【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
「──英雄、ですか」
「ああ、そうだ。アダム様の元に居れば神の力を得て英雄になれる。貴様は英雄になりたかったのだろう?」
キリカの墓前の前で、パヴァリアの錬金術師がウェルを勧誘していた。
目の前の錬金術師の言葉を聞いて、ウェルは心底──見下していた。
どうやら、パヴァリアに人の心を理解する者は居ないらしい。
ウェルを知る者なら、此処で頷く筈はないと思う筈だ。どういう理由があるにせよ、キリカの墓の前で怪しい勧誘に傅き堕ちる事はない──筈、なのに。
「連れて行ってください。アナタ方のアジトへ」
「──英断だ。歓迎しようウェル博士」
この時彼は、博士ではないと……訂正しなかった。
それから時間が経った。
響がサンジェルマン達を逃した事により、ウェルのダイレクトフィードバックシステムで彼女を操る必要ができた。
ウェルはアダムに言われた通り戦闘中の響の身体、伝達神経を掌握した。
結果──装者を全滅まで追い込んだ。
「ウェルさん、何で……」
「わたし、もう嫌だ。こんな事したくない」
「もう死にたい……わたしを殺して」
そして響は、ウェルに助けを求めた。
果てには自分を殺してくれと頼み込んだ。
……彼女は、一度もウェルを攻めなかった。
「僕を恨んでください」
そしてその度にウェルは響にそう言って──彼女は、何も言わなくなった。
そんな響を──ウェルは見ている事しかできなかった。
◆
「放せ! 死なせろおおおお!」
「くそ、暴れるな貴様……!」
フォークを握り締めた洸が、二人の錬金術師に取り抑えられている。
食事の為に持ってきた際に、フォークを手に取り自害を図ったのだ。それは彼の妻と義母も同じで──三人とも響を想っての事だった。
「何事です!」
「彼が、例のあの子を助けようとして……」
駆け付けたウェルは錬金術師から話を聞くと、懐から注射を取り出して洸に近付く。
「落ち着いてください。アナタが死んでも彼女は──」
「──何故!」
洸が、ウェルの言葉を遮り睨み付ける。
「何故、裏切ったんですか……!」
「……」
「アナタの事は聞いていました──親友を、自分を救われたと」
「──響さんが」
意外だと思った。
自分は──そこまでの人間ではないから。
「尊敬していると言っていた……! いつか恩返しをしたいと言っていた──なのに!」
「──その機会はもう一生訪れません」
そう答えるとプスリと注射を洸に刺すウェル。
「ぁ──」
「そのまま僕の事を恨んでください──その激情を忘れずに生き延びて」
それだけ伝えるとウェルは他の二人にも注射を撃ち眠らせる。
「丁重に運んであげてください」
「ええ、分かっています」
錬金術師達は洸達を抱えると、別の部屋へと移動させる。今まで住まわせていた部屋は暴れて散らかっていた為に。
ウェルはため息を吐き、アダムの元へと向かう。洸が暴れた事は既に知っているのだろう。故に彼が報告をしないといけない。
「……」
──最善を尽くす為に、全て捨てるつもりだった。
──最善が無理と悟り、次善策へと移行した。
──しかし結局最悪の結末を迎えた。
「──未練がありますね」
既に決めた筈だ。あの手を取りSONGから離れたあの時に。
もう──あの場所には戻らない,と。
だから考えるな。かつての仲間の事を。
自分は、彼らの敵だ。
響を操る悪の科学者だ。
そうでないといけないんだ。
「アダム、人質が暴れ出しました」
「ふうん、それで?」
アダムの局長室に入り報告するも、彼は対して反応を示さなかった。まるで、死んでも死ななくても構わないと言わんばかりに。
その態度に思わず眉を顰め、追求する。
「それで? ではありませんよ。彼らが死んだら、響さんの戦う理由が無くなる──そうなると、僕たちに牙を剥くでしよう」
「ならないよ、そうは」
しかし、アダムはキッパリと否定した。
そして徐に立ち上がり、ウェルの横を通り過ぎようとする。ウェルは、彼の腕を掴んで止める。
「待ってください。話はまだ──」
この場に留めて話を続けようとし──。
「──触るな、汚らわしい人間風情が」
「──っ」
──ズブッ……とアダムの腕がウェルの腹を貫き、そのまま勢いよく吹き飛びデスクに突っ込む。
風穴を空けられたウェルは、口から血を吐きながらアダムを睨み付ける。
「──もうおしまいにしないか、この茶番を」
「──同感ですね。僕も飽きてきた所です」
第十三話「神殺英雄」
「さて初めの質問をしよう、いつからだ?」
「そんな物、初めからに決まっているでしょう」
──ウェルは、初めからアダムの味方をする気が無かった。
気付いていたとはいえこうもはっきり言われると、苛立ちから舌打ちを打つアダム。
二人の間に仲間意識は無く。
常日頃から相手を欺く事だけを考えていた。
「裏切りですらないのか、恐れ入るね」
「インプットしていないのですか? 裏切りとは、仲間を裏切る時に使うのです」
──自分が裏切ったのはSONGだと思っている。目的の為に、ウェルは許されない事をした。
だから、パヴァリアの元へ行った時に、アダムが響を掌握している事を悟った時に──決めていた。もう戻れないと。
「また一つ賢くなりましたね」
「……」
明らかにアダムを蔑む様に言い。
対してアダムは無言で錬金術を行使し、ウェルの体を痛め付ける。
「ぐ……!」
「だが無意味だったな、貴様の足掻きは。何もできなかったものなぁ、結局」
アダムはずっとウェルを警戒していた。
ダイレクトフィードバックシステムの為に利用していたが、いつ何が起きても始末できるようにしていた。
しかしウェルは何もしなかった。ただ響の側に居ただけ。
それを見て警戒のし過ぎだったと思い、こいつも不完全で何も為せないと、アダムは嘲笑った。
「歯痒かっただろう、ずっと。常に視て、感じていたからね、立花響を」
戦場に出ている間、アダムは常に響の感覚と同期させていた。ウェルが何か妙な動作をすれば、すぐに殺せるように。人質である家族を殺して響の精神を壊せる様に。ウェルの企みを木っ端微塵にする為に。
しかし、それは起きず──装者は全滅した。
「無様だな、本当に」
全くもって──心底そう思う。
「──僕も、質問良いですか?」
嘲笑うアダムに、ウェルが痛みに耐えながら問い掛ける。
「僕をこうして始末するという事は──もうダイレクトフィードバックシステムは必要ないという事で?」
「お察しの通りだよ、君のね。彼女は操り人形さ、僕の」
呪いが完全した今、ウェルは必要ない。
故に邪魔者である彼を此処で殺す事にした。
「──なら」
その言葉を聞いたウェルは、懐から端末を押しボタンを押す。
──彼はこの時を待っていた。
響の感覚と同期させていたアダムが眉を顰める。
響の中から、何かが欠落した。それは恐らく──。
「……解除したのか、あのオモチャを」
「ええ、既にお試し期間は過ぎていましたからね。全く、とんだお客様に捕まったものです」
しかし──アダムからすれば、不可解だ。
「何故そんな無意味な事をするんだ、今更に。何がしたいんだ、君は」
「──決まって……いる、だろう」
ここで初めてウェルは感情を顕にした。
それは──怒りだった。
「彼女を救うために、僕は此処に居る……!」
──ウェルは、英雄に興味が無かった。
かつては確かに夢焦がれていたが……今は全くこれっぽっちも目指していない。
何故なら既に──過去に捨てる事ができたから。
「──しかしできなかったじゃないか、一人では。それにあるのか彼女に、救う価値が」
果たして、仲間殺しを成した響を救う価値があるのか。できるのか。もう彼女は戻れないとアダムは言うが……。
「──ある!」
彼は全力でアダムを否定した。
ウェルは、愛に生きる男。
彼は誓ったのだ。生かされた愛に──
調や切歌達の大切な仲間を助ける事を──諦めなかった。
諦めてしまえば、ケツを思いっきり蹴られてしまうから。
「だから、僕は──!」
「──相変わらず下らないな、人間! よく見てみるんだ、結末を!」
「……ッ」
アダムは、強い苛立ちを覚え始める。
「救えていないと言っているだろう、さっきから! お前は無意味なんだ、負けたんだよ、この僕に!」
「──はは」
ウェルの口から、声が出る。
「──何を笑っている」
「はははははははははははははは!!」
「何を笑っているんだと、聞いている!」
理解できないと。何故笑うのだと。
目の前の男に苛立ち……恐れを抱くアダムの怒声に、ウェルは──。
「──神に作られた人形、思いの外ポンコツですね」
「──」
その言葉は、アダムの琴線に触れ。
「──死ね」
「──カハ……!」
彼の手刀がザックリとウェルの体を切り裂いた。
血がさらに噴き出て、ウェルは目の前が良く見えない程に、目が霞んできた。
「──分かるはずがないさ、人間風情に」
「──」
ドチャリとうつ伏せに倒れ、床に血溜まりを広げるウェルは──何も答えない。
「……死んだか。どこまでも不快だな、人間」
そう吐き捨てたアダムは。
「──手に入れに行こうか、神の力を」
既にウェルへの興味を失い──そのまま外へと出た。
「……」
そして、ウェルは──。
「っ……」
最期の仕事をするべく、這いつくばりながら動き出した。
◆
「はぁ……はぁ……」
ウェルは、自分に充がれた部屋に向かいながら──犠牲となった装者達の事を想っていた。
「マリアさん……」
彼女は、ウェルの事を信じ切っていた。
彼が恐怖を覚えるくらいに。
しかし、あの強さは──今は亡き友を思い出す。
でも一番無茶をする人間で見ていてヒヤヒヤする──その辺の性格を直して欲しかった。
「奏さん……」
辛いはずなのに、響を助けようとしていた彼女の強さをウェルは眩しく思った。
あの強さがあれば、何か変えられたのかと思い──できないから今こうして死にかけていると笑う。
「セレナさん……」
自分のことを生理的に無理だと言い、こっちもゲロシャワーしてくる女は願い下げだと言い、喧嘩した日が懐かしいと……そんな当たり前がもう来ないと、少し寂しく思うウェル。
そして、姉を殺した相手を想い涙を流す彼女は──優しい女性だった。
「翼さん……」
奏を失っても尚、暗闇に堕ちることなく響を助けようとしていた。
それが嬉しかった。復讐に囚われないその強さがあったからこそ、彼女はあの呪われた血に抗えたのだと思った。
「切歌さん……」
酷い事を言ってしまった。酷い事をしてしまった。
彼女は自分の事を信じてくれていた。それを裏切った自分は許されない、と強く思う。
そして──彼女の魂が抜かれた時、酷く心を乱された。
「クリスさん……」
響に殺されても良いと想うその気持ちは、尊いのかもしれない。愛なのかもしれない。
ただ、ウェルは──響と未来に向かう事を選んで欲しかった。そこまで考えて、自分にそんな事を思う資格は無いと思い直す。
「──調さん」
彼女は最後まで自分の事を信じていた。そして成長していた。
何処か、自分が居ないといけないと思っていたのだが──どうやら思い過ごしのようだった。彼女は、強くなった。
「ぐ、はぁ……はぁ……」
ウェルは、部屋に隠していた発信機を取り出す。これを使えば、仲間がこの基地の場所を発見し──響の家族を救う事ができる。
発信機を作動させ、ウェルはそのまま天井を見上げ、仰向けになる。
手を自分の腹部に添えると、ぬちゃ……っと音が鳴り、霞んだ視界で己の手を見る。
霞んでても分かるほど、真っ赤だった。
もう、助からない。
「──申し訳ありません、皆さん」
その言葉を最後に、ウェルはゆっくりと目を閉じて──部屋は静かになった。
「ダメデスよ博士、こっちに来たら。じゃないとケツを蹴り上げるデス!」
そして、聞こえない筈の声が、聞こえた。
◆
「ア、アダム様何を!?」
「生贄だよ、神出づる門の為の」
「おやめくださ──あああああああああ!!?!?」
アダムは、パヴァリアに所属する錬金術師達を引き連れて──そのまま生命エネルギーへと変えていく。
彼らはこの時の為にアダムに飼い慣らされていた。
「──」
それを響は無感情に見つめていた。
もはや彼女の目には──何も映らない。
鏡写しのオリオン座が、神出づる門が開かれ──ティキに神の力が流れ込んでいく。
「もうすぐだ……もうすぐだぞ──アカシア」
神様のヒカリを目に、アダムは紡ぐ。
「これで君をようやく──」
神となり、奇跡を殺し、友を救う為に──。
今まで出てきたグループでどれが好き?
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雷光のフリューゲル(奏翼光彦)
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翳り寄り添う日陰(響コマチ)
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先史文明期コンビ(フィーネアカシア)
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愛娘に挟まる陰獣(クリスキリカコマチ)
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波導と姉妹(リッくん先輩マリアセレナ)