【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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歌には血が流れ、詩には魂が宿る


第二部 戦姫絶唱シンフォギア 翳り歩む日陰編
第一話「出会いと目覚め」


 ──かつて、わたしは『呪われているかも』と口癖のように言っていた。

 

 猫を助けようとしたら寸前の所で自分で逃げられ、その後学校に遅刻し先生に怒られて……自分から厄介事に首を突っ込んだとはいえ、凹んで呪われているかもと呟いていた。

 

 その度に誰かに慰められていた気がする。

 そんなわたしのことを大好きだと言ってくれた人が居た気がする。

 ……その時間が、何よりも大切だったような気がする。

 

 ──ならば今はどうだろうか? 

 そう問いかけられれば、わたしはこう答えるだろう。

 ……そう答える事しか、今のわたしにはできない。

 だって、わたしは全てを失っている。

 隣に居る筈の、居た筈の、そのナニカをわたしは失い、もう覚えていない。

 

()()()()()

 

 こう、答えるしかない。

 

 ──わたしは、確実に呪われている。

 

 

 第一話「出会いと目覚め」

 

 

 一年前、わたしはツヴァイウィングのライブに行った。

 その時のわたしは楽しんでいたのだと思う。思うと他人事なのは、それ以上の出来事で感情も記憶も吹き飛んだから……だと思う。

 

 わたしは、あの時のライブで生き残った事により、生きている事を否定された。

『人殺し』『金の亡者』『死ぬべき存在』……他にも様々な事を言われた。

 学校も、家も、外も、わたしをこの世界から排除しようと様々な【セイギ】の鉄槌がわたしを……わたしの周りを傷付けた。

 

 わたしは耐える事ができなかった。

 死にたかった。

 でも、「生きるのを諦めるな」という言葉と時折ピリピリと感じる胸の疼きが、最後の一線を超えさせないようにしていた。

 

 だからこそわたしは汚く、醜く、惨めでも生きなくてはならない。

 泥水をすすってでも。

 化け物と呼ばれてでも。

 

 そして、復讐するんだ──ノイズに。

 そのノイズを操るフィーネという女を殺す為に。

 

 わたしはその為に──母を、祖母を、日常を捨てた。

 

 

 ◆

 

 

「ん……」

 

 目が覚める。少し肌寒く感じ、外を見てみると雨が降っていた。

 それを見てわたしはもっと降れと、嫌なもの、わたしの感情、余計なもの、雑音を流して欲しいと思い……それは叶わない事だと口からため息が出る。

 簡単な食事を作り腹に入れ、その後は端末を見る。()()()から新たな情報が来ていないかチェックするが……特に無かった。いつも通り朝の挨拶と雑談がツラツラと書かれていて、わたしはそれに目を通す事なく端末のスイッチを消す。

 

(ノイズとフィーネの情報だけくれれば良いのに……)

 

 そう思い以前言ってみたが、聞き入れて貰う事は出来なかった。

 本当、人というのは自分勝手だ。

 ……本当に、そう思う。

 

「……」

 

 外出用の灰色のパーカーに着替え、外に出る。

 やる事が無いから、適当に買い出しに行っておこう。

 傘をさして雨になれた道路を歩く。しばらくすると人の気配がし、雑音が聞こえ始める。

 

「おかあさん。今日のご飯何?」

 

「え? それマジ? やば、ウケる」

 

「はい、申し訳ありません。すぐに向かいます。はい……はいっ」

 

「ブイ〜……ブイブイブイ!」

 

 日常の声が、なんて事無い会話が、わたしへの怨嗟の声に聞こえる。

 

 あの小さな子の声がわたしへと泣き叫ぶ声へと変わる。

 

 学生の言葉が、学校のかつて友達だった子の悪意ある言葉へと変わる。

 

 サラリーマンの謝罪の声が、わたしへの恨みの声へと変わる。

 

 実際は違うのだろう。あの人たちはわたしに意識を向けていない。ただ自分たちの日常に居るだけ。おかしいのはわたしだけだ。

 でも、どうしても聞こえないはずの声が、言葉が……悪意が胸の奥から聞こえてくる。

 苦しい。

 辛い。

 頭がおかしくなりそうだ。

 

 ──生きるのを諦めるな! 

 

 死の淵に立ち、目を開けた時、あの言葉はわたしを支える祝福の言葉だった。

 

 でも、こうして地獄にいる今、あの言葉は呪いへと変わった。

 

 あの言葉で己の命を捨てる事をせず、だからこそわたしを苦しみ続ける。

 だからわたしは恨む。

 わたしだけ殺さなかったノイズを。

 地獄に突き落としたフィーネなる者を。

 

「……っ」

 

 ギリっと奥歯を噛み締める。怒りが湧き上がり、イライラする。

 やっぱり外に出るんじゃなかった。余計な事を考えてしまう。

 さっさと買い物を済まして家に帰ろうと歩を早め──。

 

 ノイズの出現を知らせる警報が鳴った。

 

「こ、これは!?」

「もしかして、ノイズ!?」

「ママー! こわいよー!」

 

 警報を聞いた人たちは恐怖の声を上げて、速やかにシェルターに向かう。

 日常が崩れ非日常が、みんなの平穏を犯し尽くす。

 それは、わたしにとって許し難い事で。

 だからこそわたしは人の波に逆らって突き進む。

 

「っ! ちょっとあなた!」

 

 途中、大人の女性がすれ違い様にわたしの腕を掴んだ。

 ふんわりと香ばしく美味しい匂いがした。何か焼き物の飲食店で働いているのだろうか。

 ぼんやりそんな事を考え、しかしすぐに無駄な考えを振り払い、掴まれている腕も振り払う。

 

「邪魔しないで」

「何言ってんだい! そっちはノイズが出ているんだよ!?」

 

 危ないから一緒に逃げよう! 

 そんな言葉を聞き流しながら、わたしは気にせず歩き続ける。

 

 声が聞こえなくなり、人も居なくなり、目の前にはノイズが。

 胸に怒りが燃え上がる。歌が浮かび上がる。──こいつらを壊す為の力が湧き上がる……! 

 

「Balwisyall nescell gungnir tron」

 

 変わる。

 心が、胸が、体が熱くなる。

 わたしが──化け物になる。

 着ていた服が消え、ノイズを壊すための拳と鎧が現れる。

 

 開かれた拳をグッと握りしめ、眼前の敵を睨み付ける。

 

「──行くぞ」

 

 バチリと踏み締めた脚に電気が走り、雷のように駆ける。

 そして握り締めた拳に稲妻が迸り、そのままノイズに叩き付ける。すると拳が突き刺さったノイズはブルブルと震えて痛みに苦しんでいるかのよう。

 ああ、そうだ。もっと。もっと苦しめ……! 

 わたしが感じた苦しみはこんなもんじゃない……! 

 ズシャッと腕を引き抜き、灰と電気がチリチリと散る中、ギロリと次の獲物を睨み付ける。

 

「一匹も……残さない!」

 

 一歩踏み締める度に「バチン」とスパーク音が響き、わたしの拳が次々とノイズを壊していく。

 足りない。

 足りない……。

 足りない……! 

 ──足りない! 

 

 イライラする。胸の奥から次々と不快な感情が湧き出してくる。

 殺したい。壊したい気持ちがどんどん溢れて、その感情に従って殺し、壊し、この世から消し去っているのに、イライラが止まらない! 

 

「──あああああああ!!」

 

 その燻りを晴らすために、体の中に渦巻く力を高め、解放していく。

 バチバチと体中から電気が溢れ出し、それを目の前のノイズ達に放つ。

 

──我流・雷塵翔來

 

 ノイズがまるで避雷針かのように、わたしが放出した電気が直撃していく。

 ただ、これをやると確かにたくさんのノイズを倒せて多少胸の奥がスッキリするが、同時に気怠さが来る。

 だからわたしはノイズをすべて一掃できるタイミングでしか使わないようにしている。

 ……協力者もグチグチと嫌味を言ってくるし。

 

 ──だけど、今日はミスをしてしまったようだ。

 

 

 

「──ブウウウウウウウイ!?」

「っ!?」

 

 鳴き声……? 違う、悲鳴だ! 

 へんてこですぐに認識できなかったけど、声のした方を見れば、ノイズが路地裏へと走り去っていく姿が見えた。

 わたしから逃げた、のではない。

 悲鳴の主を追いかけたんだ。

 このままではノイズに殺されてしまう。

 助け──。

 

『人殺し』『金の亡者』『死ぬべき存在』

 

「──……っ」

 

 動かしかけた脚が止まる。

 あの時の事を思い出し、手を差し伸べても……意味がないと思ってしまう。

 そうだ。わたしだって、助けて貰えなかったんだ。

 だから、わたしが助けなくても……。

 それに、化け物のわたしが助けたってどうせ──。

 

「ブーーーーイ!! ブイブーーーイ!!」

「──ああ、もう!」

 

 ああ、そうだ。わたしは世界によって独りにさせられた。

 ならば初めから独りで居たい。もう誰にも頼らない。心を開かない。期待しない。

 

 だからこそ、わたしは悲鳴の元に向かう。

 わたしはノイズが憎い。だから壊す。

 その過程で誰かが助かろうが、どうでもいい。わたしには関係ない。

 人のためはなく、わたしのためにこの拳を握り締める! 

 

 路地裏に入り、駆ける。

 幸いにもノイズにはすぐに追いついた。耳に響く、妙に聞き慣れた悲鳴も聞こえる。

 どうやらしぶとく生き残っているらしい。……わたしには関係ないけど。

 

「はっ!」

 

 無防備に背中を晒しているノイズに拳を叩き込む。

 灰になって消え失せ、わたしは他のノイズにも拳を繰り出した。ジッと何か(恐らく悲鳴を上げていた誰か)を見つめて動かなかったので、すぐに全滅させる事ができた。

 やっぱり倒しても心は晴れない。

 でも、誰かを救えたという気持ちが──。

 そこまで考えて頭を振る。

 余計な事を考えるな。期待をするな。

 わたしは化け物だ。独りなんだ。

 

「……」

 

 ノイズはもう居ない。わたしが此処から立ち去っても、もう誰かが死ぬ事はない。

 だからわたしは独り。

 八つ当たりが終わったのなら、さっさと人から離れるべきだ。

 

 そうしてわたしはいつものようにその場を立ち去ろうとして──。

 

「──ブイ!」

 

 何かがわたしの肩に乗っかった。

 ズッシリと確かな重さを感じた。

 だけど、それ以上に──。

 

 

 温かった。

 

「ブイブイ、ブーイ!」

 

 耳元で聞こえるその声は、先ほどノイズに襲われていた時に聞こえていた声だ。

 しかしこうして間近で聞いて、初めてわたしは違和感を感じた。

 明らかに動物の鳴き声なのに、わたしは()として認識している。

 顔を横に向け、わたしの肩に乗っている()()()を見る。

 

「ブイ!」

 

 リス……だろうか。いや、それにしては大きいし、鳴き声も妙だ。

 つぶらな瞳に茶色のふわふわとした毛並み。首元のクリーム色の毛が風に揺れる。

 

「……ブイ?」

 

 どうしたの? と言わんばかりに首を傾げ、それでもわたしとその生物の視線は交わったままだった。

 ……違う。わたしがこの子の瞳から目を離せないだけなんだ。

 だって。

 だって……。

 だって……! 

 

 だってこの目は、かつてわたしが失ったものと同じだったからだ。

 

 

 この日、わたし──立花響と。

 能天気で、図々しくて、馴れ馴れしい毛玉の未知の生物と初めて出会った。

 




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