【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
「ブイブイ……」
「響、本当に大丈夫? わたしたちも一緒に」
「ううん、大丈夫。お父さんも居るから」
日本の港に止まっているSONG本部。
どうやらメンテナンスを行っているようで、スタッフが慌ただしく動いている。
それを尻目に、コマチと未来は心配そうな顔で響を見ていた。
現在の響は、たくさんの荷物を持っており、これから何処かに出掛けるようで……その行き先を知っているコマチと未来はハラハラと落ち着きがない。
そんな過保護な二人に響は呆れつつも嬉しく思った。
しかし、今の彼女は──もう大丈夫だ。へいき、へっちゃらだ。
もし故郷で過去と同じ目に遭っても、だとしてもと自分の意志を貫き通し、逃げる事は無いだろう。
「だから、待ってて。わたしを信じて」
そして、ここまで強くなれたのは──傍に居てくれた目の前の陽だまりと日陰、そして仲間たちのおかげだ。
彼女の真っすぐな目を見た未来とコマチは、物凄く心配だが──信じて送り出すことにした。
「──いってらっしゃい」
「ブイ」
「行ってきます」
二人に見送られながら響は走って洸との合流場所まで駆けて行った。
──本当に強くなったなぁとコマチ達は思った。
「おや、どうしたんですお二人とも。こんな所で」
「ブイ!」
「あ、ウェル博士」
「博士ではありません、助手です……ふむ、どうやら響くんのお見送りのようですね」
愛されていますねぇ、彼女。とウェルが笑いながら言うと未来は顔を赤くさせて照れ、コマチはえっへんと誇らしげに胸を張る。
未来の反応はともかく、コマチの反応は理解ができず内心首を傾げるウェル。あの時とはまるで別人だな、と感慨深げに思った。
「……里帰りですか」
遠くなった響を見てウェルが目を細める。
彼女の過去は、SONGの人間なら全員知っているし、眉を顰めるものだ。それはウェルも同様で、人の汚い所を調たちの代わりに見てきた分敏感になっている。
人は、時には残酷に手を取り合っていた隣人を平気で殺す。
だから、響には無理をして欲しくないのが本音だが──この二人がこうして見送っているという事は、彼が介入しても変わらないのだろう。その事を察したウェルはそれ以上追求せず、逆に彼の格好を見た未来が疑問に思い尋ねた。
「そういうウェル博士もお出掛けですか?」
「ええ、そうですね。あの赤ゴリラと忍んでないニンジャに──」
──おいウェル。いい加減有休を消化してくれ。働きすぎられても困るんだが。
──少しはご自愛してください。さもないと強制的に休ませますよ。
「──っと、自分たちのほうが休んでいないのにこの船から追い出してくれやがりました。まったく……」
「仲良いんですねお二人と」
「やめてください、鳥肌が立ちます」
ちなみに。
弦十郎、緒川、友里、藤尭、ナスターシャ、ウェル、セレナは飲みに行く仲である。
十分に仲が良かった。
そして、だいたい酔いつぶれた人間を介抱するのはペースを守る友里、超人の弦十郎、緒川、そしてあまり飲まないウェルである。特にウェルはセレナの介抱をよく任されており、彼女のことを女性として見ていない。おんぶした状態で頭からぶっかけられればそうもなる。
「ブイブイ」
コマチが何処かに行くの? と尋ねるとウェルは頷いて答えた。
「まずは行きつけのデパートに行ってお菓子を買って、その後は花屋ですね」
「花屋? ……あ」
その言葉でウェルのこれからの予定を察したのだろう。未来が声を上げ、ウェルは気づかれたかと息を吐く。
「すみません、無神経でした」
「いえいえ、気にしないでください。別に隠すような事ではないのに、変な意地を張ったこちらが悪いのです」
ウェルは滅多なことでは休暇を取らないが、毎週一日は何処かへ出掛ける。
そしてその度に行きつけのデパートで彼の好みとは少し外れた……しかし大好きになったお菓子を買い、花屋で綺麗な花を買い──愛娘の名が彫られた墓前で手を合わせる。
緒川と弦十郎から教わったこの国の亡くなった人への……愛していた人への弔い方を彼は続けている。
欠かさず、急な任務があった際には終わったらすぐに向かう程度には。
「ブイ」
流石の愛の人、とコマチが優しい目で見ると、ウェルはンベッと舌を出して言った。
「マリアさんみたいな事言わないでください」
「ははは。確かにマリアさんなら言いそうですね」
しかも真っすぐ純粋に尊敬の念を持って言って来るのだから、ウェルからしたら背中が痒くなって仕方ない。
「では僕はこれにて」
「はい、行ってらっしゃい」
「ブイ!」
二人に見送られてウェルは立ち去り──少しして、調と切歌が走って来た。
「あの助手、また何も言わず……!」
「デース。お見送りくらいさせて欲しいデス……」
どうやら、ウェルに行ってらっしゃいと言うために急いで来たらしいが今回もまた間に合わなかったらしい。
調の反応を見るに、ウェルが何かしらの工作を行っているみたいだ。
そんな二人に未来とコマチは笑った。
◆
「暑いな……」
「だらしない……」
「響は平気なのか……?」
「鍛えているし、季節考えずベタベタしてくるのが居るから」
響の脳裏にコマチが現れる。
あついー、とけるーと言いながら引っ付いてプールに行かせようとする淫獣。
でもなんだかんだ、我慢していた響を気遣っていたり。
その事を思い出し、響は自然と笑みが零れた。
「……仲が良いんだな」
「うん」
何せ、響をこの町で救ったのだから。
だから、響も頑張ろうと思っている。父と共に。
「──あら、立花さん」
そんな彼女たちに、声を掛ける者がいた。
洸も響も聞き覚えのある声だった。かつて町内会で交流のあった人物であり──ライブ事件で生き残った響が非難され始めると、今までの交流が無かったかのように、冷たい態度を取り迫害に加わった女性だ。
二人は体を固くさせて、しかし努めて冷静に挨拶を返す。
すると、その女性は笑顔を浮かべて近寄ってきた。
「立花さんどこ行っていたんですか、長い間姿を見せないで」
「え、いや、あの」
「みんな心配してたんですよ? それに、立花さんの家の奥さんも大変で──」
──なんだ、それは。
──なんだ、その言葉は。
────なんだ、その態度は。
響は、目の前の女性に、存在そのものに吐き気を催した。
過去と向き合い、父に八つ当たりし後悔した響は、自分を責める彼女を心配する者の存在を知っている響は──間違えない。
ゆえに思う。
過去を無かったかのように接してくる。
同じ人間だと思いたくなかった。
「──っ」
目つきを鋭くさせた響が叫ぼうとした瞬間、洸が力強く彼女を止め、女性と向き合った。
「はい、私も十分承知しています。これから向き合って来ようかと」
「あら、いいわね。仲直りしたら家に来なさい。お祝いしましょう」
「いえ、そんなご迷惑を」
「良いってことよ。立花さんとうちの仲なんですから」
「……では、失礼します」
背後から約束よー! と声を掛けられるが、二人は振り返る事は無かった。
しばらくして、響が詰め寄る。
「お父さん、なんで……!」
「あそこで詰め寄っても仕方ないさ──それに、俺たちが関係を直したいのは彼女じゃないだろう?」
「……」
確かにあそこで響が感情のままに叫んでも、事態は好転せずそれどころか悪化していただろう。
洸はそれを大人の対応で流した。
納得していない響だったが、荒れる感情を押し込んで洸の思いを尊重した。
それを洸は嬉しく思い、響の頭を優しく撫で付ける。
しかし、彼女たちにすり寄ってくるのは先ほどの女性だけではなかった。
老若男女問わず、かつて響たちを迫害した者、距離を置いた者、遠巻きに見ているだけだった者、見捨てた者、たくさんの人たちが響たちに「おかえり」と言い、笑顔で出迎える。
響は、それが溜まらなく気持ちが悪かった。
ここまでくると、流石に二人も事態の異様さに気付き始める。
「響……」
「いざとなったらSONGの皆を頼る」
彼女の言葉に、洸は頷いた。
本来なら、家でゆっくりと話し合いたい所だったが──そうも言っていられないようだ。
二人は足早に家に向かい──玄関先に立つ二人の姿を見て、嫌でも体が緊張する。
響にとっては母と祖母。洸にとっては妻と義母。
二人が逃げ出して、置いて行ってしまった家族。
「……」
まず、洸が前に出て──手を差し伸ばした。
それに、響の母と祖母が戸惑いの表情を見せる。
手紙で、電話で話は聞いていた。彼がやり直したいと。
しかし彼女たちは信じ切ることができずにいた──それでも、こうして会って話したいとも、言いたいこともあると思っていた。
だから、一番最初に逃げ出した彼が手を差し伸べた事に、驚いた。
洸は語る。
「信用できないのも分かっている。勝手なことを言っている事も分かっている。──許せない事も分かっている」
それでも、と彼は一歩前に出る。
「俺にチャンスをくれ。今すぐじゃなくても良い。本当に嫌なら、二度と顔を見せない──ただ」
洸は、響を見る。
「もし、響を許せないと思っているなら──どうかコイツだけは許してほしい!」
「お父さん……!?」
彼が此処に来た本当の理由は──響を許して貰うため。
確かに家族みんなと手を取り合って元に戻りたい。そうなれば最高だ。
ただ──その前に、娘だけは温かい場所に戻ってほしかった。
キャロルから全てを聞いていた。自分が居なくなった後のこと。コマチに助けられながら、それでも辛いことがあって、挫けそうになって──そして今があると。
「響が逃げ出したのも、家族がバラバラになったのも俺が不甲斐ないせいだ! 響は暗闇の中もがき続けていただけなんだ! ──だから、どうか……どうか!」
洸の訴えは──響の母によって止められた。
「早とちりしないで……響のことを恨んでなんかいない」
「──お母さん?」
母の言葉に、響が目を見開く。
手紙でやり取りをしていた。
温かい言葉を知っていたつもりだった。
それでも、不安だった。
だけど──。
「娘を恨むなんて、そんな母親失格な事はしたくありません」
彼女はいつだって響のことを案じていた。
「いつもいつも心配で、コマチくんが傍に居るって思ってもやっぱりね……。
大切な娘だから。掛け替えのない娘だから──」
母が、響の傍に歩み寄り──ギュッと抱きしめる。
「あ──」
「こうやって、ずっと抱き締めたかった──ようやく、届いた」
「──お、かあ……さん」
響の感情が、涙が──溢れる。
ずっとずっと言いたかった言葉が──溢れ出る。
「お、かあさん……ごめんなさい……わたし……わたし──わたし!!」
「馬鹿ねこの子ったら」
震える声で叫ぶ響を、より一層強く抱き締める。
そして──彼女もまた、震える声で、涙を流しながら愛する娘に言った。
「──こういう時は、ただいまでしょう……!」
「──お母さん!!」
──何年ぶりだろうか。母の腕の中で泣いたのは。
──何年ぶりだろうか。母の温もりを感じたのは。
──何年ぶりだろうか。母に想いを告げたのは。
二人は抱き締め合い、涙を流し続けた。今までの空白の時間を埋めるように。
「──敵わないなぁ」
逃げ出した自分とは違い、娘を待ち続け受け止めた妻に、洸は思わず呟いた。
「洸さん」
「お義母さん……」
「正直、私もあの子も貴方のことは信じていません」
「……」
仕方のないことだ、と彼は思う。
それだけの事をしてしまったのだから。
──しかし。
「だから、これから見せてください」
「え……?」
「貴方があの子の夫として……響の父親としてやり直していけるのかどうかを」
──認めてはいない。しかし、彼女たちもまた歩み寄ってくれた。
彼女たちもまた、元の家族に戻りたいと思ってくれていた。
そう思ってくれたのは、おそらく──響が勇気を振り絞って手を繋いでくれたから。
洸の手が握り締められる。響が、父と母の手を繋いでいた。
「もう、簡単には放さないから」
──だって、こうする事が正しいって信じているから。
(そうだよね──コマチ)
響は、太陽のような笑みを浮かべて両親の手を強く強く握り締めた。
家族との絆を取り戻すために。
──そんな彼女を、天に輝く黄金が照らし──。
◆
そして、その日を境に千葉県の半分が消し飛び多くの人間が行方不明となり。
その中には立花響とその家族、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスの名が連なっていた。
次回からAXZ編に入ります
今まで出てきたグループでどれが好き?
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雷光のフリューゲル(奏翼光彦)
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翳り寄り添う日陰(響コマチ)
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先史文明期コンビ(フィーネアカシア)
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愛娘に挟まる陰獣(クリスキリカコマチ)
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波導と姉妹(リッくん先輩マリアセレナ)