呪詛師殺しの僕(完)   作:藍沢カナリヤ

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第26話 猜疑会敵ー参ー

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『膿腕』

本当の名を有馬優という。

 

だが、その名前を本人が知ることはなかった。

彼は物心がつく前に捨てられたからだ。

そもそも物心がついてからも、彼は言葉を理解できなかった。

だから、彼が彼女に出会った時、衝撃を受けた。

 

 

「お前はこれから『膿腕』と名乗れ」

 

「アアァ」

 

 

世界で唯一自らを受け入れてくれた存在。

彼が初めて理解した言葉。

だから、彼にとっての自らの名前は『膿腕』になった。

 

 

「呪力を込めろ。呪力は負の感情。お前を捨てた親への憎しみをその右腕に込めるのじゃ」

 

 

親への憎しみ。

そう言われても彼には理解ができなかった。

彼はそもそも親のことなど覚えておらず、捨てられたということすら分からなかったからだ。

だが、彼女が言うのならば憎しみを持とう。

 

彼女の言うことは絶対で、この世のすべて。

 

それが彼の思考だった。

だからーー

 

 

 

「お前はもう要済みじゃ」

 

 

 

彼女の言葉で彼は絶望した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

惑夢蝶(まどいゆめのちょう)

 

 

『惑夢籠』はその名の通り蝶の呪霊。

『毒蟲』とは違い、一匹だけで存在する不可視の蝶。

術式は『夢籠り』。

鱗粉を吸い込んだ者を夢へ誘う。

その人の良い思い出を塗り潰す悪夢へ堕とす悪趣味な術式だという。

 

 

「~~っ、かはっ」

 

 

術式を発動して数秒後、僕は吐血していた。

『膿腕』の攻撃を喰らったからではなく、術式の反動だ。

それほどまでに強力なもの。

だけど、その効果は十分。

 

 

「ア、アア……」

 

 

奴の動きが止まった。

術式が発動できたのは数秒間だけ、今は解除されてしまっている。

どれだけ奴の動きを止められるかは不明だけど、今なら長野桜を叩ける。

 

 

『…………』

ーーバシュッーー

 

「術式を解除した……来るか!」

 

 

足止めさせていた『赤マント』を戻し、残った呪力を『毒蟲』へ集中させる。

『蟲纏』へ変換して、奴との間を詰めた。

 

 

「『膿腕』!」

 

「………………」

 

「チッ、まだ動けんか」

 

 

長野桜の声に返答はない。

大丈夫。

まだ奴は動けない。

殺せる。

 

 

「『蟲纏・一刀』」

 

 

狙うは心臓。

これでーー

 

 

 

ーーガクッーー

 

 

「ぐっ」

 

 

止めの一撃の前に、膝から崩れ落ちる。

あと半歩が届かない。

……限界、か。

これを取り込む前に話には聞いていたが、ここまで早く呪力も体力も持っていかれるなんて……。

 

 

「よそうがい、だ……」

 

「それはこちらの台詞じゃよ。まさか『膿腕』を行動不能にされるとはな」

 

「…………」

 

「天与呪縛と言ってな。この子は生まれながらに脳機能の一部が呪いに犯されておった。人語も理解できないそんな子供じゃ」

 

 

その代わりに与えられたのが強靭な右腕。

与えられた異質のせいで親に捨てられたんじゃから皮肉なもんだがの。

そう言って、彼女は動かない『膿腕』の頭を撫でる。

まるで、

 

 

「おやこ……」

 

「フッ、そんな綺麗なものじゃない。この子は儂がおらんと生きていけん。儂もこの子を利用して目的を果たしておる」

 

 

そう言う彼女の目からは慈愛すら感じ取れた。

って、まずいな……。

いよいよ意識が保てなくなってきた。

 

 

 

「眠るといい。直に朝が来る」

 

 

 

その言葉を境に、僕の視界は暗くなっていった。

 

 

 

ーーーー秋葉原 中央通りーーーー

 

 

「切りがないねぇ、殺しても死なないっていうのはなんとも厄介だ」

 

 

針倉は対峙した『才羽』にそう言う。

その首は既に元の位置に戻り、正常な姿に戻っていた。

面倒くさいという感情が、その様子から見て取れた。

 

 

「かったる……」

 

 

黒野堀は、針倉が攻撃をして相手が行動不能になる一瞬をついて何度かその脇を抜けようとした。

秋葉原駅にいる長月に危険が迫っていることを理解しているからだ。

だが、抜けようにも抜けられない。

『才羽』の術式によって、それを阻まれていた。

 

 

「言ったでしょ。ボクの役目は時間稼ぎだから……足止めするよ、死んでも」

 

「フフフ、死んでもねぇ。上手いこと言うじゃないか」

 

「感心してる場合じゃないし」

 

「いやいや、彼にしかできない言葉遊びだぜ。死んでも死なない彼の死んでもって言葉は軽いようで重いじゃあないか」

 

 

そう言って笑う針倉。

それは時間稼ぎ。

呪力で繋いだ針を巡らすための時間を作るためだった。

彼の狙いは、

 

 

 

「術式反転『吸針ー囲ー』」

 

 

 

呪力を吸う術式。

再生のための呪力を吸い取る算段だ。

 

 

「っ、呪力、持ってかれる……」

 

「黒野堀ちゃん」

 

「わかってる」

 

 

針倉が声をかけるより早く、黒野堀は走り始めていた。

軽薄な男とはいえ準一級。

それに反転術式を使えるという貴重さから等級は抑えられているという話も聞いたことがあった。

つまり、本来の実力は一級に近いだろう。

それが黒野堀の針倉への評価だった。

だから、実力だけは信頼していたのだ。

 

 

「待てよ」

 

「……またっ」

 

 

だが、その行く手は再度阻まれる。

黒野堀の視線の先には、自分の右腕を掴む右手。

切り離された『才羽』の右手があった。

そして、

 

 

ーーグンッーー

 

「っ」

 

 

その右手に連れ戻される。

それは彼の術式『再生力』によるもの。

彼の体内には無数の呪力の糸が張り巡らされている。

それにより、切り離した身体の一部を再び元の場所に戻せるという術式である。

痛みはある。

だが、彼は自身の痛覚を遮断している。

長野桜と呼ばれる女への信仰心がそれを可能にしていた。

 

 

「ここは通さないって再三言ってるだろ……ほんとに話聞かない人種だ」

 

 

だから、嫌いなんだよ。

ボソボソと呟く『才羽』。

その右手には、連れ戻した黒野堀がいて。

 

 

ーーバキッーー

 

「ガッ!?」

 

 

左の拳が腹部を捉える。

倒れ込む黒野堀の顔面に、さらに蹴りを入れ、『才羽』は捨てるように彼女を放り投げる。

 

 

「ぐ……」

 

「あーぁ、酷いことするねぇ」

 

 

投げ捨てられた黒野堀に歩み寄り、その状態を見て針倉は肩をすくめた。

 

 

「呪力量は少なくても発動できるのがボクの術式の強みだ。封印でもされない限り、ここは通さない」

 

「封印……封印ねぇ」

 

 

意味ありげに黒野堀を見る針倉。

彼女を見る彼の視線はどこか冷たさを含んでいて。

 

 

「ま、ここで長月ちゃんを殺されてしまっては元も子もないか。呪力は温存したかったけど仕方がない」

 

「吸った君たちの呪力でプラスマイナスゼロくらいにはできるかな」

 

 

針倉は胸の前で掌印を結ぶ。

そしてーー

 

 

 

ーーピロンッーー

 

「あ」

 

 

針倉がアクションを起こす寸前で、『才羽』のスマホが鳴った。

いきなりのことで一瞬場が固まる。

隙を突いて彼はすぐにそれを確認し、そして、笑みを浮かべた。

 

 

「彼女からかい?」

 

「……残念ながらボクは彼女いない歴はとうの昔に数えるのを止めた」

 

「なら、長野桜かな」

 

「そんな名前で呼ぶのは本意じゃないけど……そうだよ」

 

 

『才羽』は針倉にスマホの画面を見せる。

そこに書いてあったのは、短く一文だけ。

「目的は果たされた」

それが表すのはつまり、

 

 

 

「菅谷長月は回収したってさ」

 

 

 

長月が敵の手に渡る。

針倉にとって最悪のシナリオであった。

 

 

「…………ふぅ、じゃあ、ボクはこの辺で退散するよ。これ以上の時間稼ぎは必要ないし。それにーー」

 

「…………」

 

「殺気が駄々漏れで正直怖いからね」

 

 

「彼女に何をする気だ」

 

 

針倉の問いに『才羽』は答えない。

その代わりに、何かをポケットから取り出し、針倉に向かって投げつけた。

それを針倉は当然、呪力で受ける。

だが、その何かは彼の呪力に触れた途端に破裂する。

それは『赤マント』の時にも使われた赤い珠であった。

 

 

「チッ」

 

「『反魂香』に近いものだよ……すぐに呪霊が寄ってくる」

 

 

雑魚だけど、それこそ時間稼ぎにはなるでしょ。

そう告げて『才羽』は背を向けた。

 

針倉が集まってきた呪霊15体を祓い終えた頃、約3分後には黒スウェットの彼の姿はもうなかった。

 

 

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次作でもアンケートとってますが、主要キャラ落書き(デフォルメ絵)してもいいですか? ※未経験者なので雰囲気だけ伝わればよいものとする

  • よい・やってみせよ
  • 完結したんだからNG
  • いや、むしろ私が書こう(有能絵師)
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