【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
獣の奏者であるキャロル。
波導により先読みができるマリア。
自然と司令塔はこの二人になり、お互いに狙うべき相手を理解していた。
故にこの戦いは、如何に仲間を動かして、ターゲットに辿り着くかに掛かっている。
「──サンダース!」
「──翼!」
『相手よりも疾く駆け抜けろ!』
主人の、仲間のオーダーにそれぞれ疑う事なく、サンダースと翼は前に出た。
そして電撃と剣が衝突し、すぐに別の場所で移動し──戦場を駆け巡る。
優勢なのは──サンダースだった。
(ぐ、いやに痺れるな……!)
理由は──タイプの相性。
翼が纏っている力は電気に弱い。故に激突する度に相手よりもダメージを負ってしまう。
加えて翼は、何処か攻撃するよりも受け止める姿勢を取っている。それにより衝突しながらも受け身な彼女ばかりダメージが蓄積されていく。
キャロルとマリアはそれを理解していた。
故に次の一手を打つ。
「クリス! 火力で押せ! セレナはガードを!」
「ブースター! 炎を受け止めろ! ニンフィア! 畳み掛けろ!」
クリスの強化された炎が、ブースターに吸収され、その影からニンフィアがハイパーボイスを放ち、歌を見出そうと連発する。
しかしセレナがエネルギーシールドで受け流し、クリスの援護をする。
戦いはまだ続く。
「奏! 万雷を!」
「よし来た!」
「受け止めろブラッキー!」
「ブラァ!」
放たれる雷。それを防ぐ鉄壁の防御。
しかし、奏の放った雷が地面を伝わり敵の体を痺れさせる。
「なに!?」
「よし!」
ここで二人の間に差が生まれた。
「切歌! 調!」
「了解デース!」
「さっさと片付けて、寝る!」
ドローンロボと共に突撃する切歌。
「迎え撃て、エーフィ! リーフィア!」
「フィー!」
「リー!」
調のドローンロボがサイコキネシスで止められ、切歌の鎌とリーフィアのリーフブレードが激突した。
そこで初めてキャロルは気付いた。
「──まさか!」
「遅い!」
──アカシア・クローンはそれぞれ全員足止めされている。
キャロルの使役するアカシア・クローンの強みは、それぞれの個性を活かした連携。それを一体ずつ丁寧に押さえ込まれてしまえば──活路は開かれる。
マリアが飛び出し、奇跡の石を握り締める。
「波導は、我にあり」
マリアの背後にルカリオの幻影が現れ並走する。
「我が心に応えよ──奇跡の石」
そして紡がれる解放の言葉。
「進化を超えろ、メガシンカ!」
マリアの身に波導が集束し、光の繭が形成され──弾けると同時に、波導の勇者が拳を握り締めて飛び出す。
「はあああああああ!!」
「くっ!!」
振り抜かれたマリアの拳を、キャロルは錬金術で障壁を作り出し受け止める。
しかしすぐにヒビが入り、押されたキャロルの腕に痛みが走る。
やはり、この女は強い。
それを改めて実感しながら、ガラスの割れるような音と共に障壁が砕け──キャロルは殴り飛ばされた。
「ブラ!?」
それを見たブラッキー達が、アカシア・クローン達が相手をしていた装者達を振り切ってキャロルの元に駆け付ける。
『……!』
そして各々が遠距離攻撃をマリアに向かって放ち、まるで追い払うかのように威嚇する。
それをマリアは波導で力の動きを見ながら回避し、装者たちの元へ戻る。
「──随分と容赦が無いな」
頬を赤く腫らしたキャロルがふらりと立ち上がる。
それを心配そうにアカシア・クローン達が見つめるが、彼女はふっと笑みを送ってマリアを見据える。
「見た目通りの年齢ではないでしょう?」
「なるほど。見てくれでは騙されないという事か」
一言そう呟き。
「お前は違う、とそう言いたいんだな」
「……?」
キャロルとマリアの問答に訝しげに二人を見るセレナ。
彼女達は何の話をしている?
疑問に思う二人だが、それに応える者はおらず。
「まぁ良い。オレはオレの命題を成し遂げるまでだ」
さぁ、次はこちらが通す番だ。
そう告げようとして──戦場に呪いが、凶刃が現れる。
第六話「戦う為の理由」
モニターで皆が戦っている姿を、俺は見ていた。
俺も響ちゃんも、あの子達と戦う勇気が持てなかった。
だって、彼らと戦いたくないと思ってしまった。
なんで俺に対して怒っているのか、話をしたかった。
でも、伸ばした手は払い退けられ、拳を突き付けられる。
それが悲しかった。
「響、コマチ?」
未来ちゃんが部屋に入ってくる。
塞ぎ込んだ響ちゃんを心配して来ていたのだろう。
「もう、コマチの事も心配だったんだからね?」
……ごめん。
素直にそう謝ると、未来ちゃんは陽だまりのように温かい手で俺を撫でてくれた。
そして布団に包まっている響ちゃんの側に座り、俺たちに語り掛ける。
「響たちの気持ち、わたし分かるよ」
そう言って、彼女は──フロンティア事変の時の事を思い出していた。
「響を助ける為に、響と戦わなくないといけない──ギアの力で響を傷付ける度に苦しかった」
でも、と未来ちゃんは優しい笑みを浮かべた。
「それ以上に響を助けたかったから。話をしたかったから」
……助けたかった。話をしたかったから。
「そしてこうやって手を取り合う事ができる」
そう言って未来ちゃんは俺の手と響ちゃんの手を握った。
チャリっと音が鳴り、未来ちゃんが響ちゃんに何かを握らせたのが分かる。
「響、これ渡しておくね」
彼女が渡したのは──響ちゃんの胸の歌、ガングニール。
「あの時もこうして渡したね──響、わたしもう一度言うよ」
──響の拳は確かに痛い。でもそれだけじゃない。誰かと手を繋いで助ける事ができる優しい手なんだ。
「……未来」
響ちゃんがようやく反応し、陽だまりの名を呼ぶ。
そうか、戦いは傷付けるだけじゃないんだ。
……響ちゃん、俺先に行くね。
「コマチ……?」
俺やっぱり──あの子たちと話したい! だから、行ってくる!
未来ちゃん、響ちゃんをお願い!
「うん──行ってらっしゃい」
未来ちゃんの言葉を背に、俺は走り出した。
◆
──戦場に降り立ったのは、黒騎士だった。
「あれは、あの時の!」
映像データでその姿を見たことのある装者たちが反応を示す。
奏は実際に相対したことのあるマリアにそと耳打ちする。
「味方なのか?」
「……」
黒騎士は、ピンチに陥ったアカシア・クローンを倒す為に現れた。
キャロルの敵なのは間違い無いのだろう。
だが──敵の敵が味方とは限らない。
「警戒を」
マリアは一言そう指示して、黒騎士の出方を見る。
「こいつが出張ったという事は、奴が近くに居るという事か?」
そう言ってキャロルが周囲を警戒し──その隙を突いて黒騎士が突貫した。
「リー!」
リーフィアが黒騎士の剣をリーフブレードで受け止める。
しかし膂力の差で徐々に追い込まれていく。
そして最後には力押しで遠くへと弾き飛ばし、キャロルとの距離を詰める。
「っ──」
キャロルは回避しようとし──ガクンと膝が地に着く。
(さっきのダメージが)
マリアの拳が思っていたよりも効いていたらしく、咄嗟の反応に体が悲鳴を上げた。
そして黒騎士はそれに構わず剣を振り下ろし──。
「ブラ……!」
「──ブラッキー!?」
キャロルを体当たりして吹き飛ばしたブラッキーをバッサリと斬りつけた。
鮮血が舞い、倒れ伏せるブラッキー。それを見たキャロルが駆け寄る。
「ブラッキー! ブラッキー! くそ、何を馬鹿な事を……!」
「ブラ……」
浅く息を吐くブラッキーを、錬金術で応急処置し、キャロルは叫ぶ。
「──おい! これからブラッキーをそちらに送る! 手当てしていろ! ……馬鹿者! ならばその場ごと解体してやろうか!? ──初めからそう言え! このダメ人間!」
何者かに指示と罵倒を送った後、キャロルはブラッキーをテレポートジェムで転移させた。
そしてキッと黒騎士を睨み付け──様子がおかしい事に気が付いた。
【……ァ……ア】
「──なんだ?」
アカシア・クローン達がキャロルの元に集い、前に立って黒騎士を警戒する。
しかし黒騎士は頭を抑えて悶えるようにして体を震わせ、そして──。
【ァ、アカシアァアアアアアアア!!】
憎悪を含んだ、呪いの雄叫びを上げた。
黒騎士を中心に瘴気が吹き出し、その場にいた全員が目を見開く。
「あれは、まさか!」
その力を、その破壊衝動を──その怒りを彼女達は知っていた。
かつて、コマチを失い闇に堕ちた少女──響の暴走状態と同じだった。
「悪タイプのブラッキーのエネルギーで、奴の制御から脱したか──どのみち厄介な」
悪態を吐くキャロルだが、そう悠長にしていられない。
黒騎士は、憎悪のままに剣を構え、視界に偶然入ったキャロルに向かって駆ける。
「ブー、スター!」
「ダース!」
「リー!」
「フィー!」
「フィア!」
それに向かい討つべくアカシア・クローン達が前に出るが──。
【──】
『!?』
今までアカシア・クローンを狙っていたのが嘘のようにすり抜けて、一直線にキャロルに襲い掛かる。
「っ……!」
黒騎士の強襲に、キャロルは残り少ない思い出を燃やして錬金術を行使しようとし──。
「ブイ!!」
割り込んだコマチが「まもる」で黒騎士の剣を受け止め、さらに出力を瞬間的に上げて弾き飛ばした。
それを見たキャロルとアカシア・クローンは信じられないものを見た表情をする。
しかしコマチはそんな視線に構わず、キャロルに振り返り。
「ブイ! ブイブイ!」
怪我は無いかと、大丈夫かとその身を案じた。
その光景を見ていた装者達は──呆れながらも笑っていた。
「まったく光彦の奴……」
「アイツらしいと言えばアイツらしい」
昔から、それも死んでも変わらない彼に奏と翼は仕方ないと言わんばかりに肩を竦め。
「うん……それが、コマチだよね」
響と引き離した自分のことを友だと変わらず言っていた彼の優しさにクリスが嬉しそうに笑い。
「やっぱり存在が不条理。でも」
「ああいう所に皆救われてきたデス」
一緒に過ごすうちに感じた優しさを、嫌いではないと、むしろ好きだと零す調と切歌。
「リッくん先輩……」
「──ようやく、戻って来たか」
人を守るその姿に、心配は要らないと心を熱くするセレナとマリア。
『シャー!』
しかし、アカシア・クローン達は認められない。認めてはいけない。
すぐにキャロルとコマチの間に立ち、彼を威嚇する。
しかしコマチはそれに怯まず、真っ直ぐと、強い目で彼らを見据えた。
その輝きに、アカシア・クローン達は戸惑う。
「ブイ、ブイ!」
コマチは言った。
君達が俺の事を嫌いなのも、存在を拒絶しても構わない。
理由を教えてくれるまで手を伸ばす。そしてその理由を知ったら、絶対に手を繋いでみせる。
「フィー!」
それにエーフィが否定する。
そんな事はあり得ない、と。
そもそも何故敵である自分たちを、キャロルちゃんを助けたのだと問い詰めた。
何を企んでいる。何をするつもりだ、と。
「ブイ」
コマチは一言返した。
人助け、と。
「ダース!?」
敵だぞ!? とサンダースが突っ込むが──コマチは言った。
人助けに敵も味方も関係ない。
目の前で困っている人が居れば助ける──君たちだってそうなんじゃないか、と。
『……』
黙り込むアカシア・クローンたち。
そんな彼らに、コマチは宣言した。
この花咲く勇気で、いつか君たちと仲良くなってみせる。
だからそれまでせいぜい待っていろ。絶対に友達になってやるからな!
それだけ言うと、コマチは転身し黒騎士に向かって行く。
アカシア・クローン達はそれを黙って見る事しかできず、キャロルは。
「──ふふふ」
笑っていた。
「ハハハハハハハハ!」
心底面白そうに、アカシア・クローン達が心配する程に笑った。
一通り笑ったキャロルは──息を吐いて思い出す。
八体の元となったあの子の事を。
『ヴイ!』
「──情景を抱いた相手は、存外似ていたようだぞ」
イヴ、と過去を思い出しながらそう呟いた。
キャロルはアカシア・クローン達に命じた。
「オレ達も行くぞ! オリジナルに負けるな!」
『──!』
彼女の言葉に、アカシア・クローン達は駆け出した。そして、勢いよく飛び出した癖に、攻撃を避けられ何度も反撃を受けてボコボコにされているコマチの援護をする。
「ブ〜イ……」
「フィア!」
ごめんね、ありがとうと腫れた顔でコマチが礼を言い。
情けない! とニンフィアが叱咤する。
電撃が、炎が、緑の斬撃が、超能力が、幻想の力が黒騎士に叩き込まれる。
さらに、装者たちとキャロルも続いた。
【……!】
戦場に居る者全員からの総攻撃に、堪らず膝を着く黒騎士。
このまま行けば倒せる──誰もがそう思った、その時。
【──!】
「ブイ!?」
一瞬の隙を突いて、黒騎士がコマチの首を掴み、人質に取った。
「コマチ!」
クリスが叫び、装者たちが駆け出そうとした瞬間、チャキッと剣がコマチに添えられる。
もし動けば、この首を跳ねると言わんばかりに。
「この後に及んで三下染みた事を……!」
キャロルが歯噛みし、皆が身動きできない中──歌が聞こえた。
「Balwisyall nescell gungnir──」
その歌は、戦場を駆け抜け──。
「──トロオオオオオオオン!!」
勢い良くそのまま、黒騎士の顔面を殴り通した。
それによりコマチを奪還した響は、彼を抱えたままキャロルの隣に降り立つ。
「……迷いは無くなったのか、立花響」
「──無くなってなんかいない」
キャロルの問い掛けに、響は否定の言葉を返す。
しかし。
その胸には、昔から変わらない戦う理由があった。
「でも、こいつが、この馬鹿が傷付くのは我慢できない──だから」
コマチを守る為に、わたしは此処に来た。
見ず知らずの苦しんでいる誰かを救う為に立ち上がるコマチ。
そして、その度に傷付くコマチを守る為に響も追い掛ける。
「落第点も良い所だ。だが──」
そういうのは、嫌いじゃない。
キャロルはそれだけ伝えると、視線を前に戻す。
響の拳を受けて倒れた黒騎士の兜が半壊している。今ならその下の素顔が見れる筈だ。
だが──その下には何もなかった。
「え……?」
「なんだ、あれは?」
クリスと翼が戸惑いの声を上げる中、黒騎士は剣を掲げ──その身に宿る力を地面に叩きつけた。
瞬間、黒騎士から大津波が発生し、皆を巻き込む。
「ぐ……!」
「リー……!?」
さらに、剣先から冷気が発生し──飲み込んだ装者とキャロル事、凍り付かせた。
『……!!』
それを見届けた黒騎士は駆け出し──彼女たちを飛び越えて、逃げ出した。
「──ハアアアア!!」
「ブー、スター!!」
それと同時にクリスとブースターが氷を溶かすが──既に黒騎士は居なかった。
破壊の後を残して、呪いは消え去る。
◆
「……今回は退かせてもらう」
興が削がれたのか、もしくは消耗しすぎたのか、はたまた別の理由か。
キャロルは装者たちに背を向ける。
彼女たちもまた追撃はしなかった。
何故なら、彼女たちのなかにある疑問があるからだ。
それをマリアが尋ねる。
「アナタは……何がしたいの?」
「命題を完遂する。それだけだ」
「それが、世界を壊す理由?」
「……」
しかし、キャロルはそれに答える事なく。
「また、会おう──世界が壊れる前に」
それだけ告げると──アカシア・クローンと共に、テレポートジェムを用いてその場を立ち去った。
彼女たちは、キャロルの言葉の意味を考え。
「皆さん、無事でしたか」
そこにエルフナインが現れる。
どうやら彼女たちの身を案じて出て来たらしい。
「キャロルは……逃げてしまったようですね」
エルフナインが残念そうにそう呟くなか、マリアが尋ねる。
「エルフナイン。キャロルは──本当に敵なの?」
その問いに、エルフナインは。
「はい。彼女が命題を完遂しようとする限りは──だから止めましょう」
迷い無くそう答え──。
「──そう」
マリアは一人、この事件について考えていた。
──本能が警鐘を鳴らしている、致命的な見落としを見つける為に。