【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
光が晴れた途端、メタグラードンはその姿を保てずドロドロと溶けるようにして崩れていった。
さらにメタグラードンの体内から光の球が無数に飛び出し、フロンティアに降り立つ。
光が晴れるとそこには──メタグラードンに吸収された人達が居た。
アメリカの軍人達は何が起きたのか分からず困惑し、そんな彼らの前に──事態を重く見て出張っていた弦十郎が駆け付けた。
「特務対策機動部二課の風鳴弦十郎だ──ここに居ては危ない。我々の船に避難してくれ」
「こちらです。着いて来てください」
弦十郎と共に行動していた緒川が、アメリカ軍人達を連れて仮説本部へと向かう。
アメリカ軍人達は初めは迷ったが、命が惜しい為素直に従った。
それを見送った弦十郎は、振り返り残った二人の男女を見る。
今回の騒動の中心である武装組織フィーネに所属するジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスとナスターシャ教授。
彼らは助かり、力無く地面に座っている。
特にウェルは覇気が無く──今にも死んでしまいそうだった。
「──何が天才だ。何が英雄だ」
彼は──失意の底に堕ち、絶望していた。
「僕は無力だ──何の為に生きて……」
キリカを失ったショックは──大きかった。
そして別の場所でも、キリカの死に涙する者がいた。
「キリちゃん……」
調が目を覚ました時、既にキリカは力を使った後で──彼女が死んでしまった事を知った。
彼女の胸にあるのは大きな後悔。
今まで冷たく接してしまった事。それにより彼女を悲しませてしまった事。
そして何より──もう、彼女と明日に向かって歩く事ができない事が、悲しかった。
涙を流し続ける調。
そんな彼女に──手を差し伸ばす者が居た。
「Zeios igalima raizen tron」
「──この、歌は……!?」
調に影が差し、歌が聞こえる。
キリカではない。記憶の底にある大好きだった彼女の歌──。
調が、勢い良く頭を上げれば──そこに、居たのは。
「──ただいまデス。調」
「──切、ちゃん……?」
エクスドライブへと至ったイガリマを纏い、長い金髪を揺らす暁切歌が、微笑んでいた。
エクスドライブの効果により空を飛べる彼女は、長年眠っていた事による筋力の低下を補うように、スーッと浮いて移動する。
調の前に来た彼女は、手を伸ばし──。
「──わたしに、触ったらダメ……!」
「調……」
「わたしは、取り返しの付かない事をした……切ちゃんに触れられる資格なんて──」
拒絶する調を、切歌は優しく抱き締めた。
「ぁ……」
その温もりに、思わず調が声を漏らし、切歌は頭を撫でながら、ずっと伝えたかった事を、ようやく伝える。
「ずっと見ていたデスよ。あのドクターと一緒に、もう一人のアタシと頑張っていた調の事を」
「──」
「みんなの想い、しっかり届いていたデスよ──ありがとう、調」
「──切ちゃん……!」
調は泣いた。ようやく取り戻した親友の腕の中で。
調は泣いた。腕の中から取り零してしまったもう一人の親友を想って。
「調、アタシ戦うデスよ。このままだと、もう一人のアタシが守ったこの星が壊れてしまうのデス」
「……」
「調は……どうするですか?」
「……わたしは」
迷う素振りを見せる彼女に──クリスが発破を掛けた。
「──立ち上がって……!」
「……」
「キリちゃんはいつも言っていた。あたしの尊敬する調は凄いって──だから、戦おう! あの子の分まで! そして生きるんだ!」
クリスもまた、友を失って涙を流していた。
その涙を見て調は──。
「──ありがとう。キリちゃんの為に泣いてくれて。……友達になってくれて」
「調……」
「──落ち込んで、いられない。わたしは、戦う!」
調が立ち上がり、シンフォギアを纏う。
彼女はまだ乗り越えていない。
しかし、キリカの想いを抱いて突き進む。
それは、彼女が好きだと、凄いと尊敬していた月詠調の強い姿だった。
(こっちは何とかなったデスがドクターの方は──)
ふと心配するキリカだったが──。
(──)
(──そうデスか。分かりました。なら、アタシ達はアタシ達の仕事をするデス!)
切歌はその声に従い、調たちと共にネフィリムの居るフロンティアの心臓部へと向かった。
「……」
その輝きを、軌跡を呆然とウェルが見つめていた。
切歌は無事救出され、この星を守ろうと立ち上がっている。
調もまた取り戻した親友と共に、失った親友の想いを引き継いでいる。
しかし自分はどうだ。
何もする気が起きない。
胸にポッカリと穴が空いたかのように、心が死んでいた。
「ミスターウェル。此処に居ては危険だ。早く逃げ──」
「──この僕に生きる価値があると思いますか?」
弦十郎の言葉に、しかしウェルは投げやりに答える。
「こんな屑みたいな無価値な僕なんて死んだ方が良い──それこそ、キリカくんの代わりに」
生きるのを諦めた彼だったが、それ以上言葉を続ける事はできなかった。
──パシイイイイン!!
突如頬を思いっきり、叩かれていた。
ウェルは勢い良く地面を転がり、無気力な目で自分を叩いた者──ナスターシャ教授を見た。
ナスターシャ教授は、肩で息をしながら彼に近づき、襟元を掴んで引き寄せた。
「何を呆けているのです! 今立ち上がらなくて何時立ち上がるのですか!?」
「……」
「──確かに辛いでしょう。娘当然に可愛がっていた子どもが命を落とし、そして自分が何もできないのは」
ナスターシャの脳裏に、息子のように想っていた勇者が過ぎる。
「だとしても! 耐えなけれななりません! 何故なら──託されたのだから」
「──っ」
ウェルがキリカとの最後の会話を思い出す。
「あなたの仕事は此処で死に腐る事ですか!? 娘が愛したこの星が滅ぶのを黙って眺めている事なのですか!? ──答えなさい! ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス!!」
ナスターシャの必死の訴えに、ウェルは。
「うるさいなぁ……」
ナスターシャの掴んでいる手を振り解き、そのままゆっくりと立ち上がって──迫り来る月を見る。
「──強いなぁ、子どもって」
思い出すのは、キリカの笑顔。
「──辛いなぁ、大人って」
思い出すのは、薫陶を受けた小さな勇者。
「──残酷だなぁ、世界って」
全てを思い出して──ウェルはナスターシャを睨み付ける。
「ここまで言われて黙ってちゃあ、キリカくんにケツを蹴られますからね──止めましょう月の落下を」
「──それこそ我が協力者……いえ、仲間です」
「やめてください。寒気がします」
悪態を吐きながらも、愛する子どもに大切な者を託された大人二人は制御室に向かう。
「オレも行こう。手伝わせてくれ」
それに弦十郎が加わり、彼らは走る。
子ども達の未来を守る為に。
◆
生命力の流れを逆流させられたネフィリムは、アカシアの卵との接続を切り、フロンティアの心臓部へと逃げた。
そこで暴食を繰り返し、次に備える。
それを止める為に、装者達が向かう。
「──じゃあコマチは」
「はい。月の落下とネフィリムを止める為、あちら側に残っているデス。おそらく、ネフィリムと制御権の取り合いをしているデス」
その際に生命力のほとんどを切歌に送った為、彼女はエクスドライブへと至ったが……反対に、アカシアは弱っている。
「だから、あのちんちくりんを助けるデス!」
「──ハア、全く。相変わらず変わっていないな」
翼が呆れたように呟くと。
「──それこそが、彼を彼たらしめる要素よ」
そこに合流したマリアが、付け加えた。傍にはセレナも居る。
波導で何が起きているのか、自分のするべき事を理解しているのか、マリアも切歌たちと同じ方向へ向かっていたらしい。
マリアが切歌を見て──。
「──そう、やり切ったのね。彼女は」
目を閉じ、キリカの最期を悟り。
「──この奇跡。そう簡単に絶たせない」
強く前を見据えて、心臓部に向かう。
他の装者も頷き、彼女に続いた。
しばらく進むと、フロンティアの心臓部に辿り着いたが──。
そこは、灼熱地獄だった。
「これは──!」
「あれを!」
セレナが指差す方向には──触手が突き刺さっているアカシアの卵と、熱を放出し全てを溶かそうとしているネフィリムの心臓があった。
「不味いデスよ!? またアイツに呑まれたら」
先ほどの怪物が──否、それ以上の怪物となってネフィリムは地球を喰い尽くすだろう。
それを阻止しなくてはならない。
装者が武器を構えた瞬間──声が聞こえた。
「これって……」
「テレパシーだ」
翼の疑問に、マリアが応える。
そのテレパシーの発信先は──アカシア。
アカシアは、朦朧とする意識の中──。
『──え?』
謝った。
こんな事になってごめん、と。
「何を言っているの……?」
マリアが人一倍酷く狼狽した声で聞いた。
いや、確認に近いのかもしれない。波導の力で深くアカシアの考えている事を理解した彼女は──突っ込もうとして、バリアーによって阻まれた。
「っ、これを解いてリッくん先輩! リッくん先輩!」
「ね、姉さん? いきなりどうし──」
「──彼は、ネフィリムと対消滅しようとしている!」
『──!?』
彼は言う。コイツを止めるにはこの方法しかない。
自分はあまりにも力を削られ過ぎた。
だから、此処でお別れだと。
「待って……待ってコマチ!」
「行くな光彦! お前が居ないと……!」
「キリちゃんがせっかく助けたのに。そんなの認められない!」
「そうデスよ! 生きて皆で帰るのデス!」
「また、行っちゃうんですか……!?」
「──リッくん先輩! お願いだから……」
対消滅をすれば──アカシアはもう二度と目覚めないかもしれない。
それが認められなくて、許せなくて、彼女たちは必死に叫ぶ。
しかしバリアーに阻まれて手が届かない。
アカシアはさらに、力を行使する。
「あれは、ソロモンの杖……?」
彼がサイコキネシスで取り出したのはソロモンの杖。
アカシアはそれを使い──バビロニアの宝物庫を開く。
「あ──」
それを見て全員が理解した。
彼は、そこで対消滅する気だと。
皆が、止めようと叫ぶ。泣く。手を伸ばす。
しかし彼女たちはどうすることもできず、アカシアの卵とネフィリムの心臓は浮き、バビロニアの宝物庫へと向かって。
「──コマチ!!」
そこに、奏に抱えられた響が辿り着いた。
彼女は奏の腕から飛び降りると、アカシアの卵に向かって真っ直ぐに一直線に突き進む。
そして、マリアたちを阻んでいたバリアーに向かって、ペンダントを握り締めた拳を振りかざす。
それは、陽だまりが言葉と共に、彼女に託した──胸の歌。
(──当たると痛いこの拳。だけど未来は誰かを傷付けるだけじゃないって教えてくれた)
だったら。
「Balwisyall nescell gungnir tron」
──わたしの歌に、想いに応えてよ!
「──ガングニイイイイイイイル!!」
響の拳がバリアーにぶつかると同時に──ガラスが砕け散る音が響いた。
そして彼女はそのまま跳んで、握り締めた拳を開いて──アカシアの卵を掴み、そのままバビロニアの宝物庫へと落ちる。
「──あたし達も続くぞ!」
『──っ!』
奏のその言葉に全員反応し、響の後に続き──フロンティアの心臓部から全員消えた。
残されたのは、アカシアが月の遺跡を再起動させる為のフォニックゲインと、フロンティアに出した一つの指示のみ。
それは、誰も傷付けずゆっくりと落ちろという彼らしいものだった。
「月の再起動を確認。公転移動も修正はされました」
「よし、では即刻避難するぞ」
「ええ──調くん、切歌くん……いや、皆さん、どうかご無事に……!」
◆
ウェル達が無事に月の落下を阻止していた頃、装者達はソロモンの杖を手にノイズと戦っていた。
「くそ、数が多い……!」
奏が悪態を吐くように叫ぶ。
現在、空を飛べる者が中心になってノイズと戦っていた。
調、翼、セレナ、マリア、は息切れを起こしている。
奏とクリスは数少ない足場に陣取り、遠距離攻撃で援護をしている。
響はインパクトハイクを用いて卵を抱えながらノイズを打ち滅ぼし、どこかに消えたネフィリムの心臓を探していた。
そして切歌はエクスドライブの力でソロモンの杖を使い、何とか外へと繋ぐ扉を開こうとしていた。
「さっさと開くデス……みんなと帰るのデス──キリカの想いは絶対に無駄にしないデス!!」
彼女の想いが届いたのか、ソロモンの杖が反応し──外への扉が開いた。
それを見た皆が希望を見出す。
──それを、絶望が覆い隠す。
【ガアアアアア!!】
「ネフィリム!?」
「まさか……喰ったのかノイズを!?」
外への扉を塞ぐようにして、ノイズを吸収し巨大化したネフィリムが立ち塞がる。
ここで逃す訳には行かない。
アカシアを喰らって、復讐をする。
それだけがネフィリムを動かしていた。
それを見た響は──憐むようにして見ていた。
「──そっか。こう見えるのか……復讐に取り憑かれたモノは」
響の視線を感じたネフィリムは──怒った。
なんだその目は。なんだその表情は。──なんだその言葉は!
【ギャオオオオオオオオ!!】
認められない。その一心でネフィリムは響に襲い掛かり──。
「ごめん──そこを退いて」
──一撃。
「コイツと帰るんだ──だから」
響が振るったのは、守る為の拳。
その拳は──彼女が今まで奮ってきた拳で一番強かった。
「──さよなら」
ネフィリムは、何が起きたのか理解できず、そのまま活動限界を迎え、基底状態となり──ノイズの間へと落ち、見向きもされずそのままバビロニアの宝物庫へと消えた。
それを見送ること無く、響は言う。
「行こう──わたし達の世界に」
響たちは、ノイズを蹴散らしながら外への扉から宝物庫を出て──アカシアの卵を取り戻した。
◆
彼女達が飛び出したのは、海面に降り立ったフロンティアの大陸上だった。
二課は響たちの反応を察知し、すぐ様彼女たちの元へと駆け付ける。
「う……」
「切ちゃん!」
ギアが解け、全裸になり倒れる切歌。それを調が受け止めようとするが。
「よっと」
それを、ウェルが自分の白衣で切歌を包みながら受け止めた。
「お帰りなさい、調くん。そして初めまして暁切歌くん」
「あなたが、博士」
キリカと同じ顔でそう呼ばれたウェルは表情をクシャッとさせるが──耐えて笑みを浮かべた。
「起きたばかりでまだ本調子ではありません──お願いします」
「かしこまりました」
駆け付けた二課の女性スタッフに切歌を預け、彼女は医務室へと連れて行かれた。
それを見送った調が言う。
「──ありがとう」
「──どういたしまして」
二人の間に、言葉は無かった。
「響!」
「未来。わたし──」
取り戻したよ、そう伝えようとして──響は突然の突風に吹き飛ばされる。
「ああ!?」
その衝撃で卵が手から放れ──マリアの手に渡る。
体勢を整えた響が、マリアを強く見据えて叫んだ。
「何を!?」
「何って、当然じゃない──まだ決着は着いていない」
マリアは──波導の力を使い、その身を全盛期のものへと変えた。
「姉さん!?」
「黙ってセレナ──これはわたしと彼女の戦いだから」
マリアが、波導を全開にさせながら叫んだ。
「この子を取り戻したいのなら、わたしを倒して奪え!」
「……」
「わたしはお前の敵だ──来い! 立花響!」
その言葉を受けて、響は立ち上がる。
そして──スッと拳を構えた。
マリアを見る目は──とても澄んでいて綺麗だった。
その眼差しを受けたマリアは笑って──。
「──はあああああああ!!」
「──うおおおおおおお!!」
二つの影が、交差した。
第十八話「波導──ガングニールの勇者」
「──見事」
マリアのギアが解け、元の幼い姿になり背後へと倒れる。
その手には卵が無かった。
マリアが視線を上げる。その先には──。
「ブ〜イ!」
「──コマチ?」
「ブイ!」
おはよう響ちゃん! とコマチがニコニコした笑顔で響に前足を上げ、響は──。
「このバカ!」
「ブイ!?」
大きな声で叫んで。
「──もっと早く戻って来てよ……!」
「ブイ?」
状況がよく分かっていないコマチを抱き締めて、座り込んで泣いた。
コマチは戸惑い、ああ、モフらせようと尻尾を彼女の顔に触れさせると、そのまま鼻をかまれて絶叫した。
それを優しい顔で見ていたマリアは、立ち上がり、己の背後に立っていた弦十郎に向かって言葉を紡ぐ。
「良い部下ね。独断専行の命令違反をしながら、見事我々を止めてみせた──敵ながら天晴れね」
「──! 君は、まさか彼女の敵となる事で……!?」
マリアの言動の真意を察した弦十郎が驚きの表情を浮かべている。
つまりは、そういう事だ。
しかし、それを口にするのは野暮だとマリアはシーッと人差し指を己の口に当て。
「投降するわ──全ての罪はわたしが背負う」
その言葉に、弦十郎は。
「させんよ」
キッパリと断った。
「必ず君たちを助けてみせる──恩返しをさせてくれ、世界を、一人の少女を救った勇者よ」
「わたしは勇者なんかじゃないわ」
マリアは、目を閉じ、掴みかけた過去を想い──。
「わたしはマリア──あなた達の敵だった者よ」
最後にそう言って──響とコマチを見て微笑んだ。
──こうして、後にフロンティア事変と呼ばれる戦いが終わった。
これにてG編は終わり
番外編やってGXです!