【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
──Gatrandis babel ziggurat edenal
歌が聞こえる……
──Emustolronzen fine el baral zizzl
胸の奥に響く歌が。
──Gatrandis babel ziggurat edenal
その歌はとても儚くて。
──Emustolronzen fine el zizzl
耳を塞ぎたくなるほど悲しかった。
第五話「ピカチュウ は こんらん している」
画面の向こうで奏ちゃんと翼ちゃんが歌っている。
二人がツヴァイウィングとなって随分と時が経った。
当然というべきか、二人の歌は日本中を駆け巡り知らぬ者などいないと言っても過言ではないほど人気となった。
テレビでも取り上げられ、ファン一号として鼻が高い。会員証も作って貰った。それを見る度に二人とも恥ずかしそうにしている。
今もこうしてサイリウムを振って、録画されているライブに合わせて声を上げて楽しませて貰っている。
……そう、画面の向こうの、だ。
俺は二人のライブに行く事ができない。何故って?
ピカチュウだからだよ!!
ピカチュウボディで外に出たらどうなると思う?
撮られる。SNSに上げられる。トレンドに入る。政府に送られる。そしてモルモット生活開始。
弦十郎さんの話を聞く限り、俺ってかなり立場が危ういらしい。
有用性を示せば示すほど俺の危険性が上がって、さらに何処から嗅ぎ付けたのか米国政府が俺のことを突っついているらしい。何で知っているんだろう。
その事に呼応してか、鎌倉の偉い人が何度も二課に引き渡しの要請をしている。
それを何とか突っぱねているが……不利な状況になったらやばいらしい。
了子さんその事にイライラしていたな……弦十郎さんも拳握り締めていたし。
だからツヴァイウィングのライブに行けましぇん!!
「ピカピー」
あーあ! 一度で良いからライブ行きたいなー!
生の歌声聞いたことあるけど基本戦場だしなー!
うがー!
「ただいまー……って何してんだ?」
じたばたしていると奏ちゃんが帰って来た。
俺を見て、床に落ちているサイリウムを見て、ライブ映像が流れているテレビを見て。
「いや、ホントに何してんの?」
「大方。ライブに行けなくて駄々こねているんだろ」
訳がわからず首を傾げる奏ちゃんの後ろから、ひょっこりと顔を出した翼ちゃんが正解をスバッと言う。
鋭いな。推理力アメノハバキリかよ。
翼ちゃんの言葉に動きを止めた俺を見て、奏ちゃんは深くため息を吐く。
そして俺を抱き上げてコツンと額と額がくっ付いた。
「光彦―。歌ならいつだって聞いているだろ?」
でも、ライブで聞きたいんです。
それに……。
「……?」
夢に向かって頑張って二人の姿をこの目で見たいんだ。
そして、そんな二人を応援してくれている人たちも見たい。
俺の立場を考えれば我が儘も良いところ。
でも……でも……。
「……ふー。仕方ない」
「ピカ、チュウ?」
「後で旦那に聞いてみるよ。どうにかできないかってね」
「姐さん!?」
翼ちゃんが驚きの声を上げる。俺も同じだった。
しかし奏ちゃんは快活に笑い、任せろと胸を叩く。
そしてそのまま俺の頭を撫で付けながら、優しい顔で囁いた。
「いつも頑張っているからな。それに悪い事も何もしていない。外に出られないのだって、上の連中がビクビク震えているだけだしな」
ご褒美くらいあっても良いだろう?
ニカっと笑ってそう言う奏ちゃんが、俺にとっては女神に見えた。
か、奏様―!!
「チャアア!!」
「おっと。珍しいなお前から頬擦りするなんて」
普段はセクハラじゃね? と思ってあまり自分からスキンシップをしないが、嬉しさのあまりその辺の事を忘れる。
それに俺ピカチュウだからね! 良いよね!
喜びダイマックスな俺を、翼ちゃんが見ながら口を開いた。
「もし行けるようになったとしても、どうやって見るんだ? 舞台裏?」
もちろん観客席!
ビシッとテレビのライブ映像に写っている観客席を指差す。
「いや無理だろう!? お前みたいなぬいぐるみがサイリウム振ってエンジョイしてたら、あっという間にSNSで話題になるぞ!?」
「!?」
そ、そんな……!?
「いや、分かりきった事だろ!? ……はー、ったく」
彼女の言葉に衝撃を受けて絶句していると、翼ちゃんはため息を吐いてそれから。
「オレも何か考えるよ。お前がライブを見られるようにさ」
「ピ、ピカア!?」
奏ちゃんだけでなく、翼ちゃんも手伝ってくれるのか……!?
「ま、まあな。いちいち駄々を捏ねられても鬱陶しいだけだし」
それに。
「…………オレたちのライブをそんなに楽しみにされると、な」
「──ピカチュウウウウウウウ!!」
「おま、やめ?!?!」
つ、翼様ああああああ!!
喜びのあまり翼ちゃんに飛びつく。なんか悲鳴が聞こえるけど、誰もオレを止められないぜ!
時折「ビリビリする!」「干した後の布団みたいな匂い!」とか聞こえるけど気にならない!
ありがとう二人ともおおおおおおおお!!
そんな感じで翼ちゃんとスキンシップを取っていると、後ろからギュッと抱きしめられる。
奏ちゃんだ。
奏ちゃんが腕を回して来た事により、俺は二人に抱えられるような状態になる。
そしてそのままピトリと奏ちゃんの額がくっつく。
「光彦、お礼を言いたいのはあたしたちの方さ」
奏ちゃんが心の底から想いを込めた声を出す。
「アンタが私たちの歌を好きだと言ってくれたから羽ばたく事ができた」
「……オレもだ」
今度は翼ちゃんがピトリとこちらに額を引っ付ける。
「お前の想いがオレたちに翼をくれた。何処までも飛んでいけるって……そう思わせてくれた」
「だから」
「だから──」
──どうか見ていてくれ……あたし/オレたちの勇姿を。
そう二人の願いに、俺は。
「ピカピー!」
当然だと言わんばかりに、笑顔でそう返した。
そうだ。絶対に見るんだ。二人の夢を。
この目でしっかりと。
だから。
だから……。
あんな夢、さっさと忘れてしまおう。
奏ちゃんが炭になって風に吹かれて消えて。
それを翼ちゃんが抱き締めて泣いているなんて夢。
そんなの、ある訳ないんだ。
あっては……ならないんだ……。
◆
上層部に俺が如何に安全で有能なのかを知らしめるため、今日も今日とて奏ちゃんたちと発生したノイズの殲滅に赴いている。
ただ、今回発生したノイズ、数が多い上にバラけていて、加えて人の避難がまだ済んでいない。
よって二手に分かれる事にした。
アメノハバキリをサーフボードみたいにして高軌道で移動できる翼ちゃんと、俺と奏ちゃんだ。
奏ちゃん、お薬注射しないと長く戦えないからね。
戦闘時間に際限がない俺と組んでもらう事になった。
後、上に奏ちゃんが俺を見張っていると見せる為でもある。
戦場では基本奏ちゃんの指示に従って戦っているからね。
「光彦、アイアンテール」
「ピカ! ピカピッカ!!」
奏ちゃんの指示に従い、尻尾を鋼鉄の如く硬化させノイズに叩き付ける。
俺が狙いをつけた人型ノイズは、腕を交差させて防ぐ動きを見せるけど、その腕を胴体ごと叩き壊し、そのまま地面に亀裂を刻み込む。
しかしそれで終わりではない。俺はそのまま反動を利用して飛び上がり、体を前転させてクルクルと回る。その勢いのまま密集しているノイズの軍団に突っ込んで真っ二つにしていく。
うおおおおおお大車輪だああああああ!
しかししばらくすると気分が悪くなり、視界がグラグラと揺れ、喉の奥から何か出そうになる。
……オエ。
「光彦! 何してんだ!」
奏ちゃんが怒声を上げながら、手に持った槍でノイズを斬り払う。
いや、ちゃうねん。PP節約しようかなって思っただけやねん……。
でもホント気持ち悪い。混乱状態とはまた違った気持ち悪さ。
もう二度としない。
頭を左右に勢いよく振って、正気に戻る。
さて、遊んでいる場合ではない。
俺はピョンッと跳んで奏ちゃんの肩に乗り頬からバチバチと電気を迸らせる。
周囲に逃げ遅れた人はもういないみたいだ。さっきの俺のアイアンテールでノイズがこっちを標的に見据えている。
俺たちを囲うようにジリジリと近寄って来ている。
普通に見れば絶対絶命。
しかし俺たちにとっては
♪ まぼろし? 夢? 優しい手に包まれ♪
奏ちゃんが歌い、フォニックゲインを高めていく。
♪ 眠りつくような 優しい日々も今は♪
その歌を聞いたノイズたちが襲いかかってくる。本能で察したのだろうか。このままだと不味いと。
♪ 儚く消え まるで魔法が解かれ♪
だが……。
♪ すべての日常が 奇跡だと知った♪
もう遅いぞ、ノイズども!
♪ 曇りなき青い空を 見上げ嘆くより♪
奏ちゃんが槍を空に向けて掲げ、その上に俺が登る。
♪ 風に逆らって…… 輝いた未来へ帰ろう♪
その一節を歌い終わると同時に、奏ちゃんの槍から光が漏れ出し、俺の雷と混じり合う。
そして荒れ狂うそのエネルギーを空に向かって放出!
途端、青空に暗雲が立ち込め、雷光が迸る。
喰らえ、俺と奏ちゃんの合体技!
──LIGHTNING∞RAY
空から奏ちゃんが持っている槍と同じ形をした雷が、ノイズに向かって放たれた。
本来雷は一番高いものに落ちる。
しかし、俺の雷を含んだこの槍は、俺の狙い通りにノイズに向かって落ち、貫く。
『!!!!』
さらに、地面に刺さった槍同士が共鳴し、電撃の
するとどうなるかなんて──分かりきった事。
『!?!?』
貫かれていなかったノイズが、槍と槍を繋ぐ電撃の糸により煤へと変わる。
広範囲に槍を散りばめたから、ここら一帯のノイズは殲滅した。
「本部! こっちは片付いた。次の──」
奏ちゃんもそれを確認したのだろう。
すぐに本部に連絡し指示を仰ごうとし……。
「う……」
ガラリと瓦礫が崩れる音と人の呻き声が聞こえた。
まだ逃げ遅れていた人が居たのか……!
奏ちゃんも気づいたのだろう。すぐに保護しようとして。
「! おい、逃げろ!」
その背後に生き残りのノイズを発見した。
奏ちゃんは急いで駆け出し、目の前の逃げ遅れた民間人に声を張り上げる。
声が聞こえたのだろう。その人は薄らと開けていた目をしっかりと開け、次に後ろを振り返り、「ひっ」と息を飲んでその場に座り込んだ。
ノイズは、それに構わずその腕を目の前の獲物へと突きつける。
間に合わない。
死ぬ。
炭へとなって。
夢の奏ちゃんのように。
……死ぬ?
奏ちゃんが?
それは。
それは──。
「──ピカピイイイイイイイ!!!!」
絶対に、嫌だ!!!
俺は、無我夢中で叫び──あり得ない事が起きた。
「……え?」
奏ちゃんがその場に立ち止まる。
そして呆然と
ノイズはじたばたと体を動かすが、何もできず、そしてそのまま煤へと変わった。
元々自壊する寸前だったのか。
「ああ……」
「っ! 本部! ここに民間人がいる! 応援を!」
生きている事にホッとして民間人の人は、その場で気絶した。
奏ちゃんはすぐに回収班を呼びつける。
だが、俺はそれに気を止める余裕がなかった。
呆然と自分の手を、ピカチュウの手を見つめる。
さっきのは、サイコキネシスだった。
そして、それを行なったのは、使ったのは──俺だ。
しかしそれはあり得ない。だって、ピカチュウは電気タイプで、サイコキネシスを覚える事も、使う事もできない。
だが、今俺は確かに使った。
──俺は、何なんだ。
──本当にピカチュウなのか?
──俺の疑問に答える者は誰も居なかった。