【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
「──ふぅ」
ライブのリハーサルを終えた奏は、ふとため息を吐いた。
自分でも分かる。練習に身が入っていない。細かい所に小さなミスがあるのを自覚し、それがストレスとなっていた。
しかしスタッフはその事に気づいてはない──が。
彼女と長い時間を共にした者達は機敏に感じ取っていた。
「どうした奏? らしくないぞ」
「翼……」
相棒である翼の言葉に、奏が苦虫を噛み締めたような表情を浮かべる。遠くからこちらを見ている緒川も心配そうな顔をしている。
しかし、問いかけながらも翼は理解していた。奏が練習に身が入らない理由を。
「まぁ、あんな事があればな……」
南極にて棺を倒した後、中から出てきたのは──カストディアン、アヌンナキと思われるミイラ……つまり聖骸。
その聖骸の移送を米国空母が行っていたのだが──そこにパヴァリア光明結社の残党が襲撃。聖骸を狙っての犯行だと思われる。
調、切歌、セレナにより聖骸の防衛には成功したものの、残党は逃亡。
新たな敵の出現に奏は此処にいて良いのかと悩んでいた。
「なんか詳しい事知らねーけど、日本……っつーよりSONGにあのミイラと関わらせたくないみたいだ」
各国機関の取り決めにより、アメリカ主導で聖骸の調査が行われる事となった。
先の反応兵器の使用により、孤立気味なアメリカが主導となったのは、果たして──。
「まっ、難しい事は先生達に任せて、オレ達はオレ達の仕事をしようぜ」
「翼……」
にししと軽快に笑い、奏を元気付ける。
何も考えていないと言えば聞こえは悪いが、その芯には人を元気にさせる明るさがあった。
相棒のその言葉にその言葉に奏はぷっと吹き出す。
(翼と一緒なら、ツヴァイウィングは何処までも飛んでいける──)
その事を改めて確認し、奏はワシワシと翼の頭を撫で付ける。翼は突然のことに目を白黒させて「か、奏?」と戸惑いつつ恥ずかしそうにした。
普段の飾ったような翼ではなく、女の子らしい……所謂本当の翼の姿に、奏はにやりと笑う。響やクリス、コマチにも見せない──奏だけが見る事ができる姿。
奏の笑みに揶揄われたと思ったのか、翼が頬を膨らませて拗ねる。それもまた奏だけが見れる特権だ。
「ありがとうな翼──ライブ成功させようぜ」
「──ああ、もちろんだ!」
お互いに突き出した拳がぶつかり、奏の目にもう迷いはなかった。
第二話「涙で濡れたハネ 重くて羽撃けない日は」
「まさかあの状況から逃げられるとは思わなかったゼ」
シュウシュウと音と煙を立てて再生する己の腕を眺めながら、ミラアルクは感心したかのように呟いた。
自分達のアジトにキャロル達を連れて来た所までは良かったのだが──流石は年の功というべきか。隙を突かれて逃げられてしまった。
「シンフォギアも手強かったであります」
米国空母に襲撃を掛けたエルザもまた、先の戦いを思い出す。
調と切歌のコンビネーション。セレナの状況に応じた技や力。
それによりアルカノイズは意味をなさず、エルザもまた終始押されていた。
しかしそれと同時に、主に与えられた力を使えば圧倒できると考え──止められた。
「エルザちゃんもミラアルクちゃんも頑張っているわ。でもそれで無理して怪我をしたらお姉ちゃん悲しい」
そう言って二人を抱き締めるのは彼女達ノーブルレッドのリーダー
エルザに帰還命令を出したのも、逃げ出したキャロル達の深追いを止めたのも彼女であり、
どれだけ二人を大事にしているかが窺える。
「そういえば、我が主人様は何処に?」
「また外で月を見ているであります」
ヴァネッサの問いかけに、エルザが外へと視線を向けながら答える。
彼女達の主人は、時間があれば月を見上げる。まるでそこにある何かに想いを馳せるかのように。
「──そう」
そして、ノーブルレッドは自分たちの主人の想いを理解している。
いや、共感と表した方が正しいだろうか。
彼女達の体はそういう風に造り替えられてしまったのだから。
「──そういえば、あのジジィから連絡があったゼ」
「……なんて?」
ミラアルクの言葉に対して、ヴァネッサが目を細める。
現在、ノーブルレッドは秘密裏に風鳴訃堂の元に下っている。
神の力を得る為、という理由で。
そして、その訃堂から出された指令は──ツヴァイウィングのライブを襲撃し、観客を皆殺しにし、翼の心を折り刻印を仕込む、というもの。
「それは、また……」
「吐き気を催す指示ね……ミラアルクちゃん。その指令、わたしが──」
「いや、ウチがやるゼ」
この指令をこなせば、必ずシンフォギア装者──特に風鳴翼には強く恨まれるだろう。それを危惧してヴァネッサが実行犯を名乗り出ようとし、それをミラアルクが止めた。
ミラアルクは、エルザとヴァネッサを大切にしている。
自分が汚れ役を買って出て、ヘイトを稼いで彼女達の心を守ろうとする程に。
「でも……」
「心配いらないんだゼ! ……それに、ウチらの目的を知れば遅かれ早かれ……」
「……」
「……」
そう、ミラアルクの言葉通り、彼女達ノーブルレッドの目的を知ればシンフォギア装者達は目の色を変えて潰しにかかる。それだけの目的が彼女達にあり、そして確信があった。
ノーブルレッドとSONGは絶対に分かり合う事はできない。そしてそれは錬金術師協会も同様であり、キャロル達とも分かり合う事ができなかった。
それでも彼女達は止まらない。止まれない。──止まるわけにはいかない。
目的の為なら、彼女達は──。
◆
「──外道にだって、喜んで堕ちるゼ」
ライブ会場の上空にて、ミラアルクはアルカ・ノイズを大量に召喚した。
そして、何も力も持たない一般人達を次々と殺していく。
──まるで、かつてのツヴァイウィングライブ事件のような有り様だ。
翼と奏は、その光景を目を見開いて見つめ──次の瞬間。
「Croitzal ronzell gungnir zizzl」
「Imyuteus amenohabakiri tron」
胸の歌を唄い、シンフォギアを纏い、アルカ・ノイズを槍と剣で斬り裂き。
「誰だ──」
「誰だ──」
『──こんな巫山戯た事を、したのは!!!』
それは、ツヴァイウィングのタブー。決して触れてはいけないトラウマ。
あの事件により彼女達は──大切なものを失った。
その時と同じ事が起きた──いや、起こされた事に、二人は怒り心頭だった。
人に襲いかかるアルカ・ノイズをそれぞれアカシアの力を解放し、迅速に、確実に仕留めていく。それでも取り逃がす事があり、一人、また一人と人が死んでいく。
そんな地獄に二人が歯軋りしながら戦う中──ミラアルクが空から声を張り上げる。
「──ウチが来たゼ! ツヴァイウィング!!」
その声に二人が顔を上げる。
「お望みの怨敵は──此処に居るゼ!」
不敵な笑みを浮かべて地獄を作り上げるその姿は──まさに悪。
翼と奏は当然我慢できる筈もなく──高速の羽ばたきと雷速により、ミラアルクを挟むようにして移動し、それぞれアームドギアを構えて振り下ろした。
──が。
「敵を殺すより、まず人を助けるんだな正義の味方さんよぉ!!」
肥大化させた腕の肉で難なく二人のアームドギアを受け止め、動きが止まった瞬間に二人の背後に周り──地面に向かって蹴り落とす。
翼と奏は墜落し、ライブ会場に沈んだ。
「く……!」
「っ……!」
クレーターの中心で倒れている二人は、痛みに耐えながら起きあがろうとし、すぐ側にミラアルクが降り立つ。
「おいおい、まさかこの程度って訳じゃないよな? ガッカリさせないで欲しいゼ」
「テメェ……!」
その物言いに翼が怒りを燃え上がらせ、再びミラアルクに斬りかかる。
背中から生えた翼を羽ばたかせ、ミラアルクを翻弄させようとするが、ミラアルクもまたコウモリ……否、吸血鬼の羽を広げて翼の動きに対応する。
「そんなものか!? 出来損ないのウチと互角じゃあ大した事ないゼ!」
「出来損ないだと!?」
「ああ、そうだ──ゼ!」
ゴイン! と音を立てて翼が剛腕に弾き飛ばされる。
「風鳴翼! そのアカシアの力はよく知っている──何せ、ウチも同じものを埋め込まれたからなぁ!」
「なんだと!」
ミラアルクの羽に力が込められる──その力は確かにアカシアのそれと同じ物だった。
「それだけじゃないゼ!」
ドンっと地を蹴り、ミラアルクは翼に向かって突っ込みながら拳を握り締める。肥大化した腕にもアカシアの力が宿り、しかしそれは──翼やミラアルクの羽に宿ったタイプとは違っていた。
その力は──マリアの使う力と同じタイプ。
「はぁあっ!」
「ぐ──!!」
バギリと音を立てて翼の剣が砕かれながら、後ろへと飛ばされる。
信じられない事だが──ミラアルクの体にはアカシアの力が二つ宿っているらしい。力を振るわれる度にアカシアの存在を感じ──だからこそ許せなかった。
「光彦の力を──」
「ん?」
「光彦の力を汚すな!!」
この惨状を起こした者が、家族の力を使っている事に我慢ならなかった。
砕かれたアームドギアを破棄し、再構成してミラアルクに向かって斬撃を放つ翼。
それを腕で受け止め、逸らすミラアルクは……ニヤリと笑みを浮かべて言い放つ。
「お前が思っている程、この力は綺麗じゃないんだゼ?」
「うるせぇ! あいつはこの力でたくさんの人を救って──」
「──それが思い上がりなんだゼ!」
腕に力を込めて翼に近づき殴り飛ばすミラアルク。
翼は空中で動きを整え、再びミラアルクに突っ込み──直前で動きを止めた。
翼の目の前に一般人が居た──体が下半分斬られ、既に死んでいる少女だ。
「こいつはウチが殺したんじゃないゼ」
目を見開く翼に、彼女は囁く。
「ただ巻き込まれただけだ」
──決定的な言葉を。
「ウチが弾いたお前の斬撃で、な」
「──ぁ」
そこで初めて翼の視界が──広がった。
「翼!」
「翼さん!」
奏と緒川の声が──先ほどからずっと彼女を呼ぶ声がようやく耳に届く。
翼がミラアルクに掛かりきりになっている間に、多くの人が死んだ。
──敵を殺すより、まず人を助けるんだな正義の味方さんよぉ!
ミラアルクの先程の言葉が、翼の頭の中で響き渡る。
人を助けず、憎いと思った相手を殺す事に集中してしまった結果──人がさらに死んだ。
「──」
その事実に翼の心に軋みが生じる。
「風鳴翼、お前随分と考えが軽いゼ」
奏を元気付ける彼女の長所、考えなしの明るさ──それをミラアルクが否定する。
「もうちっと自分を抑えて、考える頭があれば──ウチの罠にハマらなかったゼ」
──お前が遊んでいる間に、たくさん死んだゼ。
その言葉が──認めたくないという気持ちが翼を蝕んだ。
「──あぁぁあああああああ!!!」
斬りかかる翼から逃げるようにして、ミラアルクは手に持っていた少女の死体を放り投げる。しかし、翼はそれを無視して追いかける。
翼の斬撃が飛ぶ。ミラアルクがそれを避け、会場を斬り裂き、落ちた瓦礫が一般人の前に降り注ぎ、アルカ・ノイズに追いつかれ死亡。翼の瞳が揺れる。
ミラアルクが振り向き様に蹴りを放ち、翼が吹き飛び──その先の小さな女の子を下敷きにしてしまい、死亡。翼の瞳が揺れる。
再び追いかける翼だが、ミラアルクは低空飛行をしアルカ・ノイズと逃げる一般人の間を縫うようにして逃げる。それを見た翼がミラアルクを追うか、人を助けるか一瞬迷い──その一瞬でアルカ・ノイズが、ミラアルクに驚いて足を止めた人を殺す。翼の瞳から光が消え始める。
「貴様……貴様ぁあああああ!!」
翼のギアから──アカシアの力が引き離される。
心が限界を迎えた瞬間だ。
そして、その瞬間をミラアルクは待っていた。
「来た! ──刻印。侵略!」
ミラアルクの持つ第三のアカシアの力──悪の力で強化された邪眼が、翼の心の奥底に印を刻み込む。
「目標は達成した──ズラかるゼ!」
「逃がす訳が無いだろうが!!」
「いいや、逃げさせて貰うゼ──こうやって」
上空に飛んだミラアルクの背に巨大な影が現れる。
それは己の体を崩壊させる事を厭わずに、その口から──全てを破壊する光線を放つ。
「──」
「せいぜい生き残るんだ、ゼ!」
そして、ソレは己を代償に破壊エネルギーを解き放ち──ライブ会場は光に蹂躙され、人は……消えた。
◆
「──ブイ!」
翼さん! 奏さん! 緒川さん! とコマチが叫ぶ。
アルカ・ノイズの反応を検知し、急いでヘリで駆けつけたコマチと響達だが──間に合わなかった。
ライブ会場に居た観客は全員死に、生き残ったのは奏がギアの全エネルギーを防御に回して守った……翼と緒川のみ。
他の人は──死んだ。
『……』
悲痛な表情を浮かべる三人。しかし、最も追い込まれているのは──翼だった。
(オレは──)
背中で潰した人の感触が蘇る。
(オ、レは──)
自分の斬撃の切断面を残した死体が目に浮かぶ。
(……わたしは──)
──そして、取り零した命の多さを痛感する。
(また、守れなかった──)
スルリと彼女の手から落ちたアメノハバキリが──軽い音を立てて地面に落ち、砕け散った。
今まで出てきたグループでどれが好き?パート2
-
博士と最高傑作(ウェルキリカ)
-
死を灯す永遠の輝き(錬金術師組と相棒達)
-
陽だまりと太陽(響未来)
-
雪解けの太陽(響クリス)