呪詛師殺しの僕(完)   作:藍沢カナリヤ

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第30話 猜疑会敵ー漆ー

ーーーーマンション 地下ニ階ーーーー

 

 

『無常』は地下三階に急いでいた。

腕が立つであろう2人の呪術師は呪霊が足止めをしているとはいえ、時間稼ぎもたかが知れている。

『降霊杖』は決して使い勝手のいい呪物ではなく、次に戦闘に入ったら確実に祓われるだろう。

『膿腕』に戦闘を任せられない今、『才羽』と合流して脱出するのが彼女にとっての最善手であった。

だが、

 

 

 

ーーガァァァァァンッーー

 

 

 

轟音とともに、天井に穴が開き、少女たちが降ってくる。

先程とは違う2人の呪術師。

彼女の配下にあった準一級術師からその2人の情報は聞いてはいる。

狗巻紡と黒野堀明。

呪言師と『落筆呪法』の使い手。

どちらも強力な術式持ちで、彼女とは比べ物にならない。

ならば、どうするか。

 

 

ーーダッーー

 

 

逃げの一手。

彼女の選択は間違いではない。

 

 

「『落筆呪法・穿』」

 

ーーガクッーー

 

 

違和感。

足を踏み外した感覚があった。

足元を見ると、さっきまではあったはずの地面の一部がない。

 

 

「狗巻ちゃん」

 

「はい!」

 

 

向かってくる狗巻紡。

その手には筆。

『無常』はそれを見て懐から赤い珠を取り出し、投げる。

彼女の逃げの常套手段である『反魂香』は呪力に反応し、香りを放ち出す。

今回も例外ではなく、狗巻紡の呪力に反応して破裂する、はずだった。

 

 

『落筆呪法・包』

 

 

黒野堀は投げられた赤い珠を撮影して、その回りを囲む呪力の膜を編集して作り出した。

その時間、僅かに1秒。

香は広がる前に膜の中に収まる。

 

 

「くっ」

 

 

『眠れ』と書かれた呪符を手に、狗巻紡が迫る。

それを回避する術は今の『無常』にはない。

状況は詰んでいた。

 

 

 

ーーーーがァァァァンッーーーー

 

 

 

「アァァァァッ!!」

 

 

 

彼ーー『膿腕』が天井を突き破って乱入してこなければ。

 

 

 

ーーーー紡視点ーーーー

 

 

轟音とともに天井から彼が落ちてきました。

 

 

「アァァァァッ!!」

 

 

落下と同時に、彼がその右腕を振るう。

攻撃というよりも、長野桜に近づく私たちを振り払うような動きです。

 

 

「…………『膿腕』」

 

「ウゥゥゥ……」

 

 

彼女を守るように、私たちと対峙する彼。

私の『呪言』が効かない天敵。

なら、答えは一つです。

 

 

「黒野堀さん!」

 

「『落筆呪法・薙』」

 

 

一瞬の判断で彼女は『膿腕』をそのカメラに捉え、異形の右腕を薙ぎ切ーー

 

 

「がァァァァッ!!!」

 

ーーブンッーー

 

 

ファインダーに写るよりも速く『膿腕』が動いた。

彼についての情報はほぼ針倉さんからのものです。

東京駅で私が戦闘不能になった後も少し針倉さんは戦ったようでした。

でも、彼はこんなに速くは動けないって話のはずでした。

なのに、こんな!?

 

 

「っ、黒野堀さんっ」

 

「ヤバッ」

 

 

彼の狙いは彼女。

右腕を振り下ろす、そのための予備動作。

不意にあのときの戦闘を思い出し、背筋が凍る。

一撃で内蔵を破壊される感覚は忘れられません。

もし、この攻撃を手負いである黒野堀さんが食らってしまったら。

 

 

「っ」

 

 

呪符に筆を走らせる。

速記は嫌というほと身体に染み付いています。

振り下ろすよりも速く!

彼女に貼れば!

 

 

「間に合ってッ!!」

 

 

『飛び退け』

その呪符の通り彼女はその場から退避する。

その代わり、

 

 

ーーーーグシャッッーーーー

 

「~~~~っ」

 

 

左腕に走る激痛。

力も入らず、完璧に折れているのが分かります。

幸い折れたのが左腕ならまだ『呪言』は書ける。

まだ戦える。

 

 

「ウゥゥゥゥゥ……」

 

 

唸り声を上げながら『膿腕』がさらに迫ってくる。

 

 

「……っ、黒野堀さん」

 

「……ごめん」

 

「いえ、私も彼があんなに速く動けるのは想定外でした……。それに、黒野堀さんがやられてしまったらおしまいですから」

 

「…………」

 

 

少し俯く黒野堀さん。

何か、決意をしているような……?

 

 

「……紡ちゃん」

 

 

ふと名前を呼ばれる。

さっきまでとは違い、下の名前を。

 

 

「は、はい」

 

「ここはウチに任せてよ」

 

「え?」

 

 

突然の提案でした。

って、なにを……?

 

 

「腕、折れてるなら足手まといだし。だから、先に行って」

 

 

足手まとい。

それが彼女の本心でないことはその表情を見ればすぐに分かります。

 

 

「……でも」

 

「ダイジョブ」

 

「………………また後で、会いましょう」

 

「ん」

 

 

走り出す。

視界の端に写った彼女が笑うのが見えました。

 

 

「通すと思うか」

 

「!」

 

 

地下三階へ向かう階段に立ち塞がる長野桜。

けど、私はそのまま突っ込む。

 

 

「『落筆呪法・穿』!」

 

ーーガリガリガリッーー

 

 

「くっ、小娘ッ!」

 

 

私と彼女の間を削り、隙を作ってくれた。

ありがとうございます、黒野堀さん。

また、後で。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「……やってくれたのぉ」

 

 

黒野堀を前にして、『無常』は呟く。

苦虫を噛み潰したような表情で、彼女を睨む。

 

 

「ウゥゥゥ……」

 

「『膿腕』、この小娘は搾り取れ。こいつに成り変わり、あの娘を追う」

 

 

『膿腕』は天与呪縛によって怪力を有している。

同時にその握力も尋常ではない。

それを利用して、人体から血液や水分を搾り取ることは彼にとっては造作もなかった。

そして、人体から搾り取ったそれは『無常』の術式によって再利用される。

 

『変身』

人間の組織を体内に取り込むことによって、その人間に成り変わる。

それが彼女の術式であった。

長野桜の姿も『変身』によるものである。

それを今度は黒野堀で行おうとしている。

 

 

「行け」

 

「オォォォォォッ!!」

 

 

雄叫びを上げて『膿腕』が迫る。

それを見て黒野堀は、

 

 

ーースッーー

 

 

スマホを下ろした。

そのまま、それを捨てる。

画面には、充電切れの表示。

 

 

 

ーーガシッーー

 

 

 

人から血液や水分を搾り取れるほどの腕力を持つ『膿腕』の右手を黒野堀は掴んでいた。

 

 

「グ、ウゥゥゥ……」

 

「……なぜその子の右手を受け止められる」

 

 

理由は簡単。

それが彼女の縛りであったから。

 

 

「スマホのバッテリーが切れるまではウチは一切の呪力を体に纏わせることができない」

 

「その代わり、バッテリーが切れたらウチの呪力は跳ね上がる」

 

 

術式を開示し、更にその呪力は増していく。

 

 

「ウチはさ、友達との約束は守るタイプなわけ」

 

「また後で、って言われたし」

 

 

ニヤリと笑い、彼女は更に力を込めていく。

『膿腕』の掌を握りつぶすほどの力で。

 

 

 

「ウチがあんたらを倒す」

 

「かったるいけど」

 

 

 

ーーーー地下三階 紡視点ーーーー

 

 

地下三階へはすぐに着きました。

階段にも誰もおらず、マンションの廊下にも誰もいない。

突き当たりの部屋以外、どこにも人がいる気配もなく、残穢を簡単に追うことができました。

呪力を右手に纏わせ、扉を破る。

 

 

「チッ、主じゃないのかよ……」

 

 

扉を破り、初めに目に飛び込んできたのは、1人の黒スウェットを着た少年の姿。

恐らく彼女の仲間。

 

 

「…………」

 

 

そして、その足元に横たわる長月ちゃんの姿。

 

 

「なが、つきちゃん……?」

 

「……あぁ、こいつの仲間か」

 

 

長月ちゃんから呪力は感じません。

まったく、感じ取れない。

 

違う。

そんなわけありません。

そんなことありえーー

 

 

「殺したよ。きっちり呪力でトドメを刺したから呪霊に転じる心配はない」

 

 

なにか言っている。

目の前の呪詛師がなにか。

……じゅそし。

そうだ、じゅそしだ。

じゅそしならーー

 

 

 

「ころしてもいいんだ」

 

 

 

 

次作でもアンケートとってますが、主要キャラ落書き(デフォルメ絵)してもいいですか? ※未経験者なので雰囲気だけ伝わればよいものとする

  • よい・やってみせよ
  • 完結したんだからNG
  • いや、むしろ私が書こう(有能絵師)
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