ーーーー紡視点ーーーー
「今すぐ探しましょうっ!!」
「当てもないのに?」
「っ」
突如いなくなった長月ちゃんを探す。
つい感情的になった私への針倉さんの冷静な一言には、返す言葉がありませんでした。
「と、とりあえず人払いはしましたっ」
と女子トイレの外側から私たちに声をかけてくる黒スーツ姿の男性。
オドオドとこちらの様子を伺ってきます。
彼は牧さん、補助監督の人です。
「あ、あのぉ……優誠先輩……ここ女子トイレですよぉ」
「牧ちゃん、今、君自身が人払いしたんだろう? なら、問題ないじゃないか」
「で、でも……」
うっとうしいなぁ、もう。
そう言って彼を邪険に扱う針倉さん。
「あの、牧さん」
「は、はいっ! な、なんでしょうかっ」
以前牧さんには任務でお世話になったことがありますが、なんだか苦手意識をもたれてしまっているみたいで。
女性が苦手、と話されていた気がします。
そのせいか目を合わせてもらえません。
「5つも下の女の子になにを照れてるんだか」
「針倉さん!」
「あー、はいはい」
いちいち針倉さんに茶化されていたら時間がいくらあっても足りません。
彼を制して、私は尋ねます。
「それで、この周辺で残穢は……」
「こ、このトイレの中以外からは検出されていません……ここにも微弱なものしか……」
「そう、ですか」
「人ひとり運ぶんですから、大きな荷物をもった方がいないかも探しましたが……残念ながら」
「…………」
一体どこに行ってしまったんですか、長月ちゃん。
ーーーー長月視点ーーーー
少しずつ目が慣れてきて、辺りをある程度把握できた。
どうやらここは駅のトイレ……だろう。
けど、東京駅は広いし、ここがどこのトイレかまでは分からない。
強いていうなら、僕が入ったところに似ているけど。
「……なんでこんなに暗いんだ」
気を失ってる間に夜にでもなったのか?
いや、夜になったからといって、電気を完全に消すだろうか。
僕が転がされているのは手洗い場の側。
入口はすぐそこだから、駅構内の明かりは見えるはずなんだ。
それに目が覚めてから体感だけど、少なくとも1時間は経過してる。
その間、人が誰も入ってこないなんてある訳がない。
……とりあえず用を済ませた後でよかった。
「……術式は……無理か」
試しにぐるぐる巻きにされている手を動かしてみるが、発動しない。
針倉術師から聞いた話だと、『呪霊操術』は掌印を省略して使えるようになるらしいが、それは使いこなせばの話。
僕にはまだ出来るはずもない。
「足は……動く」
唯一、足はなんとか動かせる。
足首は縛られているものの動けなくはない……歩き方はペンギンみたいになるから端から見たら間抜けだけど。
「行くか」
今は情報が欲しい。
ーーーーーーーー
壁を伝ってどうにか歩く。
歩き辛い事この上ないが、あのままじっとしているよりはいい。
1時間くらいは待って助けが来ないということは、思ったよりもずっと面倒なところに連れてこられたということだろう。
その読み通り、
「明かりひとつない」
という状況だった。
時々記憶通りの店舗を見かけたし、暗いとはいえ辺りは見たことのある景色だったから、東京駅構内なのは間違いないとは思うけれど、周りを見渡しても明かりがない。
それに、記憶にはない奇妙な光景も目にした。
僕が田舎に引っ越してから2ヶ月は経っているけれど、それでもここまで変わらないだろうという変化。
例えば、地面から突き出ている大樹の切り株。
例えば、3体並んだカエルの置物。
例えば、黒色の壁とその壁にびっしりと貼られた火気厳禁のポスター。
どれを取っても不気味で、本来の東京駅とは結びつかないものだ。
「違う世界に迷い込んだっていう方が説得力があるね」
異世界。
昔の、東京に住んでいた頃の僕なら否定しただろうけど、今は呪いを知ってしまった。
だから、ここが元の世界とは違う世界だと言われても、おかしくはないと思ってしまう。
そういえば、と。
廃アパートでの任務で、アパートの一室が博物館のような景色になっていたことをふと思い出す。
たしかあの時、紡ちゃんが言っていた。
その空間は『生得領域』と呼ばれるものだと。
「なんだっけ……呪霊自身が発動できる結界みたいなものだったかな」
あの任務の後に教えてもらった『生得領域』というものは、うろ覚えだけど、そんな感じだったはず。
複雑かつ大きな『生得領域』を使う呪霊は強い。
それだけの呪力量があるから。
とすると、もしこの不気味な東京駅が何者かの『生得領域』なら、あの時の鉱石の喋る呪霊とは比べ物にならない。
つまり、
「これは本当にヤバい、かも……」
まだ6月にも関わらず、汗が背中を伝う。
嫌な汗だ。
それを自覚した。
ーーーー紡視点ーーーー
補助監督である牧さんのおかげで、東京駅の防犯カメラを見ることができました。
数あるカメラのうち、さっきまで私たちがいたトイレの入口付近を映すカメラの録画分を遡って見ても怪しい人物は見つかりません。
「…………なにか……」
リアルタイムの映像を見ても、不審な点は見当たらない。
その防犯カメラ以外からも手がかりになりそうなものを見つけようとしますが、流石に数が多すぎる。
人も多く、怪しい人物なんて……。
諦めかけたその時でした。
「いた」
「どこですか!?」
「ん? ここだよ」
その針倉さんの声に、私は下げていた顔を上げ再び防犯カメラと向き直ります。
彼が指差した先にいたのは、長月ちゃん……ではなく。
「……誰ですか」
見知らぬ女の子。
長月ちゃんよりも少し幼い。
中学生、くらいでしょうか。
長月ちゃんとは似ても似つかない子です。
「針倉さん……長月ちゃんを見つけたんじゃないんですか」
「いやいや、そんなこと一言も言っていないだろう?」
「っ、じゃあ、何を見つけたって言うんですかっ!!」
思わず声を荒げる。
それに萎縮するのは私の左にいる牧さんだけ。
右の彼はそれを気にもせず、マイペースに続ける。
「興味深い対象さ」
「長月ちゃんがいなくなったこと非常事態に何をーー」
「長野桜」
針倉さんが私を遮って呟いたその名前。
それを聞いて、牧さんが反応を返しました。
「そ、それって、『赤マント』の被害者の中学生じゃあ……」
「そ」
「被害者の中学生、ですか……」
『赤マント』に襲われたのにも関わらず、同時に少し現場と離れた場所にいた長月ちゃんとも一緒にいたという人物。
そんな風に長月ちゃんからは聞いていました。
けれど、それは
「世間は休日ですし、東京に来ていたということもありえると思いますよ」
「いやいや、それはないねぇ。実は私も長月ちゃんの話が気になって、彼女の動向は気にしていたんだよ」
「そもそも彼女はあの事件の直後に死んでいる」
「え?」
そんな話、長月ちゃんからは……。
「話してないのさ。流石に長月ちゃんもショックだろうからね」
「…………」
もし針倉さんの話が本当だとして。
だとすると、ここに映っている彼女は……?
「っ」
思考が繋がり、駆け出す。
「どこに行くんだい? 紡ちゃん」
「この子のところですっ」
今はこの人物しか手がかりはありません。
本当に細く弱い手がかり。
でも、今はーー
ーーーーーーーー
「優誠先輩も、狗巻さんも行っちゃった…………僕はどうしたら……」
「ん……?」
牧の視界の先には先ほどの防犯カメラ。
長野桜と思われる人物が映っている。
その人物と、
「ひっ!?」
カメラ越しに目があった。
歪んだ笑顔の彼女と。
ーーーーーーーー
次作でもアンケートとってますが、主要キャラ落書き(デフォルメ絵)してもいいですか? ※未経験者なので雰囲気だけ伝わればよいものとする
-
よい・やってみせよ
-
完結したんだからNG
-
いや、むしろ私が書こう(有能絵師)