【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
「龍脈の要石、だと?」
「ええ、そうです。ここ三日のオートスコアラー達の動きを探った所、各所の要石が破壊されていました」
緒川からの報告に、弦十郎が唸る。
狙いが龍脈の要石という事。そしてエルフナインの話から察するに、敵はレイラインを解放し、そのエネルギーを利用する気だと察した。
「そうなると、装者を手分けして配置しないといけないな……だが」
襲撃されるであろう要点。
出撃可能な装者。
それらを考慮した結果、弦十郎は深くため息を吐いた。
「──背に腹は変えられないか」
第十話「夢の途中」
「──ちっ」
緒川の運転する車の中に、翼の舌打ちが響く。
それを見咎めた奏が、苦言を漏らす。
「翼、いい加減切り替えろって」
「……」
「──翼」
「──けどよぉ奏。なんでオレが」
今回装者達は、龍脈の要石を守る為に襲撃予測ポイントに振り分けられた。
しかし、マリアが殺されかけた事を考慮し、装者は二人一組で行動するように指令が出された。
翼と奏。調とセレナ。切歌とクリス。戦力、相性の元このように編成されたのだが。
翼は、自分がこれから向かう場所を守らないといけない事に、苛立ちを覚えていた。
彼女が向かっているのは──翼自身の実家である。
翼は、父を、防人を、風鳴を嫌っている。
だから、弦十郎に任務を言い渡された時は反論した。
しかし、聞き入れて貰えず、こうしてブスッと不満顔を晒している。
「着きました」
車が止まり、三人は降りると階段を昇り、門を潜り抜け敷地内に入る。
奏たちは要石の無事を確認する。どうやらオートスコアラーはまだ現れていないようだ。
「ご苦労、慎次」
翼の身体が強張る。
その厳格な声を彼女は忘れることはなかった。
その固い表情を彼女は忘れることはなかった。
『もう忘れろ。奴は風鳴に相応しくなかったのだ』
──彼の言葉を彼女は絶対に忘れない。
風鳴八紘。戸籍上、翼の父であり──彼女と深い確執を持つ男である。
八紘は、緒川に労わりの言葉を送ると仕事の話を続ける。
「アーネンエルベの神秘学部門よりアルカノイズの報告書も上がっている……アカシア・クローンについては、何も分からないそうだが」
後で開示させよう。
緒川にそう伝え、次に八紘は奏を見る。
「天羽奏。君の活躍は昔からよく知っている」
「……どうも」
「今後もよろしく頼む」
それだけ伝えると、彼は転身し屋敷に入ろうとし。
「待てよ、クソ親父」
その前に翼に呼び止められた。
歩みを止めるが振り返らない八紘に、翼はイライラしながら毒を吐く。
「相変わらず変わっていねーみたいだな」
「そういうお前は随分と変わったな」
「──はっ。粗暴な口調は風鳴の名を汚すとでも言うつもりか?」
何処か挑発じみた彼女の言葉に、しかし八紘は──。
「いや、そのようなつもりはない」
「──」
「むしろ、お前が未だに【風鳴】を名乗っている事に驚いている──未練でもあるのか?」
「てめえ!」
彼の言葉に翼が激昂し、肩を掴んで無理矢理グイッと引っ張る。
それを見た八紘の護衛が銃を向け──。
「お前たちは動くな!」
八紘の一喝で動きを止め、しぶしぶ銃を下す。
それを見届けた八紘は振り向いて翼と顔を合わせる。
血走った目を向けている彼女と違い、落ち着き払っていた。
その態度が翼の神経を逆撫でし──感情が爆発する。
「オレがこの穢れた血に執着していると思っているのか!? オレがこの名を捨てないのは、貴様らに復讐する為だ!」
「……」
「貴様らが不要だと、恥だと罵った女の娘がいつか風鳴を滅ぼすためにあえて名乗っている! だからオレは──」
「まだ、母に縋るのか」
「っ……!」
憤る翼は、八紘の言葉に動きを止める。
「母を理由に復讐し──お前はどうする。その先はどうする」
「──うるせえ!!」
翼が勢いよく離れる。
まるで、八紘に──否、彼を通して見た己を見て怯えるように。
「オレは、お前らとは違う! 防人に執着するような奴らなんかとは! だからオレは!」
「翼落ち着け!」
錯乱し掛けている翼を、奏が背後から抱き留めて落ち着かせる。
奏は、八紘に厳しい視線を向けながら言った。
「今回は要石を守るために来た。親子喧嘩はまた今度にさせて貰う」
「──ああ、分かった」
「……?」
しかし奏は、今の彼の返答に首を傾げる。
翼の聞いていた通りの人間なら、ここで──。
「──っ」
思案する奏をよそに、気配に気づいた緒川が素早く銃を取り出し発砲。
しかし竜巻が銃弾を反らし、中から現れたのは──オートスコアラー、ファラ。
「あら、親子の語り合いに水を差すつもりは無かったのですが」
「てめえは、クリスを虐めた……!」
「レイアと申します。以後、お見知りおきを」
そう言って彼女は剣を構え、翼と奏は胸の歌を唄った。
「Croitzal ronzell gungnir zizzl」
「Imyuteus amenohabakiri tron」
ガングニールとアメノハバキリが戦場に顕現し、それぞれ槍と剣を携えてファラに突っ込む。
それに対して、ファラはテレポートジェムにてアルカノイズを召喚し、八紘たちに向かわせる。
「! させるか!」
それを見た奏がガングニールにてアルカノイズを迎撃。
翼はファラに斬り掛かりながら叫ぶ。
「邪魔だ! 引っ込んでいろ!」
「──うむ。努めを果たせ」
「──言われなくても!」
一瞬、翼は悲しそうな顔をするが──すぐに憎まれ口を叩き、目の前の相手に集中する。
「あたしはノイズを! 翼は──」
「分かっている! オレの相手は──コイツだ!」
──蒼ノ一閃。
アメノハバキリの一太刀が、ファラを襲うが──ファラは事も無げに斬り払う。
「──っ」
それに違和感を覚える翼だが、構わず蓮撃を浴びせていく。
しかしファラは微笑みを絶やさず、反対に翼の額に汗が滲む。
「翼、どうした!?」
「こいつ、なんか……!」
翼がアメノハバキリを叩き付けた瞬間──剣が砕け散った。
「──な」
「ソードブレイカー。我が哲学の牙は──」
そして、ファラの風の刃が──翼を蹂躙する。
「剣を打ち砕く」
「──かはっ」
血を吐いて翼は宙に投げ出され──纏っているギアが解除される。
それを見た奏が──叫んだ。
「翼あああああああ!!」
「あら? アナタ、自分を剣だとでも思っていたのかしら?」
予想以上にダメージの深い翼にファラが軽く驚き、しかし【それならば】と笑う。
「でも剣にしては──脆いわね」
翼が地面に投げされると同時に、ファラの斬撃が要石を砕く。
「しまった!」
「その子に伝えてください──目が覚めたら、また踊りましょう」
その言伝を残してファラは立ち去り──戦場には立ち尽くす槍と打ち砕かれた剣のみが残った。
◆
「……」
「……」
別の要石がある場所にて、調とセレナが周囲を警戒していた。
しかし、セレナは何処か上の空で──それも無理はないと調は思っていた。
「セレナ」
「──あ、ごめんなさい。ちゃんと守りますから」
「いや、そうじゃなくて」
自覚していたのだろう。セレナはすぐに謝るが、調が首を横に振る。
彼女は、セレナにしっかりしろと叱咤するつもりはない。むしろ、マリアの側に居て欲しいと思っているくらいだった。
「わたしも、切ちゃんが居なかった時は気が気じゃなかったから」
「調さん……」
「それに、もしセレナが無茶をして、マリアが目を覚ました時に何かあったら物凄く心配すると思う」
調の脳裏に、切歌とキリカの姿が浮かぶ。
彼女は、セレナの気持ちを痛いほど理解していた。
だからだろうか。柄にもなく気を使っているのは。
「──ありがとうございます、調さん。でも」
セレナはその気遣いを嬉しく思った。それでも、彼女はこの場に居ることを選ぶ。
「もし此処でわたしが挫けていたら、姉さんに怒られます──だから大丈夫です」
「……そ。だったらしっかりと任務を達成するよ」
「はいっ」
彼女の強さに、調はプイッと首を横に背けながらしかし尊敬を示し、セレナはそんな彼女に笑顔を向けた。
◆
「──ここは」
目を覚ました翼は、見慣れない、しかし何処か懐かしい天井に戸惑い──思い出す。
「そうだ、オレは──」
──父親の前で、敵に負けた。
「──っ!」
その事を自覚すると同時に、彼女の胸に形容し難い感情が浮かび上がった。
負けた。
よりにもよって自分が全て投げ出した場所で、見られたくない相手の前で負けた。
「──くそ!」
ダンッと拳を振り落とすとどうじに、房間が開き奏が入ってくる。
「起きたか翼」
「……奏」
「今、緒川さんとアルカノイズの報告書を見ていた所だ。お前も──」
「──なぁ、アイツは何か言っていたか?」
「……次の戦場に移り、努めを全うしろ、だとさ」
その言葉を、八紘の言葉を聞いた翼は──。
「──はっ。防人にも、剣にもなれない役立たずは去れってか」
「……翼」
「まぁ、それも仕方ないか。オレは元々生まれた事を望まれていない。それどころか恨んでやがる」
「翼」
「……結局、アイツの言っている事は正しかったんだ。オレが、母さんを殺して、アイツの人生を無茶苦茶に──」
「翼!」
自暴自棄になっている翼の肩を、奏が強く握って揺さぶる。
「お前を此処まで運んだのは──八紘さんだ!」
「──え?」
「それに周りを見てみろ! お前の昔の部屋を」
そう言われて見てみれば──かつて、幼い頃の翼が過ごしていた部屋がそのまま残っていた。物が散らかり、とてもトップアーティストの自室とは思えない。
「……はっ。オレが憎くて部屋に入りたくもないって事か」
「違う! この部屋は──」
──その時、奏の叫びを遮るようにして、外から轟音が響く。
何かが破壊された音。
二人はすぐ様ペンダントを握り締めて音の発生源へと向かう。
するとそこには、屋敷の一部を破壊し、剣を構えて己を誇示するかのように屋根に立つファラが居た。
「てめえ、何しにきやがった!」
「あら? 言伝は聞いていないようですね」
ならば、直接伝えるまで。
「アナタと再び踊りに来ました──一曲どうです?」
「──上等だ。今度は叩き斬ってやる!」
挑発に乗り、ギアを纏う翼。
そんな彼女を奏が呼び止める。
「待て翼! アイツの能力はお前と相性が悪い! ここはあたしが──」
「ここまで舐められてすっ込んでいられるか! 奏はそこで見ていろ!」
そう言って、翼は胸のギアを掴み。
「今度は最初から全力だ──力を貸せ光彦!」
しかし──アカシアの力は反応しなかった。
「──!? どうしてだ! 何故力が……!?」
「来ないなら、こちらから行かせて貰いますっ」
剣を構えたファラが突貫し、鋭い一太刀が振るわれる。それを翼は避け、剣をボード状にして空へと舞う。
(何故応えてくれない──いや、今はそれよりもアイツの攻撃から逃げて──)
「──上へ逃げるのは、愚作でしてよ」
そう言うと、ファラは竜巻を起こし、その中に翼を巻き込む。
当然その竜巻の中にもソードブレイカーの哲学の力は練り込まれており、翼のギアがズタズタにされ──彼女は地に堕ちていく。
「翼!」
「ちくしょう……ちくしょう!」
倒れた翼に奏が駆け寄ろうとし──それよりも前に駆け出し、翼を受け止める者がいた。
固い地面ではなく、無骨な、しかし温もりのある腕の中で翼は目を開け──視界に映った顔を見て、驚愕の表情を浮かべる。
「──親父?」
翼を受け止めたのは、八紘だった。慣れない運動をしたのか息は切れ、額に汗を浮かび上がらせ──酷く安心した顔をしていた。
「翼──お前は、何の為に装者になった?」
「……」
「憎き風鳴に、俺に、復讐する為か──違うだろう!」
八紘の叫びが、戦場に響き渡る。
「我が妻──お前の母さんの意志を、願いを、守る為じゃなかったのか!?」
「──いま、なんて」
翼は、己の耳を疑った。
「お前は、母さんの事を、存在を認めていなかったんじゃないのか──」
「──アイツの事を忘れた事はない。そして、お前の事も」
「──」
「翼は、忘れるな。力を求めるのではなく、歌で世界を救おうとした風鳴翼の事を。己の夢を」
呆然とする翼に奏が叫ぶ。
「翼! お前の部屋は確かに昔のままのように見える──ただ、埃ひとつ無かった!」
果たして、娘を疎ましく思う父親のする事だろうか。
血が繋がっていないからだと、呪われた血だと蔑む相手にする事だろうか。
「どっちも不器用過ぎるぞ──この似た者親子!」
その言葉を受け、翼が八紘を見ると──彼は静かに頷く。
それを見て翼は──静かに涙を流した。
確かに彼女は、八紘の事を恨んでいる。しかしそれと同時に──強く、確かに父と見ていた。……娘と見て欲しかった。
「──母さんの事を愛していたのか?」
「ああ──あの時は伝えられなくてすまなかった」
「──オレは、母さんの意志を継げていたのか?」
「ああ──少なくとも、このどうしようもない父親よりはな」
「オレは──夢を追っても良いのか?」
「ああ──恐るな。歌う事を。救う事を。お前は──夢の途中だろう」
八紘の、彼の──父の言葉を受けて、翼はゆっくりと彼の腕の中から抜け出し、改めてレイアに向き合って胸のギアを掴む。
「──だったら見ていてくれ」
「……」
「オレが──羽ばたくところを!」
「ああ──行ってこい、翼」
「──はい!」
ギアから、青き翼が広がり──奇跡の力が顕現する。
──アメノハバキリ・フリューゲル。
「──天に解き放つ翼で、敵を斬る!」
翼は、背中の翼を羽ばたかせて空を舞う。
「いくら奇跡の力を纏おうと、ソードブレイカーの前で剣は無力──」
先ほどと同じようにレイアは竜巻を起こし、翼へとぶつけ──。
「──何!?」
しかし、彼女の風は、翼の手に持った剣──否、明日へと飛ぶ両翼で掻き消された。
「何故私のソードブレイカーが効かない!? 剣なら──」
「確かに剣ならな! だが──これはオレの翼だ!」
翼が、ファラに向かって突っ込む。
「天に、明日に──夢に向かって羽ばたく為の翼! オレの翼は──そんじょそこらの力じゃあ折れやしねえぞ!!」
高速で飛来する翼に対し、ファラは剣を構えるが──既に勝負は決していた。
翼はもう──折れない。堕ちない。
「喰らえ!」
──絶翔・ブレイブバード。
青い炎を纏い、一羽の鳥となった翼の一撃が叩き込まれ──。
「──リー!」
しかし、その瞬間、横から飛び出したリーフィアがリーフブレードを掲げて──翼の絶翔を受け止め……吹き飛ばされる。
「──!?」
それに翼が驚き。
「……来てしまいましたか」
悲しそうにファラが呟き。
「……え?」
そんな自分に、自分で驚く。
「リー……」
大ダメージを受け動けないリーフィア。
何とか立ち上がろうとし──その背に魔剣が突き刺さる。
「──!!?」
「お前!」
現れた黒騎士に、翼と奏は警戒する。
しかし、黒騎士は彼女たちに構わず剣をグリグリと執拗にねじ込み、その度にリーフィアの悲鳴が響く。
「──もう、いいでしょう」
そんな黒騎士に、ファラが剣を向ける。
「目的は果たしました。去りますよ」
【……】
ファラのソードブレイカーは、黒騎士にも効くのか、黒騎士は素直に従った。
魔剣に刺さったリーフィアは、階段下に向けて振り抜いて飛ばし捨てる。
それを見たファラが顔を歪ませて──テレポートジェムを使い、黒騎士と共にその場を去った。
「──行ったか」
何処か釈然としない翼。
──敵が去り、戦場に嫌な風が吹いた。
◆
要石は守れなかったが、敵を退けた翼。
報告の為、奏たちと本部に戻る翼に、八紘が声を掛ける。
「翼」
「! ……親父」
「──これからは、盆と正月くらいには顔を出せ」
「──気が向いたらな」
何処までも不器用な二人。
そんな親子に奏は苦笑し──ひとつ、確執が埋まった。