呪詛師殺しの僕(完)   作:藍沢カナリヤ

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第21話 両面宿儺ー伍ー

ーーーー長月視点ーーーー

 

 

あれから1時間ほどが経過した。

どうにか試行錯誤しながら、僕は元のトイレに戻ってきていた。

 

 

『…………』

 

 

例の呪霊を連れて。

正直、大変だった。

僕が前に進めば奴も前に進み、一歩下がれば一歩下がる。

奴と直面したまま横に動くと、僕を阻むようにピッタリと貼り付くように動いてくる。

まるで、そう。

 

 

「鏡のように」

 

『鏡のように』

 

 

考察するに、こいつは鏡の呪霊。

そして、ここはこいつの『生得領域』ーー鏡の世界ってところか。

思い返せば、僕がこっちの世界で目を覚ましたのはトイレの洗面台、もっと言えば鏡の前だった。

合わせ鏡や紫鏡。

鏡にまつわるものといえば、そんなところだろう。

『赤マント』のように都市伝説の類いの畏れが形を成したもの。

 

 

「……術式で鏡の中に連れ込まれたなら」

 

『……術式で鏡の中に連れ込まれたなら』

 

 

呪霊と鏡の間に立つ。

当然のように、呪霊は僕と向き合う。

僕が鏡の方を向いているにも関わらず、だ。

つまり、鏡に写る呪霊が僕の方を見ている、目が合う。

それと同時に、奴はーー奴等は動いた。

 

 

『『アさで、スヨォォぉ』』

 

ーービュンッーー

 

 

2体が声を揃えて、背後から、そして、鏡の中から襲いかかってきた。

僕はそれを、

 

 

「っ」

 

 

体で受ける。

勿論、わざとだ。

僕の狙いはただひとつ。

この邪魔な縄を切ること。

縄には呪力が込められていて、普通のものでは切ることができなかった。

だから、わざと攻撃を食らう必要があったんだ。

 

 

「ちょっと……痛かったっ」

 

 

けど、2体の攻撃で縄の一部が焼き切れた。

都合よく腕回りだ。

僕はそのまま縛られてる手を口元までもってきて、歯で食いちぎる。

 

 

「やっとだ」

 

 

掌印を結ぶ。

術式に刻んだ呪霊をひとつ、ふたつ。

 

 

 

「『蟲纏』」

「『赤マント』」

 

 

 

鏡の中の方は『毒蟲』を纏わせた僕自身が、背後の呪霊へは『赤マント』が対峙する。

呪力は喰う、けど。

 

 

「一気に潰すッ!」

 

 

奴は人型。

ならば、急所は変わらないはず。

呪力が集まる頭を『蟲纏』で薙ぐ。

 

 

ーーバシュンッーー

 

 

蟲が切り口から入り込み、呪力を奪う。

背後に目をやれば、ちょうど『赤マント』ももう一体を撃破していた。

手にもった注射器からさっきの呪霊の残穢を感じることができた。

なるほど。

人間相手にはあれで血を吸っていたけど、呪霊相手だと呪力を吸うって訳なのね。

 

 

「……これで終わりか」

 

 

その呟きと共に術式を解く。

呪霊を倒せば『生得領域』は消える。

廃アパートで鉱石の呪霊を倒した時にそれは体験済みだ。

けど、なぜか消えない。

 

 

「呪霊は祓えたはず。なのに、領域が消えないってことは……」

 

 

思考を巡らせる。

聞きかじりの知識だけど、考えられる原因はいくつかある。

一つ目はそもそも今祓ったのがこの『生得領域』の主ではないこと。

二つ目はまださっきのを祓えてないこと。

 

 

「一つ目は、ないか」

 

 

この辺りに漂う呪力と奴のそれは一致していたように感じた。

勿論、この間の一件があるから、自分の呪術に関する知識を過信しすぎるつもりはないけど。

それでも、流石に間違えようがない。

そのくらいこの領域の呪力は濃かった。

……とすれば可能性は、もうひとつの説。

 

 

「祓えてない……そっちの方があり得るかな」

 

 

この大きな『生得領域』に対して、相手が弱すぎる。

歪とはいえ東京駅を再現できる呪霊なんだから、一撃で祓えるって方が不自然だ。

あれは末端かもしれない。

なら、また歩き回れば他の奴に遭遇できる?

それを潰していけばいつか本体に会えるって?

 

 

「そんなことしてたら時間が足りないな」

 

 

ただでさえ、ここでの時間の流れは早く感じる。

末端を一つ一つ潰していくのはあまりに非効率で現実的じゃない。

奴が鏡の呪霊ならば、鏡から鏡へ動けるのかもしれないし。

この歪んだ東京駅にどれだけ鏡があるか……。

でも、掌印を結べる今ならーー

 

 

「『毒蟲』」

 

ーーゾゾゾゾゾゾーー

 

 

蟲を出していく。

あまり複雑なことは命令できないが、鏡を片っ端から壊すという簡単な命令ならば!

 

 

「すべての鏡を喰らい尽くせ」

 

 

僕の言葉に反応して蟲が四方に散っていく。

あとは、待つだけだ。

呪力のコントロールのために、トイレの外に座って目でもつぶっておくことにしよう。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

15分弱が経過して、蟲が徐々に帰ってくる。

この蟲の元々の使い手曰く、蟲は肉を喰らうと強く増殖し、呪力を喰らうと速くなる。

奪って以来、呪力だけは喰らっていたおかげで、ずいぶん蟲の速度も速くなっているみたいだった。

おかげで短時間でほぼすべての鏡を壊すことができた。

 

 

「しかも、蟲が呪力を喰らってる」

 

 

恐らくまた数体、鏡の呪霊がいたんだろう。

会敵した時に喰らったって訳だ。

 

 

「一体一体は弱いけど、数が多くて広範囲に分散してるってことね」

 

 

蟲がいて本当によかった。

いなかったら、どれだけかかったか考えただけでゾッとする。

さて、あと戻ってきてないのは八重洲北口の方に行った蟲か。

意識を集中させてみる。

すると、どうやらそちらへ向かった蟲は、

 

 

「……消されてる」

 

 

祓われてるのか単純に消されたのかは分からない。

でも、この世界に引き込まれた呪術師が僕の他にいないならば、恐らくそこにいるのはこの世界を作り出した元凶。

末端でなく呪霊の本体だろう。

 

 

「行くか」

 

 

ーーーー八重洲北口ーーーー

 

 

本来の東京駅であれば……キッチンストリートだったっけ?

飲食店が並ぶ場所に『それ』はあった。

巨大で、圧倒的な存在感。

嫌悪感に近い。

近づきたくない気配を纏う『それ』の周りには3体の呪霊。

守るように貼り付いている。

呪霊が守る『それ』とはつまりーー

 

 

「『紫鏡』」

 

 

よく聞く鏡の都市伝説。

二十歳までこの言葉を覚えていたら呪われて死んでしまう、とか。

 

 

「呪われて、か。案外あり得ない話でもないのかもね」

 

 

ポツリと呟いてから、様子を伺う。

その名の通り、3mはあろうかという鏡面は紫色に染まっている。

塗料ではない。

鏡面に流れている呪力の色なんだろう。

……まぁ、それはいい。

厄介なのは3体の呪霊。

ここからでも分かる、きっきまでに祓った奴等とは比べものにならない呪力量だ。

 

『毒蟲』で呪力は喰らっているとはいえ、あのレベルのを3体同時はきつい。

チャンスは1度きり。

『赤マント』と『蟲纏』で奇襲をかける。

 

 

ーーゾゾゾゾゾゾーー

 

 

そうと決まれば動きは早い。

一気に『毒蟲』を解放し、一部を纏う。

最低限、右手だけの『蟲纏』。

残りはすべて、3体の呪霊の上方へ。

奴等が蟲に気を取られ、上へ視線を向けた瞬間走り出す。

 

 

「『赤マント』!」

 

 

同時に『赤マント』を展開。

駆ける。

 

 

「一匹目!」

 

ーーバシュンッーー

 

 

首を跳ねた。

そのまま『紫鏡』の方へ走る。

 

 

『オキレいデすねぇぇェエ』

 

 

それに気づいた一匹が僕の方へ迫ってくる。

当たりだ。

やはりこいつらはこの『紫鏡』を守っている。

だからーー

 

 

「簡単に引っ掛かる!」

 

 

一匹をこっちに釣るための罠だ。

体を翻し、迫ってくるもう一匹に手刀を振り抜く。

 

 

『アぁぁアア!?!?』

 

 

呪霊もそれを直前で感じ取ったのか避けようとするが、手刀は奴の腕を掠め、その腕を刈り取った。

勿論、それだけじゃ終わらない。

 

 

「喰い破れっ!」

 

 

蟲が奴の腕から体内に巡っていく。

体を喰い破り、呪力を貪る。

いける!

呪力量は多いけど、思ったよりも知能は低く、耐久性もない。

あと一体。

『赤マント』が足止めしている奴を倒せば終わりーー

 

 

 

ーーキィィィィィィィィィィィィィィィィッーー

 

「っ!?」

 

 

 

突如鳴り響く音。

何かの叫び声のような甲高い音に、耳がやられてしまう。

恐らく鼓膜がやられた。

それに

 

 

ーーグラッーー

 

「平衡感覚も、いってる……」

 

 

上手く立っていられず、膝をつく。

残った呪霊を足止めしていた『赤マント』も解けて、血溜まりになってしまう。

 

 

『オタめシもデキまスヨぉおォォぉ』

 

 

迫ってくる呪霊。

呪力の込もった拳をどうにか左腕で受ける。

だが、ダメージは大きく、骨が軋むのが分かった。

 

 

「~~っ、『毒……蟲』ッ!」

 

 

反射的に『毒蟲』を出す。

奴の頭にまとわりつき、視界を覆い隠す。

その隙にどうにか離脱し、適当な店舗の中へ。

まだ上手く立てないから四足歩行でだけど。

 

 

「しく、じった……」

 

 

痛む左腕を押さえつつ呟く。

幸いまだ呪力は残っているから、奴を撹乱して時間は稼げるけど、難しい操作はできないだろう。

『赤マント』はもう出せない。

『蟲纏』は……ギリギリか。

今の呪力操作が覚束ない状態では、一歩間違えば蟲に自分の体を喰われる可能性がある。

できて瞬間的に1回。

勝負は1回きり。

勝ち筋は『毒蟲』で崩して『蟲纏』で仕留めること。

方針は決まった。

後はやられた平衡感覚が少しでもマシになるまで休んで、もう一度ーー

 

 

 

『おねえちゃン』

 

 

 

背後からの声。

ゾワリと、背筋が凍る。

 

 

『ねぇネぇ、オネえちゃん』

 

「っ」

 

 

反射で背後へ『毒蟲』を飛ばす。

だが、

 

 

ーーパァンーー

 

『おネえちゃン』

 

 

幼い少女の姿をした『それ』。

本来は可愛らしいと感じるはずの姿とは別物のドス黒い呪力。

『そいつ』に近づいた途端に蟲は弾けた。

『そいつ』は何もしてない。

ただ近づいたことでその呪力で爆ぜてしまったんだ。

それほどまでに危険。

今まで遭遇したどの呪霊(ばけもの)よりも呪霊(ばけもの)

 

 

「はっ……は…………」

 

『ねぇ』

 

 

一歩一歩、『そいつ』は僕の方へ近づいてくる。

動けない。

少しでも動くと殺される、そう感じた。

だから、僕はそれを聞くしかない。

聞くことが術式の発動条件だったとしても、

 

 

『キいたことあルカなぁ?』

 

 

ただ、聞くしか、

 

 

 

 

『ム ラ    さ   キ  か が   ミ』

 

 

 

 

僕の意識はそこで途切れた。

次作でもアンケートとってますが、主要キャラ落書き(デフォルメ絵)してもいいですか? ※未経験者なので雰囲気だけ伝わればよいものとする

  • よい・やってみせよ
  • 完結したんだからNG
  • いや、むしろ私が書こう(有能絵師)
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