【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第十五話「過去からの祝福」

「何が起きているのです!?」

 

 発令室のモニターを見て思わずナスターシャ教授が声を上げる。

 あり得るはずがなかった。アカシアはリオルの時の姿と記憶を失い、今はコマチとして響と共に戦っている。

 故に、マリアの前に──彼女がリッくん先輩と慕う勇者は居るのはおかしいのだ。

 加えて──。

 

「──光彦くん」

 

 弦十郎の目に映るのは──かつて助ける事ができず失ってしまった仲間。

 それどころか、最期には逆に救われ──彼に強い後悔を刻み込んだ。

 

 

 ──そして。

 

「──」

 

 ウェルは──何も語らず、モニターをジッと見つめていた。

 果たしてその心中にあるのは、愛娘を愚弄する敵への怒りか、それとももう二度と見ることのできない姿をもう一度見ることができた故の喜びか──。

 彼が何を想い、何を考えているのかは分からない。

 ただ──彼は、拳を強く握りしめて己の感情を抑え込んでいた。

 ウェルは藤尭の席へ行くとマイクを取り、通信先のマリア達に言う。

 

「マリアさん。奏さん。切歌くん。調さん。目の前にいる彼女たちは本物ではありません。チフォージュ・シャトーが造り出した幻想です。相手にせずそのまま──」

『──分かっている!』

 

 通信先の誰かが、悲鳴を上げるように叫ぶ。

 

『でも、こうして前にすると思ってしまうんだ──偽物でも、と』

 

 奏の心が軋む。

 

『手が届かなかった相手が目の前に居る。その事が凄く嬉しくて──凄く悲しい』

『調……』

 

 調の手が震え、切歌はそんな彼女に寄り添う事ができない。

 

『──そうだ。ミスターウェルの言う通りだ』

 

 そんななか、マリアは努めて力強く目の前の想い出を否定する。

 

『生きている筈がない。此処に居る筈がない──わたしの大好きだったその目でわたしを見ている筈がない』

 

 彼女ならば、とSONGのスタッフ達が思うが──ウェルは、ナスターシャは表情を歪ませる。

 通信先のマリアの声が──震える。

 

『でも──声が、眼差しが、魂が──どうしようもなく本物だと思ってしまう……!」

 

 ──マリアのバイタルが乱れ、波導の力が霧散する。

 奏たちが彼女の名を呼び、驚きの声を上げる。

 

『ねぇ、リッくん先輩なの? わたし、わたし──』

『マリア!』

 

 幼きマリアは、過去に囚われフラフラと彼に近づき──轟音が響いた。

 

 

 第十五話「過去からの祝福」

 

 

『──よくやった、ガングニールの少女!』

「てめえが攻撃しておいてよく言うぜ……!」

 

 リッくん先輩の波導弾から、マリアを救った奏は悪態を吐く。

 しかし、それも無理もない。

 先ほどの奇襲から違和感はあったが──。

 

『ピ、ピッカ!』

 

 空中に飛び出した光彦が「避けて!」と叫び──広範囲に渡って10万ボルトが放たれる。

 それを調が流動する鉄壁で避雷針とし、仲間を守る。

 光彦がそれを見てホッとしありがとうと笑顔を向ける。

 調は、やり辛そうに顔を歪め、キリカを抑えている切歌が困惑しきった声で叫んだ。

 

「さっきから何なんデスか!? 殺意バリバリで攻撃しながら、こちらを心配して──」

『あたしもしたくないのデスが!』

 

 切歌と同じイガリマを纏ったキリカが、心底悔しそうに叫ぶ。

 

「肉体だけは操られて、この想いは──アナタ達の想いそのものなのデス!」

 

 もし彼女たちが、マリア達の想いから作られた厳しい過去、悲しい過去、乗り越えるべき過去として立ち塞がったのなら、傷付きながらも、迷いながらも、胸を痛めながらでも、最後には勝ち、前に進める事ができたのかもしれない。

 

 しかし、彼女たち──この敵は違う。

 この想い出は、彼女たちが支えにしてここまで歩くことができた──温かい想い出。

 辛い時、苦しい時、挫けそうになった時に、背を押し、手を引き、笑顔で助けてくれた──最悪の敵だ。

 

『マリア、しっかりしろ! 俺は亡霊だ! だから──』

「でも……!」

 

 自分は偽物だから、と。気にしてはだめだと叫ぶ。

 だからこそ、マリアは泣きそうになる。

 マリアを気にして助言し、何とかしようと足掻いている。その足掻きがマリアを追い詰めてしまう。

 リッくん先輩の拳が床を砕き、破片がマリアを襲う。

 

『ピイ……!』

「光彦……」

 

 光彦は、無理矢理体を止めて攻撃しないように抗おうとする。

 その光景が痛ましくて、させているのが過去に囚われて戦えない自分のせいで、奏はクシャリと顔を顰める。

 抵抗むなしく電撃が放たれ、槍で受け止めた奏の手が痺れる。

 

「きゃっ!?」

『調!? 切歌!』

「分かっている、デス!」

 

 調を弾き飛ばし、さらに追撃するキリカ。

 そこで切歌にカバーするよう指示を出し、何とか止めてもらう。

 

『そうデス。今の動きは良かったデス! でも次は通用しないデスよ!』

「オリジナルのアタシより高性能ってどういう事デスか!?」

『博士の愛の賜物です!』

 

 得意げにウェルの事を話すその姿は、確かに調の記憶そのもので──彼女は俯く。

 

 状況は最悪だった。戦いたくない相手と戦わされて、装者たちはジリジリと追い詰められている。

 このままでは全滅もあり得る。

 

「──そうデス! 戦う相手を変えるデスよ!」

『おお! ナイスアイデアデスよあたし!』

 

 切歌の案に、キリカが褒めて名案だと光明を見出すが。

 

『いや──それは止めたほうがいい』

 

 リッくん先輩が、波導で未来を少し見て──首を横に振る。

 キリ切シスターズがなんでだと抗議の声を上げるが、彼は冷静に応える。

 

『大切な者が再び失われそうな時──おそらく彼女たちは止める。仲間を攻撃してでも』

『──っ』

 

 ない、と言い切れず、敵の流す嘘だと笑い飛ばす事もできなかった。

 この場に居る全員、失う怖さを知っている。

 それを、信頼されている仲間が手に掛け、もう一度見せられるとなると──体が勝手に動いてしまうだろう。

 キリカ達もリッくん先輩の言葉の意味を理解し、シュンッと落ち込む。

 

『──酷なことを言うが』

 

 リッくん先輩が構える。

 

『どうか、過去を踏み越えて欲しい──マリア』

「……っ」

 

 マリアは──応える事ができなかった。

 

 

 ◆

 

 

「どうにかして奏の所に行きたいが──」

「──させると思いますか?」

 

 ダウルダブラの音色が響き渡り、錬金術が行使される。

 炎、水、風、金の槍が装者たちに襲い掛かり、各々防ぎ、回避し、または拳で打ち砕く。

 そんななか、コマチとセレナに守られているキャロルが痛みに耐えながら訴える。

 

「やめろ、キャロル……こんな事をしてもエルフナインは──」

「──エルフナインは、アナタが殺したエルフナインは戻らない、ですか?」

 

 ノエルの言葉に──装者たちの動きが一瞬止まる。

 エルフナインとは、ノエルが騙っていた偽名だ。しかし今のニュアンスからすると、本当のエルフナインが居て……キャロルが手に掛けた、という事になる。

 

「キャロルさん、一体何が──」

「……オレと奴が対立し、戦闘になった際、間に割り込んだ奴がいた」

 

 それが──エルフナイン。

 エルフナインは、家族が殺しあう事が耐え切れず止めようとし命を落とした。

 その事を思い出し、キャロルが表情を歪める中。

 

「死んでいませんよ」

「なんだと?」

 

 ノエルの言葉に、キャロルが怪訝な表情を浮かべる。

 

「馬鹿な、確かにあの時」

「ええ。確かに肉体は死にましたが──記憶のインストールにより、彼女の魂だけは別の躯体に移送しています」

 

 キャロルの記憶と裏社会で出回っているクローン技術を用い、容れ物は作ることはできた。

 チフォージュ・シャトーの力で問題なく記憶は転写された。

 

「でも、それだけなんです」

 

 しかし何故かエルフナインは目覚めなかった。

 現在は生命維持装置に繋がれて、無理矢理生かされている状態だ。

 

「ノエル、お前──」

「──優しい彼女だけが死ぬなんて間違っている」

 

 ノエルが、SONGに潜入する際エルフナインを騙ったのは──もしかしたら、その名をできるだけ多くの人に知って欲しかったのかもしれない。

 

「だから、世界ごと終わらせて彼女に送るんだ──鎮魂歌を」

「そんな事をしても、エルフナインは──」

 

 キャロルの言葉は、途中ではばまれる。ダウルダブラの一撃によって。

 セレナとコマチが何とか防ぐが、その怒りは、怨念は──凄まじい力を孕んでいた。

 

「アナタがそれを言うのですか!」

「……っ」

「僕はパパを殺した世界を許さない。エルフナインを殺したアナタを許さない」

「──」

 

 彼の言葉を聞いたキャロルは、酷く悲しそうな顔をした。

 

 

 ◆

 

 

「──着いた!」

 

 戦いながらも何とか制御室にたどり着く奏たち。

 部屋の中央には制御装置に剣を突き立て沈黙している黒騎士の姿が。

 あれを引き離し万象目次録を止めなくてはならない。

 しかし──。

 

『そう容易く世界の崩壊は止められないか……!』

『そろそろイライラしてきたデス。勝手に体を操られるのは』

『ピカァ……』

 

 黒騎士を守るようにして、かの想い出たちが立ち塞がる。

 彼らを倒さなくては、黒騎士の元に辿り着けない。

 

「リッくん先輩……」

 

 特にマリアの戦意は無に等しく、彼を前にして言葉を紡ぐことしかできない。

 それは奏たちも同様で、構えたギアに力が入っておらず──。

 

『──何を躊躇っている!』

 

 そこにリッくん先輩の叱咤が入る。

 

『俺たちはもうお前たちの傍には居ない! 世界を守るために此処に来たのではないのか!? 胸の歌を信じて戦って来たんじゃないのか?』

「でもリッくん先輩、わたしアナタを敵として見て戦うことなんて──」

 

 マリアの頬に涙が流れる。

 それでも尚、彼の言葉は止まらない。

 

『マリア! お前は敵として立ち塞がり、救うことができる優しさを持っている筈だ!』

「──っ!」

 

 マリアの脳裏に、フロンティア事変の時の記憶が蘇る。

 

『俺は、お前のその優しさに尊敬したからこそ──後を託したんだ!』

「リッくん、せん……ぱい……」

『マリア、強くなくて良い。弱いままで良い。何故なら』

「──弱いから、強くなれる」

 

 彼女の言葉に、リッくん先輩は満足そうに笑い──その身を光が包む。

 

『マリア──最後の組手だ』

「──はい!」

 

 マリアも石を──強き意志を胸にその身を波導で包み込む。リッくん先輩もその身を成長……否、進化させる。

 ルカリオとなったリッくん先輩と黒きガングニールを纏った大人のマリアが相対する。

 

『行くぞ! 波導は──』

「──我にあり!」

 

 一直線に、真っすぐに、全力で突き進んだ二人は激突し──爆風が起きた。

 

 

『やれやれ。少し前のコマチは随分と熱血だったみたいデスね』

 

 マリアとリッくん先輩の激闘を見ながらキリカはそう言い、調たちを見る。

 

『あたしは、頑張れだとか立ち上がれだとか、言わないデスよ』

 

 何故なら。

 

『調が頑張っているのは良く知っているデスし、切歌が調の隣に立って支えているのも──見たら分かるデスよ』

 

 そして何より。

 

『はああああかああああせええええ!! 聞こえているデスよねえええ!?』

 

 でかい声で叫ぶが、応答は無かった。

 しかしキリカはそれでも構わないのか、彼に一言だけ、この言葉を送る。

 

『──二人を頼んだデスよ? もしサボったら調の代わりにケツを蹴りに行くですから!』

 

 ──ウェルしか知らない筈のやり取り。

 何処かで彼の想い出を取られていた? 

 否。

 キリカは、ウェル博士の最高傑作は何時だって調が大好きで、切歌を応援して、ウェルを尊敬している。

 それだけの事だった。

 

『──では、二人とも行くですよ?』

 

 キリカがイガリマを構える。

 

『ただのホムンクルスが、本物になれなかった偽物が──まさか敵の親玉を守る幹部役とは、よくここまで来れたものデス』

 

 無言で彼女の言葉を、一句一言聞き逃さないようにしていた二人もギアを構える。

 

『──あたしはキリカ! 身に纏うは魂を刈り取るザババの二振りの刃が一つ! イガリマ! この身は調博士とウェル博士に造られたホムンクルス! 普通の人とはちょっと違うですが、この胸にある想いは本物デス!』

 

 ──名前を聞いても? とキリカが問う。

 それに二人は応えた。

 

「──わたしは月読調。切ちゃんの親友で、うるさいけど役に立つ助手を持つ博士。身に纏うは奇跡の力を宿すザババの二振りの一つ、シュルシャガナ・バリエーションシルバー。……そして、もう一人のキリちゃんの自慢の親友」

「──アタシは暁切歌。調の親友で、助手になるべくウェル博士から色々と学んでいる最中で……アナタに助けられました──本当にありがとうデス。そしてアナタと同じで、でも少しだけ違うイガリマ・グリーンソウルを纏う新人装者でもあるデス!」

 

 名乗りを終えた三人は。

 

『行くですよ!』

『おうとも!』

 

 まるで再会を喜ぶかのように、ぶつかり合った。

 

 

 

『ピカピ……』

 

 光彦は戦いたくないと、必死に体を動かさないようにしていた。

 大好きな奏を傷つけたくないと、大好きな奏と戦いたくないと。

 誰かを守る為の戦いの時にはいの一番に駆け付けるのに、こういう時は駄々をこね、梃子でも動こうとしない。

 

「まったく……」

 

 仕方ないな、と奏は苦笑する。先ほどのリッくん先輩の叱咤で覚悟が決まったらしい。

 彼女は、光彦のこういう所が大好きだった。

 訓練よりも昼寝が好きで、ケチャップを使いすぎて怒られて、翼とよく喧嘩して弦十郎に怒られて、その後了子の元に行き慰められて──最後は、奏の所に戻って来る。

 

「光彦」

『……ピ?』

「──おいで」

 

 奏は、槍を捨てて両腕を広げる。

 それを見た光彦は、ダメだと、行っちゃだめだと拒否する。

 

『ピカチュウ、チャア!!』

「おいおい。お前はいつものように甘えてくれば良いんだ。あ、でもあざといのは無しだ」

『ピカ!』

 

 ふざけている場合じゃない! と光彦が叫ぶ。

 今の彼は奏たちを攻撃するように調整されている。精神との隔離により何とか保って来たがそれも限界だ。彼は、奏を傷つけたくない。

 

「光彦──もう大丈夫だ」

『……ピ?』

 

 奏は、あの日から言いたかった事を、あの日の光彦に言う。

 

「もう、あたしはお前の前で死なない。お前が一人で頑張らなくても良いように強くなった──だから、来い。受け止めてやるから」

『……ピ』

「お前には戦いは似合わないよ──存分に遊ぼうぜ!」

 

 その言葉に光彦は──。

 

『──ピカッ!』

 

 駆け出していた。しかし、防衛システムにより戦闘行為が入力され、自然とボルテッカーが発動させてしまう。

 黒いノイズを倒す力を持つ光彦の技。受ければただではすまない。

 光彦は、どうにか軌道を変えようとして──。

 

「──光彦!!」

 

 しかしその前に、彼の大好きな声が聞こえ。

 

「──来い!!」

『──ピカピッカ!!』

 

 そのまま、光彦は奏の胸に──飛び込んだ。

 

 

 ◆

 

 

 ネフィリムは信じられない、とその光景を見ていた。

 侵入者の想い出から最も大切な人を呼び出し、想い出を全て最大限本物に似せた。

 その結果、ネフィリムの狙い通り侵入者たちは攻撃ができず苦しんでいた。

 

「はぁあああ!!」

『ぐっ……!』

 

 マリアとインファイトしていたリッくん先輩は、波導で見切り見切られ──彼女の一撃を許してしまう。その後に続く連撃は対処するが──マリアの表情に苦悶は無い。

 

『──やっぱり二人の連携は素晴らしいデス』

 

 キリカもまた追い詰められていた。

 かつて自分はついぞできなかったが──調と切歌の連携攻撃がキリカに何もさせない。

 ガングニールも、神鏡獣も、アメノハバキリも、イチイバルも、イガリマも、シュルシュガナも、アガートラームも、全て対応される。

 それが──彼女は嬉しかった。

 

 ──やはりアカシア。忌々しい存在だとネフィリムは内心歯ぎしりする。

 

「──言ったろ光彦」

 

 奏は──。

 

「お前の事は絶対に受け止めるって」

 

 光彦のボルテッカーを受けても無傷だった。

 それどころか、彼のボルテッカーと彼女の胸の雷が共鳴を起こし──バチバチと新たな領域へと至ろうとしていた。

 奏は、万雷を放つ事しかできなかった。受け取った力を解放する事しかできなかった。

 だが、今の彼女は──万雷を受け止め、その身に纏わせてガングニールをリビルドさせていた。

 彼女の身に雷の鎧が形成され、奏もまた雷そのものになっていた。

 

 ──ガングニール・サンダーマグニフィセント。

 

 雷を受け止め、威風堂々と佇む奏を──光彦はきらきらした目で見ていた。

 

「もう、大丈夫だ」

 

 奏が雷を放ち──チフォージュ・シャトーの制御権を強引にぶん盗った。

 それにより光彦は体が自由に動くようになり、キリカも、リッくん先輩も戦いの手を止める。

 

「悪いな、覚悟決めてたのに」

『……いや、どのみち』

『──決着は着いていたデスよ』

 

 そう言って二人は──ボロボロの姿で膝を着く。

 過去を乗り越えた装者達は、迷わない彼女たちは、負ける未来を打ち壊し、今ここに立っている。

 

『──強くなったな、マリア』

「いいえ、まだ弱いままよ──だからこれからもっと強くなる」

 

 マリアの言葉に、リッくん先輩は安心したかのように笑った。

 

『いやー参ったデスね。二人には適わないデスよ』

「当然」

「だって、アタシたちは一蓮畜生デスからね!」

『それを言うなら一蓮托生デス』

「およよ! 学力で負けてるデス!」

「切ちゃん……」

 

 まるで戦いなどなかったかのように和気藹々と談笑する三人。

 その光景を見た一人の男は涙を流し──「良かったですね」と呟いた。

 

 戦闘が終わりひと段落した所で、マリアが改めてシャトーを止めるべく動く。

 

「万象黙示録を止めましょう。黒騎士は──」

 

 そう言って黒騎士を見て──目を見開いた。

 

「──っ」

『どうした、マリ──これは!』

 

 リッくん先輩も気付いたのか、彼女同様に目を見開く。

 奏が怪訝な顔をし尋ねる。

 

「どうしたんだ」

「──抜け殻よ」

「は?」

 

 マリアが叫ぶ。

 

「この黒騎士は抜け殻! 万象黙示録を発動させていた二つの聖遺物が無くなったという事は──行き場を失った力が暴走する!」

 

 その言葉の直後──シャトーが激しく揺れ動いた。

 奏は慌てて制御しようとするが、受け付けない。

 ハンドルがない状態で車を動かすようなものだ。このままでは──。

 

「どうするデスか? 逃げるデスか?」

「いや、多分周囲一帯が焦土と化すから……」

 

 此処で逃げても、意味がない。

 

「どうする? どうやって止めれば……」

「こうなったら、わたしの波導で……」

 

 マリアが力を行使しようと腕を上げた瞬間──横から伸びた腕が止める。

 

『俺がやる』

「──リッくん先輩」

『暴走を抑え込むだけの時間は残されている筈だ』

 

 そう言う彼の足は、薄っすらと透明になっていた。

 シャトーの暴走で防衛システムに障害が発生したのだろう。このまま時間が経てば彼は消える。

 

『あたしもアガートラームでお手伝いするデスよ!』

『ピカ、ピカチュウ!』

『ふむふむ。シャトーの電力の肩代わりしてくれるらしいデス!』

『助かる』

 

 勝手に話を進める彼らに、装者たちは止めようとして──彼らがこちらに向ける優しい目に何も言えなくなる。

 理解してしまった。ここでお別れだと。

 

 リッくん先輩が、マリアの頭を撫でる。

 

『マリア、君と会えて嬉しかった』

「ええ、わたしもよ」

 

 彼女はそっとリッくん先輩の頬に口づけし、彼は顔を赤く染めて咳払いした。

 

『デース!』

「わわ!?」

「キリちゃん!?」

 

 キリカが切歌と調を抱きしめて──想いを込めて一言だけ送った。

 

『──大好きですよ、二人とも!』

「──アタシもです!」

「──うん、わたしも」

 

 光彦は奏の肩に乗り、スリスリと体を摺り寄せる。

 

『チャア~』

「──ああ、あたしもだ」

 

 奏は優しい顔で光彦を撫でて──その温もりをしっかりと胸に刻み込んだ。

 

 別れを済ませた装者たちは、脱出する為に出口に向かう。 

 その前に、リッくん先輩がマリアを呼び止めた。

 

『マリア』

「……なに?」

『君は、この先も進化し続ける──胸の歌を、波導を、そして──愛を信じるんだ』

「──うん、分かった」

 

 マリアは頷いて──愛しき家族に最後に歌を送った。

 それは、かつて彼女が歌い、彼が好きだった歌。

 リッくん先輩はそれを歌い終わるまで聞き──ありがとう、と呟く。

 歌い終わると、マリアは仲間と共にこの場を去り──キラリと光る何かが彼女の頬から落ちた。

 

『──世界は、壊させない』

『──大好きな人たちの明日の為に!』

『──ピッカアアア!!』

 

 三つの魂からの叫び声が城に響き──シャトーは崩壊しながら、しかしゆっくりと地に落ちた。

 大切な人を、世界に送り届けるために。

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