呪詛師殺しの僕(完)   作:藍沢カナリヤ

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第14話 朱殷ー肆ー

ーーーー成領中学校 保健室ーーーー

 

 

「油断大敵という言葉を実体験を伴って学ぶことができるなんて羨ましい限りだ」

 

「ねぇ、長月ちゃん」

 

 

僕はベッドから身体を起こして、針倉術師の説教を黙って聞く。

 

 

「呪力を込めるのも不安定な君の一撃ですべてが終わるとでも思ったかい?」

 

「はははっ、お笑い草だねぇ」

 

 

いや、説教というより馬鹿にされているって方が近いか。

ただ、今の僕には彼の話を否定できるほどの説得力はない。

皆無だ。

言う通りに油断……したわけでもないけど、警戒を怠って『赤マント』から目を離してしまったのは事実だし。

 

 

「まぁまぁ、私としては紡ちゃんへの土産話が出来たから万々歳だよ」

 

「…………」

 

 

また不謹慎だと怒られそうなものだが。

……こんな生産性のない話をしてるよりも、話をしよう。

 

 

「針倉術師」

 

「違う違う、先生だよ」

 

「……長野さんは?」

 

「ん? 長野…………あぁ、襲われてた生徒か」

 

 

僕と針倉術師の目の前で『赤マント』の被害にあった生徒。

長野桜。

彼女と最後に会っていたのは、きっと僕だろう。

悲鳴が聞こえた瞬間に彼女は僕と一緒にいたわけだし。

 

 

「その話だけどさ、おかしいよねぇ」

 

「……はい」

 

 

針倉術師に指摘されるまでもなく、おかしい。

だって、あの時長野さんと一緒に聞いた悲鳴は、長野桜本人のものだからだ。

それは僕より現場に先に着いていた針倉術師の話からも合致する。

あの悲鳴は確実に、被害にあった彼女があげたもの。

 

 

「病院に運ばれたあの生徒の親も、被害にあったのは長野桜で間違いないと言っていたそうだ」

 

「そうだ……? 一緒に付き添ったんじゃないんですか」

 

「やだなぁ、そんな面倒なことするわけないだろう? あの生徒だって、私とは無関係な人間だし」

 

 

補助監督に行かせたさ。

そういう無駄な労力は払わない主義なんだよ。

そう言う針倉術師。

ほんとこの人を先生なんて、間違っても呼べないな。

 

 

「ま、ともかく長月ちゃんと補助監督どちらの話も聞き入れるとしたら、明らかに矛盾が発生するね」

 

 

 

「……僕と一緒にいたのは、誰だ?」

 

 

 

よく考えると、人間一人を生み出せる術式なんて、あの呪霊が使えるとは思えない。

幻覚の類いとも違うだろう。

テニス部にも馴染んでいたし、会話も出来ていた。

なら、あれは一体なに?

 

 

ーーーー氷川市 狗巻家ーーーー

 

 

傷を負った僕は、針倉術師に治療され回復はした。

福都市が氷川市に隣接してることもあり、その日は狗巻家に戻ることになったんだけど……。

 

 

「はい、長月ちゃん。あーん、してください」

 

「…………」

 

 

なんだこの状況。

 

 

「もう早く食べないと冷めてしまいますよ?」

 

 

そう言って、僕の口元に牛カツを押し付けてくる紡ちゃん。

 

 

「いや、一人で食べれるからさ」

 

「でも、まだ右手痺れるんですよね?」

 

「……まぁ、それはそうだけど」

 

 

彼女の言う通り、針倉術師からの治療を受けたにも関わらず、まだ僕の右腕にはあの痺れが残っていて、まともに動かすことも難しい。

紡ちゃんへは針倉術師が連絡していたようで、僕がやられたことは彼女も知っていた。

 

 

「あーん、ですよ」

 

「…………」

 

「あーん!」

 

「あーん……」

 

 

圧に負けた僕は牛カツの味を噛み締める。

うん、うまい。

彼女の作った料理を頬張る僕を満足そうに見ながら、紡ちゃんは話を切り出した。

 

 

「ところで、長月ちゃんたちが遭遇した呪霊って?」

 

「『赤マント』っていう呪霊。確か『特級仮想怨霊』って言ってた」

 

「……共通意識によって顕現する呪いですね。私はその『赤マント』っていうものは聞いたことありませんが……」

 

 

この間聞いたけど、紡ちゃんは家の都合で学校にも通ったことがないらしい。

であれば、学校の怪談に疎いのも頷ける。

 

 

「その『赤マント』ってどういうものなんですか?」

 

「能面を着けて赤いマントを着た呪霊でーー」

 

「あ、いえ。呪霊のことではなく、元になったお話のことです」

 

「え……あぁ」

 

 

そっちか。

確かにそれ自体を知らなければ、話もできないか。

えぇと……。

 

 

この怪談が語られ始めたのは、昭和初期。

赤いマントを着た怪人が女児を誘拐し、殺害するというもの。

ここから、様々なバリエーションが派生していく。

そのうちのひとつが「赤い紙、青い紙」

怪人は学校のトイレに現れ、赤い紙か青い紙か尋ねてくる。

実際に、僕があの場でその質問を受けていることから考えるに、恐らく今回の呪霊『赤マント』はこのバリエーションの怪談がベースになってる。

 

 

「その証拠に僕は聞かれたんだ。赤い紙か、青い紙かって」

 

「……答えたらどうなるんですか」

 

「赤い紙だと血塗れに、青い紙だと血を抜かれて殺されるらしい」

 

「それは……ゾッとしませんね」

 

 

こくりと頷く。

今回は答えないという選択をした。

いや、正確には答える余裕もなかったんだけどさ。

あの瞬間を思い出し、自分の首筋をなぞる。

どうやら僕の首筋にも、今までの被害者と同じように火傷のような跡がついているらしい。

少し、嫌な気分だ。

だけど、あれでなんとなく『赤マント』の術式は想像がついた。

恐らく奴の術式は、

 

 

「『血液』に関係するものってところかな」

 

「話を聞いただけですが、たぶんその類いの術式ですね。長月ちゃんの右腕が痺れるのも血液を抜かれたことによる影響でしょう」

 

 

採血で血を抜かれたときにたまにそんな症状がある人もいるそうですから、それに近いものではないでしょうか。

そんな紡ちゃんの分析に納得する。

怪談の内容や奴の手にあった注射器。

それに僕の現状。

どれをとっても、奴の術式が血液に関係するものであることを裏付けていた。

 

 

「人の血液を操作できる、とかかな」

 

「それよりも血を吸うことに特化した術式かもしれません。発動条件は、注射器で刺されるか『赤マント』の体に直接触れること」

 

 

奇しくもどちらの行動も僕はしていた。

だから、気絶するほどに血液が抜かれてしまってたってことか。

 

 

「はい、恐らくは」

 

 

注射器は言わずもがな。

奴に攻撃がすり抜けるのは奴自身の体が血かそれに類するものでできていたから。

再生能力は吸血した血によるものだろう。

どちらも血のストックを削り切れればいいはずだ。

長野さんの件は謎ではあるけど、奴を倒すための指針は決まった。

 

 

「奴の注射器に注意しつつ、体には触れずに何度も喰らう」

 

 

ってところか。

 

幸いなことに、明日と明後日は土日だから学校も休みだ。

僕をテニス部に誘った佐藤さんによると、あんなことがあったせいか部活も休みになったという。

なら、この2日間で体力というか貧血を回復しつつ、呪力も蓄える。

それで月曜日に勝負をかける。

 

 

「……長月ちゃん」

 

「なに?」

 

「あまり無理はしないでください。今回は私は違う任務で同行できないですし」

 

「大丈夫」

 

「……約束ですよ」

 

「…………うん」

 

 

約束、か。

 

 

「…………っ」

 

 

不意に思い出しかけた記憶を頭を振って追い出す。

止めよう。

余計なことを考えるのは。

 

 

「長月ちゃん?」

 

「……なんでもないよ」

 

 

僕の顔を心配そうに覗き込む彼女に、そんな言葉を返す。

 

それならいいんですけど……。

まだ心配そうな彼女を適当にいなして、僕たちは食事の続きをとる。

牛カツは少しだけ冷めてしまっていた。

 

 

 

ーーーー成領中学校 職員室ーーーー

 

 

日曜日。

部活動休止の指示が出て、本来は誰もいないはずの職員室に、ひとつの影があった。

何かを必死に探す様子のその人物。

そのためだろう。

音を消して入ってきたその男の存在に気づかない。

 

 

「鈴木センセ」

 

「っ」

 

 

声をかけられて、初めて気づく。

同時に動きが止まるその人物。

鈴木と呼ばれた教師は、渦中のテニス部の顧問教師であった。

 

 

「あなたは……」

 

「私? 金曜に着任した針倉ですよ」

 

「……あぁ。例の事件の調査のために派遣されたという」

 

「そ、呪術師ってやつですよ」

 

 

針倉が呪術師であるという情報は一部の人間にしか知らされていない。

それが広く知られることで混乱を生じる恐れがあり、また呪霊を生む可能性が高くなるからだ。

校長とこのテニス部の顧問のみが彼の正体を知っていた。

 

 

「呪術師ね……そんなものが存在するのも眉唾ものですが」

 

 

吐き捨てるように呟く鈴木。

それに対して、針倉は笑いながら応答する。

 

 

「いやいや、あなたにそんなこと言われると私、悲しくなっちゃうなぁ」

 

「……何を言っているのか分かりませんが」

 

「分からない? そんなわけないだろ?」

 

「……僕のような一般人には、あなたのような訳の分からない人の言うことなんてーー」

 

 

「ーーじゃあ、なんだろうねぇ。さっきから隠してるそれは」

 

「っ!?」

 

 

針倉の言葉に、鈴木は反射的に隠していたそれに力を入れる。

鈴木に追い討ちをかけるように、針倉は指差し、告げる。

 

 

 

「呪力が駄々漏れだよ」

 

「それ、『呪具』だろう?」

 

 

 

「っ」

 

 

動揺は隠しきれていない。

睨み付ける鈴木に、針倉は投げかける。

 

 

 

「君、何者?」

 

 

 

 

次作でもアンケートとってますが、主要キャラ落書き(デフォルメ絵)してもいいですか? ※未経験者なので雰囲気だけ伝わればよいものとする

  • よい・やってみせよ
  • 完結したんだからNG
  • いや、むしろ私が書こう(有能絵師)
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