【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第四話「戦姫喪失」

 ──あの日から、立花響は地獄の底に叩き落とされた。

 

 時は、彼女が父と故郷に帰った次の日に遡る……。

 

 

 ◆

 

 

 久しぶりに家族と食事し、そして4人で布団を敷いて同じ部屋で就寝し──響は心の中が温かく感じた。

 まるで本当に昔の、あの日に戻った様に感じて──それでも父と母、祖母の間に気まずさがあり、まだまだ時間が必要だと感じた。

 そう、時間があるのだ。

 少し前の様に歩み寄る事するできなかった時とは違う。家族に戻る為の時間を手に入れた。

 それが響は凄く嬉しくて──。

 

「ちょっと立花さん! 昨日の約束はどうしたのよ!!」

 

 それが再び壊されようとしている。

 

 立花家の玄関に立ち、喚き散らすのは昨日洸と会話をした町内会で交流のあった女性。

 彼女は酷く錯乱した状態で、なぜ昨日来なかったのかと洸に詰め寄っていた。

 

「響、あの人は……? 何であそこまで怒っているのかしら?」

 

 心底不思議そうに幅が問い掛けてくるが──響は、目の前の女性が違って見えた。

 あれは怒っているのではなく、怯えている。それも命の危険を感じている様な──。

 

「テメェこの野郎! 抜け駆けしていやがる!?」

 

 さらに異常は続く。洸に縋っていた女性を、後から来た男性が怒りに満ちた表情で引き離す。女性はそれに悲鳴を上げてやめてと叫ぶ。

 それを無視して男は──にこやかに、洸に擦り寄った。

 

「大丈夫ですか、立花さん」

「え、えっと、その──」

「ああ、あの人は気にしないでください。それよりも」

 

 ガシリと洸の手を掴む男。

 

「あなたとは一度呑んでみたかった。どうです、これから一杯──」

「待ちなさい! 横取りするんじゃないわよ!」

 

 しかし先ほどの女性がさらに割り込んで、男と掴み合いになる。

 明らかに様子がおかしい。

 戸惑う立花家だが──状況はさらに混沌としていく。

 

 目の前の女性たちに続く様に次々と人が集まり、我先にと立花家の人間に話しかけ、良い関係を築こうとする。

 そしてライバルを蹴落とすかのように彼らは罵り合う。

 

「なに……これ……」

 

 響は顔を青くさせてその光景を見ていた。

 醜悪。その一言に尽きる。

 しかしそれ以上に──哀れだと思った。

 

「──これが本性なのさ、人間のね」

『──っ』

 

 突如空から聞こえた声に、町の人達が強く反応する。その顔には恐怖が刻まれており、空を仰ぎ見て平伏した。

 

「アダム様! もう少し、もう少しお待ちを! 今から証明しますから、どうか!」

「いや、見ていたからもう良いさ。十分にね。しかしその前に説明しないとね、彼女に」

 

 縋り付くように言葉を綴る彼らを無視して、男は──アダムは、響を見る。

 

「──お前は……!」

「そう言えば名乗ってなかったね、君には。僕の名前はアダム・ヴァイスハウプト、以後お見知り置きを」

 

 フワリと地に降りたアダムは、帽子を取り一礼をする。男として完成された体に白い貴族服を着た彼のその所作は、女性を見惚れさせるには十分だった。

 しかし響の目付きは鋭く、アダムに強い語気で問いかける。

 

「何を企んでいる……!? あの人達に何をした!?」

「一つずつ答えよう、君と僕の仲だ。それにこれからも長くなるからね、付き合いが」

「ほざくな……!」

 

 怒りを顕にして叫ぶが、アダムは気にせずに語り出す。

 

「覚えているかな、かつて暴走した時の事を」

「……忘れるわけがない」

 

 フロンティア事変の時の事だ。

 

「君の怒りは呪いと相性が良かった、魔剣のね。だからこそ君は融合し、適合したのだろう、その呪いの槍に」

「──呪いの槍?」

 

 響が思わず胸元にあるガングニールのペンダントに触れる。

 

「その呪いは希望であり障害でもあるんだ、僕にとってはね。だから作ることにしたんだ──英雄を」

 

 アダムは、強く語る。

 

「時期僕は神の力を手に入れ、この世界から消し去る──奇跡を! そしていずれ目覚める邪魔な神を殺すんだ──君の撃槍で!!」

「──意味が、分からない。分かりたくもない」

 

 ただ。

 

「何でこの人達を巻き込んだ? 何の意味が──」

「──撃槍の力を、呪いの力を高めるのにうってつけだと思わないか? 彼らの存在は」

「──わたしを利用する為?」

 

 人質、だろうかと響は考える。

 しかしそれはあまりにも人選が間違っていると考えてしまう。SONGの人達やリディアンの友達はともかく、自分たちを迫害してきた彼らを人質にとられようとも──。

 

 ──ブイ! 

 

 しかし、響の脳裏に大好きな日陰の姿が映る。

 彼だったら、迷わず助けただろうと考えて、もし見捨ててしまえば自分は彼の隣に立てない──そこまで考えて、彼女は初めてアダムにゾッとした。

 

「──まさか」

「そう、そのまさかだよ、お察しの通り! 君は大嫌いな彼らを守らないといけないんだ──アカシアと共にある為には!」

 

 ──このヒトデナシ! 

 そう叫びたい彼女に、町の人達が殺到する。

 

「お願い、助けて! あの時の事は謝るから!」

「死にたくないんだ! だから、どうか!」

「うちの子が捕まっているの! 助けるにはアナタに頼るしかない!」

 

 ──心が、軋む。

 助けたくない、と思う相手を助けなくてはと奮い立てないといけない。

 アダムは、彼らの恐怖心を煽って人の醜い部分を響に見せつけている。

 それを理解したからこそ、彼女はアダムを睨み付けこう吐き捨てる。

 

「地獄に落ちろ……!」

「──いいや、落ちるのは彼らだ、この地獄にね!」

 

 そう言ってアダムは手を掲げ──巨大な魔力を力任せに放出した。その際のエネルギーで服が消し飛ぶ。

 それを見た町の人達が怯え、響に守ってもらおうと縋り付く。

 

「ひぃいい! 彼女に取り入れば助けるって約束は嘘だったのかぁ!?」

「──っ」

 

 誰かが叫んだその言葉に、響は絶句し──そんな人間たちに囲まれている事に吐きそうになりながらも、人混みを掻き分けて家族の元へ向かう。

 咄嗟のことだった。ただ周りの人よりも──家族を守りたいと強くそう思った故の行動。

 

「嘘じゃないさ、ただ」

 

 響は服をたくさんの人に掴まれながらも、家族の元へと辿り着き。

 

「──明らかに居ないからね、条件を満たした者が!」

 

 ──故に、宣言通り殺す事にした。

 

「消え失せろ、醜きヒトよ!」

「──Balwisyall nescell gungnir tron」

 

 ──そして、撃槍の歌と宿っていた奇跡の力は、アダムの黄金錬成を耐え抜き……。

 焦土と化した故郷に残っていたのは、気絶した響とその家族、そしてアダムだけだった。

 

 

 響は──他者ではなく、家族を選んだ。

 彼女は、自分を迫害した者達を見捨て──毎晩彼らの呪詛をその身に受けながら──起きると同時に毎回吐いていた。

 

 こうして響は──地獄の底へと叩き落とされた。

 

 

 第四話「戦姫喪失」

 

 

 ──はぁ。

 あの戦いから……響ちゃんとの戦いから数日が経った。拘束した錬金術師は、錬金術師協会が引き取り情報収集を行い、現地にはツヴァイウィングとマリアは引き続き調査。俺と他の装者はそれぞれ日本と本部に戻った……んだけど。

 

「ブィ……」

 

 ──伸ばした手が届かなかった。

 響ちゃんは助けてって言ったのに、苦しんでいるのに、悲しんでいるのに──俺は約束を守ることができなかった。

 

「……」

 

 響ちゃん……。

 

「──カゲ!」

 

 ジュッ。

 

「ブ!?!?!?!?」

 

 あっっっっっっっつ!?!?!? 

 

 突然お尻に途轍もない熱……というか炎を感じた俺は思わず飛び上がった。

 幸い引火しておらず、少し焦げただけだった。いやそれでも十分酷いけどね! 

 というか、いきなり何してくれてんの!? 

 後ろを振り返って犯人を睨み付けると、下手人──サンジェルマンさんの相棒イグニスは悪戯が成功して嬉しいのか、それとも先ほどの俺のリアクションが面白かったのか笑っていた。

 いや、笑う前に謝れよ! 

 

「カゲ、カゲカゲカゲ!」

 

 なになに……。

 そんな辛気臭い顔していると、幸せが逃げちゃうよだって? 

 いやその前にお尻の毛が焼き消えるわ!? 

 

「カゲ……」

 

 毛深いんだね──ってやかましいわ! 

 はぁ……もう突っ込むの疲れてきた……。

 

「カゲ、カゲ……カゲ!」

 

 ……さっきよりはマシな顔、か。

 お前、俺を慰めようとしてくれたんだな、ありがとう。

 

「カゲ!」

 

 どういたしまして! と笑ってイグニスは俺に抱き付いてきた。

 いや、また君の尻尾の炎でジリジリ燃えているから! 

 そんな風にわちゃわちゃしていると、遠くからイグニスを呼ぶ声がした。

 

「イグニス、一体どこに──お前は」

 

 あ、サンジェルマンさん。

 イグニスは、サンジェルマンさんを見ると甘い声を出して彼女に飛びつき、スリスリとすり寄る。それを彼女は優しい顔で受け止めた。

 信頼、しているんだな。

 ああ、そうだ──サンジェルマンさん。

 

「……なんだ」

 

 う、優しい顔から一転凛々しい顔、いやちょっと俺を睨んでいる? 

 いや、気にしたらダメだ。

 

「ブイ、ブイ!」

 

 俺は、前回の戦いで助けられたお礼を言う。

 正直動揺していたから、下手したら怪我をしていたのかもしれない。

 それに、響ちゃんを助ける為に力を貸してくれてありがとう。

 これからも、よろしくお願いします。

 俺は、そう言って手を差し伸べるが。

 

「──すまないが、馴れ合うつもりはない」

 

 しかしサンジェルマンさんは、俺の手を取らずに横を通り過ぎる。

 どうして!? 俺たちは一緒に戦っているのに! 

 

「確かにその通りだ」

 

 だったら! 

 

「──私に、その資格はない」

 

 ──サンジェルマンさんはそう言って、俺が何度も呼び掛けても振り返る事はなかった。

 でも、俺は何故か諦めることができなかった。

 あの、強い目を見てしまったから。

 

 

 ◆

 

 

 マリア達は、バルベルデ共和国より持ち帰った機密資料の入ったトランクを持って日本へと向かっていた。

 あと数分で空港に着陸する──そのタイミングでパヴァリアの錬金術師達による襲撃を受ける。

 

『うわあああああ!?!?』

 

 揺れ動く飛行機の中、マリアはトランクを手に取り奏と翼に叫ぶ。

 

「操縦士の救助を!」

『了解!』

 

 二人が応え──胸の歌が爆発の中響き渡る。

 

「Granzizel bilfen gungnir zizzl」

 

 波導とガングニールがマリアの歌に応え、その身に宿るのは黒き勇者の力。

 マリアは、墜落する飛行機から脱出し波導弾でアルカ・ノイズを蹴散らす。そしてチラリと奏達を見て、救助に成功したことにホッと息を吐く。

 

「──っ」

 

 水上に立つ錬金術師達が、攻撃を仕掛けてくる。

 それをマリアは波導を纏わせた腕で振り払い、拳を握りしめて海面を殴る。

 

「うわ!?」

「無茶苦茶な──」

 

 態勢を崩した彼らに、マリアは一撃をお見舞いして吹き飛ばした。

 それだけで錬金術師達は気絶したようで、プカプカと浮かんでいる。

 後は解き放たれたアルカ・ノイズを殲滅して奏達と合流するだけ──そう考え、しかしそれはすぐに覆される。

 

「──掌握」

 

 深い青色の宝石を握り砕いた響が現れる。

 

「──変換」

 

 そして、その身に纏うのは水の力。

 

「この手に優しき清浄を……!」

 

 顕現するのは、全てを優しく残酷に平等に包み込む──紺碧の海。

 

 ──ガングニール・アカシッククロニクル。

 ──タイプ・ストリームキュア。

 

「響……!」

 

 ギアとその身を青く染めた響が、拳を握り締めてマリアに襲い掛かる。

 マリアは、波導を用いて前回同様に攻撃を見切ろうとするが──。

 

「ぐ……!」

 

 響の拳が流水の如くすり抜け、マリアにダメージを与える。

 どうやら前回の戦いから学んだらしく、動きに変化があった。

 それがシステムの改良なのか、本人の意思によるものなのかは──分からない。

 

「だとしても、負けるわけにはいかないわね」

 

 マリアの波導の出力が最大値へと引き上げられる。

 どうやら、一気に戦いを決めるつもりなようだ。

 

「はあああああああ!!」

 

 瞬歩で響の懐に入ったマリアの拳が、彼女の体を捉え──。

 

 

『──女の子は優しく扱ってくださいね?』

「──っ、その声は!?」

 

 ──次の瞬間、響の体が動き──鮮血が舞った。

 

 

 ◆

 

 

「──ちょっと! これどういう事よ!」

 

 援軍として駆け付けたカリオストロの目には信じられない光景が広がっていた。

 そして、それを響もまた見ていた。

 

(──)

 

 響の手は赤く染まり、目の前にいるマリアは脂汗を浮かび上がらせて左手で右腕を抑えていた。

 

 しかし、彼女の肘から先はなく──夥しい量の血が流れ出て海を赤く染めていた。

 

「ちょっと勇者ちゃん! 早く引いて治療を──」

「──」

「──え?」

 

 何か二人が会話をしているが──響の体は止まらない。

 脳に接続されたダイレクトフィードバックシステムが、先ほどマリアの腕を斬り飛ばした水の剣を作り出し、駆ける。

 

「頼んだわよ!」

「え!? ちょ──ああ、もう!」

 

 マリアはカリオストロに機密資料が入ったトランクを投げ渡す。

 そして、響の振るう水の剣を避けて胴体に抱き付き海の中へと引き摺り込む。

 そのまま波導を使って深く深く潜っていき──。

 

 

 ──液体化し拘束から抜け出した響が背後に回り、マリアの心臓を貫いた。

 

(──え?)

 

 響は、自分がやった事を理解できなかった。何処か頭の中でマリアなら自分を止めることができると思っていた。

 だから、ギアが解け、力なく海の底に沈んでいき──血の匂いに群がってきた鮫に食い散らかされ、あっさりとこの世を去った事が……信じられなかった。

 

「あ──」

 

 しかし、ふわり頬を撫でたマリアの物だった髪の毛に意識が向き。

 

「あああ……!」

 

 心臓を貫いた感触と、幼い身でこちらを見守る厳しくも優しいマリアを思い出し──。

 

「──ああああああああああああああ!!!!!」

 

 響は、ただ叫ぶことしかできなかった。

 

 

 ──喪失へのカウントダウン開始。

 ガングニール・ベータの反応消失。

 

 残りの装者──6人。

 

今まで出てきたグループでどれが好き?

  • 雷光のフリューゲル(奏翼光彦)
  • 翳り寄り添う日陰(響コマチ)
  • 先史文明期コンビ(フィーネアカシア)
  • 愛娘に挟まる陰獣(クリスキリカコマチ)
  • 波導と姉妹(リッくん先輩マリアセレナ)
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