【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
ピクリ、と自分の耳が動くのを感じ、それと共に意識が覚醒する。閉じていた目を開けて体を起こし、ぐ〜っと全身を伸ばしながら欠伸をする。
体に掛かっていたタオルを口を使って畳み(ぐちゃぐちゃ)、少し開いている襖を開ける。すると太陽の光が全身を駆け抜けた。つまり眩しい。
「ブ〜イ……」
俺は、寝所として使わせて貰っている押し入れからぴょんっと飛び降り、洗面所に向かう。そこで水を出して顔を洗って眠気を吹き飛ばす。
んー、サッパリ!
ふんわり柔らかいお日様の匂いがするタオルで顔を拭く。なんでかこのタオル好きなんだよなー。いい匂い。
スッキリした俺はご主人……は否定されているから、家主かな……とりあえず家主である響ちゃんを起こすべく彼女の部屋に向かった。
イーブイボディを駆使して扉を開き、中に入る。
「ブーイ!」
おっはよー! 響ちゃん、朝だよー!
って……あら……?
「……なに?」
やっぱりもう起きてた……。
俺が起こしに行く度に、響ちゃんは既に起きている。最初は気にしていなかったんだ。
早起きだなー、くらいにしか思っていなかった。でも違ったんだ。
響ちゃんは早起きという訳ではなく、正確には──。
「ブーイ……ブイブイ……」
響ちゃん、
「……別に。ちゃんと寝てるよ」
響ちゃんはこう言うが、目の下に薄らとある隈で分かる。
彼女は寝ていない。いや、正確には眠る事ができない、が正しい。
目を閉じて横になってはいるけど、すぐに悪夢を見て飛び起きているのをこの前見た。
……よっぽど酷い夢なんだろう。その時に口に出していた言葉が、誰かを呼ぶ声が、普段の彼女とは思えないほど弱々しかった。
──いや、普段も強くないな。
独りでいる為に強がっているだけなんだ。
だから俺は今日も彼女に構う。
「ブイブーイ!」
「……アンタを枕にしたら熟睡? ──冗談じゃ無い」
獣臭くて寝れないよ。
そう言って響ちゃんはご飯を作る為に部屋を出てキッチンに向かった。
俺は響ちゃんから放たれた一撃に、倒れ伏していた。
臭くねーもん。ちゃんと風呂入っているもん。清潔に保っているもん。
シクシク泣きながら、俺もキッチンに向かった。
響ちゃんの所に厄介になって数週間。
俺たちの1日はこうして始まるのであった。
それが、新しい日常。
第三話「だからこそ/だとしても」
響ちゃんは一人暮らしをしていて自炊ができる。
本人曰く最低限の物しか作れないとの事だが、俺からしたら十分に美味しい!
それに!
「ブーイ!!」
「……美味しそうに食べるね」
そりゃあ美味しいからだよ!
響ちゃんの手で握られたおむすびに、さらに盛られたご飯!
味噌汁! 漬物! 目玉焼き!
ザ・朝食って感じで凄く美味しいんだよね!
ちなみに響ちゃんは俺の三倍の量を食べていらっしゃる。ノイズと戦うからエネルギーが必要なのかなー?
でも食べすぎると太──。
「何か言った」
いえ、何も言ってないです!
余計な事を考えずにモグモグ食べる事にする。
うめー! ご飯&ごはーん!
「……アンタは変だと思わないんだね」
何がでしょうか?
「そのご飯&ご飯……昔、頭がおかしいと言われた」
うーん。まあ美味しいし、好きだから良いと思う!
響ちゃんも好きなんでしょ? ご飯&ご飯!
「……まあ、嫌いでは、ない……」
じゃあ好きって事ね!
だったら良いじゃない! 好きな物いっぱい食べれば!
それにお腹空いてたら嫌な事ばかり考えちゃうから、食べて食べて頭の中スッキリしよう!
「……世の中アンタみたいに能天気なら良かったのかもね」
褒められた! ありがとう!
「……ほんと、単純」
えへへへ……。
嬉しくなった俺はテンションのままおかわりを三回した。
お腹膨れて苦しくて動けなくなった。
タスケテ……タスケテ……。
「自業自得」
セカイ……ホロボス……。
「本当に単純……」
呆れ切った響ちゃんの声が、パンパンに膨れた俺の腹に響いた。
◆
響ちゃん外に行こー!
「いや。行くなら一人で行って」
うん分かったー!
「……え?」
さて。
許可を貰ったので腹ごなしに外に出ることにした。
毎回響ちゃんを誘っているんだけど、その度に断られるんだよね。
元々外に出るのも最低限だし(買い出しとノイズ殲滅のみ)。
テレビも新聞も無いから、とことん外の世界と関わり合いたくないみたい。たまに掛かってくる電話も、響ちゃん曰くヒトデナシの人くらいだし。
そうこうしているうちに街に到着!
最初はなるべく隠れているようにしていたけど、最近は割と堂々と歩いている。何故なら、この街の人達は温かいからだ。
「あ! また見つけた! 相変わらずアニメに出てくるみたいな子だなー」
「今日もふわふわでナイスです!」
「よくわかんない生き物だけど、可愛いよね」
学校に行く学生も。
「あー! ブイちゃんだ!」
「おい毛皮! 母ちゃんからクッキー貰ったからやるよ!」
道ゆくちびっ子たちも。
「おや、今日も一人なのかい? たまにはご主人と寄ってきなよ!」
「今日も散歩かコマチ! これでも食っていけよ! 魚の切り身だ!」
店のおっちゃんもおばちゃんも。
みんなみんないい人だ。
「久しぶりだなー非常食」
ただしホームレス。てめえはダメだ。
まったく。こんなプリチーなイーブイを非常食にするなんてふてえ野郎だ!
これでも食らいな!
「! め、飯!」
商店街で貰った食べ物を投げつけた。するとホームレスは美味しそうにそれに飛び付いて食べ始める。
まったく……それで勘弁してくれよな。
「ふう……すまなかったな」
腹が満たされて正気に戻ったのか、謝ってくるホームレス。
全く……大人がヘラヘラと。
仕事見つけて食い繋いでくれよ。そして俺を食べようとするな。
「人間、極限状態になると何でも食べれそうになるんだ……」
勘弁してくれよ……大丈夫か……?
「ははは……へいき、へっちゃらさ」
だと良いんだけどな……。
俺はこちらに手を振るホームレスに尻尾を振りながら、その場を歩き去ることにした。
「……肉、食いたいな」
ダッシュで走り去った。
裏路地から逃げ出し、しばらくして息を吐く。
そろそろお昼の時間だ。
しかし家には帰らない。実は昼食は外で食べるのだ。
俺はいつもの公園へと向かう。時間は既に12時。あの子、もう居るかも。
その予想は当たっており、ブランコに俺が思い描いていた女の子が座っていた。
走っていた勢いを利用して跳び、その女の子の膝に乗る。
「ブイ!」
「わっ、びっくりした」
女の子は綺麗な銀色の長髪を驚きで揺らし、次に頬をプクリと膨らませて宝石のように綺麗な瞳をこちらに向ける。
「遅い……」
「ブイブイ!」
「また会っていたの……? あまり危ない人と会ったらダメだよ? コマチ」
と、注意しながら女の子は俺を抱き上げてモフモフし始めた。
「はー……落ち着く……」
今日も随分とストレスが溜まっていらっしゃる。
また例のママと喧嘩でもしたのかな?
そう言うとムッとして俺の言葉を否定してきた。
「フィーネはママじゃない……わたしのママはママだけ」
素直じゃないなー。
でもそのフィーネって人も君の事を想って厳しいと思うんだけどなー。
「でも口うるさい……女の子はおしとやかにって。部屋はしっかり整理整頓……一人称はオレじゃなくてわたし……。小動物に手荒な扱いをしない……。
今思い出しても厳しすぎる」
でも、好きなんでしょ?
「……」
無言でペチペチと頬を叩いてくる女の子。
あざといわー。やっぱりこの子あざといわー。
ニマニマしていると、モフモフはもう気が済んだのか、俺を抱えてベンチに移動し、鞄から弁当箱を取り出してくる。
「ブイ!」
弁当から食欲を刺激する匂いがする
んー、美味そうだ〜!
涎をダラダラ垂れ流しながら尻尾をぶんぶん振ってしまう。止まらない! 辞められない! 女の子は仕方がないと苦笑して弁当箱から唐揚げを取り出すと、こちらに差し出す。
「はい、あーん」
「ブー……ング」
口の中に入れられたモノをよく噛んで味わう。
むむむ! これは、前回よりも良い感じにカラッと揚げられている……! つまり美味しい!
腕を上げたな、銀髪の女の子!
「ふふふ。ありがとう」
嬉しそうな表情を浮かべながら、次のおかずを差し出す女の子。
俺はそれにパクつく。
うめうめ。
これならフィーネママを見返せるぜ!
「……うん」
じゃあ、そろそろ名前を……。
「ごめんなさい」
また振られた!
「……フィーネがダメって」
愛されてますね〜。
っとお弁当も食べ終わったな。
俺は女の子の膝から降りて一鳴きする。
「うん。今日もありがとう。また、明日ね」
また明日! その言葉を最後に女の子と別れる。
少し前にここで出会って続いている奇妙な関係。
お弁当を食べて感想を言うポケモンと、毎日作って来て料理の腕を上達させようとするあざとい女の子。
俺はこの時間が好きだった。
んー、明日もまた楽しみだなー!
「ブイ……」
お腹いっぱいになって眠くなってきた……。
それに、ポカポカする陽気でさらに──。
「ねえ、起きて」
「……ブイ?」
優しく体を揺らされ、心地よく感じる声で目が覚めた。
一つ欠伸をして、声のした方を見るとリボンをつけた黒髪の女の子がこちらを見ていた。
「こんな所で寝ていると風邪引いちゃうよ?」
そこまで言って女の子は不思議そうに首を傾げる。
「……あれ? 何でわたしこんな事……」
どうやら自分の行動に疑問に思っているようである。
まあ、俺イーブイだし。寝ている動物普通起こさないよな……とぼんやりした頭で考える。
「ブイ!」
とりあえずお礼を言うために、前足を上げて鳴いてみる。
すると女の子は酷く驚いた顔をした後、こちらの頭を優しく撫でながら誰かの名前を口にした。聞こえなかったけど、大切な人なんだろうな。だって、凄く辛そうな表情を浮かべていたから。
「放っておけなかったんだ……」
「ブイ」
「……ううん。何でもない。わたし帰るけど、君は──」
「ブイ!」
「……そう。気をつけて帰ってね?」
起こしてくれた少女と別れ、俺は響ちゃんの家に向かう。
夕方になる前に帰る予定だったのだが、
それにしてもさっきの子の手、気持ちよかったなー。まるで陽だまりみたいだ。今日初めて会ったから、普段はこの街に居ないはず。つまりレアキャラだ!
って、そんなことより早く門限までに帰らないと怒られちゃう。
うおおおおおお! 高速移動だ!
「……っ!?」
「どうした奏?」
「いや……何でもない、気のせいだ」
(今一瞬光彦が居た気がしたが──あり得ない。
だって、あいつは死んだ……。
いや、違う。あたしが──殺したんだ)
──両翼は、失った光と出会うこと能わず。
◆
いやー! 今日も楽しかった! それに会う人がみんないい人!
以前の生活だとあり得なかった事だ!
これも響ちゃんと出会ってからだ! もしかして響ちゃんの人徳の為せる技かなー?
「そんな訳ないじゃん。それにおだてても門限過ぎた事は無くならないから」
ひんひん。おかず一個奪取能わず〜。
でも割と本気でそう思っているけどね。
「──あり得ないよ。だって」
わたしは、もう人を信じないから。
明らかな拒絶を持ってそう答える響ちゃん。
俺は、彼女の言葉にどう応えようか考え。
ノイズ発生を知らせる警報が鳴り響いた。
「っ!!」
途端、響ちゃんは目つきを鋭くさせて立ち上がると、外へと飛び出した。
俺も慌てて追いかける。
……やっぱり苦手だ。響ちゃんのあの目は。
ノイズを憎み、そして押し隠す悲しみと寂しさを怒りで燃やすあの目。
アレだけは──ダメだ。
俺が追いついた時には、既に響ちゃんは変身してノイズを次々と倒していた。
街の人達は既に逃げたみたい。
これなら誰かが被害に遭う事はない。
問題は……。
「おおおおおおお!!」
怒りと憎しみで拳を奮っている響ちゃんだ。
破竹の勢いで殲滅しているけど、いつ見ても危なっかしいな……。
身体能力でゴリ押しできる相手だからいいけど、それでも数が多いから不意打ち──って!?
「ブイ!」
危ない!
突然響ちゃんの背後に現れたノイズが、彼女を攻撃しようとしていた。
響ちゃんはそれに気付いていない。危惧していたシチュエーションが起きてしまった。
俺は素早く駆け出し、響ちゃんの背後に回って──ノイズの一撃をその身で受けた。
「っ!? コマ──」
「ブ……ブイ!!」
意外と重い一撃に思わず顔を顰めるが、すぐに反撃に移る。
シャドーボールを形成し、発射。ゼロ距離により威力命中共に最大限に発揮できた。
灰となって消えるノイズを見送り、ホッと息を吐いて響ちゃんの方へ振り向き……。
「なにを……してる!?」
──感情を顕にした響ちゃんに怒鳴られた。
ひ、響ちゃん……!?
予想外の反応に思わず戸惑っていると、彼女は残りのノイズを叩き潰しながら叫ぶ。
「誰が助けてくれと頼んだ! わたしはこいつらに殺される事はない!」
で、でも怪我はするかもしれないし……。
だから守るのは当然──。
「──守る? ふざけるな!!」
全てのノイズを蹴散らした響ちゃんはこちらを見た。
ノイズに向ける瞳と同じものを俺に向けて。
「わたしが……わたしが一番守って欲しい時に、誰もわたしを守ってくれなかった! 助けてくれなかった!」
支離滅裂な言葉。少し考えれば、俺に言っても仕方のない事を響ちゃんは言っている。
だが、俺はその言葉をおかしいと思わなかった。否定することができなかった。
だって。
俺は今初めて──彼女の心に触れたと理解したから。
「期待したくない……! 光に焦がれて、この身を焼いて痛い思いをするのなら──」
これは──彼女の悲鳴だ。
「一生闇の中で良い。独りで良い」
彼女は己以外を否定する。傷つかないように。
「──だからこそ」
──だとしても。
「──もう、あんな思いをしたくないんだ」
──もう、そんな思いをさせない為に。
「わたしはもう救われないで良い」
この子を、俺は絶対に助ける。
第三話「だからこそ/だとしても」