【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第十一話「過去焼却」

 切歌の遺体は、一度錬金術師協会が預かる事となった。肉体に損傷がなく、魂が死んだだけなら、錬金術で蘇生ができる――かもしれない、から。

 調は、藁にも縋る思いでサンジェルマン達に頼った。何故なら――調は、自分の力で切歌を救う事ができないと思い込んでいるからだ。

 

 今の彼女の側に――ウェルは居ない。

 

「――死とは何だと思う、サンジェルマン?」

 

 二代目の問い掛けに、彼女は答えあぐねていた。こういう時の彼の問いかけは普通の答えを返しても意味が無い。

 何か、伝えたい事があるのだろう。

 

「肉体が壊れた時? 魂を失った時? 確かにそうなのだろう、普通なら。しかし私はこう考えるんだ、死について」

 

 二代目は語る。

 

「――その人がその人である証を失った時死ぬ、私はそう思うのさ」

「……」

「それと一つ質問するよ、アカシア様について」

「っ! 何でしょう?」

 

 もしや、自分が歩み寄ることができていない事を指摘するのか、そう身構えるサンジェルマンだが、二代目の質問は――思わず感情を荒げてしまうものだった。

 

「君は知っているかい――アカシア様の殺し方を」

「ーー」

 

 空気が、凍る。

 サンジェルマンは、二代目を強く睨み付けていた。

 

「二代目、それはどういう意味ですか」

「ああすまない、変な意味じゃないんだ。ただ確認をしておきたくてね、君には」

「……彼は命を賭けて人を救います。死因はそれがほとんどかと」

「――50点だ、その答えだと」

「それが何か――」

 

 苛立ちが混じり始めたサンジェルマンの声は――二代目の三言で黙らせられる。

 

「――祈り」

「祈り……?」

「ああ、祈りさ――あの方を殺すのは」

 

 サンジェルマンの心臓が、鼓動が早くなる。

 

「力の代償で死ぬ? 確かにそうだろう。しかしそれは死に方であり殺し方ではないんだ、あの方にとっては。

 

 

 死んでくれ。そう強く祈れば死ぬんだ、あの方は」

「――」

 

 奇跡を起こす神を殺す方法は――あまりにも簡単すぎて。

 そしてそれを知る二代目の瞳は――悲しみに暮れていた。

 

 サンジェルマンは思い出す。

 

 ――母さんを救ってくれないイグニスなんて、死……!

 

 あの日、一時の感情で――想ってしまった感情を。

 

 

第十一話「過去焼却」

 

 

 クリスは、人と会う為にSONGの本部から離れていた。

 敵の襲撃が予想される為、本来なら避けた方が良いのだが――クリスに会いたいと言った人間を、彼女は無視する事ができなかった。

 カリオストロを護衛につける事を条件に、クリスは一つのレストランに向かう。

 そして、そこでクリスを待っていたのは――。

 

「――クリス」

「――ソーニャ」

 

 ソーニャ・ヴィレーナ。

 バルベルデ共和国に住む女性で、かつてクリスの両親の思想に共感し協力し――クリスにとっては姉のような存在だった。

 

 

 

「……久しぶりね」

「……うん」

 

 二人の間の空気は、重かった。

 彼女達にあるのは、目の前の相手に対する後悔と罪悪感。

 ソーニャはクリスの両親を自分のミスで死なせてしまった事で、クリスはそんなソーニャを拒絶し罵倒してしまった事を。

 長い長い沈黙が続き――それを破ったのは一人の少年。

 

「もう二人とも! 暗いよ! せっかくこうして会えたのに!」

「ステファン」

 

 彼はソーニャの弟だ。

 クリスと話し合いたいが、なかなか踏み出せずにいたソーニャの背を押した男の子。

 彼はクリスを真っ直ぐな目で見据えて口を開く。

 

「バルベルデではありがとう」

「え……?」

「村の補給の手伝いをしているのと……戦っているのを見たっていう子が居たのを知ったんだ。そして、助けてくれた女の子が姉さんの知人で――仲直りしたいって知ったら居ても立ってもいられなくなった」

「――っ」

「ねぇ。クリスは……ソーニャ姉さんの事を許せない?」

 

 ステファンの問い掛けに、クリスは答えあぐねていた。

 何故なら今――クリスは許されてほしいが、もう許されないであろう少女の事を知っている。

 ……調は、響の事を憎んでいた。

 今は鎮静剤を打ち寝かせているが――目を覚ませば響を、ウェルを、殺しに行きそうな程に荒れていた。

 

 それを見ると――踏ん切りが付かない。

 

「わたしは――過去に酷い事をしてその事を責められて、でも許して貰った事がある」

 

 コマチを攫った時のことだ。

 フロンティア事変で二課から離れる際に、響はクリスを強く拒絶した。

 しかし戻って来て、謝られて、許された。

 だからクリスは、そんな優しい響が好きだ。

 

 そんな響が苦しんでいる。

 それを放置して――ソーニャを許し、自分が楽になるのは勝手過ぎるのではないか? そう思ってしまう。

 ただ……クリスもまた、ソーニャに謝りたかった。

 許されたいからではなく、彼女が好きだから。

 

「……」

「……」

 

 沈黙が続く。

 しかし、それを破るのは――やはりステファンだ。

 

「二人とも、俺から生意気な事を言う――もう変えられない過去に囚われないでくれ」

『――!』

「それじゃあ二人があまりにも可哀想だよ。この瞬間、これからの未来は変えられるのに――勇み足していたら、変えられるものも変えられない!」

「――でも」

 

 しかしクリスは、ステファンの言葉を聞いても不安が取り除かれなかった。

 

「わたしのせいで未来が悪いものになったら、未来を変えられなかったら――そう思うと」

「――クリス」

 

 俯くクリスの肩を、ソーニャが優しく掴む。

 

「今、クリスは何か辛い選択に迫られているんだね――そんなクリスにこんな事を言うのは、酷だと思うけど」

 

 ソーニャは――言った。

 

「――ごめんなさい、クリス。アナタの両親を死なせてしまって」

「――あ」

「ずっと謝りたかった。許されなくても良い。過去を振り払いたい訳じゃない――ただ」

 

 クリスともう一度、笑い合う為の未来を掴みたいから。

 だから、彼女はクリスに会いに来た。また、ソーニャお姉ちゃんと呼ばれる未来を想って。

 そしてクリスもまた――少しだけ前に進む勇気を胸に宿した。

 

「――わたしも、ごめん」

「――クリス?」

「本当はあんな事言いたくなかった――ソーニャお姉ちゃん」

「クリス!」

 

 ソーニャは、涙を流してクリスを抱き締めた。それをクリスは優しく受け止め――響に許され、彼女の腕の中で泣いた日を思い出す。

 

(響も、こんな気持ちだったのかな)

 

 人を許すには凄く勇気が必要だった。

 そして許して再び手を取り合えるようになると、こんなにも温かい気持ちになる。

 

 ――クリスは覚悟を決めた。

 

「――二人とも、ありがとう」

 

 彼女は、立花響を――。

 

「わたし、頑張るから」

 

 許し、そして助けたいと強く願った。

 ――翼が必ず助けると言っていたその想いを無駄にしない為に。

 

「……フフフ」

 

 そして、笑顔を浮かべる三人をカリオストロは離れた場所から見ていた。

 

 

 

 

「ブイ……」

 

 調ちゃん……自分の研究室に引き篭もって出なくなっちゃった。

 しかしそれも無理も無いよね。

 信頼していたウェルさんに裏切られて、何よりも大切だった切歌ちゃんを失い、それを為したのが――。

 

「……」

 

 翼さん……彼女も……。

 俺があの時、残らずに彼女に着いていけばあるいは──。

 何で俺はあの時離れてしまったんだ。もしかしたら、翼さんを死なせる事も無かった……そう考えてしまう。

 

翼さんも切歌ちゃんも、響ちゃんを絶対に助けるって言ってた。

切歌ちゃんは、響ちゃんの誕生日を豪勢にお祝いしてあげたいとずっと前から言っていた。調ちゃんやウェルさん。マリアにセレナ、翼さん奏さんや弦十郎さん達も巻き込んで……。

 

 皆楽しみにしていた――していたのに。

 

「――いつまで落ち込んでいるワケだ」

「……ブイ」

 

 プレラーティさんが何処か呆れた様子で現れた。

 彼女は俺に近づくと見下ろしてため息を吐く。

 

「お前の事はよく知っている――何度も別れを経験している筈ワケだ。だったら慣れているのではないのか?」

 

 ――何だと。

 

「ああ、そう言えば記憶を失うのだったな――だったら慣れないワケだ」

「ブイ……ブイ!」

 

 例え記憶があっても慣れる訳が無いだろ!

 大切な仲間が死ぬこの悲しさを!

 

「――だったらしっかりと覚えておけ」

 

 プレラーティさんがグイッと俺を持ち上げて、視線を合わせる。

 

「それが、お前が残して来た……忘れてしまった人達の苦しみだ!」

 

 ――っ!

 

「こんな事をお前に言っても無意味なのは分かっている――だが、言わずにはいられないワケだ」

 

 ……でも、それでも俺は。

 

 ――俺が答えあぐねていると、突如警報が鳴る。

 すぐに発令室から弦十郎さんの声が響いた。

 

 響ちゃんのガングニールの反応があったと。

 それと同時にイチイバルの反応もあり――すぐに消えた、とも。

 そういえば、今日はクリスちゃんは出掛けていた。もしかして――。

 

「あ、一人で突っ走るな! 私も同行するワケだ」

 

 俺は、テレポートを使って跳んだ。

 その際にプレラーティさんも割り込んで来たが――それすら気にならない。

 だって、俺たちの目の前にあるのは――。

 

 燃えるお店。

 転がる焼け焦げたサッカーボール。

 無惨に放り投げられた見た事のある半壊したライフル。

 

 そして――。

 

「――カリオストロ!?」

「ごめんね、プレラーティ……サンジェルマンを――!」

 

 真っ赤に燃える拳でカリオストロさんを貫き、そのまま彼女を消し去る――響ちゃん。

 カリオストロさんは光の粒子となって消え去り――燃えるレストランを背に響ちゃんはこちらを見る。

 そして。

 

「――掌握」

 

 緑色の宝石を取り出し、握り砕く。

 

「――変換」

 

 腕を伝い、全身に緑の力を宿していく。

 

「――この手に切り裂く刃を」

 

 そして、握るのは草薙の剣。

 

「――ガングニール」

 

 ――ガングニール・アカシッククロニクル。

 ――タイプ・グラスセイバー。

 

「ブイ……」

 

 俺は、響ちゃんが切りかかってくるのを――ただ、見ている事しか出来なかった。

 

 

 

 

「――響」

 

 何処か浮遊感を感じる中、クリスは――プレラーティとコマチに襲いかかる響を見ていた。

 彼女達を見つめる自分の体は透けており――瓦礫の中に倒れ伏している自分の身体を見つけて理解した。

 

 ああ、自分は死んだのだと。

 よく覚えていないが……最後に見たのは響の悲しそうな顔だった。

 それまでソーニャ達と楽しく会話をしていた。ステファンがサッカーボールを見せつけて俺の夢だと言って、応援したいと思って……でも、そんな彼も、彼の姉も此処には居ない。

 

 せっかく分かり合えたのに、出会えたのに――呆気なく壊された。

 

 しかしクリスは響を恨む気持ちは無かった。

 

 確かにソーニャたちが巻き込まれた事は悲しいが――自分が死んだ事は、彼女に殺された事はちっとも気にしていなかった。

 それは何故か? それは――。

 

(そっか……わたし、響になら――殺されても良いと思ったんだ)

 

 初めは罪悪感からだった。

 次は許されたことへの感謝。

 しかし次第にそれは変わり――クリスは響達の事を大切に想うようになっていた。

 だから響が誰かを傷付ける事を悲しく想い、絶対に止めると思い。

 自分が殺された時は気にせず、むしろそれで良いと思っていた。

 

 響が大好きだから。

 

 唯一気がかりなのは――。

 

(響――ゴメンね)

 

 響が自分を責めて潰れてしまわないか、それだけが気になり――そこでクリスの意識は無くなった。

 

 

 

「――ブウウウウウウウイ!!」

 

 戦場にコマチの叫び声が虚しく響き――響はひたすら黙って凶刃を振るい続けた。

 

 

 

 喪失のカウントダウン継続。

イチイバルの反応消失。

 

 

 残りの装者──1人。

 

今まで出てきたグループでどれが好き?

  • 雷光のフリューゲル(奏翼光彦)
  • 翳り寄り添う日陰(響コマチ)
  • 先史文明期コンビ(フィーネアカシア)
  • 愛娘に挟まる陰獣(クリスキリカコマチ)
  • 波導と姉妹(リッくん先輩マリアセレナ)
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