【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第十一話「誰が為の気持ち」

「ウェル博士」

「おや、エルフナインくん」

 

 マリアが眠る病室にてバイタルチェックを行っていたウェルの元に、エルフナインが訪れた。

 エルフナインは、ウェルの治療によりすでに完治している。

 しかし──マリアはまだ目覚めない。

 肉体的にはウェルの献身により傷跡なく、後遺症も残らない程度には治療が終わっていた。

 にも関わらず目を覚まさないのは……。

 

「代わりますよ。休んでください」

「しかしですね」

「あまり無理すると調博士に蹴られてしまいますよ?」

「……それは勘弁して欲しいですね」

 

 仕方ない、とウェルは立ち上がり体を反らし──バキボキと人体から出てはいけない音を出す。

 この人どれだけ体を酷使しているのだろう、とエルフナインは思った。

 

「ではよろしくお願いしますね」

「はい」

 

 そう言ってウェルは立ち去ろうとし。

 

「──本当に、頼みますね?」

「……? はい」

 

 釘を刺すかのようにそう言い──彼は退室した。

 彼を見送ったエルフナインは、部屋に居るのが眠っているマリアと自分だけである事を確認すると、部屋に備えられた注射器を取り出し、そして。

 

「──」

 

 懐から取り出した試験管の中身を入れると──そのままマリアに突き刺し注入した。

 

 

 ◆

 

 

「むう。結局現れたのは翼さんたちの所だけだったデス……」

 

 食堂にて、セレナ、クリス、調、切歌は食事を摂っていた。

 そんななか、不満を零すように呟くのは切歌だった。

 彼女もクリスと共に要石を守る任務についていただのが、敵は現れず。

 意識を失っているマリア、謹慎中の響、そしてそれに付き添っているコマチの分まで頑張るつもりだったのだが、不完全燃焼で終わってしまった。

 

 それを見て咎めるのはクリスだった。

 

「駄目だよ切歌。無茶をしたら。アナタはまだ体が……」

「──大丈夫デスよ。最近は調子良いデスし、訓練だって絶好調デス」

「でも、いつもそうとは限らない」

 

 クリスは食い下がらず続ける。

 

「前回の任務だって、本当なら本部で待機していた方が良かった筈。幸い敵が現れなかったから──」

「──でも」

「切歌、焦らないで。アナタは──」

「──余計なお世話です!」

 

 切歌が机をバンっと叩いて立ち上がり叫ぶ。

 そしてキッとクリスを睨み付けて言い放った。

 

「そんなにアタシが邪魔デスか!? そんなにお荷物デスか!?」

「そんな事……! わたしは、ただ──」

「──アタシはキリカじゃないです」

「──っ!」

 

 クリスの言葉が詰まり、切歌は今のいままで抱いていた不満を言い放つ。

 

「アタシを通してあの子を見るのは辞めて欲しいデス!」

「違う、そんなつもりじゃ──」

「──失礼するデス!」

 

 言いたいだけ言うと、切歌は食堂を飛び出し。

 

「切ちゃん!」

 

 その後を調が追いかけていき。

 食堂に残されたセレナは気まずそうに、クリスは辛そうな顔をしていた。

 

 

 第十一話「誰が為の気持ち」

 

 

「おや、どうかなさいましたか?」

「ウェル博士」

「博士じゃありません。助手です……それで、何故クリスさんはそんなに落ち込んでいるので?」

「……実は」

 

 セレナは、一度クリスに確認を取ってからウェルに先ほど起きた事を話した。

 話を聞いていた彼は、時折頷きながらも最後まで聞き、そして。

 

「まぁ切歌くんの言う通りですね。クリスさんはキリカくんと彼女を同一視している」

「……」

 

 否定したいができず、ぐうの音も出ないクリス。

 相変わらず直球で物事を言うなぁとセレナが、ウェルをジトっとした目で見る中、ウェルは続ける。

 

「まぁ無理も無いでしょう。同じ遺伝子ですし」

「うわ、サイエンティスト……普段愛とか言っている癖に」

「だからこそ、ですよ。人の感情はそう単純ではありません。何せ目に見えず、しかし確かに存在している」

「……」

「それで、どうするのですか?」

「──え?」

 

 ウェルの言葉に、クリスが俯かせていた顔を上げる。

 

「このままという訳にはいかないでしょう。これからも顔を合わせる訳ですし。それにクリスさんも切歌くんもお互いに相手を好ましく思っている。だったらさっさと謝り合って仲直りしてください」

「──」

「それとも、彼女のことは嫌いですか? キリカくんの代わりでしかないのですか?」

「──そんなことない!」

 

 わたし、行ってきます。そう告げるとクリスは食堂を走り去り、切歌の後を追った。

 それを見送ったセレナは、ウェルに言う。

 

「相変わらず口は悪いですけど優しいですね」

「僕は自覚ないのですが……セレナさんが言うのならそうなのでしょうね」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味です。僕の口調に釣られて深読みし、人を悪者扱いして──悲しいです」

 

 そう言ってククク……と笑う。

 この笑い方も勘違いされる原因なんだよな、とセレナはため息を吐いた。

 

 ちなみに、ウェルとの交渉で深読みし自爆した者が過去におり、裏社会では割と恐れられていたりすウェル。

 ちなみにフロンティア事変の時にセレナが感じた悪寒は生理的なものであり、調も「あいつは女性に嫌われるのが得意」と言わしめるほど。

 ウェルは少し泣いた。セレナも謝った。

 

「クックックッ……少女たちには笑顔が一番似合いますからね」

「はぁ……」

 

 おそらくこの先も勘違いされていくんだろうな、とセレナは思った。

 

 

 ◆

 

 

「切ちゃん……」

「……」

 

 とある神社にて、切歌はベンチに座りいじけていた。

 彼女を追ってきた調は息を切らしながら彼女の隣に座る。

 

「分かっているデスよ、アタシが焦っているのは。それを見咎めてクリス先輩が心配しているのも」

「……」

「そして何より、あの子の代わりにって一番思っているのは──アタシ自身です」

 

 戦闘能力で言えば、切歌はキリカの足元にも及ばない。

 それだけキリカは強く調整されており──調の為に頑張っていたという事だ。

 ──命を賭けるくらいには。

 

「アタシでは、あの子のように調を、みんなを守れないデス。でも、それでも──」

「切ちゃん」

 

 彼女の名を呼び、そっと頬に触れる調。

 切歌は、彼女を見上げ、視線と視線が交じり合う。

 

「わたしが切ちゃんの事が好きなのはキリちゃんの代わりじゃなくて、切ちゃんだから。

 キリちゃんが居なくなって悲しんだのは、切ちゃんの代わりじゃなくてキリちゃんだったから」

「調……」

「代わりなんてなれないんだ。わたしは二人とも大好きだから。それぞれ個人として──だから」

 

 切ちゃんは切ちゃんらしく頑張ってほしい。

 そして、そのお手伝いをしたい。

 

「クリスも、切ちゃんと仲良くしたいんだ。キリちゃんとしてではなく」

「……」

「だから、ね? どうか許してあげて欲しい──そして改めて仲間として、友達として戦っていこう」

 

 調の言葉に、切歌は頷き──。

 

「──見つけたゾ」

 

 カーボンロッドが切歌たちに向かって放たれ、二人はその場を跳んで避ける。

 賽銭箱が破壊され、小銭がばら撒かれ──それを踏みしめながら現れたのは──ミカだった。

 

「お前は、あの時の……!」

「正直、残っているのがお前らなのは不満だけど──楽しませてもらうゾ!」

 

 カーボンロッドを両手に突っ込んで来るミカに対して、二人は胸の歌を唄う。

 

「Various shul shagana tron」

「Zeios igalima raizen tron」

 

 シュルシャガナとイガリマ──ザババの二振りの刃が戦場に舞い降りる。

 切歌は、イガリマの鎌を構えてミカの一撃を受け、しかし力負けし吹き飛ばされる。

 

「っ……!」

「貧弱だゾ!」

 

 追撃を試みるミカだが、行く手を遮るようにして調のドローンロボが立ち塞がる。

 

「こんなもの!」

 

 しかし、カーボンロッドで簡単に弾き飛ばすと、狙いを今度は調に向ける。

 持っていたカーボンロッドを投げつけ、それを調が避けながら頭部の装飾を向けてレーザーを放つ。

 

「弱いゾ!」

 

 ミカが手を掲げてレーザーを受け止め、炎を噴出し打ち消す。

 ニヤリとミカが笑みを浮かべ、その背後を切歌が取る。

 

「遅いゾ!」

「が!?」

「切ちゃん!」

 

 イガリマの鎌が当たる前に、ミカが切歌を殴り飛ばした。

 切歌の肺から空気が強制的に吐き出され、調が叫びながら空を飛び受け止める。

 

「隙だらけだゾ!」

 

 そんな二人に対してミカがカーボンロッドを二つ掌から射出し──切歌と調は撃ち落される。

 地面に落ち、倒れ伏せる二人。

 ダメージを受け苦痛に顔を歪める彼女たちに、ミカが言い放つ。

 

「さっさとアカシアの力を使えよ。じゃないと勝負にならないゾ」

 

 ミカの言う通り、アカシアの力を使わなければ彼女は倒せない。

 しかし、調と切歌には一つの懸念事項があった。

 ──二人は、他の装者に比べてアカシアとの思い出が少なく、弱い。

 だから何処か、アカシアの力を使えないのではないか、と思っていた。

 

「来ないなら、こっちから──」

 

 ミカが突撃しようとし──遠くから飛来した弾丸が、彼女を弾いた。

 

「ぎゃあ!?」

「今のは……」

 

 先ほどの赤い軌跡に見覚えがある切歌の元に通信が入る。

 

『切歌、調、無事!?』

「クリス先輩!」

『さっきはごめん。でも今は──』

「いえ……アタシも言い過ぎたデスよ──ごめんなさいクリス先輩」

 

 彼女の謝罪に、クリスは驚き、通信先で首を横に振る。

 

『ううん。わたしのお節介があなたを傷付けた。なら──』

「これからもお節介しても良いと思うよ」

 

 通信に割り込んで、調がクリスの言葉を遮る。

 

「完璧な人間なんて居ない。みんな助け合って生きている。わたしだってそう。あのバカ助手にはたくさん助けられている──だからこそ、わたしは月読調としてここまで生きてこれた」

「そう、デスね……アタシは焦っていたデス。あの子の代わりになろうと」

 

 でも。

 

「これからは、たくさん世話をかけるデス! そして今度はアタシがみんなを助けていくデス! その為にも──」

「わたしも、ダルいけど、切ちゃんが頑張るなら頑張る。でも、途中で良く息切れするから。その為に──」

 

 ──どうか、これからは一緒に歩いて行こう。支えながら、押しながら、引っ張りながら。

 そしてこれからたくさんの思い出を──。

 

『分かったっ。一緒に戦おう!』

 

 クリスが力強く彼女たちの想いを受け止め──シュルシャガナとイガリマから光が、力が溢れ出る。

 

「──コマチ」

「──ホント、お人好し」

 

 彼もまた、彼女たちの力になりたいと、呼び掛けに応えた。

 二人はそれぞれのギアに触れ──これから紡がれていく思い出を胸に力を解放する。

 

「変幻自在、銀色の力!」

「魂を抱いて進む、緑色の力!」

 

──シュルシャガナ・バリエーションシルバー。

──イガリマ・グリーンソウル。

 

 調のギアが銀色に変わり、しかしすぐに元の色に戻る。さらに彼女が座っていた球体浮遊物が解けて流動化し、さらにドローンロボもその姿を鳥や犬、変幻自在に姿を変える。

 硬く、一定の形を持たない鋼の力──それが、調が得た新たな力。

 

 切歌のギアもまた、姿を変えていた。

 手に持つ鎌には蔓が巻き付き補強され、身にまとったギアにも所々蔓が巻き付き、そして綺麗な花を咲かせていた。

 さらに、切歌が足をつけた場所から生命力が溢れ出し、草が生える。

 その草は切歌の身を癒し──常に最高の状態を保つ優しい力だった。

 

「感じるゾ! 強い力! 楽しませて貰うゾ!」

 

 ミカは空中に飛び上がり、たくさんのカーボンロッドを召喚させて調たちに向けて放つ。

 しかし──調の操る鋼が二人を覆うように展開され、カーボンロッドをすべて弾いた。

 

「なんだそれ!? 柔らかいのか硬いのかどっちなんだ!?」

「両方よ」

 

 グニャリと蠢き、ミカに巻き付く鋼。

 ミカは悲鳴を上げて地面に落ち──その瞬間、飛び出した植物の根がさらに縛り上げる。

 

「んな!?」

「地に触れていれば、相手が何処にいるのか分かるデス──だからこうして捕まえられるデス」

 

 切歌がググっと鎌を構え、調がレーザーを打つ構えをし、遠く離れた地でクリスがライフルを構える。

 

「くそ、逃げ──」

「させないデス! アタシが切り刻んで!」

「わたしが大穴開けて」

『最後に、蒸発させる』

 

 絶対に逃げられないミカに対し、三人はそれぞれ技を放った。

 

 

 ──草刃・Heンゼ流tお愚Reエテ流。

 ──禁巧β式・斬滅砲マシーナリー。

 ──BLAST BARN。

 

 新緑の刃が、レーザーが、炎の一撃がミカを包み込み──爆発した。

 

 

 ◆

 

 

「切歌、その……」

 

 戦いが終わり、クリスは改めて切歌と向き合っていた。

 しかし、こうして相対するとクリスはもじもじし始めて。

 

「切ちゃん、で良いデスよ」

「っ、それは……」

「アタシとも仲良くして欲しいデスよ──クリス先輩」

 

 そう言って手を差し伸べる彼女は、クリスの記憶の中にある彼女と同じで──同時に新たに刻まれた思い出だと強く思った。

 

「うん──もちろん」

 

 クリスが照れながらも手を握り締めると、テンションが上がった切歌がそのまま彼女に抱き着き、二人仲良く転んで倒れた。

 そんな二人を調は苦笑しながら見て──。

 

(それにしても)

 

 三人で撃った爆心地を見て、一人違和感を覚える。

 

(──本当に、倒したの?)

 

 一瞬だけ調の目には──ミカとは別の赤い影と黒い影が見えた。

 

 

 ◆

 

 

 ポタポタと、血が垂れる。

 黒騎士の手に持つ魔剣は赤く染められていた──ミカを助けるために割り込んだブースターの血によって。

 

「やはり、オートスコアラーを助けに入る瞬間が一番隙がありますね」

 

 そんな黒騎士を見ながら、独り言を呟く者が居た。

 

「普通に追い掛け回しても、巧みに逃げ、隠れ、そしてキャロルを守る。

 アカシア・クローンとキャロルの組み合わせには、僕にも苦労させられました」

 

 その影は思い出す。

 アカシア・クローンを斬るために襲ってもキャロルが邪魔をし、キャロルを斬ろうとしてもアカシア・クローンが邪魔をするその光景を。

 

 しかし、装者がオートスコアラーを破壊せんと追い詰めたその時──アカシア・クローンは主の静止の声を振り切って飛び出し、黒騎士の餌食となる。

 

「所詮は獣。知能がないから何度も同じ手にかかる」

 

 ──しかし、それは否。

 罠だと分かってでも、彼らはオートスコアラーを、家族を救いたいから飛び出してしまう。

 それを黒騎士は分かっておらず、影の口からは、彼らを罵倒する言葉が吐き出される。

 

 黒騎士が、剣についた血を、今しがた手に入れた炎で蒸発させる。

 そして、テレポートジェムでミカの後を追い。

 

 

 ◆

 

 

「──ふう。あともう一息です」

「何を言っているんです? まだまだこれからですよ?」

「あ、そうですね。ごめんなさいナスターシャ教授」

 

 エルフナインは、笑みを浮かべてナスターシャに謝り──響のギアの調整を行った。

 

 

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