

 しかし。

 

未来(わたし)は負けはしない!!」

 

 未来はそれを受け入れて──ギュッと彼女を抱きしめた。

 

♪(信じて)♪

 

 そしてそのまま海上へと飛び、未来は叫ぶ。

 

「ウェルさん!」

『分かっていますよ!』

 

♪正義を握り締め 立つ花をいつも見てきたから♪

 

 エアキャリアから幾つものピットが射出され、神獣鏡の光を反射する

 

♪わたしもできる……必ず! (I love you)♪

 

【グ……!?】

 

 反射された光は響と未来を囲み、鳥籠を形成する。

 これで響はもう逃げられない。

 

♪幸せそれ以外の♪

 

 それを察した響──否、裏で操っている者は、大雑把に、強引に対処するように命じた。

 

♪涙は流させない♪

 

 未来を払い除け、籠の中でできる限り離れると──。

 

【アアアアアアア!!?】

 

 苦悶の絶叫を上げ、体の至る所から結晶を生やしながら、右腕にエネルギーを集中させる。

 

♪連れて帰ると決めた♪

 

 それを見た未来もまた、目から血を流しながらギアを構える。

 彼女を救う為に。

 

♪この愛を嘗めないで……!♪ 

 

【アアアアアアアア!!】

 

 響が咆哮を上げながら、腕を振るい──闇色に輝く砲撃を放つ。

 撃たせられた本人の腕が千切れそうな程の力の奔流が空間を震わせる。

 

 それを見た未来は──。

 

「絶対譲らない!」

 

 親友を好き勝手されている事に怒りを覚えながら、力を解き放つ。

 

♪と再びキミに歌う♪

 

 響の闇が彼女に激突する瞬間──光が切り裂いた。

 

──暁光

 

 解き離れ、闇を、翳りを裂いた閃光は一直線に響に向かい──。

 

【ガア!?】

 

 まるで何かに引っ張られるように空中を動いた響は、閃光の射線から外れる。

 

 しかし──未来は動揺せず、胸の歌を唄いながら、そのまま響へと飛んで抱き着いた。

 

守られるのではなく

 

 

【ガアアアアアア!?!?】

 

 苦しみ踠きながら暴れる響。自分を傷付けるなと怯えるように。

 しかし未来は絶対に放さなかった。助ける為に。守る為に。

 

 口の端から血を流しながら、彼女は叫んだ。

 

♪守る為に歌う……!♪ 

 

「──ひびきいいいいいいいいい!!」

【──ミ、ク】

 

 彼女の叫びが響に届き──エアキャリアによって反射された暁光が二人を包み込み……。

 

「──わたしを」

 

(信じて)

 

 ──闇が晴れ、太陽を取り戻した。

 

 

 第十五話「浮上──決戦の地フロンティア」

 

 

 未来の放った暁光が響を蝕んでいた呪いを解き放った。

 

 ──しかし、解き放ったのはそれだけではなかった。

 

 海面が揺れ、大陸がその姿を表す。

 

 ──浮上、フロンティア。

 

 未来の光は、フロンティアの封印をも消し去ってみせた。

 その光景をエアキャリアの操縦席で見ていたナスターシャがウェルに問い掛ける。

 

「これもアナタの企みですか? 一番の障害だった融合症例の無力化しつつフロンティアの封印を解く。それも彼女の親友を使って……」

「まったく。貴女もセレナさんも僕の事を何だと思っているんですか」

 

 呆れ返ったように彼はため息を吐いた。

 

「フロンティア浮上は偶然の副産物ですよ。僕はただ単に死にかけている一人の少女を救う為に、それを為せる人に託しただけ」

「……」

 

 正直、信じられる話ではなかった。

 利用するだけ利用したと言われる方がまだ信じられるくらいだ。

 

「例えそうだとしてもギャンブルが過ぎませんか? それにしては随分と確信していたようですが──小日向未来が立花響を止めると」

「ああ、それは確かに確信していました」

「やはり。私の知らない何かを知っているんですね」

「そうですね。僕は信じていましたよ──彼女の親友を想う愛を!」

「何故そこで愛!?」

 

 素っ頓狂な事を言うなとナスターシャが叫び、心外だとウェルが反論する。

 

「愛の力は侮れませんよ。何せ、大切な者の為に命を賭けるのは──何時だってその胸に、その想いを強く抱いているもの」

「……」

 

 覚えがあるのか黙り込むナスターシャ。

 

「僕は、そんな愛を抱いている人の背を押したいだけです」

 

 そこまで言い切ったウェルは、話は終わりだと言わんばかりに意識を切り替えてマリアに通信を繋げる。

 

「マリアさん。帰投してください。目的は果たしました」

 

 

 

 

「──すぐに行くわ。後処理をしてから」

 

 それだけ伝えると、マリアは波導を使って飛び──海へと落下している響と未来を受け止めた。

 そしてそのまま奏とクリス達が居るアメリカの哨戒船の甲板へと降り立ち、彼女達に引き渡す。

 

「──お前」

 

 奏は、何か言いたそうにして──口を閉じた。

 正直、響を助ける事ができたのはマリア達のおかげだ。未来が神獣鏡のギアを纏えたのも、安らかに寝息を立てている響が此処に居るのも──。

 

 だが、マリアはジッと奏を見据えて黙らせていた。その言葉を口にするな、と。

 そして、彼女の敵であるマリアは──言った。

 

「決着をつけたいのなら来なさい──フロンティアに」

 

 それだけを伝えると、マリアはエアキャリアへと飛んで行った。

 奏たちも一度、二課仮説本部に戻らなくてはならない。

 しかし──つい、マリアの心配をしてしまう。

 何故なら──。

 

「奏。マリアはもしかして」

「ああ。あたしと同じ時限式だ」

 

 マリアが去った空を──フロンティアを見ながら奏は言う。

 

「とっくの昔に制限時間超えて、それでも尚敵である響を助ける為に無茶していやがった」

 

 マリアは、目から血を流していた。

 倒れてもおかしくない体で響の拳を受け止め続け、彼女を救う為に戦っていた。

 

 奏は、クリスは──彼女が本当に敵であるのか、分からなくなった。

 分からなくなったから──。

 

「行くぞ、フロンティア」

「うん……!」

 

 故に向かう。この事件を終わらせる為に。決着をつける為に。

 

 

 ◆

 

 

「っ……!」

 

 二課のメディカルルームにて、響が目を覚ました。

 体を起こし、見た事のある光景をボーッと見て。

 

「──未来」

 

 思わず呟いた愛しき名前に──返事が返ってきた。

 

「なぁに? 響?」

「っ!?」

 

 声のした方を見れば──そこには柔らかな笑顔を浮かべた未来が、響を優しく見守っていた。

 彼女を見つけた響は──。

 

「未来!」

「わ、響!?」

 

 未来の名を叫んで抱き着いた。

 突然の事に未来は目をシロクロとさせながら、しかしすぐに優しい表情を浮かべると響をそっと抱きしめた。

 響は、未来の存在を確かめるように強く抱き締めながら謝った。

 

「ごめん、未来。わたし……」

「ううん。良いよ。わたしが響を助けたかったから──」

「──違う」

 

 未来の言葉を遮って、響は──涙を流しながら言った。

 

「何で忘れていたんだろう」

「──え?」

「わたしの隣には日陰だけじゃなくて──陽だまりもあったんだ」

「──ひ、び……き?」

 

 ──神獣鏡の光は響を蝕む多くのモノを消し去った。

 闇。憎しみ。怒り。呪い。ガングニールの侵食。そして──大切な記憶を封印していた邪悪な力。

 彼女の閃光は──確かに翳りを裂き、失われた思い出を取り返した。

 

 それを理解した未来は──大粒の涙を流しながら、響に縋り付いて泣いた。

 

「ひびき……ひびき! 響ッ!」

「未来……!」

 

 ──辛くない訳が無かった。

 

「わたしの方こそごめん……! 響が一番辛い時に側に居られなかった……!」

 

 大切な人に忘れられるその痛みは、確実に彼女の心を蝕んでいた。

 

「わたしだって未来のことを忘れて、たくさん酷い事を言った! 許される事じゃない! わたしは、わたしは……!」

 

 大切な人を忘れ傷付けるその痛みは、自覚した瞬間堪えられなかった。

 

「でも、思い出してくれてありがとう……!」

「未来も、ずっと側に居てくれて、諦めないでいてくれてありがとう……!」

 

 それでも、彼女達は乗り越え──手を繋いだ。

 二年以上の空白の後に、ようやく再会できた。

 

 ──温かいな。

 

 響は思い出した陽だまりに触れて強くそう想い。

 

 ──あったかいな。

 

 未来は取り戻したお日様に触れて強くそう想い。

 

 ──しばらくの間、彼女達はそのままお互いの温もりを抱き締めていた。

 

 もう忘れないと

 もう手放さないと。

 

 誓うようにして──。

 




コマチとは翳り歩む日陰
未来とは晴れて歩む日向
太陽は日陰と日向を作ることができる
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