【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
ピッピッピッ……と心電図の音と酸素マスク越しの呼吸音が部屋に響く。
此処は、SONG本部にある集中医療室。そこで眠るのは――ウェル。
彼は、端末で協会の協力者に位置を知らせた後、出血多量で意識を失っていた。
普通なら助からない。アダムもそのつもりで攻撃をしたし、ウェルもその覚悟を持っていた。
しかし――彼は生かされた。
「――」
ゆっくりと、ウェルの瞼が開き、そして――。
「――どうやらまたアナタに助けられようですね……キリカさん」
夢か幻か……果たして現実か。
ウェルは最後に見た光景を、最高傑作の姿を思い浮かべて深く息を吐いた。
ウェル――死の峠を乗り越え生き返る。
◆
数日が経ち、ウェルは面会ができるくらいには回復した。
その途端、真っ先に彼の元に現れたのは――響だった。
部屋に入って来た響はいの一番に頭を下げて礼を述べる。
「ウェルさん……わたしの為にありがとうございました」
しかし、ウェルは。
「やめてください。僕にお礼を言われる資格はありません」
響の感謝の言葉を受け取ろうとしなかった。
彼がこのように言うことは分かっていたのか、響は表情をゆがめさせながらも何も言わず、ウェルの言葉を待つ。
それを見てため息を吐き、観念したように語り出す。
「僕はアナタを助ける為とはいえ、到底許されない事をしました――辛かったでしょう、仲間を殺すのは」
「っ……」
響の拳に、仲間を殺した時の感触が蘇る。
しかしそれはウェルの作り出した嘘で――それでも彼は、嘘だから、死んでいなかったからと、この事を有耶無耶にするつもりはない。
「──だとしても」
しかし響は。
「ウェルさんのおかげで大切な人が死なせずに済み……皆を殺さずに済みました」
「--しかし」
「確かに辛かったですけどーーわたしは救われました」
認めようとしないウェルに、無理やりにでも感謝の言葉を送る。
「ウェルさん。わたしは何度でもアナタにお礼を言います。何度でも何度でも……」
「どうしてそこまで……?」
彼の問いに、響は少し笑って答えた。
「--愛、ですよ」
「何故そこで愛?」
「……それは、あの子達から聞いてください」
それだけ伝えると響は部屋を出てーーすれ違いに入ってきたのは調と切歌だった。
二人は、それはもう凄い顔をしていた。ベッドに横たわるウェルを鋭い目つきで睨みつけ、今にもシンフォギアを纏って切り刻んでしまいそうなほどだ。
その迫力には流石のウェルも冷や汗を流し、落ち着かせようと言葉を紡ぐ。
「あの、お二人さん。今は御覧のあり様なのでできれば折檻は後日ーー」
「--バカ助手!!」
「--ウェル博士!!」
「は、はいぃ!?」
部屋を揺らすと錯覚する程の大声に、思わずウェルが縮み上がり返事をする。
しかし二人はそんな事知らないと言わんばかりに突撃を開始し、ウェルは自分の死を覚悟しーー力なくそっと二人に抱き締められた。
え? と戸惑う彼の胸元にじんわりと生暖かい感触が広がる。
視線を下すとーー二人は涙を流していた。
「バカ……お前は本当にバカ……無茶しすぎ……!」
「うぇーん! ぶ、無事でよかったデスよー! 死んだらもう二度と会えないんデスよ! そこのところ分かっているんデスか!?」
二人の反応に、ウェルは理解が追い付かなかった。
彼の想定では怒りを向けられると考えていた。
彼女たちが響に対して親愛を向けていたのは知っている。だから作戦に組み込んだ。
だがーー彼女たちが自分に対して泣くとウェルは思ってもいなかった。
「二人とも、怒っていないのですか?」
『怒っている!(デス!)』
しかし、その怒りは彼の行いに対する義憤ではなくーー心配しての事。
「……分かりません。何故ですか? 何故響さんもあなた方もそんな真っすぐな目で僕を見る」
そう、理解できないーーしてはいけない。
「僕は許されない事をしたのですよ!? 裏切ったんですよ!? あなた達を! 酷い事も言いました! 尊厳を踏みにじる事もしました! それなのに!」
「--まだ分からないのか」
取り乱すウェルに静かに声をかけるのは、今しがた部屋に入ってきた源十郎。
彼だけではない。緒川、ナスターシャ、藤堯、友里、エルフナインーー部屋の外には他のスタッフや、響を筆頭に装者達や未来も居た。
全員ウェルが騙し裏切りーーそして、孤独に戦った彼のことを想う仲間たちだ。
「変な意地張っていないで戻って来てください」
「俺たち、ウェルさんの事信じてましたから」
「ウェルさんには、今回だけではなく普段から助けられていますからね。正直、今抜けられると困ります」
「ボクも、まだまだ貴方から学びたいことがあります!」
緒川、藤堯、友里、エルフナインが言葉を紡ぐ。
「そうですよウェルさん。貴方がいないと色々と大変なんだ」
「また一緒にお菓子食べましょうよ」
「以前みたいに面白い話、聞かせてください」
後方スタッフ達。
「ウェルさん。貴方のおかげで響は帰ってきたんです」
「うん。だからウェルさんも戻ってきて元のSONGに」
未来とクリス。
「あまり意地張っていると後から戻り辛いぞー?」
「その辺の損得、アンタなら分かるだろ?」
翼と奏。
「ブイブイ!」
「ウェルさん……」
コマチと響。
「--ウェル」
「……ナスターシャ」
「貴方に悪役は似合いませんーーさっさと戻ってきて調さんに尻に敷かれ、切歌さんに振り回されーー愛する娘との誓いを胸に明日へと進む本来の姿に戻ってください」
源十郎も深く頷いて答える。
「今回の一件上から色々言われたがーー全て蹴った」
上層部は、ウェルを信用していないようだ。
今回の一件を重く見て処罰を検討していたようだがーー源十郎により謹慎まで持ち込んだとのこと。
「ったく、大変だったんだぞ? --次、一品奢れ」
そして。
「俺も奢るーーそれでチャラにしてくれねーか?」
と、源十郎は豪快に笑いながら彼に宣った。
それでもウェルはーー自分が許せない。許されてはいけないと思っている。
「ウェル」
そんな彼にさらに声をかけるのはマリア。
先日切断された腕をくっ付け、包帯で吊るしているその姿は痛々しい。
彼女が一番ウェルに協力したと言える。後ろにはセレナも控えており、ウェルを優しく見ていた。
「人間は常に正しい選択を取れる訳ではない。何度も失敗し、後悔する」
「……」
「でも、それでもその度に立ち上がり前へと進むことができるーー何故か分かる?」
ウェルは首を横に振り、そんな彼にマリアが答えを示す。
彼女が指を向けた先にはーー調と切歌。
「人は繋がっている。バラルの呪詛で相互理解が阻まれようとーー人を想う愛で繋がっている。そしてその繋がりが支えあい、時に争い、それはいつしか未来へと至る」
「ウェルさんーー調さんと切歌さんの為にも、自分を許してあげたらどうですか?」
二人の言葉にーーウェルの瞳が揺れる。
「ウェル」
そんな彼にーー調が言葉をかける。
「一度しか言わないから、よく聞いてその出来の悪い頭に刻み込んで」
調は、彼に秘められた想いを伝えた。
「わたしは、アンタのことを兄のように想っている」
「--」
「無駄にテンション高くて無駄に何でもできて心底うざいと思うけどーー尊敬している。家族のように想っている」
予想外だったのかウェルはパクパクと口を開けては閉めて、言葉が出ない。
そんな彼に切歌も想いを伝える。
「アタシもウェル博士の事をお兄ちゃんのように想っているデス。いつもたくさんの事を教えてくれて、アタシの話をきちんと聞いてくれて、調に内緒でお菓子をくれてーーそんなウェル博士が大好きなのデス!」
「だからーー」
「だからーー」
『わたし/アタシから、大切な家族を奪わないで』
「……」
ウェルはそっと目を閉じーー深く深く息を吐いた。
そして、視界に映るSONGの皆を一人一人、しっかりと顔を見て。
最後に抱き着いている二人を見てーーため息を吐いた。
「--降参です」
そっと両手を上げ。
「愛にはーーこんなに大きな愛には、ちっぽけな僕が敵う訳無いじゃないですか」
「--じゃあ」
「ええーーこれからもよろしくお願いします」
ウェルの言葉を聞いたその場のスタッフ達はーー声を上げて喜び。
ようやく本来の形へと戻った。
その光景を、廊下の先でサンジェルマン達が微笑みながら見ていた。
「嬉しそうねサンジェルマン」
「ああーー綺麗で素晴らしいものを見た」
◆
「しかし兄、ですか……ふふっ」
「きも」
思わず笑みを浮かべたウェルに、調が辛辣な言葉が掛けられるが先ほどの光景の後では照れ隠し以外の何物でもない。
加えてケガをしている為、いつものように蹴られる事もなく。
それが分かっているのかウェルはニヤニヤし……調はメモを書き始める。
「調、何デスかそれ?」
「バカ助手への借り。治ったらまとめて蹴り飛ばす」
「……」
照れ……隠し……?
装者と未来以外は仕事に戻り、部屋には彼女たちしかおらず。
調を止める者は居なかった。
ウェルが来る未来に戦々恐々としていると。
「まったく、貴方も無茶するわね」
『いやお前が言うな』
苦笑しながらそのような事を宣ったマリアに全員から突っ込みが入る。セレナは額に青筋を浮かべて怒ってすらいた。
予想外の反応にマリアが狼狽するが、皆の反応も無理はない。
響を救うために死を偽装したが、唯一マリアだけが本当に死にかけた。
ウェルが手伝ってくれと言った瞬間、自ら腕を斬り落とす。
ウェルはそこまでやれと言っていない。
その後腹部に穴をあけて鮫に食われた様に演出する。
ウェルはそこまでするなと叫んだ。
しかし、マリアはーー。
「相手を騙すなら、事実も混ぜた方が良いわ」
これだから頭勇者は、とウェルはマリアが怖くなった。
しかし実際にこれによりアダムを最後まで騙し通す事ができた。
その後重体で死にかけたけど。
そしてセレナが合流し、全てを聞いてーーブチ切れた。
今のように。
「姉さん?」
「--ごめんなさい」
流石に反省したのか、素直にマリアが謝る。
「……ごめん」
そして、響もまた皆に謝った。
「わたしのせいで、みんなーー」
「もう、それは言わない約束だよ響」
そんな彼女を未来がそっと抱き締める。
「お前にも辛い思いさせたしな」
奏がいつもの調子で軽快に笑う。
「オレ達もまた謝らないといけない」
安心させるように翼が微笑みかけ。
「わたし達はあの時の選択を後悔しない」
むんっと握り拳を作って答えるクリス。
「仲間を見捨てる事のほうが何よりも辛いから」
背伸びして響の頭を撫でるマリア。
「響さんがわたし達に申し訳なく思う気持ちと同じくらい、あなたを助けたかったんです」
その光景を愛おし気に見ながらやさしい言葉を紡ぐセレナ。
「だから響さん、あの言葉を言ってほしいデス!」
切歌が響に訴えかけ。
「わたし達はその言葉を聞くために頑張ったんだから」
調がそっぽ向きながらそう言い。
「ブイブイ」
響の肩に乗ったコマチが優しい声で伝える。
最初は戸惑いを見せる響だったがーー柔らかく微笑むと、自分を愛してくれている彼女たちに、その言葉を紡いだ。
「--ただいま」
そして、それに応える言葉はもちろんーー。
『おかえり!』
皆が、笑顔で当たり前のようにーー響へと送った。
きりしらが彼氏連れて来たら「お兄ちゃん認めません!」と叫ぶタイプのウェル
ウェルが誰かと恋仲になったら興味ないフリしつつ相手をバチグソ調査して相応しいか調べ尽くす調とお菓子に釣られてウェルより仲良くなる切歌
そんな一家です
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