【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第六話「ピカチュウ の おんがえし! ばいばい みんな!」

 自分は本当にピカチュウなのか。

 その疑問は付いて離れず、頭の中でグルグルと回り続けた。

 二課の人たちはそういう力もあるのかと思っているだけで、奏ちゃんも「あんな力あるなら最初から使えよな」と苦笑まじりに言っていた。

 

 俺だけがこの異常を理解している。

 しかしそれも仕方のない事だ。

 だって、【ポケモン】を知っているのは俺だけなのだから。

 

 俺は、二課の訓練室で自分の力を試した。

 

 大文字。ハイドロポンプ。シャドーボール。悪の波動。竜巻。ラスターカノン。気合玉……。

 その他、ピカチュウではできない技をたくさん使う事ができた。

 ……俺は本当にピカチュウなのか? 

 そう思い込んでいるだけで本当は──。

 

 そして、認識すると分かることもある。

 俺がここ最近毎晩見ているあの悪夢。

 今までは起きるはずのない物だと思っていた。

 しかし、今だからこそ分かる。

 

 あれは──未来予知だ。

 

 

 第六話「ピカチュウ の おんがえし! ばいばい みんな!」

 

 

「むー」

「翼、いい加減機嫌直せって」

「だって……」

 

 今日はあたしたちツヴァイウィングのライブだ。

 始めた頃と馬比べ物にならないほどあたしたちは人気になり、あたしたちの歌を聞きに来てくれている人達もすごく増えた。

 今回のライブ会場には十万人のファンたちが集まっている。

 こうして時間まで待っているのがむず痒くて少し苦手だ。早く大暴れしたいとうずうずしてしまう。

 

 しかし、そのライブ前だっていうのに、あたしの相棒である翼はむくれていた。

 理由は分かっている。

 

「だって、オレの作戦が……」

「いや……無理だと思うぞ? 光彦に人形のフリして貰うってのは」

 

 光彦の観客席でライブを見たいという願いを叶えるために、あたしたちは色々と頑張った。

 あたしは弦十郎の旦那に頼み込んで、上のおっさん共を納得させる為の理由を考えたりした。ほとんど旦那と了子さんが頑張ってくれたけどな……。

 んで結果は成功。普段は本部で留守番している光彦は、今日だけはこの会場──の別室に居る。

 実はそれが原因で観客席に行けない理由だったりする。

 

 今回のライブはいつものライブと違う。

 あたしたちの歌と観客のみんなでフォニックゲインを高めて、別室にある完全聖遺物──ネフシュタンの鎧を起動させる実験が行われる。

 旦那と了子さんは、それを利用して光彦をここに連れて来た。不測の事態にすぐさま動ける為の駒として。

 だから光彦は別室に居なくてはいけなくて、観客席の方に居て貰うってのはどうしてもできなかった。

 

 ……まあ、でも。

 翼が学校で慕っている女の子に「これはプレゼントだよ、ハニー。この子をオレだと思って抱いていてくれ」って渡して、ライブに行かせようとしてたのは、どう考えても無理だろ。一応光彦は機密扱いだし。

 失敗して怒られるのがオチだ。というか旦那に怒られてたな……。

 

 で、結局上手くいかなくて光彦と約束を守れず膨れているのが今、という訳だ。

 

「翼、不貞腐れるのはその辺にしときな。そんな仏頂面で光彦にライブ見せる気か?」

「……はあ。姐さんは意地悪だ」

 

 意識を切り替えたのか、翼の表情がいつもの不敵なものになる。

 光彦にカッコイイところを見せようと思っているのか、いつもよりもやる気十分だ。

 あたしだって同じだ。

 結局画面越しになるが、光彦も同じ場所に居る。

 それでやる気出すなって方が無理な話だ。

 

「此処に居たか二人とも」

「先生!」

 

 あたしたちを探していたのだろう弦十郎の旦那が現れる。

 いつものラフな格好とは違って、ビシッとスーツで決めている。相変わらず赤いが。

 そういえばこの前光彦が赤い熊だって言っていたな。その通り過ぎて笑ってしまったが。

 

「緊張は……していないようだな」

「翼は不貞腐れていたけどなー」

「あ、姐さん!」

「ふふふ……ガチガチになって動けなくなるよりは良いだろう。

 ……二人とも、分かっていると思うが──」

「わーってるって! 今日は大事な実験だってな! でもあたしたちは思いっきり歌わせて貰うだけだ! な、翼?」

「応ともさ! オレも姐さんも難しい事は分からねえしな!」

 

 翼の言う通りだ。

 あたしたちツヴァイウィングは全力で歌って、何処までも、いつまでも、空高く飛んでいく。

 ただそれだけだ。

 

「なら、良いんだがな」

「そっちこそ、光彦の事頼んだぜ?」

「ああ、分かっているさ」

 

 それを最後に旦那は実験場へと戻って行った。

 あたしたちはそれを見届け……。

 

「それじゃあ、行くか、翼!」

「ああ! 姐さん!」

「あたしたちの──」

「オレたちの──」

 

 ──夢の舞台に! 

 

 

 ◆

 

 

 ──時は少し遡る。

 

 俺はおやっさんの許可を得て、ライブ会場に来ていた──実際はその別室なんだけどね! 

 ピカチュウボディではどうやっても目立ってしまうから、観客席は無理でした。ちくしょう。生で二人の歌を聴きたかったなぁ。

 二人も残念がっていたし、おやっさんも申し訳なさそうにしてたからこれ以上はグダグダ言わないけど……。

 それに近くで歌っているんだ。此処に来れただけでも良しとしよう。

 新聞でも見て気分リフレッシュだ! 

 何々……救出された邦人少女失踪……? 嫌なニュースだなぁ。

 いや切り替えろ。暗くなるな俺! 落ち込むと不満が出る! 

 

「◼️◼️◼️◼️様」

「ピカ?」

 

 無理やり納得させるために自分に言い聞かせていると、部屋の扉が開き了子さんが入って来た。しかし()()()()()浮かない顔をしている。

 ……正直今の了子さんとは会いたくないな……。

 だって……。

 

「ねえ、◼️◼️◼️◼️様。今からでも遅くありません。本部に戻ってください」

 

 これである。

 今回のライブに、というより実験に了子さんは俺を参加させる事に頑なに反対していた。

 普段の了子さんは、ツヴァイウィングに匹敵するくらいに俺に対してダダ甘である。ほとんど俺の要望を聞いてくれるし、やらかしておやっさんから説教を受ける時はそれとなく助けてくれる。

 そんな彼女が、今回だけは掌を返したかのように俺がこの場に来ることを反対した。政府からの追及が激しくなるやら、鎌倉に隙を見せることになるやら、それっぽい事を言っていた。

 しかし結局はこうして俺はこの場に来て、了子さんはいまだに俺を本部に返そうとしている。

 

「ピッ!」

「◼️◼️◼️◼️様……」

 

 首を背けて嫌だと明確に意思を示すと、了子さんは物凄く困った顔をした。

 うう、優しい了子さんにこんな顔をさせるのは正直申し訳ない……。

 で、でもようやく此処まで来たんだ! 今更帰れない! というより嫌だ! 

 俺の意志が固い事を察したのか、了子さんはため息を吐いた。そして優しく俺を抱き上げ、視線をこちらに向ける。

 金色の瞳が酷く揺れていた。

 

「では◼️◼️◼️◼️様。一つだけ約束を……いえ、私がこれから言うことを頭の片隅にでも留めておいてください」

 

 彼女の瞳には諦めと、そして強い決意があった。

 それは暗く、黒く……ゾッとするほど冷たい。

 でも、それでも……俺に向ける感情は温かった。

 了子さんは俺に向かってお願い……いや、懇願する。

 

「──これから何があろうと、人を助けようとしないでください。

 

 己の命を第一にお考えください。

 

 ……助けられない命に悔いを残さず、ただただ諦めてください。

 

 どうか、お願いします……」

 

 彼女の言葉には慈しみがあった。俺の事を想っている。それが強く感じられて。

 

 だからこそ受け入れる事ができなかった。

 

「ピ!」

「◼️◼️◼️◼️様……」

 

 了子さんは見捨てろと言った。

 でも俺はその言葉に頷く事は、絶対にない。

 例えそうする事で何が起きようと。

 見捨てるという選択肢はない。

 

 了子さんは俺の返答が分かっていたのか、ただただ悲しそうな表情をして、俯いて、そっと俺を下ろす。

 そしてくるりと背を向けると扉の方へ向き、

 

「分かりました……私はこれ以上もう言いません」

 

 そしてスッと俺の頭に触れ──バチッと痛みが走った。

 

「ピ……!?」

「今回はここまでのようです。またいつか、お会いしましょう」

 

 その言葉を最後に了子さんは出て行き、俺はそんな彼女の背中を見つめる事しかできなかった。

 痛みで体を動かす事ができない。頭の中に流れ続ける景色。

 それは、未来の出来事。

 止めようと思っていた()()()()()()()()未来。

 そして、その未来が来るのは──ライブの後で、

 

 

 

 

 今まさに、ツヴァイウィングのライブが始まる。

 

 俺は動く事ができない。

 

 

 ◆

 

 

 逆光のフリューゲル。

 今日、この日のために奏と翼が仕上げて来た歌。

 出だしで歌われたこの歌により、ライブの下に設けられた別室では無事に実験が成功していた。それはライブの方でも同様であり、観客も

 ツヴァイウィングも盛り上がっていた。

 高まる鼓動を感じながら、奏はマイクを片手に己を解放する。

 

「まだまだ行くぞ!」

(聴いているか? 見ていてくれているか光彦。あたしたちのライブを!)

 

 いつもと違い、近くで自分たちの応援をしてくれている家族のことを彼女は想う。

 その想いが届いている事を信じ、そしてこれからも伝えようと想い──。

 

 爆発が起きる。

 

 悲鳴が響く。

 

 そして、ノイズが現れた。

 

「ノイズだああああああああ!?」

「死にたくない! 死にたくない!」

「た、助け──」

 

 笑顔と歓声が溢れるライブから一転し、会場は悲鳴と断末魔蔓延る地獄へと変わった。

 空から、下からノイズが人を殺す為に次々と現れる。

 

「Croitzal ronzell gungnir zizzl」

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 それを見た奏と翼は──胸に怒りと歌を浮かび上がらせ、槍と剣を手に戦場に降り立つ。

 二人は胸の歌を歌いながら、ノイズを次々と蹴散らしていく。

 それでも、彼女たちが殲滅するよりも、ノイズが人を殺す方が早い。

 焦りが浮かぶ。それでも二人は戦い続け──奏の視界に、逃げ遅れた少女の姿が映る。

 すぐさま奏は走りだし、手に持った槍で少女を襲おうとしたノイズを斬り裂く。

 しかし、槍を振るう度に体に痛みが走る。

 奏は、翼と違って真っ当な適合者ではない。リンカーを使ってようやくシンフォギアを纏う事ができる──時限式。

 それでも彼女は諦めない。

 

「駆け出せ!」

「っ……!」

 

 助けた少女が走り出す。足を怪我したのか、ゆっくりだ。

 しかし、それを狙ったノイズ達がその身を槍の如く尖らせて襲いかかり、奏は庇うべく槍を構え──。

 

 

 雷光が、会場の下から天高く昇る。

 そして、空で弾けたかと思うと──炎、影、水、氷、ありとあらゆる力を内容した球状のエネルギー弾がノイズを蹴散らした。

 

「こいつは……!」

 

 それを見た奏の元に、一つの影が舞い降りる。

 

「ピ!」

「光彦!」

 

 彼女が己の家族の名を呼んだ。

 光彦は、襲い続ける頭痛に顔を顰めながらも、ノイズを次々と駆逐していく。

 本来のピカチュウなら絶対使えない技を使いながら。

 しかし、彼はその事にもう疑問を持たない。

 了子……否、終わりの名を持つ者が解除したセーフティにより、彼は自分の事を知った。

 ピカチュウではなく◾️◾️◾️である事を。

 だから、自分は思った技を自由に使う事ができると強く認識する事で、力の行使を可能にした。

 下の実験場に居た者達も“テレポート”で避難させた。

 あとはこの場のノイズを速やかに倒し、()()()()()()()()()を助ける為に急がなくてはならない。

 残りは半分。気合入れて力を解放しようとし……。

 

「姐さん! 光彦! 避けろ!」

 

 翼の叫び声と同事に、強い存在感を放つナニカが彼女達に襲い掛かった。

 光彦は奏の前に立ち“まもる”を発動させ、奏は槍を構え。

 

 盾も槍も砕かれ、二人は吹き飛ばされた。

 そしてその際に飛び散った奏の槍の破片が、背後に居た少女の胸に突き刺さり、鮮血が舞う。

 

「姐さん! 光彦! っ、うおおおおおおおおお」

 

 激昂した翼が、二人を蹴散らしたノイズに斬りかかる。

 しかし、翼のアメノハバキリの一撃を受けてもそのノイズは無傷だった。

 硬すぎる。そもそもその出で立ちからして異質だった。

 形は通常のノイズと変わらないが、色が黒かった。

 さらにそのノイズは人を炭素に変えた後も自壊せず活動している。

 

 明らかにイレギュラーだった。

 

「ピカピ……」

 

 震える体を動かし、光彦は立ち上がろうとして、力が抜けて地面に倒れ伏す。

 痛みに顔を顰め、頭の奥で何度も映る悪夢に頭を振って忘れようとし──ふと視界に奏が映る。

 

 光彦はゾッとした。

 

 奏は一人の少女を抱いていた。胸から血を流し、今にも死にそうな──。

 だが、生きている。奏の「生きるのを諦めるな」の言葉に息を吹き返したのだ。

 だが、それでも危機的状況なのは変わらない。彼女を助けるにはノイズが邪魔だ。

 さらにいつものノイズとは違う異常個体がいる。翼のシンフォギアを持ってしても倒す事ができない。

 

 ならば──。

 

(──ごめんな、光彦)

 

 歌うしかない。未練を、悲しみを、別れを振り切って。

 

 ──絶唱を。

 

──Gatrandis babel ziggurat edenal

 

(歌が聞こえる……)

 

 光彦の夢が現実となる。

 

──Emustolronzen fine el baral zizzl

 

(胸の奥に響く歌が)

 

 最期のライブにて、彼女の命の灯火が消える音を耳にし。

 

──Gatrandis babel ziggurat edenal

 

(……とても儚い歌だ)

 

 立ち上がらない自分に怒りを覚え。

 

──Emustolronzen fine el zizzl

 

(耳を塞ぎたくなるほど悲しいな──奏ちゃん)

 

 ──覚悟を決めた。

 

 

 奏の絶唱が歌い終わると同時に、彼女を中心に力の波動がライブ会場に広がる。

 

「姐さん……姐さん!!!」

 

 ノイズが炭へと変わり、自壊していく。

 さらに黒いノイズも絶唱により吹き飛ばされ、壁に激突。

 しかし相対していた翼は、そんな事知らないとばかりに奏に向かって走り出し、崩れ落ちる彼女の体を抱き止めた。

 

「姐さん! なんで!!」

「……すまないな、つ、ばさ……。両翼……揃っての、ツヴァイ……ウィングな……のに、お前を、残し……て……」

「イヤだ……イヤだイヤだイヤだ──逝くな! ()!」

「……へへ。やっと……名前で、呼んで……くれた」

 

 奏は翼の事を相棒だと言っていた。しかし翼は彼女の事を「姐さん」と呼び慕っていた。

 その事がむず痒いと共に、少し寂しかった。

 だからこうして対等に自分の名を呼んでくれた事が嬉しかった。

 故に彼女は、相棒に家族を託すことにした。

 

「翼、光彦の事……頼むわ……」

「そんな事言うなよ……!」

「風呂の後は、……しっかりと……拭いて……やれよ。ブラッ……シングも、……忘れるな。あと……ケチャップの……食べ過ぎ、……には注意して──」

「そんなに心配なら、自分で──」

「悪い……できそうにね……ぇんだ」

 

 意識が遠ざかる。

 胸に想いが募る。

 

「ごめんな……光彦……」

 

 その言葉を最期に、奏の命が終わろうとして──。

 

 

 

「──え?」

 

 浮遊感と共に覚醒する。ボロボロと崩れ始めていた体が逆再生するかのように元に戻っていく。

 痛みも苦しさも消え、奏のシンフォギアが解除されライブ衣装へと元に戻る。

 涙を流していた翼は目の前で起きた出来事に呆然とし、

 

「奏!」

「わっと……」

 

 無事なことに感涙し、彼女を抱き締めた。

 

「もう、あんな事言うのやめてくれ……オレ達ツヴァイウィングだろ……?」

「……翼」

 

 相棒を深く傷つけた事に「ごめん」と謝ろうとし……。

 

「ピカピ」

「あ……光彦、お前もごめんな。さっきのは──」

 

 そういえば光彦もこの場に居たのだと思い出し。

 そしてさっきの言葉も聞かれていたのだと少しだけ恥ずかしく思い。

 でもやっぱり自分も二人と離れるのは嫌だったのだと再認識して家族に謝罪しようとして──。

 

 

 ボロボロと体を崩れさせながら、ホッとしたような、心底嬉しそうな顔をした光彦がそこに居た。

 

「……………………は?」

「奏? …………え?」

 

 翼が奏の様子に疑問を持ち、彼女の視線を辿り、光彦を見て言葉を失う。

 しかし光彦は二人の様子に気にした様子もなく、彼女達に近づくと、いつものように奏の肩に跳び乗ろうとして、しかしすでに脚が崩れ落ちて塵となって消えていた為それができず、仕方なくサイコキネシスで浮く。

 そして奏に近づくと……。

 

「チャア〜」

 

 いつものようにあざとい鳴き声を上げて頬擦りをする。

 奏にも翼にも「あざとい」「作ってる」「自然体でいろ」とよく言われている、不評な仕草。

 しかし二人はそれを咎めなかった。咎める事ができなかった。

 奏にした後は翼にも同様に頬擦りをし、光彦は奏の体を隅々まで調べて、頷いて喜びの表情を浮かべる。

 

「……おま、なん、それ」

 

 言葉にならない奏。

 しかし反対に翼は光彦の行動を見て察した……理解してしまった。

 

「お前……まさか、奏の絶唱を──」

 

 ──光彦が使ったのは「いやしのねがい」。

 己が瀕死になる事で仲間を癒す技。

 それを光彦は奏と()()()()()()()に使った。

 本来ならできないそれを彼は己の命を使う事で──たった二人だが、助ける事ができた。

 未来は変えることができなかったが、その先の未来を変えることはできた。

 光彦は満足した。

 

「ば……っかやろう!」

 

 だが──奏は認める事ができない。

 

「なんでお前があたしの代わりに──よりにもよって、家族であるお前が!」

 

 奏はノイズによって家族を失った。

 そして今もまた家族を失おうとしている。

 

「ふざけるな……ふざけるな! 奏もお前も居ないと、意味ないんだ!」

 

 先ほどの奏を失い掛けた時の悲しみが蘇る。

 翼の脳裏に喧嘩した時のこと、こっそり撫でさせてくれた時のこと、一緒に説教を受けていた時のこと……笑い合った時のことが過ぎる。

 

「死ぬな! 光彦! ……死なないでくれ」

「お願いだ光彦……また一緒に馬鹿なことしよう」

 

 

 

『まだお前に、最高のライブを直に見てもらってないじゃないか』

 

 繋ぎ止めようと言葉を尽くす二人。

 それが光彦は嬉しくて、嬉しくて……後悔は無かった。

 

 ──ガタ。

 

「っ!」

「アイツ……まだ……!」

 

 瓦礫が崩れる音がし、そちらに目を向けるとそこには黒いノイズが這い上がろうとしていた。

 奏の絶唱でダメージを受けたようだが、まだ活動するだけの力があるようで、ギロリとこちらへと顔を向ける。

 

「くっ……!」

 

 シンフォギアを纏った翼が剣を構えようとして。

 

「──ピカ」

「っ……!?」

 

 光彦のでんじはで麻痺させられる。

 崩れ落ち、顔を上げる翼。その顔は怒りで染まっていた。

 

「光彦……お前……!」

「ピカピーカ」

 

 さらに翼のシンフォギアが解除される。

 どうやら彼女もまた肉体的、精神的に限界だったようで、それを光彦は察していたようだ。

 

 これで彼の邪魔をする者は居なくなる。

 

「ピ──ーカ────……!」

 

 光彦は、最期の力を振り絞り体に電気を纏わせていく。

 

「待て、行くな……光彦……やめろおおおおおおお!」

 

 奏が叫びながら腕を伸ばし──。

 

 

「──ピカピッ!」

 

 光彦が最期に奏達の方へと振り返り、笑顔で手を振って──雷光となって駆け抜けた。

 

「ピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカ──」

「……!?」

 

 

 雷光はそのまま黒いノイズへと激突し──。

 

「ピカピッカァッ!!!」

 

 その身を犠牲にして打ち倒した。

 

 

 ◆

 

 

 はぁ。

 結局、未来を変えることができなかった。

 了子さん……いや、あの子が見せた通り、俺の未来予知は不変なんだなぁ。

 だからあの時も彼女は絶望して……。

 

 それにしても。

 二人とも泣いてたな。

 申し訳ないという気持ちもある。泣いてくれて嬉しい気持ちもある。

 でも一番は……生きてくれて良かったって気持ちだな。

 二人とも凄く怒っていたけど、自分達だって同じ事をする可能性がある事を知ったら、果たして怒るのだろうか。

 ……怒るんだろうな。優しいからな。

 

 ……あぁ。二人のライブ、一度で良いから見たかったな。

 

 ……あぁ。一度で良いから、二人と街に出掛けて見たかったな。

 

 ……あぁ。もっと二人と一緒に居たかったなぁ。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………あぁ。やっぱり、お別れって寂しいな……。

 

 

 ◆

 

 

 ──めのまえ が まっくら に なった。

 

 




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