【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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ウェル回的なの

 

「ほほう。君があの完全聖遺物キマイラですか?」

『──君は?』

「僕の名前はジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス──未来の英雄だ!」

『そう──なら君は英雄失格だ』

「──はあ?」

 

 ──僕たちの初邂逅は、お互いに最悪だったと言える。

 

 

 ◆

 

 

「──ほう。思っていたよりも早かったですね」

 

 トッキブツのお世話になっている僕ですが、なんと面会したいと申し出ている変わり者が居るらしい。

 

 と言っても、米国……つまり元上司なんですがね。

 正直予想はついていました。

 

「それで? 世界を混乱させた悪の科学者とどんな話をしたいのでしょうね」

「いや、向こうは月の落下を止めた英雄と話をしたいと言っている」

「──」

 

 思わず、風鳴弦十郎の言葉に口を閉じる。

 ──そう、ですか。英雄である僕に会いたい、と。

 そうですかそうですか……。

 

「──良いでしょう。会ってみましょうかね、その僕のファンとやらに」

「っ! 話は最後まで聞け! これは明らかに罠だ! 面会場所も此処では無く、我々にも隠されている未知の会場。それにこの話を進めているのは親米派の石田防衛大臣だ! 絶対にロクな事には──」

「大丈夫ですよ。すぐに殺されはしません」

 

 何故なら──。

 

「僕は天才ですからね」

 

 

 ◆

 

 

「僕は天才だ! だからこそ英雄に相応しいイイイイイ!!」

 

 この胸に抱いた野望を、声高々に謳う。

 凡人には理解されないが、僕は英雄になるべき人間だ。

 僕は来たるその時の為に爪を研いでいる。

 ただ。

 

「こうも明らかに雑用を任せられると辟易しますね」

 

 何故か僕はFISの所有する数ある施設のうち、そこまで重要ではない施設に配属された。

 まったく、これだから凡人は。天才を扱えず宝の持ち腐れとは!? 

 ああ、僕もネフィリムについてもっと研究したいんだけどな〜。あれは僕が英雄になるのに役立ちそうだというのに。

 フィーネが作った玩具、シンフォギアの複製なんて……聖遺物があれば簡単だというのに。

 

「君も思いませんか? この僕が辺境に追いやられているこの状況!」

『知らん』

「釣れないですね〜。こう見えて僕はあなたを尊敬しているというのに」

 

 僕の言葉に、キマイラが反応を示した。

 

『……なんだと?』

「何故なら! 君は僕の英雄像そのものと言っても過言ではない!」

 

 正直、データを見た時あり得るのかと震えた。

 

「君の力はすばらしい! そして為して来た所業も感嘆の一言! 加えて、君が記憶を失っている事からも──アナタは、我々が想定しているよりも多くの人間を救っている!」

『……』

「だからこそ、君は僕にとって希望なんだ」

 

 そして、高揚し切っていた僕は、キマイラが何を思っているのかも分からないままこう叫んだ。

 

「故にこう思う! 君のようになりたいと!」

 

 故に──この時の僕は気付かない。

 

『そうか。だったらなってみるか英雄に?』

「え?」

 

 虎の尾を、龍の逆鱗を──触れた事に。

 

 

 ◆

 

 

 面会までの時間はまだある為、僕は切歌くんと調くんの所へ向かった。

 しかしそこには、アカシアくんも訪れていた……ようですが。

 

「……あのー。何をしているので?」

「ブウウウウウウイ!?」

「見ての通り」

 

 いや、見ての通りって言われても分からないのですが……。

 涙目で暴れているアカシアくんを、調くんが顔を赤くさせて酷く興奮しながら抱えている。

 はい、やっぱり分かりませんね。

 

「ウェル博士!」

「博士じゃありませんよ」

「そんなことより! 調を止めるデス! コマチを解剖したら響さんに殺されるデス」

 

 解剖!?!?!? 

 そんな事したら、響さんどころかマリアさんにも殺されますよ!? あの勇者、アカシアくんの事になると本当に容赦無いですし! 

 

「調くん! 妙な事は──」

 

 止めようと飛びかかると──。

 

「アンタが妙な事するな」

 

 そう言って鋭い蹴りが放たれ──僕の急所に当たった。

 目の奥がチカチカし、崩れ落ちる。

 

「切ちゃん。流石に解剖しないよ?」

「そ、そうでしたか! 早とちりデス!」

 

 そ、その早とちりで僕は死にそうなのですが……。

 

「ブイ」

 

 何処か同情的な表情でアカシアくんが近寄り、てしっと僕の頭に前足を置く。

 慰めているのでしょうが、今はそっとしておいてください。

 

「博士……」

 

 悶えている僕に、切歌くんが近付き。

 

「ごめんなさいデス」

 

 しょぼんとした顔で謝って来て──キリカくんと重なった。

 同じ遺伝子構造をし、双子以上に似ている二人。

 でも──彼女を通してキリカくんを見るのはダメだ。

 

「……気にしていませんよ何故なら──」

 

 僕は痛みを堪ええグッと立ち上がり。

 

「天才ですから」

 

 キリカくんが胡散臭いと笑っていた表情で、そう答えた。

 

 

 ◆

 

 

「何だ……これは……!」

『……』

「これが、英雄になった者に待っている末路なのか? いや、違う! これは──」

『違わない──それが真実だ』

 

 キマイラの力により、僕は彼の半生を追体験した。

 そこにあったのは僕が追い求めていた理想の英雄ではなく──厳しい世界の真実に打ちのめされ続ける地獄の日々だった。

 

「こんなの……こんなの認めないぞ!」

『……』

「英雄が、英雄がこんな──」

『……確かに俺は、お前達の言う通りたくさんの人を救って来た』

 

 キマイラが口を開く。

 

『だがそれ以上に──救えなかった命が、見殺ししてしまった命の方が多かった』

「……!」

『それに、少なくとも俺が知っている英雄は、お前が求める英雄は──不幸な人が居て初めて成れるものだ』

「──っ!?」

『お前は、英雄になる為に──誰かが不幸になる事を良しとするのか? もし、そうなら──』

 

 ──お前はやっぱり英雄失格だよ。

 

 この時、僕は気付かされた。

 英雄とはなるものじゃない──なってしまうものだという事を。

 

 

 ◆

 

 

「行かない方が良いわ」

「マリアさんですか」

 

 緒川さんに連れられ、車に向かおうとしていた僕を呼び止めたのはマリアさんだった。

 彼女は険しい顔で僕を見据えて言った。

 

「司令も忠告していたし、貴方も理解しているでしょうから、言っても無駄なのかもしれないけど……」

「だったら何故言いに来たのです?」

「? 当たり前じゃない。仲間なんだから」

「──」

 

 本当に当たり前のように言い切られて、言葉に詰まった。

 

「でも直接視て安心したわ。これから死ににいくような考えはないようね」

「なんでそう思うんです?」

「波導がそう言っているから」

 

 意味が……分からない……! 

 

「ともかく──ちゃんと帰ってくるのよ。あの子達にはアナタが必要なのだから」

「──言われなくても」

 

 マリアさんの見送りを背に、僕は二課を後にした。

 

 

 ◆

 

 

 ショックを受けた僕は、自分でも分かるほど変わってしまった。

 英雄に関する話題を口にしなくなり、代わりに彼の事を聞き始めていた。

 

「──愛の力ぁ?」

『ああ。そうだ。誰かを想う──それこそが、最も強い力だと俺は信じている』

「ハン! 馬鹿馬鹿しい! 愛の力でどうにかなるのなら科学なんていりませんよ!」

『ふっ、それはどうかな? 俺の予想だと、君は愛を追求し、永遠とそのテーマを胸に科学を発展させていきそうだが』

「やめてくださいゾッとします」

 

 ……今思えば僕は楽しいと思っていたのかもしれない。こうして彼と会話することが。

 そして、柄にも無く彼のことをこう思っていたのかもしれない──友だと。

 

「それでリオル。君は結局胸が好きなのかい」

『誰がそんな事を言った!?』

「いえ、以前そういう系統の本をあえて放置した所、君がこっそり持って行ったのを確認したので」

『ば、ちが、あれは!?』

「なるほど……君はむっつりなんだね」

『──一発殴らせろ!』

「暴力反対!」

 

 しかしその楽しい時間も──彼が暴走したネフィリムを止めた際に、活動停止……つまり死んだと聞いて、突然終わったのだと突き付けられた。

 

 僕は──何もする事ができず、友を失った。

 

 

 ◆

 

 

「やあ、会えて光栄だよウェル博士。国を代表して礼を言うよ。よくぞこの星を」

「あー。御託は良いのでさっさと要件を言ってください。僕も暇では無いので」

 

 ガラス越しに居る男の顔が一瞬歪むが、すぐに元に戻る。

 現在僕は米国政府と日本政府が用意したある場所の面会場に連れてこられている。

 部屋は強化ガラスで遮られており、銃を持った兵士が二人控えている──が、果たして本当に警護の為に此処に居るのか……。

 

「では単刀直入に言おう──戻って来てくれないか? 祖国に」

「……」

「君の技術はすばらしい。数ヶ月前、クローン技術による義肢治療の草案──アレは君がばら撒いた情報だろう?」

 

 ああ、アレですか。

 アカシアくんの細胞データを基に作り上げたあの。

 資金調達の為に依頼を受けて確かにデータを渡しましたが……どうやら流出したようですね。

 そしてそれを違法に手に入れたのを隠しつつ、僕がばら撒いた事にするつもりですね。脅しのつもりでしょうか。

 

「君の力があればたくさんの人が救える──英雄になれる! だから──」

「──先ほど言いませんでしたか?」

 

 本当、癪に触りますね──彼も、僕と初めて会った時はこんな気持ちだったのでしょうか。

 

「御託は良いのでさっさと要件を言ってください──暇では無いと言ったでしょう」

 

 だとしたら……謝りたかったですね。

 

 

 ◆

 

 

「穏やかじゃありませんね──確かアナタは月詠調さんでしたか?」

「……」

 

 僕の問い掛けに、少女は何も答えない。

 代わりに突き付けられたアームドギアが僕の薄皮を切り、ツーっと血が流れる。

 

「黙ってわたしの言う通りにして。そうすれば命だけは助けてあげるから」

「いったい何をしようとしているのか、教えてくれませんかね」

 

 と言っても、僕もこの施設の科学者の端くれ。何が行われ、そして何が起きたのかは把握している。

 目の前の少女は──。

 

「暁切歌」

「──っ!」

「確かアナタは彼女と仲が良かった筈。しかし彼女は──」

「──切ちゃんは、死んでいない!」

 

 目の前の少女が、僕の言葉を遮って叫ぶ。

 

「わたしが、助けてみせる! 手遅れなんかじゃない! 廃棄品なんかじゃない! だから……だから!」

「……」

 

 僕は、彼女の叫びを聞いて──無意識に尋ねてしまった。

 

「君は、彼女の事を愛しているのですか?」

「──当たり前だ」

 

 その答えを聞いて、僕は──。

 

「ふむ。良いでしょう。協力します」

「え……」

「しかし、一つ条件が」

 

 ニヤリと笑みを浮かべて──かつて友と語ったテーマに挑戦してみる事にした。

 

「わたしはあくまでアナタの助手です。手伝いますし、知識も授けましょう──しかし、第一人者は調くん、君だ。君が、博士となるんだ」

「……わたしが?」

「当然です。まさか今更無理だなんて言いませんよね?」

 

 僕の挑発するかのような言葉に、彼女は──。

 

「──上等」

 

 覚悟を決めた顔でそう言い──その日僕はFISから脱退し、彼女に着いて行った。

 

 

 ◆

 

 

「君達が使っていたアジトには何も無かった──そう、何もかもだ」

 

 これが本性を表す、と言うのでしょうか。

 目の前の男は先ほどまでの穏やかな表情を引っ込め、醜悪な顔でペラペラと語り出す。

 

「君が携わって来た研究データ。特にあのホムンクルスに関する情報は全く無かった」

 

 そして狙いはやはり──。

 

「そう君が作り上げた完璧なホムンクルス──キリカだ」

 

 ──彼女でしたか。

 

「あれは素晴らしい。ほぼ100%オリジナルと同じホムンクルス──我々はその技術が欲しい」

 

 彼は饒舌に語る。

 

「錬金術を使わずあそこまでの作品を造り上げたその腕──同じ畑の人間として素直に関心する」

「ほう、アナタもその道の人間でしたか」

「ああ。だからこそ分かる。アレの価値が!」

 

 ……。

 

「ノイズを殲滅するあのシンフォギアを適正関係なく使える能力! 短命なれど驚異的な身体能力! そしてこちらで制御可能でいつでも切り捨て可能──こんなに便利な物はない!」

 

 …………。

 

「いやはや! まさに最高傑作だ! 幾つか欠点があったそうだが、フロンティアでそれを解消する術も手に入れたのだろう? それと合わせれば──」

「──名実共に最高傑作という訳ですか」

「そうだ! そしてそれを上手く扱えるのは我がアメリカ──いや、この私だ!」

 

 ………………。

 

「必ず有効活用してみせる! 人類の進歩の為に! だからどうかデータを──」

「──はあ、此処まで言われたら仕方ありませんね」

 

 僕は、ンガと大きく口を開けて指を突っ込み──奥歯を引き抜く。

 しかしこれは義歯であり──中には、キリカくんに関するマイクロチップが入っている。

 全てのアジトのデータを破壊した以上、最後に残っている彼女のデータであり……僕が未だに縋り付いている未練。

 

「おお! もしやそれが──」

「ええ、お察しの通り。キリカくんに関する全てのデータです」

「まさか本当に持っていたとは! 今取り出したという事は!」

「そうですね。僕も良い加減親離れしようかと」

「存外話が分かるな! さあ、それをこちらに!」

 

 そう言って男が懐から端末を取り出してボタンを押す。すると部屋を二つに隔てていたガラスが天井へと上がり収納される。

 

「さあ!」

 

 男が歓喜に染まった顔でこちらに手を差し伸ばす。

 僕も義歯を持った手を伸ばし──そのまま床に叩きつけて、バキッと踏み潰して破壊した。

 

 

 ◆

 

 

「デスデスデース」

「今日は随分と機嫌が良いですねキリカくん」

「あ、博士!」

「博士じゃありません助手です」

 

 アジトの外で歌っていたキリカくんは、僕に気付くと近付いて来て笑みを浮かべた。

 

「どうしました? 良い事でもありましたか?」

「たくさんあったデス! 今日の朝の卵が双子さんだった事、調の研究が想定よりも進んでいた事、あと新作の料理を美味しそうに食べていた事! それと──」

 

 なんて事はない日常で起きた出来事を、良い事として話す彼女に僕は笑ってしまった。

 

「クックック……キリカくんは本当に調くんの事が好きですね」

「えへへ……」

 

 恥ずかしそうに照れ笑いをするキリカくん。

 感情の方も順調に成長しているようでなによりです。

 

「あ、でもデスね」

「?」

「あたし、博士の事も好きデスよ!」

 

 ──。

 

「……僕に年下の趣味はないのですが」

「いや、そういう意味じゃないデスよ!」

 

 まぁ、当然分かっているのですが──しかし不思議だ。

 

「それにしてもおかしな話ですね。そのように調整したつもりも無いですし、調くんと違って僕は暁切歌くんと会った事がない」

「何を言っているのデスか博士」

 

 どうやら柄にもなく動揺しているようだ。

 一度咳払いをして、僕は尋ねてみる。

 何故、僕の事が好きなのかと。

 

「そうデスね……正直あたしも何て言ったら分からないデス。でも、博士と一緒に居たら安心するデス」

「安心」

「はいデス。この人はあたしを守ってくれる。優しくしてくれる。叱ってくれる。そう思うと胸がポカポカするのデス! それが、凄く心地良いのデス!」

 

 それは──。

 僕は、彼女が感じている感情の正体が何なのか理解し──思わず笑ってしまった。

 

「ククク……ハーハッハッハッハ!」

「おお! 心底嬉しい時に出る博士の悪役笑い! 外だと普通に勘違いされるデスからやめてくださいね!?」

「それどういう意味ですか」

 

 しかし、なるほど。

 ……正直気恥ずかしいが──悪く無い、な。

 ええ。ええ。悪くありませんね。

 

「キリカくん」

「何デス?」

「お小遣い足りてますか? 僕からポケットマネーを◾️◾️くらい出しましょう」

「いきなりどうしたデスか!? 気持ち悪いデース!」

 

 その後、調くんにうるさいとケツを蹴られてうやむやになったが──この時、僕は確かに彼女の事を愛した。

 

 そう、僕はキリカくんの事を──。

 

 

 ◆

 

 

「すみませんね、僕の最高傑作を──彼女の生きた証を、赤の他人に好き勝手されるのは我慢ならないのですよ」

 

 男は、何が起きたのかゆっくりと理解し──僕を突き飛ばして擦り潰されたデータを見て絶叫した。

 

「き、貴様! 自分が何をしたのか分かっているのか!?」

「ええ。ええ。理解していますよ──むしろ理解していないのはアナタ方の方だ」

「なんだと!?」

 

 僕を英雄と呼んで彼らは此処へ連れて来たが──とんでもない。

 彼らが呼んだのは、月の落下を止めた英雄ではなく──。

 

「──貴様らの前に居るのは、悪の科学者だ。世界よりも己の欲望を優先するマッドサイエンティスト……交渉する相手を間違えましたね」

「──貴様ああああ!!」

 

 男が拳を握り締め振り被り──ゴッと鈍い音を立てて僕を殴り飛ばした。

 頬に痛みが走り、メガネが飛んだ。

 非力な僕は床に倒れ、男は馬乗りになり何度も何度も僕を殴り続ける。

 

「よくも! よくも! よくも! このデータがあれば私は英雄になれたのに!」

「──英雄ですか。大した夢ですね」

「貴様に何が分かる! 矮小な欲求に従い、大局を見ない貴様なんかに!」

 

 ──ええ、そうですね。もう、僕には分からない事ですね。

 既に捨ててしまった……いや、捨てる事ができた。

 そして、この男の言うちっぽけな──でも、とても大切なモノを手に入れた。

 

 

 僕は、それで満足だ。

 

「アナタの言う事を今更理解しませんよ。それに理解されるつもりはありません──何はともあれ、嫌がらせできてスッキリしました」

「──クソ!」

 

 最後に一発殴った男は肩で息をしながら立ち上がり。

 

「射殺しろ」

 

 近くに控えていた兵士に告げた。

 

「元々この男は、用済みになれば事故死する人間だ──両政府がそう決めている」

 

 ──ああ、やはりそうでしたか。

 何となく理解はしていました。

 米国政府にとって僕は不都合な真実を知る人間。

 日本政府にとっては、というよりもあのゴマ擦り防衛大臣にとっては目の上のタンコブ。

 始末される理由なんて幾らでもある。

 

「クソ、本当に愚かな事を……! アレだけのデータを本当にこの世から消すなんて」

 

 愚痴を零す男は、苛立ち気に叫ぶ。

 

「何をしている! さっさとコイツを──」

「──申し訳ありませんが、それはできません」

 

 しかし──兵士は従わなかった。

 兵士のその言葉に、男は信じられない顔で彼らを見る。

 

「……なんだと? もう一度言ってみろ」

「何度だって言います──我々はこの方を撃てません!」

 

 兵士たちは──震えていた。

 

「だって、彼は──彼が泣くほど助けたかった彼女に、我々は助けられたんだ!」

 

 ──彼は……いや、彼らは、メタグラードンに一度吸収され、そしてキリカくんに救われていた。

 

「我々は知りません! あそこまで愛に生きた彼女の事を! 助けられなくて、それでも立ち続ける彼を!」

「何を訳の分からない事を!」

「分からなくて結構! ただ一つ言えるのは──これは、我々の恩返しだ!」

 

 兵士二人が僕を庇うようにして立ち塞がる。

 

「貴様ら! 自分たちが何をしているのか分かっているのか!? ソイツに加担するという事は、命が惜しく無いという事か!?」

「ああそうだ! この命を散らしてでも、彼女が愛した彼を──ミスターウェルを守ってみせる!」

 

 ──アナタは、居なくなってでも尚、僕を守るのですね。

 まったく──親孝行者すぎて、こちらが情けないくらいですよ。

 

「──そうか。だったら貴様ら全員此処で死刑だ!」

 

 バッと男が腕を上げると、扉を開けて外にいた武装兵士が雪崩れ込んできた。

 

「貴様ら、通信で全て聴いているな!? 此処に居る逆賊諸共、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスを撃ち殺せ!」

 

 男の指示が下ると共に、兵士達は全員銃を構えた。

 

「──おい、貴様ら何をしている?」

 

 しかし、その銃口は──男に向けられていた。

 兵士達は男に問われても何も答えなかった。

 

「何をしているのかと聞いているんだ!」

「──この場の全員が彼に救われたという話なだけだ」

 

 代わりに答えたのは──弦十郎だった。

 本来この場に居ないはずの彼の登場に、男は驚いた。

 

「貴様トッキブツの! 何故此処に! 立ち入りは禁止されていた筈──」

「国内で不貞をやらかすテロリストの鎮圧──それだけだ」

 

 弦十郎の脳裏に、蕎麦をすする一人の男が浮かび上がる。

 しかし男は、余裕を持って笑った。

 

「テロリスト? そんなものは居ない! 居たとしても揉み消される!」

「……」

「今回の出来事は我が祖国と貴様らの国がやった事! 私も捕らえていいが、貴様らもただでは済まんぞ! まあ、できるものならな!」

 

 弦十郎に向かって高笑いし、男は叫ぶ。

 

「この場にいる全員、私以外全員殺される! それを私は高みの見物とさせて貰おうか! ははは……ははははっはははは!」

「──させませんよ。米国も、日本も、どちらにも責任は負ってもらいます。もちろんアナタにも」

 

 一発の銃弾が撃ち込まれ、男の影が縫い付けられる。

 緒川の影縫いだ。

 彼は、遅れて登場すると──彼に言った。

 

「──国連として」

「──こく、れん……!?」

 

 ──フロンティア事変を経て、二課はある動きを進めていた。

 それは、日本直轄の二課を再編し、国連直轄の新組織の設立。

 弦十郎が、響を、アカシアを、マリア達を──そして、ウェルを、アメリカ政府、日本政府から守る為に考えていた鬼札。

 

「馬鹿な! 祖国に仇なすと言うのか!?」

「違う──守る為だ!」

「今回の事は各国政府に報告し、両政府には厳しい追求をさせて頂きます──もちろんアナタにも」

「くっ……!」

 

 男は逃げようにも、言い逃れしようにもそれができない事を悟り、項垂れて膝を突いた。

 

「連行してください」

「ハッ!」

 

 そして男は兵士に連れられていく。

 そんな男の背中を見ながら、ウェルは落ちていたメガネを拾いながら言った。

 

「受け売りで申し訳ありまぜんが、一つアドバイスをしましょう」

 

 拾ったメガネを掛け、クイッと押し上げながら──友の言葉を紡いだ。

 

「あなたは──英雄失格だ」

 

 

 ◆

 

 

 後処理を終え、二課に帰る車の中、ウェルは二人から突っつかれていた。

 

「まったく、無茶しすぎです」

「挑発して本性を表す為とは言え、普通殴らせるか?」

「うるさいですねえ。うまく行ったのだから良いじゃないですか」

 

 どうやら今回の一連の騒動は、彼らの策略の一つだったらしい。

 これで政府は動き辛くなるだろう。

 

 ……それでも、あの場に居た兵士達がキリカに助けられた兵士たちだったのは予想外だったようだが。

 

「でも、良かったのですか?」

「何がです?」

「その、キリカさんの……」

 

 あの場所で破壊されたデータは、正真正銘現存する最後のデータだった。

 しかしあの場で破壊された為、もう存在しない。

 

 キリカを蘇させるデータは、もう無い。

 

 ──が。

 

「何言っているんですか。ありますよデータなら」

「え!? そうなのですか?」

 

 ウェルは驚きの言葉を言い、思わず緒川は振り返る。

 

「ええ。ちゃんとありますよ」

 

 そう言ってウェルは。

 

「此処と」

 

 頭を指差し、そして──。

 

「──此処に」

 

 己の()にあると、無くならないと──柔らかな笑顔を浮かべてそう言った。

 それに緒川は。

 

「──そうですか」

 

 ただその一言だけを言って──振り向かなかった。

 

(ええ。無くなりませんよ。何故ならキリカくん。君は──)

 

 僕の最高傑作(愛娘)なのだから。

 

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