【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第十三話「神殺英雄」

「──英雄、ですか」

「ああ、そうだ。アダム様の元に居れば神の力を得て英雄になれる。貴様は英雄になりたかったのだろう?」

 

 キリカの墓前の前で、パヴァリアの錬金術師がウェルを勧誘していた。

 目の前の錬金術師の言葉を聞いて、ウェルは心底──見下していた。

 

 どうやら、パヴァリアに人の心を理解する者は居ないらしい。

 

 ウェルを知る者なら、此処で頷く筈はないと思う筈だ。どういう理由があるにせよ、キリカの墓の前で怪しい勧誘に傅き堕ちる事はない──筈、なのに。

 

「連れて行ってください。アナタ方のアジトへ」

「──英断だ。歓迎しようウェル博士」

 

 この時彼は、博士ではないと……訂正しなかった。

 

 

 それから時間が経った。

 響がサンジェルマン達を逃した事により、ウェルのダイレクトフィードバックシステムで彼女を操る必要ができた。

 ウェルはアダムに言われた通り戦闘中の響の身体、伝達神経を掌握した。

 結果──装者を全滅まで追い込んだ。

 

「ウェルさん、何で……」

「わたし、もう嫌だ。こんな事したくない」

「もう死にたい……わたしを殺して」

 

 そして響は、ウェルに助けを求めた。

 果てには自分を殺してくれと頼み込んだ。

 ……彼女は、一度もウェルを攻めなかった。

 

「僕を恨んでください」

 

 そしてその度にウェルは響にそう言って──彼女は、何も言わなくなった。

 そんな響を──ウェルは見ている事しかできなかった。

 

 

 ◆

 

 

「放せ! 死なせろおおおお!」

「くそ、暴れるな貴様……!」

 

 フォークを握り締めた洸が、二人の錬金術師に取り抑えられている。

 食事の為に持ってきた際に、フォークを手に取り自害を図ったのだ。それは彼の妻と義母も同じで──三人とも響を想っての事だった。

 

「何事です!」

「彼が、例のあの子を助けようとして……」

 

 駆け付けたウェルは錬金術師から話を聞くと、懐から注射を取り出して洸に近付く。

 

「落ち着いてください。アナタが死んでも彼女は──」

「──何故!」

 

 洸が、ウェルの言葉を遮り睨み付ける。

 

「何故、裏切ったんですか……!」

「……」

「アナタの事は聞いていました──親友を、自分を救われたと」

「──響さんが」

 

 意外だと思った。

 自分は──そこまでの人間ではないから。

 

「尊敬していると言っていた……! いつか恩返しをしたいと言っていた──なのに!」

「──その機会はもう一生訪れません」

 

 そう答えるとプスリと注射を洸に刺すウェル。

 

「ぁ──」

「そのまま僕の事を恨んでください──その激情を忘れずに生き延びて」

 

 それだけ伝えるとウェルは他の二人にも注射を撃ち眠らせる。

 

「丁重に運んであげてください」

「ええ、分かっています」

 

 錬金術師達は洸達を抱えると、別の部屋へと移動させる。今まで住まわせていた部屋は暴れて散らかっていた為に。

 

 ウェルはため息を吐き、アダムの元へと向かう。洸が暴れた事は既に知っているのだろう。故に彼が報告をしないといけない。

 

「……」

 

 ──最善を尽くす為に、全て捨てるつもりだった。

 

 ──最善が無理と悟り、次善策へと移行した。

 

 ──しかし結局最悪の結末を迎えた。

 

「──未練がありますね」

 

 既に決めた筈だ。あの手を取りSONGから離れたあの時に。

 もう──あの場所には戻らない,と。

 だから考えるな。かつての仲間の事を。

 自分は、彼らの敵だ。

 響を操る悪の科学者だ。

 そうでないといけないんだ。

 

「アダム、人質が暴れ出しました」

「ふうん、それで?」

 

 アダムの局長室に入り報告するも、彼は対して反応を示さなかった。まるで、死んでも死ななくても構わないと言わんばかりに。

 その態度に思わず眉を顰め、追求する。

 

「それで? ではありませんよ。彼らが死んだら、響さんの戦う理由が無くなる──そうなると、僕たちに牙を剥くでしよう」

「ならないよ、そうは」

 

 しかし、アダムはキッパリと否定した。

 そして徐に立ち上がり、ウェルの横を通り過ぎようとする。ウェルは、彼の腕を掴んで止める。

 

「待ってください。話はまだ──」

 

 この場に留めて話を続けようとし──。

 

 

「──触るな、汚らわしい人間風情が」

「──っ」

 

 ──ズブッ……とアダムの腕がウェルの腹を貫き、そのまま勢いよく吹き飛びデスクに突っ込む。

 風穴を空けられたウェルは、口から血を吐きながらアダムを睨み付ける。

 

「──もうおしまいにしないか、この茶番を」

「──同感ですね。僕も飽きてきた所です」

 

 

 第十三話「神殺英雄」

 

 

「さて初めの質問をしよう、いつからだ?」

「そんな物、初めからに決まっているでしょう」

 

 ──ウェルは、初めからアダムの味方をする気が無かった。

 気付いていたとはいえこうもはっきり言われると、苛立ちから舌打ちを打つアダム。

 

 二人の間に仲間意識は無く。

 常日頃から相手を欺く事だけを考えていた。

 

「裏切りですらないのか、恐れ入るね」

「インプットしていないのですか? 裏切りとは、仲間を裏切る時に使うのです」

 

 ──自分が裏切ったのはSONGだと思っている。目的の為に、ウェルは許されない事をした。

 だから、パヴァリアの元へ行った時に、アダムが響を掌握している事を悟った時に──決めていた。もう戻れないと。

 

「また一つ賢くなりましたね」

「……」

 

 明らかにアダムを蔑む様に言い。

 対してアダムは無言で錬金術を行使し、ウェルの体を痛め付ける。

 

「ぐ……!」

「だが無意味だったな、貴様の足掻きは。何もできなかったものなぁ、結局」

 

 アダムはずっとウェルを警戒していた。

 ダイレクトフィードバックシステムの為に利用していたが、いつ何が起きても始末できるようにしていた。

 しかしウェルは何もしなかった。ただ響の側に居ただけ。

 それを見て警戒のし過ぎだったと思い、こいつも不完全で何も為せないと、アダムは嘲笑った。

 

「歯痒かっただろう、ずっと。常に視て、感じていたからね、立花響を」

 

 戦場に出ている間、アダムは常に響の感覚と同期させていた。ウェルが何か妙な動作をすれば、すぐに殺せるように。人質である家族を殺して響の精神を壊せる様に。ウェルの企みを木っ端微塵にする為に。

 

 しかし、それは起きず──装者は全滅した。

 

「無様だな、本当に」

 

 全くもって──心底そう思う。

 

「──僕も、質問良いですか?」

 

 嘲笑うアダムに、ウェルが痛みに耐えながら問い掛ける。

 

「僕をこうして始末するという事は──もうダイレクトフィードバックシステムは必要ないという事で?」

「お察しの通りだよ、君のね。彼女は操り人形さ、僕の」

 

 呪いが完全した今、ウェルは必要ない。

 故に邪魔者である彼を此処で殺す事にした。

 

「──なら」

 

 その言葉を聞いたウェルは、懐から端末を押しボタンを押す。

 ──彼はこの時を待っていた。

 響の感覚と同期させていたアダムが眉を顰める。

 

 響の中から、何かが欠落した。それは恐らく──。

 

「……解除したのか、あのオモチャを」

「ええ、既にお試し期間は過ぎていましたからね。全く、とんだお客様に捕まったものです」

 

 しかし──アダムからすれば、不可解だ。

 

「何故そんな無意味な事をするんだ、今更に。何がしたいんだ、君は」

「──決まって……いる、だろう」

 

 ここで初めてウェルは感情を顕にした。

 それは──怒りだった。

 

「彼女を救うために、僕は此処に居る……!」

 

 ──ウェルは、英雄に興味が無かった。

 かつては確かに夢焦がれていたが……今は全くこれっぽっちも目指していない。

 何故なら既に──過去に捨てる事ができたから。

 

「──しかしできなかったじゃないか、一人では。それにあるのか彼女に、救う価値が」

 

 果たして、仲間殺しを成した響を救う価値があるのか。できるのか。もう彼女は戻れないとアダムは言うが……。

 

「──ある!」

 

 彼は全力でアダムを否定した。

 ウェルは、愛に生きる男。

 彼は誓ったのだ。生かされた愛に──最高傑作(愛娘)に顔向けできるように。

 調や切歌達の大切な仲間を助ける事を──諦めなかった。

 

 諦めてしまえば、ケツを思いっきり蹴られてしまうから。

 

「だから、僕は──!」

「──相変わらず下らないな、人間! よく見てみるんだ、結末を!」

「……ッ」

 

 アダムは、強い苛立ちを覚え始める。

 

「救えていないと言っているだろう、さっきから! お前は無意味なんだ、負けたんだよ、この僕に!」

「──はは」

 

 ウェルの口から、声が出る。

 

「──何を笑っている」

「はははははははははははははは!!」

「何を笑っているんだと、聞いている!」

 

 理解できないと。何故笑うのだと。

 目の前の男に苛立ち……恐れを抱くアダムの怒声に、ウェルは──。

 

「──神に作られた人形、思いの外ポンコツですね」

「──」

 

 その言葉は、アダムの琴線に触れ。

 

「──死ね」

「──カハ……!」

 

 彼の手刀がザックリとウェルの体を切り裂いた。

 血がさらに噴き出て、ウェルは目の前が良く見えない程に、目が霞んできた。

 

「──分かるはずがないさ、人間風情に」

「──」

 

 ドチャリとうつ伏せに倒れ、床に血溜まりを広げるウェルは──何も答えない。

 

「……死んだか。どこまでも不快だな、人間」

 

 そう吐き捨てたアダムは。

 

「──手に入れに行こうか、神の力を」

 

 既にウェルへの興味を失い──そのまま外へと出た。

 

「……」

 

 そして、ウェルは──。

 

「っ……」

 

 最期の仕事をするべく、這いつくばりながら動き出した。

 

 

 ◆

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 ウェルは、自分に充がれた部屋に向かいながら──犠牲となった装者達の事を想っていた。

 

「マリアさん……」

 

 彼女は、ウェルの事を信じ切っていた。

 彼が恐怖を覚えるくらいに。

 しかし、あの強さは──今は亡き友を思い出す。

 でも一番無茶をする人間で見ていてヒヤヒヤする──その辺の性格を直して欲しかった。

 

「奏さん……」

 

 辛いはずなのに、響を助けようとしていた彼女の強さをウェルは眩しく思った。

 あの強さがあれば、何か変えられたのかと思い──できないから今こうして死にかけていると笑う。

 

「セレナさん……」

 

 自分のことを生理的に無理だと言い、こっちもゲロシャワーしてくる女は願い下げだと言い、喧嘩した日が懐かしいと……そんな当たり前がもう来ないと、少し寂しく思うウェル。

 そして、姉を殺した相手を想い涙を流す彼女は──優しい女性だった。

 

「翼さん……」

 

 奏を失っても尚、暗闇に堕ちることなく響を助けようとしていた。

 それが嬉しかった。復讐に囚われないその強さがあったからこそ、彼女はあの呪われた血に抗えたのだと思った。

 

「切歌さん……」

 

 酷い事を言ってしまった。酷い事をしてしまった。

 彼女は自分の事を信じてくれていた。それを裏切った自分は許されない、と強く思う。

 そして──彼女の魂が抜かれた時、酷く心を乱された。

 

「クリスさん……」

 

 響に殺されても良いと想うその気持ちは、尊いのかもしれない。愛なのかもしれない。

 ただ、ウェルは──響と未来に向かう事を選んで欲しかった。そこまで考えて、自分にそんな事を思う資格は無いと思い直す。

 

「──調さん」

 

 彼女は最後まで自分の事を信じていた。そして成長していた。

 何処か、自分が居ないといけないと思っていたのだが──どうやら思い過ごしのようだった。彼女は、強くなった。

 

「ぐ、はぁ……はぁ……」

 

 ウェルは、部屋に隠していた発信機を取り出す。これを使えば、仲間がこの基地の場所を発見し──響の家族を救う事ができる。

 発信機を作動させ、ウェルはそのまま天井を見上げ、仰向けになる。

 手を自分の腹部に添えると、ぬちゃ……っと音が鳴り、霞んだ視界で己の手を見る。

 霞んでても分かるほど、真っ赤だった。

 

 もう、助からない。

 

「──申し訳ありません、皆さん」

 

 その言葉を最後に、ウェルはゆっくりと目を閉じて──部屋は静かになった。

 

 

 

 

「ダメデスよ博士、こっちに来たら。じゃないとケツを蹴り上げるデス!」

 

 そして、聞こえない筈の声が、聞こえた。

 

 

 ◆

 

 

「ア、アダム様何を!?」

「生贄だよ、神出づる門の為の」

「おやめくださ──あああああああああ!!?!?」

 

 アダムは、パヴァリアに所属する錬金術師達を引き連れて──そのまま生命エネルギーへと変えていく。

 彼らはこの時の為にアダムに飼い慣らされていた。

 

「──」

 

 それを響は無感情に見つめていた。

 もはや彼女の目には──何も映らない。

 鏡写しのオリオン座が、神出づる門が開かれ──ティキに神の力が流れ込んでいく。

 

「もうすぐだ……もうすぐだぞ──アカシア」

 

 神様のヒカリを目に、アダムは紡ぐ。

 

「これで君をようやく──」

 

 神となり、奇跡を殺し、友を救う為に──。

今まで出てきたグループでどれが好き?

  • 雷光のフリューゲル(奏翼光彦)
  • 翳り寄り添う日陰(響コマチ)
  • 先史文明期コンビ(フィーネアカシア)
  • 愛娘に挟まる陰獣(クリスキリカコマチ)
  • 波導と姉妹(リッくん先輩マリアセレナ)
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