ーーーー廃アパート一階ーーーー
不気味な静けさがあった。
いや、もう使われていないアパートだから静かで当たり前なんだけれど。
「針倉さん」
「うん、いるねぇ。少なくとも5体」
入って早々、そんなやりとりが僕の横で行われる。
いるっていうのは、勿論呪霊のことだろう。
「長月ちゃん」
「うん、なに?」
「思ってた以上に数が多いです。だから、今は針倉さんとーー」
「いやいや、長月ちゃんは紡ちゃんと一緒に行ってよ」
「針倉さん、それは……」
「だいじょぶだいじょぶ。反応は一階に固まってるからそっちは私がやるさ」
なにが大丈夫なのかは僕にはよく分からなかったけれど、ともかく僕は彼女と行動することになるらしい。
「じゃ、そっちはよろしくね」
「はい……分かりました」
ーーーーーーーー
そんなやりとりがあったのが、つい15分ほど前のこと。
僕たちは、一体だけ離れているという二階の呪霊の元へ向かっていた。
階段を駆け上がりながら確認する。
「術式、だっけ?」
僕に刻まれているという、件の『呪霊操術』は今の僕に使えるのか。
その問いに、彼女は首を横に振った。
曰く、術式を使うにはまず呪力のコントロールから始めなくてはいけないらしく、僕にはまだその術はない。
そもそも操る呪霊がいないのだから使えない、そんな答えを返された。
「だから、今は……見学だと思ってください」
本当は私よりも針倉さんの方が適任だと思うんですが。
彼女のその言葉は聞こえないふり。
あの人と一緒なんて嫌だし。
「長月ちゃん、簡単ではありますけど説明しておきます」
「呪力と術式。そして、等級についてです」
呪力……呪いを祓うためのエネルギー。
術式……呪力を使って生み出す呪術師の武器。
等級……呪霊の強さを表す基準で、呪術師にも割り当てられる。同等級の術師と呪霊が戦えば、確実に祓える。
簡単にまとめると、そんな感じ。
さらに、彼女は説明を続ける。
「例えば、三級の私であれば、三級の呪いならば祓えるといった具合でーー
『せんたクモのは、かわキまシたかァァ』
説明を遮るように。
不意に聞こえてきたのは、エコーのかかった声、音。
見ると、階段の上、そこには異形の化物。
巨大な顔の下半分に目玉、上半分には涎をダラダラと流す口。
その顔から直接足が二本。
一目見て、呪霊だと分かるモノ。
「呪霊……っ」
身構える、が
ーーパァァァンッーー
同時に爆ぜた。
「このように、呪力だけでも同等級の呪霊ならば祓えます」
「…………なるほどね」
彼女が右の拳に込めたという呪力。
気づけば、彼女はもう右手の黒い手袋を外していた。
思い返せば、僕に憑いていたアレを祓ったときも呪力の形跡は視えていた。
呪力と等級。
うん、なんとなくだけど分かった。
「ちなみに、針倉さんは準一級ですよ」
「……本当に?」
「えぇ、私よりも圧倒的に強いですよ」
「…………」
さっきのでも僕にとっては十分脅威だ。
なのに、あれで三級。
そして、準一級……か。
ーーーー廃アパート一階ーーーー
「6体、想定よりも少し多いねぇ」
まぁまぁ、二級の呪霊程度ならばこんなものかな。
ライダースについた埃を払いながら、見渡す。
高校生諸君の姿は見えない。
「いるとしたら上かぁ」
大方、一階のこいつらから逃げ回り上に逃げたところで、二階の呪霊にやられたってところだろうねぇ。
まぁ、私には関係ない。
今、私が心配すべきはーー
「さてはて、そろそろ見つけた頃かな」
ーーーー二階205号室ーーーー
「……ここです」
そう言う彼女に付いて、僕もその部屋の前に立つ。
階段の奴より気配が濃い。
死の……気配だ。
「長月ちゃん、私から離れないでください」
コクリ、と頷く。
今の僕はなにもできない。
彼女の近くにいることしかできない。
「開けます」
「うん」
ーーガチャッーー
ドアを開けると同時に、
ーーーーズズズズッーーーー
僕らは引きずり込まれた。
「長月ちゃん!」
「っ、大丈夫」
どうにか体勢を立て直した。
幸い近くに彼女はいる。
見渡す。
中はアパートの一室というには若干……いや、かなり広い。
どこかの博物館のような部屋。
外側から想定していた部屋の広さとは明らかに違う。
「生得領域……」
「?」
彼女の発したそれが何かは分からない。
けれど、少なくともいい状況ではないようだ。
「長月ちゃん、気をつけてください」
「来ます」
彼女の言葉の直後、部屋の奥からゾワリと寒気を感じた。
そして、部屋の奥の暗がりから現れた。
その姿はさっきの呪霊とは全く違う。
顔も巨大じゃないし、目も2つ。
腕も足も普通。
それどころかその制服姿はまるで、
「高校生……?」
そう。
それは高校生のようだった。
「恐らく、例の行方不明の高校生の一人でしょう」
「うん。でも、あの姿は……」
「はい」
「もう、手遅れでした」
形だけを見れば人間と変わらない。
ただ、彼の頭からは緑色の鉱石が張り出し、その鉱石は彼の腹も突き破って不気味な輝きを放っていた。
取り込まれています。
彼女はそう告げた。
「鉱石……武器が必要かもしれません」
そういえば、さっきの奴も彼女は拳に呪力を込めていた。
……相性が悪いってこと、か。
「針倉さんにどうにか連絡をとります」
「わかった」
「私が時間を稼ぎますから、長月ちゃんはーー
『ヨいニオイ。オンナがふたリ……いイにくダ』
「!」
会話を切るように、それは口を開いた。
呪霊が喋る。
それ自体は僕でも知っている。
さっきの呪霊も喋ってはいたし、憑いていた奴も何かを話していた覚えがある。
けれど、訳の分からない、意味の通じない言葉だった。
まるでどこかで覚えた言葉を話す鳥のような。
だが、目の前のこいつは違う。
『オトこはマズいぃィ、オんナはうんマイぃぃ』
ケタケタと声を上げて笑うこいつの言葉は、明らかに僕らのことを指している。
教えられなくても分かる。
会話ができるほどの知能の呪霊なんて、ヤバくない訳がない。
「っ、紡ちゃん」
横の彼女の方を見る。
判断を仰ぐために。
後から聞いたことだが、言葉が通じ、コミュニケーションがとれる呪霊は相当ヤバいらしい。
少なくとも二級レベル。
三級の彼女が敵う相手ではない、はずだった。
だが、彼女は
「ほっ」
息を吐いていた。
諦めではなく、安堵のため息だ。
『あァ? そのオンななゼアンしんしてイル?』
僕を指差し、そいつのように恐怖するのが普通だろう、と呪霊は言う。
呪霊にとっても想定外だったのだろう。
それは勿論、僕にとっても、だ。
彼女はさらに僕の予想を裏切り、笑う。
普段から垂れている彼女の目尻が下がる。
そして、彼女は語り出す。
「私の術式をお教えしますね」
「『呪言』」
「正確には私というより狗巻家の術式なんですが」
「とにかく言葉に呪いを込める術式です」
説明をしながら、彼女は髪をまとめる。
左手首につけていたヘアゴムで、長い黒髪をポニーテールにしていく。
「言葉に込めた現象を引き起こす。本来はかなり強い術式です」
「ただ、私にはその術式が中途半端にしか刻まれませんでした」
「それが、この右手の呪印ーー『蛇の目』と『牙』」
右手首に刻まれた『蛇の目』と人差し指の『牙』
それが彼女の術式。
「本来ならばこの術式を持つ者の口からは『呪言』が放たれる」
「でも、私が口にした言葉は呪いにはならず」
「しかも、言葉の通じる相手にしかこの術式は発動しません」
「その代わりーー」
『ナにをだラダラとハナシてルぅぅ……いいかラクワセろぉぉ』
ーーーースッーーーー
「ーー私の『呪い』は上級の呪霊にすら通じる」
彼女はどこからか筆を取り出し、呪いを込める。
視える。
呪いが『蛇の目』を伝い『牙』へ。
まるで墨のように伝っていく。
そのまま彼女は『呪言』を、呪霊の身体に書き綴る。
『
ーーーーガシャァァンッーーーー
その瞬間、何かが砕ける音と共に、部屋の空気が引き戻された。
「……終わった……?」
あっという間だった。
目の前には、上半身がバラバラに砕けた呪霊と彼女の姿。
さらに、呪霊が燃えていく。
それを確認した彼女は、僕の方に向き直り、
「はい。終わりましたよ、長月ちゃん」
微笑んだ。
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次作でもアンケートとってますが、主要キャラ落書き(デフォルメ絵)してもいいですか? ※未経験者なので雰囲気だけ伝わればよいものとする
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よい・やってみせよ
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完結したんだからNG
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いや、むしろ私が書こう(有能絵師)