【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第六話「愛憎変化」

 

「っ、あああああああ!!」

 

 翼の慟哭が響き渡る中、響は自由の効かない体で──涙を流していた。

 

(──奏、さん……)

 

 ──生きるのを諦めるな! 

 

 かつて彼女に言われた言葉を思い出す。

 死の淵に堕ち、地獄の日々を過ごし、闇に呑み込まれて尚──その言葉は彼女の支えになっていた。

 

 ──どんなに苦しくても、どんなに辛くても、生きるのを諦めないでくれ。

 ──そうしたら、あたし達が絶対に助けてやるからな。

 

 何度も響が拒絶をしても、その度に手を伸ばし続け──奏は、彼女を包み込み愛を囁いた。

 その愛は彼女の心の氷を溶かし──いつしか、響は奏の事を姉の様に慕っていた。

 ガングニール姉妹と呼ばれて、影でコッソリと笑みを浮かべて喜んでいた。

 

 しかし、そんな姉のように想い、大好きだった彼女を──響は雷で消し飛ばして殺した。

 マリアの時と違って遺体は残っておらず──まるであの日、絶唱の負荷で塵と化して消える筈だった運命が戻ってきたかのように、響は奏の命を以て生かされている。

 

「──あああああああああ!!」

「……」

 

 翼が泣き叫び、瞳にドス黒い感情を込めて空に浮かぶ響を睨み付ける。

 

「よくも奏を……よくもっ!」

 

 しかし、今の響を見た翼の瞳から力が失われ。

 

「よく……も……よく、も」

 

 浮かび上がった激情はすぐに鎮火され、翼は項垂れる。

 響を憎むことができなかった。

 何故なら──今、奏を殺して一番恨み、怒り、悲しみ、苦しんでいるのが誰なのかを……理解してしまったからだ。

 

「……」

 

 戦意喪失した翼とクリスを尻目に、響はテレポートジェムでこの場を去る。

 まるで、逃げるように──。

 翼達はそれを追いかける所か、見る事もできず──戦場に残ったのは焼き焦げた匂いと悲しみに泣き咽ぶ声だけだった。

 

 

 第六話「愛憎変化」

 

 

 奏の死。

 それを受け止める暇も無く、SONGはパヴァリア光明結社との戦いに備える為次の仕事を行っていた。

 バルベルデから持ち帰った機密資料を、風鳴機関にて暗号の解読を行う事に。

 それに伴い周辺の民間人に対して強制的に退去指示が下される。

 

 装者達は、パヴァリアからの刺客への警戒、退去していない民間人が居ないか巡回を始めていた。

 

「……」

「ブイ……」

 

 そんな中、コマチは翼と共に居た。

 奏を失い精神的にダメージが大きいと判断され、また忌み嫌う風鳴の力を頼るこの現状にストレスを感じているのではないか、そう考えた弦十郎によりコマチが充てがわれたのだが。

 

「ブイ」

「……」

 

 翼は、何処かボウッと空を見上げていた。

 何も考えてなさそうな、遠くを眺めているその顔に、コマチは心配になる。

 セレナのように感情を荒げるのではなく、コマチのように酷く落ち込むわけでもない。

 大丈夫だろうか? と彼が見つめていると──翼が口を開く。

 

「……オレさ、ずっと奏と一緒に居ると思ってたんだ。ツヴァイウィングとして、何処までも、もっと高く……一緒に歌っていくのだと」

 

 かつて家族に、光彦にそう願われた為に。

 そしていつしか自分たちの夢となっていた。

 

「そしてさ、響やクリス、マリア、セレナ、調に切歌……SONGの皆ともさ、一緒に過ごしてさ──凄く心地良かった」

「ブイ……」

「だからさ──響があんな目にあって、こんな事になって、もう訳が分からないんだ」

 

 奏を失い、それを為した響のことを翼は恨む事ができなかった。彼女だってやりたくなくて、でも操られて、泣きながらその手を血に染められ、のしかかる罪に悲鳴を上げていた。

 

「奏の為にも絶対に助けてみせる……!」

 

 翼は響を助けたいと強く思った。

 そして、必ず彼女を操っている黒幕をこの拳で、響が、マリアが、奏が苦しんだ分だけ殴ってやる。

 そう、決めていた。

 

「ブイ……」

 

 翼の強い意志に触れて、コマチは胸が熱くなった。

 彼女は大丈夫だろう。むしろ、こちらが元気付けられたくらいだと、彼は思い──。

 

「ブイ」

 

 ふともう一人、心配な仲間の事を想う。

 姉を失ったセレナ。彼女の悲しみは深く、そして──響に対して怒りを抱いていた。

 

 

 ◆

 

 

「およよ……これが噂に聞くカカシデスか……」

 

 騙されたデース……と神妙な顔をする切歌を眺めながら、セレナは一人ため息を吐いた。

 弦十郎の判断により、セレナは切歌と行動を共にする事になった。本来なら本部で待機して欲しいのだが──人手が足りない為、彼女にも巡回に出て貰っている。

 

 あと少しすれば、協会本部に戻っているサンジェルマン達と合流する手筈だ。

 それまでセレナも前線に出ることになったが──正直状況はよろしくない。

 

「セレナ、大丈夫デスか?」

「……はい、大丈夫です。ありがとうございます切歌さん」

 

 切歌の心配そうな声に、セレナは努めて笑顔で返す。しかし、明らかに無理をしているのが分かり、切歌はますます心配そうにする。

 

「でも──デス?」

 

 そんななか、切歌が人影を見つける。

 野菜が入った籠を背負った年配の女性だった。

 切歌はすぐに駆け付け、彼女に声を掛ける。

 

「おばあちゃん! 此処に居たらダメデスよ! 退去命令が出ているのデース!」

「あらあら、ごめんねぇ。でもこの子達の収穫時期だったから……」

 

 そう言って籠から取り出したのは美味しそうなトマトだった。それを見た切歌が声を上げる。

 

「凄く美味しそうデース!」

「あらあら。美味しそうじゃなくて美味しいのよ。一ついかが?」

「遠慮なくいただくデース!」

 

 トマトを受け取った切歌はパクリと一口食べ、あまりの美味しさに頬に手を当て喜びの表情を上げる。

 ウェルと調に早く元気になって欲しいと栄養のある、かつ美味しい物を与えられ続けた彼女の舌は肥えているのだが、その彼女をしてこのトマトは美味しかった。

 

「嬉しいねぇ……そこのお姉さんもお一つどうだい?」

「あ、はい。それでは……」

 

 セレナもまた一つ受け取り──ふと思い出した。

 

(そういえば、姉さんトマト苦手だったっけ……)

 

 パクリとセレナも食べ──その美味しさに驚く。

 

「美味しい……」

「そうかいそうかい、それは良かった」

 

 このトマトなら姉さんでも食べられるのではないか? とそう考え。

 しかしマリアはもう死んでいて食べて貰う機会は無いのだと思い出し。

 そして、連動して姉を殺した響を思い出し──胸が熱く、痛くなる。

 

「ど、どうしたんだい? まさか、トマト苦手だったとか──」

「ち、違うんです。トマトは大変美味しかったです」

「本当かい? それなら良いんだけど……」

 

 そんなセレナを切歌が悲しそうに見つめ──。

 

「──見つけたぞ」

 

 そこに、不粋な輩が現れる。

 切歌とセレナが振り返れば、そこに居たのは──パヴァリア光明結社の錬金術師達。

 そして……。

 

「──響、さん……!」

「……」

 

 ファウストローブを身に纏い、バイザーにより表情が見えない響がそこに居た。

 セレナの表情が変わり──彼女はすぐに切歌に指示を出す。

 

「──切歌さんはその方を連れて逃げてください! わたしが時間を稼ぎます!」

「──! で、でもデスね……」

「──お願い、します」

 

 セレナは、ずっと響の方を見ていた。

 その目に宿る激情は──とても純粋な色をしていた。

 切歌は、迷うも──民間人を守るべくギアを纏い女性を担ぐと走り出す。

 

「すぐに応援が来るデスから! 無茶はしないでくださいデスよ!」

 

 しかしセレナはその言葉に応えず。

 

「Seilien coffin airget-lamh tron」

 

 アガートラームを纏い、短剣を構えて敵を睨み付ける。

 しかし、錬金術師達は臆さずに笑みを浮かべていた。

 何故なら、シンフォギア殺しの──仲間殺しのスペシャリストが居るのだから。

 

「奴を追いかける前に、貴様から殺してくれる!」

「我らの理想の犠牲となれシンフォギア!」

 

 そうして、響に渡されるのは──幻想の力が宿る宝石。

 

「──掌握」

 

 宝石が砕かれ、響の体に循環される。

 

「──変換」

 

 幻想の力が響のギアを変え、彼女のギアが、髪が、瞳が桃色変化する。

 

「──この手に舞い踊る幻想を」

 

 顕現するのは最も不条理で不可思議な力。

 

 ──ガングニール・アカシッククロニクル。

 ──タイプ・フェアリースカイ。

 

 セレナと同質の力を得た響が、彼女に襲い掛かる。

 

 

 ◆

 

 

 響がセレナと戦っている間に、錬金術師達はテレポートジェムを使って転移し、切歌の後を追った。

 しかしセレナはそれを追う事はなかった。

 何故なら、今の彼女の戦う理由が目の前に居るのだから。

 何故なら、彼女の姉を奪った存在が目の前に居るのだから。

 何故なら──憎き敵が目の前に居るのだから……。

 

 セレナは──響の事を許せない。

 例え操られ、彼女の意思では無いとしても──直接手に掛けた事には変わりはない、のだとそう思ってしまう。

 

「──あああああああああああ!!」

 

 悲痛な叫ぶ声を上げてセレナが斬り掛かり、それを響がエネルギーシールドで受け止める。

 そして、空中に紋様を描き──そこから炎を噴出させてセレナを焼く。

 

「っ、ああ!!」

 

 火傷を負い悲鳴を上げ──しかし姉はそれすらできずに死んだのだと己を叱咤し、響に追撃を加える。

 

「よくも! よくもよくもよくも──姉さんを!」

「……」

 

 恨み言を響にぶつける。

 

「なんで姉さんが死なないといけなかったんですか! せっかく大好きだったリッくん先輩に出会えたのに!」

「……」

 

 マリアは、リッくん先輩を失って何処か心に穴が空いていた。しかし彼女はそれを悟らせないように強くあり続け──セレナはその姿が痛ましく思えた。

 

 だから、再会し、同じ仲間として暮らしていける少し前の環境が──楽しく、嬉しかった。

 

 それを、仲間であるはずの響の拳によって壊された。

 

 許せない。許せるはずがなかった。

 姉を奪った彼女を、許してはいけないとセレナは思わないといけない。

 

「なんで──なんで!!」

 

 ──それなのに。

 

「どうして……わたしは、アナタを憎めないの……?」

 

 セレナは──響を許せない感情以上に、彼女を救いたいと強く想っていた。

 姉を殺されたのに。仲間を殺されたのに。

 

 セレナは──優しすぎた。

 故に、響と戦う事が──彼女を敵として見る事ができない。

 

「──」

 

 響が拳を握り締め、セレナを殴り飛ばす。

 殴り飛ばされたセレナは、先ほどの女性の物と思われるトマトが成っている畑に堕ち、そして──。

 

 

 ◆

 

 

(──ああ)

 

 響の視界でゆっくりと地面に堕ちていく──髪の長い人の頭部。

 

 ──意外と大変なんですよ、長いと。

 

 何時だったかそんな会話を思い出し──しかし、地面にぶち撒けられた赤い液体に、潰れて飛び出たソレが、バイザー越しに響へ、響の瞳越しにアダムへと──彼女の、セレナの死を突き付ける。

 

 抵抗が全くなかった。まるで、ただ突っ立っているカカシを殺すかのように──セレナは動かなかった。

 最期に見たのは、響に対する申し訳なさそうな表情で──それを思い出す度に、楽しかった日々が酷く恋しくなり──もう取り戻せないのだと、現実が突き付ける。

 

 これが悪夢なら、幻想ならと想い──ポタポタと響の体から流れ落ちる赤い液体が、それを否定する。

 

(わたしは、もう──)

 

 ──響は……自分の事が、この拳が……許せなかった。

 そして強く想う。

 

(誰か、わたしを──)

 

 ──コロシテクレ、と。

 

 

 喪失へのカウントダウン継続。

 アガートラームの反応消失。

 

 残りの装者──4人。

 

今まで出てきたグループでどれが好き?

  • 雷光のフリューゲル(奏翼光彦)
  • 翳り寄り添う日陰(響コマチ)
  • 先史文明期コンビ(フィーネアカシア)
  • 愛娘に挟まる陰獣(クリスキリカコマチ)
  • 波導と姉妹(リッくん先輩マリアセレナ)
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