【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第十話「信頼失墜」

 ──この腕に、翼さんを貫いた時の感覚が残っている。

 

『──掌握』

 

 ウェルから渡された黒いジュエルを握り潰し。

 

『──変換』

 

 悪の力が握り締めた拳から腕へ、腕から体へ──体から心へ侵食していく。

 

『──この手に踏み越える過去を』

 

 そして纏うは、過去に囚われた自分自身。

 踏み越えると言いつつ、響は過去に囚われ──仲間との輝かしい未来を自ら壊していく。

 

 ──ガングニール・アカシッククロニクル。

 ──タイプ・ワイルドビースト。

 

 獣のように暴れ、全てを壊す黒き力。

 響はその力で過去に大切な人を殺しかけ──そして今、此処で仲間を手に掛けた。

 

 ズルリと自分の腕から翼が離れ、海に堕ちていくのを眺める響。

 

 ──心が軋む音が聞こえる。

 

『恨むのなら僕を恨むと良いですよ』

 

 その隣に立つウェルが、まるで毒のように、甘く囁く。

 

『アナタは悪くありません。悪いのは──』

 

 ──君を縛り付けるヒトデナシ……僕だから。

 

 しかし、ウェルの言葉は響に届かず──響の意識は闇の奥深くに沈んだ。

 

 

 第十話「信頼失墜」

 

 

「──悪い冗談言ってないで、さっさと帰って来てバカ助手」

 

 ウェルの裏切り宣言を聞いた装者達だが──全員信じていなかった。

 特に付き合いの長い……ずっと助けられ、支えらて来た調は、青い顔でいつもの調子で罵倒する。

 しかしその言葉には力が込めっていなかった。

 

「調さん、アナタが一番分かっているでしょう──響さんにダイレクトフィードバックシステムを取り付けたのは僕だと」

「っ……」

「だからあの時、バルベルデで響さんと初めて戦った時、一番に動揺した」

 

 ウェルの言葉を聞いて、切歌が叫ぶ。

 

「そんな……本当に裏切ったのデスか!? 何で──」

「──何で? そんなの決まっているでしょう」

 

 ウェルは──無表情で、しかし瞳は昏く、淀んだ眼で彼女達を、切歌を……最も大切な人を見て言葉を紡いだ。

 

「英雄となり、神の力をこの手にし──取り戻すんだ! 全てを──キリカくんを!!」

『──!?』

 

 ──偶然にも、残った装者達はキリカと最も絆を育んで来た、もしくは影響を受けた者達であった。

 故に、理解してしまう。ウェルの言葉を、悲痛な叫びを。

 

「僕も最初はキリカくんに胸を張れるように頑張ろうと思っていた──だが、やっぱりダメだった」

 

 ウェルは思い出す。

 

「僕は救えなかった、ノエルくんを」

 

 自分の無力さを。

 

「あの時酷く痛感しましたね。僕がどれだけ無能なのかと」

 

 彼は語る。自分の弱さを。

 

「そして毎度キリカくんの居ない墓に行って──情けなく膝を着き、弱音を吐く僕がどうしようもなく憎かった」

 

 彼は苦しんでいた。大切な人を救えず、仲間も救えず、どんどん咎を背負っていく自分に。

 

 そんな時に出会ったのが──錬金術師だったと彼は語る。

 

「アダムは言いました。神の力があれば、英雄となれば──全てを救えると!」

「でも──だとしても!!」

 

 ウェルの叫びに、切歌が叫び返した。

 

「それで響さんを、無関係の人々を苦しめて良い理由になる筈がないデス!! 博士は、本当にそんな事を望んでいるのデスか!? アタシは信じたくないデス!」

「他ならぬ本人が言っているのですよ? 信じてくださ──」

「──アタシの知っている博士なら!」

 

 ウェルの言葉を切歌が遮り。

 

「──もう一人の……キリカが悲しむような事は、する筈が無いのデス……!」

「──っ」

 

 彼女の言葉がウェルの胸に突き刺さり、思わず表情を歪めてしまい。

 

「──決めました」

 

 すぐに表情を超えて──一線を超えたのだと、ウェルが睨み付ける。

 

「次に退場するのは──君だ、切歌くん」

 

 その言葉と同時に──響が一気に切歌の懐に入る。そして、黒く染まった拳が叩き込まれた。

 

「ぐ……!」

「……」

 

 しかし切歌はイガリマの鎌で防いで何とか直撃を避けていた。

 それでも衝撃は流しきれず、苦悶の表情を浮かべる切歌。

 

「では、籠の中でひっそりと──消えてください」

 

 そう言ってウェルは端末を操作し、響に一つの指示を出す。

 すると、響が懐からテレポートジェムを取り出し──空間を隔離するアルカ・ノイズを召喚し、切歌と共に姿を消した。

 

「切ちゃん!」

 

 調が叫ぶが届かず。

 これで中のアルカ・ノイズを倒さないと脱出できない。しかし中には響も居り──状況は絶望的。

 

「後は、僕を倒すしかないですね」

「──バカ助手!」

「とはいえ、非力な僕ではシンフォギア相手には一秒も保たない」

 

 ──なので。

 

「とっておきのお供を召喚させて貰いましょうか!」

 

 そう言ってウェルは、一つのテレポートジェムを取り出し、一体のアカシア・クローンを召喚する。

 

「そういえば、アナタ達が先ほど相手にしたアカシア・クローンですが、語るのも憚れる程の粗悪品でしてね」

「──何が言いたいの?」

「いえ、皆さんが名付けた戦闘マシーンに堕ちたレプリカタイプ……それの寄せ集めでして」

 

 サンジェルマンも戦いの最中にその事に気づき、救えない事に瞠目した。

 

「その寄せ集めで伝説の力を再現したせいか、攻撃面は再現できているようですが、防御面はからっきし。加えて時間が経てば自壊する」

「……」

「だから、マリアさんと同じ力を得た錬金術師達も時期に此処へ来るでしょう──とはいえ」

 

「キュララララ!!」

 

 召喚されたアカシア・クローンが咆哮を上げ、ウェルが近づき注射を打つ。すると咆哮が収まり、落ち着いた様子でクリス達を睨み付けた。

 

「響さんが切歌くんを始末する時間は稼げるでしょう。そして、アナタ達はこの子に──キュレムには勝てない」

「キュラララララ!!」

 

 ──ウェルが召喚したアカシア・クローンもまた伝説級。

 空気が凍り、氷の力に耐性のあるクリスと調が思わず体を震わせる。

 

「では洗礼です──キュレム! りゅうのいぶき!」

 

 キュレムの力がクリス達に襲いかかり──。

 

「──破ッッッッッッッ!!」

 

 割り込んだ赤い影が竜の息吹を吹き飛ばした。

 それを為した人物を見て、ウェルは心底嫌そうな顔をした。

 

「……アナタが出てくるのは反則でしょう風鳴司令」

「──友が悪道に堕ちたのか否か。それ以前に仲間を殺されそうな時に黙っていられる程、俺は穏やかでは居られないんでな……!」

 

 戦場に現れたのは、弦十郎だった。

 

「司令……!」

「すまないな二人とも──四体の伝説級が現れたと見て、上が泡を喰って突いて来てな」

 

 しかしおかげで弦十郎も前線に出る口実が生まれた。

 

「ウェル──戻って来て貰うぞ!」

 

 弦十郎は、ウェルを心底信じ切った目でそう言い、弦十郎はウェルに向かって跳んだ。

 しかしそれをキュレムが阻み、彼の竜の波導と弦十郎の拳が激突し、爆発が起きる。当然弦十郎にダメージはない。発勁で受け流した。

 

「相変わらず人間辞めていますね……」

 

 伝説級のアカシア・クローンに単身挑んで推せる人間など、目の前の弦十郎か全力のマリアくらいであろう。

 今もキュレムが氷柱を飛ばし、それを弦十郎が涼しい顔で避けている。

 加えて、装者達も援護に回る。

 

「はぁ!!」

「っ……!」

 

 クリスと調のレーザーがキュレムの両翼に直撃しバランスを崩す。その隙を逃さず弦十郎が一撃を叩き込んだ。

 キュレムが悲鳴を上げ、思わず地面に倒れ伏した。

 

「降伏しろ──そして全てを話してくれ」

「──いえ、そういう訳には行かないのです」

 

 ──それに。

 

「どうやら、仕事は早く済んだ様で」

「──何?」

 

 弦十郎が首を傾げると同時に、藤堯から連絡が入る。

 

『司令! 錬金術師協会の三人がアカシア・クローンを撃破! 今、そちらに──』

 

 その言葉の途中で、テレポートジェムによりサンジェルマン達が転移してくる。どうやら戦況を既に把握しているようで、場に着くなり武器をウェルに向ける。

 

「貴様が協力者か」

「おっと、随分なご挨拶ですね」

 

 サンジェルマンに強く睨まれても、ウェルは余裕を崩さず──。

 

「まぁ、そちらは──こちらと比べて一歩遅かった様ですがね」

「──何?」

 

 サンジェルマンが眉を顰めると同時に──友里の悲鳴が通信越しに響く。

 

『そんな……!?』

「どうした、友里!」

『──イガリマの反応、消失』

 

 彼女の言葉を聞き。

 

「──え?」

 

 呆然と調が呟くと同時に──空間が割れ、そこから響が現れる。

 そして、ズルズルと引き摺るナニカを──放り投げた。

 ドシャ、と皆の前に堕ちたのは──目を閉じ、冷たくなった……切歌だったモノ。

 

「──切、ちゃん?」

「どうやら魂を殺した様ですね」

 

 切歌の亡骸に縋り付き涙を流す調を見ながら、響の力を知り尽くしているウェルが語る。

 

「タイプ・ワイルドビーストは身体能力の向上の他にも様々な力を持っています。相手を眠らせたり、魂を操ったり──肉体を傷付けず殺すなんて朝飯前でしょう」

 

 つまり切歌は、魂を殺されてしまったという事。

 魂を刈り取る力を持つイガリマの装者相手にそれを行う等、なんて皮肉だろうか。

 それを為した響は、相変わらずバイザーで表情を隠してウェルの側に立つ。

 

「──なんで」

 

 切歌に抱き着きながら──調が叫んだ。

 

「──なんで、なんで!?」

「理由は先ほど言った通りですよ調さん──もう、アナタとの科学ごっこは終わりだ」

「あ──」

 

 調のギアが──彼女の心に反映して解除される。

 そんな彼女に向かって、キュレムの氷柱が向けられ。

 

「さようなら──」

 

 彼女を穿つ牙となって──襲い掛かった。

 

 

 ◆

 

 

「やれやれ、相変わらず厄介ですね」

「……」

 

 ウェルは響と共に撤退した。

 結論から言うと、最後の一撃は弦十郎に防がれた。その後サンジェルマンがカウンターの攻撃を仕掛けてきたが、転移した事で躱している。

 

「っ……!」

「おっと」

 

 基地に戻った事により響の拘束が解かれ、彼女はウェルの胸元を掴んだ。

 しかしウェルは対して抵抗せずされるがまま。ギリギリと服を掴み続け──響は拳を開いて力無く座り込んだ。

 そして──。

 

「ねぇ、ウェルさん──」

 

 響は──。

 

「ウェルさんの科学で……わたしを殺して」

「……」

「もう、耐えられない──殺したくない。殺すくらいなら、わたしが!!」

「──そして、せっかく手を繋いだ家族を見殺すのですか?」

「──!」

 

 ウェルの言葉に──響の胸の中の絶望が強く、重くのし掛かる。

 

「響さん、恨んでくださいこの僕を。アダムを。そして忘れなさい、仲間を殺した事は。何なら僕が──」

「──良い」

 

 スクっと立ち上がった響は。

 

「やっぱりわたしが背負っていくから」

 

 そう言って響は暗い瞳でウェルは見て──自分の部屋に戻った。

 それを見送ったウェルは──ため息を吐く。

 

「さて──あと二人ですか」

 

 

 

 喪失のカウントダウン継続。

 イガリマの反応消失。

 

 

 残りの装者──2人。

 

 

 

今まで出てきたグループでどれが好き?

  • 雷光のフリューゲル(奏翼光彦)
  • 翳り寄り添う日陰(響コマチ)
  • 先史文明期コンビ(フィーネアカシア)
  • 愛娘に挟まる陰獣(クリスキリカコマチ)
  • 波導と姉妹(リッくん先輩マリアセレナ)
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