【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
「はははははははははっははは!!」
アダムは、響の目から、感触から、感情から──マリアを殺したことを確認した。
まさか本当にするとは、と響を嘲笑う。
目的を果たした為に、自動でアダムの元へと転移してきた響は──膝を突き吐いた。
音を立て彼女の腹の中のものがぶちまけられ──自分はマリアの心臓を貫いて血を吐かせたのだと、殺したのだと強く実感した。
「いやはや恐れ入るよ、英雄には。まさか迫害してきた相手を救うために殺すとはね、仲間を」
「──っ」
アダムの言葉に思わず、響は元クラスメイト達を見てしまった。
彼女たちが、自分たちを心底軽蔑した目で見ているその表情を。
響は思わず睨んでしまった。仲間を殺してまで守ったのが──彼女たちなのか、と。
そう思ってしまい──自己嫌悪してしまう。
さらにそこに嫌悪と恐怖で錯乱した元クラスメイトが叫ぶ。
「あ、あなたが勝手に殺したんじゃない!」
それは、今の響を追い詰める鋭利な言葉。
「わ、私たちじゃない! 私のせいじゃない! あなたが──」
「や、やめなって! 今そんなことを言ったら──」
そこまで言って、別のクラスメイトに止められて。
彼女はハッと自分が言った事に気づき。
「ちが、いまのは、その」
顔を青くさせた彼女は急いで謝った。
「ご、ごめんなさい! 今のは違うんです!」
──アダムに。
「……」
それをアダムは無表情で見下ろし。
「冷めてしまったね、興が。次も頼んだよ、立花響」
アダムが立ち去り、場に残ったのは嫌な空気のみ。
元クラスメイト達は、アダムに殺されないために響の世話を始める。まずは吐瀉物を片付け、響の身を綺麗にする。
「あの、さっきのは……」
その際に、先ほど錯乱した彼女を庇おうとする者が居たが。
「いや──謝らなくて良いよ。あの子が言っている事は正しいから」
響は光のない目で答えた。
「そう、わたしが殺したんだ」
響は、自分の両手を見る。
既に洗い流され綺麗になっている──しかし、彼女の目には、マリアの血で赤く汚れて見えた。
「──わたしが! 殺したんだ!!!」
響の慟哭が──虚しく響いた。
第五話「片翼奏者」
響と交戦していたマリアのガングニールの反応が消失したのは、SONGでも確認が取れていた。しかし──マリアが死んだとカリオストロから報告を受けてもすぐには信じられなかった。
奏が思わず掴み掛かる。信じられないと、信じたくないと叫ぶ。
「本当にアイツが死んだのか……嘘だと言ってくれよ!」
「あーしは昔はいろんな嘘を吐いてきたけど──そういう嘘を吐いた事はないわ」
そう言ってカリオストロが視線を落とす。
彼女もまた複雑な心境なのだろう。むしろ、この事を伝えるのが嫌だとはっきり思っているくらいだ。
「そんな……」
「響さんが、マリアを……?」
切歌が呆然とそうつぶやいたその時──セレナが発令室を出ようとする。
それを翼が彼女の腕を掴んで止めた。
「何処に行く気だセレナ!」
「決まっているじゃないですか……!」
振り返ったセレナの顔は──悲しみと怒りで染まり切っていた。
歯を強く噛み締め、涙を流し──荒れ狂う感情を抑えようとしてそれができずにいた。
「……復讐というワケだ」
「──待って!」
プレラーティの言葉を受け、クリスがセレナを説得する。
「響は操られていたんだ。だから──」
「──だから、姉を殺されたことを許せと、そう言うのですか……!?」
「それ、は……」
ジャミングのせいで、戦いの様子は見えなかった。
故にカリオストロが見てきたものが全てであり──戻ってきた物も彼女が回収された物が全てだ。
マリアが託したバルベルデの機密資料と──響が斬り落とした片腕。
それだけがSONGに、家族であるセレナの元に帰って来た物で──彼女は、姉の最期すら見届ける事ができなかった。
「わたしは、わたしは──!」
感情を荒げるセレナ──そんな彼女を背後から抱き締める者が居た。
ナスターシャだ。
彼女は、セレナを強く強く抱き締めながら──言葉を紡ぐ。
「セレナ。優しいセレナ──慣れない言葉を言うものじゃありません」
「マム……!」
「あなたの気持ちはよく分かっているつもりです──だからどうか、取り返しのつかない言葉を吐いて自分を追い込む事はやめなさい」
「う、あ──」
「今は──泣きなさい。私では受け止めることしかできませんが──だから、どうか」
──セレナは泣いた。
ナスターシャの腕の中で泣いた。
大好きなマリアともう二度と会えない事実に、そしてそれを手に掛けたのが救いたい仲間であるという現実に。
彼女の泣き叫ぶ声は──その場にいる者全員に刻み込まれ、カリオストロ達はそれをただジッと見る事しかできなかった。
◆
「わたしは……まだ信じられない」
クリスはファミレスにて、奏と翼に胸の内にある思いを告げた。
「響は……響は操られているだけなんだ! だから──」
「──だが、実際響はマリアを殺した」
「っ……!」
「翼!」
尚も訴えるクリスに、翼が無情にも現実を突きつける。まるで刃のように。
それに奏が眉を顰めて止めるが──翼は真っ直ぐと二人を見た。
「何言ってんだ──次はオレ達の誰かかもしれないんだぞ?」
『──っ』
しかし二人は、翼の言葉に沈黙させられてしまう。
響の意思に関係なく、敵はこちらを殺しに来る。
それは確かな話で、マリアの死がそれを決定的にさせた。
「それに下手すれば──さらに被害が出る。関係ない人が殺されたり、な」
「──翼は! 翼は響の事が嫌いなの!? だからそんな酷いことをっ」
「──嫌いな訳ないだろうが!」
クリスの叫びに対して、翼はそれ以上の叫びで返す。
「オレだって認めたくないさ! マリアが死んだことも! 響が人を殺したことも! ──だがな! 止めることができなければ、アイツのこれ以上の十字架を背負わせる事になってしまう! だったら、その前にオレが──」
「翼」
翼の一線を越えかけた言葉を──奏が静かに止める。
「それ以上は言うな」
「だけど!」
「──良いな?」
奏にひと睨みされ、翼は押し黙りクリスも落ち込んだように座り込む。
そんな二人の頭を順番に撫でてから彼女は言う。
「心配するなって何とかしてみせるさ!」
「何とかって……」
「何とかは何とかさ! ──アイツを戦いに巻き込んだのはあたしだからな」
覚悟を決めた顔で奏がそう呟き──彼女たちの端末に緊急通信が入る。
アルカ・ノイズの反応と──響のガングニールの反応が検知される。
カウントダウンは──止まらない。
◆
──不甲斐ないなぁ。
「どうしたのコマチ?」
未来ちゃんが俺を撫でてくれている。相変わらず陽だまりのように温かくて、でも此処にはお日様は無くて──。
「……はぁ」
ため息……やっぱり未来ちゃんも心配だよね、響ちゃんの事。
でも──言えない。
マリアを響ちゃんが──いや、俺はまだ信じていない。何かの間違いだ。そう思っていないと悲しくて悲しくて……。
「ブイ……」
「本当に元気ないね……こういう時響なら」
──響ちゃん……。
「──コマチ、元気出して。大丈夫だよ」
突然未来ちゃんが俺をギュッと抱き締めてきた。
どうしたの? いきなり。
「奏さんがね、絶対に連れて来るって約束してくれたんだ」
奏さんが……。
「奏さん、響が戦っている事をずっと気にしているから──だから、日常には、私のところには絶対に連れ戻すって言っていた……また、響に何かあったんだよね?」
「……」
俺は、答えることができなかった。
しかし未来ちゃんは気にした様子を見せることなく笑ってみせた。
「もうこの前みたいな無茶はしないよ? だって──皆の事を信じているから」
──。
「だからコマチも皆を──響を信じよう?」
──うん、そうだね。
俺は少しだけ気を取り直して、未来ちゃんの言葉に頷いた。
「そういえば、明日奏さんにデートに誘われちゃった。嫉妬して響が出て来るかもね?」
「ブイブイ!」
そうかもしれない、と俺は未来ちゃんに返し──この時の会話を、俺は後に忘れられなくなる。
◆
「──これは、異空間!?」
「くそ、奏と引き離された!」
アルカ・ノイズと響の反応を追い現場に到着した翼たちは──錬金術師達が作り上げた新たなアルカ・ノイズにより、翼とクリスが隔離されてしまう。本部でも相変わらずジャミングされてしまい、辛うじて拾えるのは音声のみ。
最後にモニターで確認できたのは、半球型に広がる結界だけであった。
「──もしかして」
最後に見た光景に違和感を覚えたエルフナインは分析を始める。
その最中も戦闘は行われており、奏の方は酷く音声が拾えず、翼とクリスがノイズ相手に苦戦している事が伺えるのみ。
どうやら結界内のノイズ相手だと攻撃が通り辛いようであった。
しかし、エルフナインの分析が終わればすぐに攻略できるだろう。
問題は──奏、そして響の方であった。
「……」
「響……」
ガングニールのファウストローブの響。
ガングニールのシンフォギアの奏。
両者配色が違うだけでその装甲は非常に似通っており、何時だったか二人を称してガングニール姉妹と呼ばれていた。
さらに、戦いに身を投じた理由もまた同じ復讐で──同じ痛みを知り、同じ飯を食べ、同じ時を過ごした。
「さあ、我らが英雄よ。装者を亡き者に」
「それが統制局長の願いである──さぁ」
そう言って錬金術師が黄色の宝石を渡そうとし──。
「Croitzal ronzell gungnir zizzl」
胸の歌が奏でられ。
「──させっかよ……!」
雷光が迸る……!
──ガングニール・サンダーマグニフィセント。
雷の力を纏った奏が雷速で移動し、錬金術師の腕を強く握りしめた。痛みで悶えるほどに。
「が……!」
「こいつは普通の女の子だったんだ……! それなのに、あたしの不手際で同じ所まで引き摺り込んでしまって──そして孤独に耐えて強くなるしかなかった」
しかし、響にも心安らぐ相手ができた。
そして、過去に失ったものを取り戻し始めた。
此処からだったのだ。立花響の再スタートは。
それを──悪意が邪魔をする。響からまた奪っていく。
「返して貰うぞ、あたし達の大切な仲間を……!」
「あ、ああああああ!?!?」
錬金術師が叫び──プログラムに忠実に動く響の蹴りが奏の頭部に向かって放たれる。
それを奏は受け止めるが──それは、陽動だった。
「──掌握」
「しまった……!」
錬金術師が投げた黄色の宝石が響の手によって砕かれる。
「──変換」
「──ぐっ」
そしてそのまま響の拳が振り抜かれ、奏の腹部に激突し──そこから力がスパークしながら徐々に響の全身を駆け巡る。
「──この手に振り切る稲妻を……!」
ギアと髪、瞳を黄色く発光させる響──彼女から痺れる力を感じ取り奏は思わず生唾を飲み込んだ。
──ガングニール・アカシッククロニクル。
──タイプ・ライトニングスピード。
バチバチと響の体から電気が迸り、奏へと襲い掛かる。
奏もまたその身を雷へと変え──両者雷速の超スピード戦闘が始まった。
錬金術師達の目には光の軌跡と破壊されていくアスファルトや廃ビルしか見えなかった。
「──ぐっ」
しかし戦況は──響に有利だった。
速度は奏が勝っている。が、相性が最悪だった。
響はライトニングスピードの力で奏の移動先を、落雷先を操作し、カウンターを叩き込んでいる。
奏の雷速移動は予め移動先を決め、そこに落ちるようにして移動している。その際に思考も加速されている為、早々スピード勝負では負けないのだが──力のほとんどを掌握されてしまえば、できることも限られてくる。
(──だったら!)
アームドギアである槍を構えて雷を集束、巨大化させる。
そして、そのまま振り被り──。
「喰らいやがれ!」
──TITAN∞SACRIFICE
広範囲を物理、雷撃で以て埋め尽くす攻撃を放った。
それにより錬金術師達は言葉を発することなく攻撃に巻き込まれて全身を痺れさせながら気絶し、そして肝心の響は──。
「──冗談キツいぜ」
奏の背後に回り回避していた。
振り向いて迎撃をしようとし──その前に響の拳が顎、胸、肩にそれぞれ三十発ずつ、さらに腰、脚、左腕を五十発蹴られ、とどめに全身くまなく滅多打ちにされ──奏はサンドバックにされていた。
呼吸ができず、当然ながら歌えもしない。
しかし、奏は痛くなかった。何故なら──。
「──」
腕を振り被る響のバイザーの下から流れ落ちるのは。
「泣きながら殴られたらよぉ、体より心の方がいてぇよ」
──雷鳴よりもちっぽけな、しかし奏にはよく聞こえる響の悲鳴だった。
「──はぁ」
そして、奏は深く息を吐き。
◆
エルフナインの分析により、結界中央に新型アルカ・ノイズを倒し脱出した翼とクリス。
本部から全く情報が見えない奏の援護をする為、急いで出てきた二人が目にしたのは──。
「──よぉ、早かったな」
黒焦げになり、槍を支えに立つ奏と。
空に浮かび、空一帯を埋め尽くす雷を轟かせている響が居た。
「ちょっと待ってな──今、話が終わった所だ」
「話って──奏、何を!?」
翼の問い掛けに、奏は申し訳無さそうな顔をしながらも──視線を上に向ける。
そして「よっこいしょ」と言い、両手を広げて──叫んだ。
「──来い、響! 受け止めてやる!」
「──」
響は──奏の言葉に返す事なく、機械的な動きで腕を静かに下ろし。
そして、全ての雷が奏目掛けて降り注ぎ。
「翼──」
最後に奏は、翼に向き直り何かを言い──しかし、雷鳴に掻き消され、閃光と轟音が翼達の感覚を奪い、そして。
「──奏?」
全てが収まったその時、天羽奏の姿はそこに無く。
『──ガングニール・アルファ……反応消失……そんな……!』
通信先で友里の泣き崩れる音が聞こえ、クリスは茫然とその場に座り込み、翼は──。
「──ちくしょおおおおおおおおおおお!!!!」
何も無い空を仰ぎ見て──片翼を失った悲しみ、怒りから叫ぶ事しか出来なかった。
──喪失へのカウントダウン継続
ガングニール・アルファの反応消失。
残りの装者──5人。
今まで出てきたグループでどれが好き?
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雷光のフリューゲル(奏翼光彦)
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翳り寄り添う日陰(響コマチ)
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先史文明期コンビ(フィーネアカシア)
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愛娘に挟まる陰獣(クリスキリカコマチ)
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波導と姉妹(リッくん先輩マリアセレナ)