【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第十六話「奇跡の完遂者」

「何故だ……」

 

 崩れ落ちていくシャトーを眺めながら、ノエルは呟く。

 

「何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ──何故だあああああ!!」

 

 しかしそれは次第に悲痛な叫びへと変わり──頭を掻き毟りながら、認められないと、信じたくないと、彼は睨み付けた。

 

「何故──シャトーから制御権を手放した、黒騎士!!!」

 

 万象黙示録の完遂を前に起きたトラブル。

 いや、トラブルというにはあまりにも酷い。

 狙ってやったとしか思えない。

 響たちも困惑している。マリアの報告で制御室に居ない事は知っていたが、一体何の為? 

 

 答えは、すぐに現れた。

 

「これは、テレポートジェムの反応?」

 

 ノエルの前に赤い光が現れそこから黒騎士が飛び出し──その手に持っているもの、いや人物を見て、その場にいた者たちは目を見開く。

 

 装者たちは見た事のある顔故に、ノエルとキャロルはその人物が誰かを知っているが故に。

 黒騎士は──エルフナインを掴んでいた。

 

「──エルフナイン!」

 

 ノエルが狼狽する。

 彼女は、ノエルだけが知っている場所で安置されているはずだ。それを何故黒騎士が……? 

 

「ぐ、あ……!」

「何をしている黒騎士!」

 

 突如エルフナインが呻き声を上げ、ノエルはそ黒騎士を止めようとし──体が動かない。

 見ると、黒騎士が手を翳して超能力で動きを止めていた。ノエルは力を込めるが、不可視の拘束を解く事ができない。

 やがて準備が終わったのかエルフナインも沈黙し──しかしすぐに口を開く。

 

「この体を使えば、テメエは何もできないだろう? ノエル」

「エルフナイン? 違う、お前は──ネフィリムか!」

 

 ニヤリとエルフナインが──ネフィリムが笑う。

 どうやらエルフナインの体を使って自分の意思を代弁させるつもりなようだった。

 

「元々、オレは世界を分解する事に興味は無い──復讐ができればそれで良いのさ」

 

 彼の視線の先には──響とコマチが居た。

 視界に入れる事でネフィリムの怒りが増大し、それにダインスレイフが共鳴し、重く、黒く、デカくしていく。

 

「前に言っていたなノエル」

 

 ──ならばこれからじっくりと味わうが良い。その人形に使われる屈辱を。

 

「そのまま返す──ゆっくりと味わえ、見下した相手に使われる屈辱を!」

 

 そう言って黒騎士は魔剣をノエルに突き刺した。

 それだけではない。

 濃厚な呪いがノエルに注ぎ込まれ、彼の自意識が闇に飲まれていく。

 

「が、が、があああああ!?!?」

「さらに──」

 

 そして黒騎士は、ネフィリムは、手に持ったエルフナインと──融合した。

 エルフナインを取り込んだ黒騎士は、鎧の隙間から黒炎を吐き出し、正気を失ったノエルとともにコマチを見る。

 

「さあ──奇跡を殺戮し尽くそうか」

 

 

 ◆

 

 

 闇の魔剣と堕ちた弦糸が響たちを襲う。

 どちらも触れたらダメージは免れない。

 しかし、それ以上に。

 

「ぐあ、ああああああああ!!」

 

 ノエルの悲鳴が、少女たちの胸を締め付ける。

 命題も関係無く、助けたい人は闇に呑み込まれ、自身すら操り人形。

 とても見ていられない。

 そしてそれはキャロルも同じで──。

 

「ノエル!」

 

 錬金術を行使し、ノエルを止める為の術を顕現させる。しかし、ダウルダブラを纏い、ダインスレイフの呪いでパワーを増しているノエルには効かない。

 

「ブイブイ!」

「キャロルさん無理しないでください。今は──」

 

 キャロルを守っていたコマチとセレナは後ろに下がらせようとし。

 

「そういえばノエルはキャロルを憎んでいたな──面白い」

「──っ! 不味い!」

 

 ノエルをクリスと響に任せ、自分は一人黒騎士と斬り結んでいた翼は、目の前の悪意から嫌な予感がし、そしてそれは的中する。

 妨害しようと剣を振るうも避けられ、ノエルとの接触を許してしまう。

 

「殺してしまえ憎いなら。──まぁ、昔は仲良かったみたいだが」

 

 それはそれで面白そうだ、とネフィリムは笑う。

 ネフィリムの言葉を聞いたノエルは雄叫びを上げて術を行使する。

 火、水、風、土を混ぜ込まれた破壊の鉄槌。

 セレナとコマチが障壁で防ぐが──破壊されて、キャロル共々吹き飛ばされる。

 

「きゃあああああ!」

「ブウウウウウウイ!?」

「ぐ……!」

 

 さらに、キャロルはその際にコマチ達と離れてしまい孤立してしまう。

 それを見た響達が駆けつけようとするが、黒騎士が行手を阻む。

 

「邪魔するなよ、良いところなんだから」

「この、外道が!」

 

 ノエルがさらに錬金術を使う。

 確実に殺せる為に、先ほどの術よりも魔力を込めて。

 

「逃げてくださいキャロルさん!」

「ブイ!」

 

 セレナとコマチが叫びながら駆けつけようとするが間に合わない。セレナの不可視のリボンも長さが足りない。

 

(万事休すか──)

 

 キャロルが己の死を悟り、術が放たれ──八つの盾が彼女を守った。

 

「ブー、スタァ」

「シャワ!」

「ダース!」

「フィー」

「ブゥラッ!」

「リー!」

「シア!」

「フィア!」

 

 力の奔流が吹き荒れる中、キャロルは見た──駆け付けたアカシア・クローン達が力を合わせて己の主人を守っているのを。

 ノエルの錬金術が止まり、それと同時にアカシア・クローンは息切れを起こしながら倒れそうになる。

 

「お前達!」

 

 キャロルがアカシア・クローン達の元へ駆け付け、それを隙と見たノエルが彼女を殺そうとするが。

 

「させません!」

「ブイ!」

 

 セレナとコマチが割って入り妨害をする。

 装者達が黒騎士とノエルを食い止めているのを確認したキャロルは、錬金術でアカシア・クローン達を治そうとする。

 しかし、それを本人達が止めた。

 

「何を言っている! まだこんなに衰弱しているのに、技を使ったから、お前達は……!」

 

 キャロルの脳裏に、イヴが逝った日のことが過ぎる。

 もう失いたくなかった。

 家族を目の前で失うのは──もうたくさんだった。

 

 そんな彼女をアカシア・クローン達は、覚悟を決めた顔で見つめていた。

 その為に──彼と、コマチと交渉したのだから。

 

 

 アカシア・クローン達は、キャロルを助けるためにコマチに力を分けて欲しいと頼み込んだ。

 ……図々しいのは理解している。アカシア・クローン達は、そのコンプレックスから手を差し伸ばしたコマチを否定し、拒絶し、傷付けた。

 断れても、罵倒されても良いと思っていた。

 それでも──彼女を助けたかった。自分たちの力で。

 しかし、自分たちだけではどうする事もできず、それどころかキャロルに逃がされた。

 悔しかった。悲しかった。

 だから、だからどうかと彼らは懇願し──。

 

「ブイ!」

 

 彼らの願いを、コマチは嬉しそうに引き受けた。アカシア・クローン達に対する恨み言を一言も口にする事なく。

 思わず彼らは聞いた。どうして、と。

 

「ブイ!」

 

 コマチは答える。大切な人を助けようとしている子達の力になれるのなら喜んで、と。

 それに元々俺は君たちとは戦いたくなくて、手を取り合って話をしたかった、と。

 だから力を、手を貸して欲しいと言われて嬉しかった。拒絶する理由なんてない、と。

 

 彼の言葉を聞いてアカシア・クローン達は──適わないな、と思った。

 

「フィー」

 

 エーフィが言う。絶対にキャロルを助ける、と。

 それに対してコマチも頷いた。約束する、と。君たちのご主人様を助けよう、と。

 

 

 こうして、コマチは彼ら全員に立ち上がるだけの体力を譲与し、自身はフラフラになる。

 それを何となく察していたウェルはため息を着きながら体力回復増進効果のある注射を取りに行っており、何も言わず、何も聞かず、コマチを回復させ──今に至る。

 

 

 

「フィー」

 

 エーフィは、この場に転移する力を感じ取り──その人物が誰かを理解すると、キャロルの背中を押す。

 

「おい、何を──」

 

 エーフィの行動に戸惑い──目の前に現れた彼女に、キャロルが目を見開く。

 転移してきたのは──今にも稼働停止し掛けているガリィだった。

 

「──ガリィ!」

「シャワ!」

「シア!」

 

 キャロルが駆け付け抱き起し、それにアカシア・クローン達が続く。

 ガリィは、ギギギと首を動かし、キャロルが生きているのを確認し、そしてアカシア・クローンを、特に仲の良かったシャワーズとグレイシアを見て──優しい笑みを浮かべた。

 

「マスター、ご健在で何より。シアちゃんもシャワちゃんも、皆も──今までごめんなさい。そして、マスターを守ってくれてありがとう」

 

 その言葉に、その表情にアカシア・クローン達は涙を流した。結局助ける事ができず、そして──。

 ガリィもまた、内心悔やんでいた。家族を苦しめた事に。そしてアカシア・クローン達に、覚悟を決めさせてしまった事に。

 お互いにこれからも生きて欲しいと思う。しかしそれ以上に、相手の気持ちを、想いを、覚悟を尊重させたかった。

 

「マスター、これを」

「これは──ガリィに渡した……!?」

 

 ガリィがキャロルに渡したのは──全オートスコアラーの想い出を込めた聖杯。

 

「崩れ落ちるシャトーのなか、他の三人に託されましてね──どうか、受け取ってくださいまし」

「そんな事をしたら、お前たちが──」

 

 受け取るのを拒絶──否、恐れる彼女に次はアカシア・クローン達がキャロルに言葉を贈る。

 

「フィー」

「──な!?」

 

 エーフィの言葉に、キャロルは絶句する。

 何故なら……。

 

「そんな事できるか! お前たちを──お前たちを使って賢者の石を作ることなど!」

 

 ──アカシア・クローンを作る際に、偶発的に発見されたある石の存在。

 それは、彼女の取引先相手が喉から手が出るほど求めていた物であり──アカシア・クローンを作る事ができた賢者の力。

 アカシア・クローン達は、その力を本来の使い方で使えと言っているのだ。

 しかし──。

 

「馬鹿者! そんな事をすればお前たちは──」

 

 ──存在自体が消え、二度と元には戻らない。

 すなわちソレは──彼らの死を意味する。

 

「マスター、酷ですけど受け入れてください。もう、彼らは限界なのです」

「──っ」

 

 アカシア・クローン達は、その身に宿る力を吸い取られると同時に呪いに蝕まれていた。

 だからこそ回復できず体を動かす事もできず、どんどん家族が傷付けられていく様を見せつけられ──大好きな人を攫われた。

 コマチの力で何とか動かせているが、それも直に消える。

 だったら、その前にできる事をしたい。そう思っていた。

 

「フィー……」

 

 キャロルにも、そして騙す形になってしまったコマチにも申し訳なく思う。

 二人とも、アカシア・クローン達がこの先生きていく事を願って、そして信じていた。

 それだけが心残りだが──それ以上に、苦しんでいる家族を……ノエルとエルフナインを救いたかった。

 

「──オレは」

 

 己の父を、イヴを──家族を失った日の事を。

 

「オレは、また家族を救えないのか……失うのか……!」

 

 心に巣食う闇が、彼女を蝕む。

 もう、嫌だった。大切なものを失うのは、独りになるのは──。

 悲しみに震えるキャロル──そんな彼女に、アカシア・クローン達が寄り添う。

 冷え切った絶望を、希望という温もりで溶かすように。

 

「フィー」

 

 それは違うよ、とエーフィが言った。

 

「ブゥラ」

 

 君は独りじゃない、とブラッキーがほほ笑む。

 

「フィア」

 

 ウチ達も、離れ離れは嫌だしね、とニンフィアが苦笑する。

 

「シア」

 

 犠牲になるんじゃないんだよキャロルちゃん、とグレイシアが優しく伝える。

 

「リー」

 

 某たち、常にわが主の心と永遠に、とリーフィアが誓いを口にする。

 

「ダース」

 

 心配せんでもずっとずっと一緒やで、とサンダースが笑い。

 

「シャワ」

 

 だからマスター、とシャワーズがキャロルの涙を拭い。

 

「ブー、スタァ!」

 

 オレ達を連れて行ってくれ、とブースターが願い。

 

 

 家族を取り戻すんだ、と彼女たちが叫んだ。

 

「──」

 

 それをキャロルは──目を閉じ、胸元にあるイヴの形見のペンダントを握り締める。

 そして思い出すのは──彼女たちとの記憶。

 

 

 

『お初にお目に掛かります、マスター』

『さあ、マスター。なんなりとご命令を♪』

『あたしもバリバリ手伝うゾ!』

『派手に計画遂行と行きましょう』

 

 ……初めは、大仰なポーズを取る姿を見て、自分の中にそういう想いがあったのかとへこんだ。性根の腐っているガリィを見てさらにへこんだ。

 ──今ではその想い出も、愛しく、懐かしかった。

 

『リー!』

『リーお姉さま、何度も言いますが私のソードブレイカーと貴方様では相性が』

『リー!』

『いや、そのような根性論を言われても──ああ、わかりました。だから泣かないでください……仕方ないですね』

 

 結局ファラが完封し、リーフィアが拗ね、オロオロと慰めるオートスコアラーの姿がそこにあった。

 それを見たキャロルが呆れてため息を吐き、それにリーフィアが駄々を捏ねてファラと共にどうしたものかと頭を悩やませた。

 

『水鏡さん。氷鏡さん。この世でかわいいのはだぁれ? もちろんガリィちゃんですよねー?』

『シャワ』

『シア』

『ガリィ以外ってどういう意味だコラ! 表出ろ!』

 

 ガリィとシャワーズ、グレイシアはよくケンカしていた。

 大抵そのきっかけは些細かつくだらないもので、キャロルは次第に叱りつける事はなかった。

 ただ、キャロルの事になると話が合い、仲のいい光景がよく見られた。

 

『ブー!』

『ブー太郎はかっこいいゾ! あたしの憧れだゾ!』

『スタァ』

『憧れは理解から最も遠い……? よくわかんないけど、あたし達はずっと一緒だゾ!』

 

 単純なミカは、まるでブースターの事を兄のように慕っていた。

 ブースターも不器用ながら彼女の事を可愛がり、しかしミカが何も考えず甘えるため、二人はいつも仲が良かった。

 模擬戦もよく行っており、その時間を二人は楽しんでいた。

 そして、シャトーの一部を壊してよくノエルに怒られ説教されていた。

 

『何か派手な事はないか』

『フィア!』

『おお! 妹よ、なかなか派手ではないか!』

『……』

『ダース……』

 

 派手好きなレイアとニンフィアは、よくレイアの妹とサンダースを振り回していた。

 振り回される二人はよくニンフィアにデコレーションし、それをレイアが派手だと褒めていた。

 そんな光景をエルフナインは面白そうに見ていた。

 

『わわ! エっちゃん放してください!』

『フィー』

『え? 睡眠ですか? それなら先ほど15分ほど取りました。レム睡眠に入る前の仮眠ですので、体はまだ動かす事が』

『フィ』

『ちょ、素直に話したら放してくれるって、ねえ、エっちゃんてば!』

 

 よく徹夜し作業に没頭するエルフナインを叱りつけ、ベッドに寝かせるのは何時だってエーフィだった。

 しっかり者の姉とどこか抜けている妹。

 傍から見たらそう見え、微笑ましい光景だった。

 

『──うん。思っていた通りの味ができました』

『ブラ』

『ありがとうございます。今日も喜んでくれますかね、キャロルもエルフナインも』

『ブラ、ブラ!』

『ふふふ……だと良いですね』

 

 ノエルは食事係を担当し、ブラッキーはそんな彼をよく手伝っていた。

 ブラッキーにはよく味見をして貰い、より良いものを家族に送ろうとしていた。

 ──しかし、ダインスレイフにより彼は変わってしまい……ブラッキーはその事を凄く後悔していた。

 あくタイプの彼のほうが呪いに侵されやすく、それを防いで己を犠牲にした為にノエルは──。

 

 

「──」

 

 キャロルは──覚悟を決めた。

 犠牲を踏み越えて、記憶を償却して前に進むのではなく。

 想い出を胸に抱えて、絶対に忘れずに明日へ歩いていく覚悟を。

 

 そんな彼女を見たガリィとアカシア・クローン達は安心した表情を浮かべ。

 

 ──ずっと一緒ですよ……我らの愛しき人。

 

 彼女と共に歩いて行けることを心の底から喜んだ。

 

 

 ◆

 

 

「──はぁ!!」

「──があああああ!!」

 

 ネフィリムのエルフナインの体の負荷を度外視した一撃と、ノエルの想いの焼却を無視した一撃が、装者たちを吹き飛ばす。

 

『きゃあああああ!?!?』

「ブイ!」

 

 コマチがみんな! と叫んで駆け付けようとして、ネフィリムとノエルが立ち塞がる。

 ネフィリムは愉しそうに嗤った。

 

「あの時の傷が癒えていないのか? それにしては動きが悪いが──好都合だ」

 

 どうやら、アカシア・クローン達に力を譲与した負荷が此処に来て響いているらしい。

 しかし、コマチはそのことをこれっぽちも後悔していない。

 誰かを助ける事ができるのなら、犠牲になっても──。

 

「お前と立花響には恨みがある。お前たちを殺さなければ、オレは明日に向かえない!」

「ブイ!」

 

 そんな明日なんて、とコマチが叫ぶ。 

 しかし、ネフィリムはそれを弱者の遠吠えと決めつけ──遠くで倒れている響を見て嗤う。

 

「そこで見ていろ立花響──またお前の前で、こいつを喰ってやる」

「っ! やめろおおおおおお!」

 

 響が叫ぶ中、ネフィリムはゆっくりと魔剣を掲げて。

 

「死ね、アカシア!」

 

 勢いよく振り下ろし──ガキンッと甲高い音が響いた。

 ネフィリムは、いやネフィリムだけではない。守られたコマチも、それを見ていた響も驚いていた。

 そこに立っていたのは──キャロルだった。

 

「キャ……ロ、ル……」

「させんぞ──こいつには、大きな借りがある」

 

 魔剣を受け止めたまま錬金術を行使し、キャロルはネフィリムとノエルを吹き飛ばす。

 そしてゆっくりとコマチに振り返った。

 

「──ありがとう」

「ブイ?」

「オレの言葉ではない──あいつらの最後の言葉だ」

「──!」

 

 その言葉にコマチは周りを、気配を探し──アカシア・クローン達がこの世界に居ない事に気が付いた。

 正確には、キャロルの持っている八つの石の欠片に宿っている。

 しかし、それはつまり──。

 

「──ブイ」

 

 なんで、とコマチが呟く。

 自分が力をあげたのは、犠牲になって貰うためではない。彼女のために、傍に居てもらう為だったのに、と。

 そんなコマチを見て、自分と同じ思いを抱いて、涙を流す彼を見て──キャロルは改めて受け継いだ命を、覚悟を、意志をこの場で見せる。

 

「勘違いするな──あいつらは死んでいない。ここに居る──オレの想いと共に!」

 

 キャロルは、イヴの形見のペンダントを取り出した。

 穢れを知らない真っ白なペンダント。彼女が愛し、尊敬し、命題と向き合うきっかけを与えた愛の結晶。

 そして、キャロルの事を愛し、これからも永遠に一緒だと言ってくれた未完成の賢者の石。

 それを束ねるのは、かつて父から教わり、忠義を尽くしてくれた家族から受け取った想いの籠った錬金術。

 

 その三つが合わさり──生まれるのは、白金の石。賢者の石。

 ラピスを、家族との絆を手にキャロルは──キャロル達は、奇跡を起こした。

 

 光に包まれ、彼女が纏うのはファウストローブ。

 しかしそれはノエルの纏うダウルダブラのファウストローブとは違っていた。

 想い出の四色。奇跡の八色。愛の白。覚悟の金。

 何度も道を迷い、踏み外し──しかし歩み直した彼女が至り、そしてこれからも進んでいくキャロルの新たな力。

 

 ラピス・フィロソフィカスのファウストローブ。

 それが、彼女の──絆の力。

 

「それですよ、マスター。わたし達が欲しかったのは──」

 

 ガリィは最期にキャロルを見届け──笑みを浮かべて稼働停止した。

 そしてネフィリムは、その輝きを目にし苦悶の声をあげる。

 

「なんだ、それは! なんだその姿は! この身の怒りを、闇を、呪いを分解するような、その力は……!」

 

 ──さあ、奏でよう。家族を呪い苦しめる闇への逆襲の歌を。

 ──さあ、歌おう。胸に刻まれた蓋世の歌を。

 

「何なのだ──一体お前は何者なんだ!」

 

 ネフィリムの怯えを含んだ叫びに、キャロルは凛として応える。

 破壊、破砕、全反転し、闇よ光を識れ──と。

 

「オレは──奇跡の完遂者だ!!」

 

 

 第十六話「奇跡の完遂者」

 

 

 光が──世界を識るための歌が、奏でられる。

 

 

 

 




次回、獣の奏者キャロル編最終話
第十八話「世界を識るための歌」
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