【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第八話「残された者の想い」

『お父さん? 何処行くの? ねえ、お父さん』

『……』

 

 遠い日の記憶。

 ……忘れてしまいたい記憶。

響は、父の背中に縋り付き、泣いていた。

 

『行かないで……わたし、頑張るから。だから――』

『――ごめんな、響』

 

 しかし、彼女の父は。

 

『もう、オレ――限界なんだ』

 

 握り締められていた響の手を振り払って――姿を消した。

 

 ――お父さんが悪い。

 ――辛い時に側に居てくれなかった。

 ――助けてって言っても来てくれなかった。

 ――家族もバラバラになった。

 

 ――……ああ、でも。

 ――お父さんをあんな風にしたのも、家族をバラバラにしたのも。

 

 ――全部、わたしのせいだ。

 

 ――だから、わたしには――。

 

 

第八話「残された者の想い」

 

 

「響、その……大きくなったな」

 

 戸惑いながらも、響の父洸がへにゃりと笑みを浮かべて言葉を掛けるが。

 

「いまさら父親面しないで」

 

 返答する響の言葉は、何処までも冷え切ったものだった。

 当然と言えば当然のその反応に、洸はどうしたものかと後頭部を掻く。

 

「そうは言っても、実際オレは響の父親な訳で」

「認められるか――わたしを捨てたくせに」

 

 彼女の言葉に、洸の表情が曇る。

 響が言っている事は――本当の事だから。

 彼が側に居なかった結果、響は……。

 

「ブイ……」

「――! お前は……!?」

 

 二人のやり取りが見ていられなくなったコマチは、仲裁するように二人の間に降り立った。

 すると、洸が反応を示す。

 彼は顔を輝かせると、コマチを抱き上げて頬擦りする。

 

「ブイ太郎! ブイ太郎じゃないか! 相変わらず美味しそうだな!」

「ブイっ!!!」

 

 パァンッ! と肉球パンチが炸裂する。

 頬にコマチの足跡を付けながら、洸は訂正する。

 

「あ、相変わらず美味しそうなほどプリチーです……」

「ブイ!」

 

 それで良い、くそホームレス。とコマチが鼻を鳴らす。

 ――しかし次の瞬間、強い力で、グイッとコマチは洸の腕から引き離される。

 モフモフを取られた洸が名残惜しそうに腕を伸ばし、それを響が普段の五割増しに鋭い目付きで彼を睨む。

 

「……コマチと知り合いなの?」

「……えっと〜」

 

 洸の目が泳ぐ。

 何故なら、洸とコマチの関係は加害者と被害者。

 ホームレス時代に彼を食べようと血迷い、追いかけ回してしまった過去がある。

 それにより、コマチも彼にはどこか遠慮も愛想も無い。

 

 それを目の前の娘に馬鹿正直に話そうものならーー今の反応で分かる。修復不可能なほどに、親子の関係が砕け散る。

 

 それだけは何とか回避しようとした洸は、胸を張って答えた。

 

「親友さ!」

「コマチ教えて」

「ブイブイ」

 

 追いかけ追いかけ回された関係です、とコマチはかなりオブラートに包んで答えた。

 

「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん……」

 

 響の視線が零度を通り越してマイナスへと至っている。

 洸は、人は視線でも人を殺せるんだな、と初めて知った。

 正直娘の視線に耐え切れなかった。過去のやらかしで、彼は今、未来を閉ざされようとしている。

 自業自得とも言う。

 

「茶番はそこまでにしてもらおうか」

「キャロル……!」

 

 口を挟んだキャロルにも鋭い目付きを向ける響。

 

「何でアンタが、こいつと一緒に居るんだ!」

「居たくて共に居る訳じゃない。ただ、錬金術師は等価交換でな――コイツに助けられたオレは、その対価を払っているところだ」

 

 その言葉を聞いて、響とコマチは――ゴミを見るような目で洸を見る。

 

「ブイブイ……」

「こんな小さい子に何させてんの……?」

「おい! オレはお前らより年上だぞ!」

 

 キャロルが何か言っているが、二人は聞く耳持たず、洸を見続けていた。

 その視線に彼はたじろぐが、響の追求は止まらない。

 

「キャロルが何をしようとしているのか、知っているの?」

「いや、知らないが……生活の世話になっている」

「――はあああああああ??????」

 

 コマチはのちに、こう答える。

 この時ほど、響ちゃんのドスの効いた声は聞いた事ないし、もう二度と聞きたくなかった。

 

「はあ? はああ? はああああああああ???? アンタ! 自分が! どれくらい情けない事言っているのか? 分かってんの???」

「し、仕方ないだろ! オレだって巻き込まれたし、それでバイトもクビになったし――」

 

 尚も言い訳を重ねる洸。

 

「それに世話になってるばかりじゃないぞ! 飯だって準備してる!」

「インスタントか出前だな。オレの用意した金で」

「……掃除だってしている!」

「ルンバ任せだな。オレの金で買ったやつで」

「……風呂だって沸かしている」

「一番最初に入っているよな。あと出る時は色々と処理してくれ。アイツらの不満が凄い」

「……」

「……」

『……』

 

 

「ブイ」

 

 ダメじゃん、とコマチが呟くのと、響がブチ切れるのは同時だった。

 

「──なんで」

 

響は──目の前の男が自分の父親である事が許せなかった。

 

「家族を捨てて! 自分だけ逃げて! 挙句の果てには醜態晒して! お父さんは恥ずかしくないの!?」

 

響の荒れに荒れた感情が爆発し──洸もまた、カチンと来て言い返してしまう。

 

「恥ずかしくない訳ないだろ!お父さんだって必死に生きているんだ! 情けない事なんて自分が一番よく分かってる!」

「だったら!」

「それに──元々は響のせいじゃないか!」

 

洸は、自分の吐いた言葉に一瞬遅れて気づいて。

 

「あ、いや、違う。これは」

 

言うつもりのなかった事を言ってしまったと響に見せつけてしまい。

それを見た響は──。

 

「――もう良い」

 

 響がペンダントを握り締める。

 

「纏めて連行する!」

 

 そう言って胸の歌を唄おうとして――。

 

「――悪いが、そういう訳にはいかない」

 

 キャロルが錬金術で突風を引き起こす。

 それに響は怯み、腕で顔を庇い――気付いたらキャロルも洸も居なくなっていた。

 テレポートジェムを使って転移したのだろう。その事を理解した響は。

 

「――くそ……!」

 

 舌打ちをして、悪態を吐く。

 荒れに荒れている響を心配し、コマチが彼女の肩に乗りクルンと尻尾を巻き付けさせる。

 それにより響は深呼吸し……落ち着きを取り戻し始める。

 

「……ありがと」

「ブイ」

 

 気にしないで、彼がそう宥めていると端末に通信が入る。

 響は耳に当て、通信に出ると――。

 

「はい、こちら響――え?」

 

 信じられない報告を聞き、言葉を失った。

 

「――マリアとエルフナインが?」

 

 ――敵の襲撃を受けた二人が重傷を負い、医療施設に運ばれた事。

 そしてマリアは意識不明の重体であり――助かるのかは彼女次第。

 

 空に暗雲が立ち込め、雨が降り始めた。

 

 

 

 

『……』

 

 本部に帰還した装者たちの顔は……暗い。

 特に妹であるセレナは目元を赤く腫らしており、どれだけ動揺したのか伺い知れる。

 

 回復したエルフナインによると、黒騎士がエルフナインを襲い、それをマリアが庇った結果、今回の事態に陥ったとの事。

 

「エルフナインくんは、僕の治療によりすぐに良くなるでしょう。傷跡も残りません」

「あの、姉さんは」

「……全力は尽くしました。しかし、心臓を貫かれたのが不味かった。どうやら波導で傷口を塞いだようですが……それが無ければ即死。正直今こうして生きているのも不思議なくらいです」

「……そう、ですか」

 

 セレナが顔を俯かせる。

 

 ――が。

 

「――安心してください。僕が絶対に助けてみせますよ。……もう目の前で誰かが死ぬのはごめんですからね」

「――ウェル、博士」

「博士じゃないです――それでは、僕はこれで」

 

 報告を終えたウェルが退室する。

 それを見送った皆は、次にセレナを見る。

 奏が代表して彼女に言った。

 

「今日はもう休め。マリアが目覚めた時にお前が疲弊し切っていたら怒られるぞ?」

「そう、ですね……そうさせて貰います」

 

 セレナは奏の申し出を素直に受けて、その場を後にした。

 残った装者たちもまた、解散する事になった。

 しかしその前に確認する事がある。それは……。

 

「響、本当なのか? お前の父親がキャロルと一緒に居た事は」

「……」

 

 コクリと彼女が頷くと、皆が苦い表情を浮かべる。

 そうなると――弦十郎が言っていた事が現実となる。

 

「――謹慎、ですね」

『……』

「司令からは聞いています。わたしの疑いを晴らすために必要だと」

 

 ――装者の父親が、敵と行動を共にしている。

 そうなると響に掛かるのはスパイ容疑。

 SONGの職員にそう思う者は居ない。しかし、上の者は違う。

 この情報を知った国連の上層部は、響に疑いの目を向けて最悪身柄の拘束に乗り出すかもしれない。

 故に先じて謹慎処分し、響の無実を証明する必要があった。

 

 ――皆、納得できないが、仕方のない事だった。

 それでも響は気にするなと言う。

 

「大丈夫ですよ。すぐにわたしとあの男と関係無いって分かります。それまでの辛抱です」

 

 そして何より辛いのは。

 己の感情を隠して、気にしていない素振りをする響を見る事だった。

 

 

 

 

 ガングニールや端末を回収された響は、本部に備えられた個室に入れられベッドで横になっていた。

 しばらく天井を見上げていたが――。

 

「……わたしよりもマリアの所に居なよ。あっちの方が大変なんだから」

 

 そう言って視線を横に向け――彼女を見るコマチに言った。

 

「ブイ」

 

 ウェルさんが頑張っているし、セレナも着いているから大丈夫、と彼は言った。

 どうやら、ウェルがマリアを絶対に助けると信じ切っているらしい。

 そして……今は響の近くに居る事を選んだようだ。

 コマチはベッドに上がり、横を向いている響の腕の中に入り丸くなる。

 その温もりを感じた響は――。

 

「――コマチ……!」

 

 涙を流して彼を抱きしめた。

 

「――なんで、お父さんが敵と一緒に居るんだろう。なんであんな情けなくなっているの……」

 

 胸にある想いを暴露し始めた。

 

「わたし、怖いんだ。仲間を傷付けた相手の仲間がお父さんだと思うと……!」

 

 もしマリアが死んだらと思うと、彼女はセレナに顔向けできない。

 

「それに、それに……!」

 

 そして、一番辛いのは。

 

「わたしが悪いのに、お父さんにあんな事言ってしまった……!」

 

 己の罪を、逃げたからと、かつて大好きだった人に押し付けてしまう事だった。

 

「コマチ……コマチッ……!」

「ブイ……」

 

 泣き続ける響を、コマチは寄り添って大丈夫だよと言い続ける事しかできなかった。

 

 ――その日、響は泣き疲れるまで謝り続けた。

 自分が悪いのだと、自分のせいだと。

 

 コマチは、自分の無力さに悔やみ続けた。 

 

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