呪詛師殺しの僕(完)   作:藍沢カナリヤ

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第50話 寝覚月ー漆ー

ーーーーーーーー

 

 

「っ、『毒蟲』ッ!!」

 

ーーゾゾゾゾゾゾッーー

 

 

咄嗟に蟲を放つ。

蟲は僕の首を掴む『彼女』を遠ざけるように襲いかかる。

 

 

「っ、霞っ!!」

 

『紡』ちゃんが蟲を祓おうと手を離した隙に、僕は彼女に駆け寄る。

その顔、髪……やっぱり霞だ。

 

 

「ーーーー」

 

「かすみ、かすみっ、しっかりしろっ」

 

 

その体の中央には穴が空いていた。

血がいっぱい。

 

 

「……ーーーー」

 

 

何かを言おうとしてる。

でも、肺にも穴が空いているせいで、発音ができてない。

いや、だめだ。

 

 

「喋るなっ、今、姉ちゃんが助けるからッ」

 

「ーーーー…………ーー」

 

「絶対、ぜったいに助けるッ」

 

 

霞の胸の穴に手を当てる。

見様見真似だ。

でも、家入さんや針倉術師のそれを見ていただろ、僕は。

できるはずだ!

違う、できるできないじゃない、やるんだ。

やらなきゃ僕はまた大切な人を失ってしまう。

 

 

「たのむっ、頼むからっ……」

 

 

穴は塞がらない。

反転術式は使えない。

僕に霞は救えない。

 

 

「なんで…………」

 

「ーー……ーーーー」

 

 

僕に何かを伝えようとする霞。

だが、僕には彼女が何と言っているのか分からない。

ボロボロと大粒の涙が僕の頬を伝う。

それが横たわる霞の体にかかって、穴へ向かって流れていく。

 

 

「…………」

 

 

少しずつ霞の呼吸は弱くなる。

だめだ。

いやだ。

 

 

「やだよ……まってよ……」

 

 

彼女の瞼がゆっくりと閉じた。

やがて、彼女から何の音もしなくなった。

 

 

「………………あ、あぁぁぁ」

 

 

声にならない声をあげる。

 

 

 

「アハハッ」

 

「…………」

 

 

その声が耳障りだ。

止めろ。

笑うな。

 

 

「アハハッ、しんだしんだっ」

 

「……止めろ。笑うのを止めろ」

 

「なんで~? たのしいよ?」

 

 

 

「殺してやる」

 

 

 

もう考えるな。

僕の大切な人を奪った目の前の奴を殺す。

それだけを願え。

 

 

「『大蜈蚣(おおむかで)』『蛞蝓籠(なめくじごもり)』」

 

 

極ノ番『うずまき』。

『呪霊操術』の奥義とも言える術。

手持ちすべての呪霊を1つにまとめ、超高密度の呪力をぶつける。

それを会得するために、無常と2体の呪霊をまとめる訓練をしていたが、一度もできなかった。

けれど、今、殺すためにそれを成す。

 

 

「複合呪霊『蜈蛞(ごかつ)』」

 

 

人間と同じ大きさの粘液を帯びた蜈蚣の呪霊。

その術式効果は、

 

 

「絡め取り、絞め殺せ」

 

「っ、なに、これ……キモチワルイ……」

 

 

脱出不能の拘束。

それに加えて、

 

 

「『転がし坊(ころがしぼう)』」

 

 

子供の姿をした呪霊を呼び出す。

術式効果は平衡感覚の剥奪。

発動条件は『それ』が対象の周りを一周すること。

これで『彼女』は起き上がれない。

 

 

「あれェ?」

 

「終わりだ」

 

 

『蜈蛞』で身動きも取れず、『転がし坊』で立ち上がることもできない。

今なら『蟲纏・一刀』で確実に殺せる。

心臓を貫けば終わりだ。

霞と同じ苦しみを味わって死ね。

 

 

「死ねッ」

 

 

振りかぶる。

そしてーー

 

 

 

「『止まれ(トマレ)』」

 

 

 

「は?」

 

 

それは経験したことのない感覚。

頭ではこのまま『一刀』を振り下ろせばいいことは分かっている。

なのに、動けない。

いや、体が動くことを拒絶している。

 

 

「これは……」

 

「アハッ、こうつかうんだぁ」

 

 

見れば、拘束されている『彼女』の口元になにかが浮かび上がっていた。

それは本来、右手に刻まれているはずの呪印。

蛇の目と牙。

『呪言』を司るもの、それが『彼女』の口元にあった。

 

 

「『呪言』か!?」

 

 

何が起こったのかは分からない。

けれど、今の『彼女』は、

 

 

「『吹き飛べ(フキトベ)』」

 

ーーグンッーー

 

 

『呪言』を話せる。

 

 

「ぐ……」

 

 

水平方向に数m吹き飛ばされ、脳がぐらつく。

くっ、体勢を立て直せ。

 

 

「『毒ーー

 

「『動くな(ウゴクナ)』」

 

「っ」

 

「『術式を解除しろ(ジュツシキヲカイジョシロ)』」

 

 

まただ。

動きが止まる。

その上、『呪言』で術式が強制的に解除され、

 

 

「えいっ」

 

「っ」

 

 

押し倒される。

馬乗りになられ、呪力を帯びた拳で何度も、

 

 

ーーバギッーー

 

 

何度も、

 

 

ーーバギッーー

 

ーーバギッーー

 

 

何度も殴られる。

愉快そうに笑う『彼女』の声を聞きながら、僕は覚悟を決めた。

……いや。

これは覚悟ですらない。

もうどうなってもいいという諦め。

 

 

「もう……いい」

 

 

僕は全てを諦めた。

 

 

 

「来い」

 

「『紫鏡(むらさきかがみ)』」

 

 

『やっと呼んでくれたのね、オネエチャン』

 

 

『彼女』とは違う少女の笑い声。

そこで、僕の意識は途絶えた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

頬に当たった水の感触で、僕の意識は覚醒した。

僕は仰向けで空を見上げていた。

 

 

「雨……」

 

 

いつの間にか天気は荒れ、空から大粒の雨が降り注いでいた。

雨のせいか。

僕の頭はすっと澄んでいた。

ふと、横になった体に重みがかかっていたことに気付く。

 

 

「…………紡……ちゃん」

 

「…………」

 

 

僕の胸の上で。

彼女は眠るようにして横たわっていた。

長時間雨に打たれたせいだろう。

その体は冷え切っていて……いや、そもそも彼女の命の灯はこの雨に消されるよりもずっと前に消されていた。

 

 

「……そうか。殺した……のか……」

 

 

僕は大切な人の仇を討てたんだ。

『紫鏡』を使ってしまったのは不本意だけど、それでも僕が殺したのには変わりない。

 

 

「…………?」

 

 

不意に、頬を伝っていく温かい雫を頬に感じた。

雨、かと思った。

けれど、違う。

これは、

 

 

 

「涙……?」

 

 

 

いったい誰が……?

まさか、紡ちゃん?

……いいや。

それが違うことは分かっていた。

 

 

「……僕が泣いているんだ」

 

 

でも、なぜ?

きっと悲願を遂げたからだ。

そうに決まってる。

 

 

「………………」

 

 

これは嬉し涙だ。

大切な人の仇を討てたのとへの安堵の涙だ。

なのに、

 

 

ーー私は狗巻紡ーー

ーー貴女を監視するために派遣された呪術師ですよーー

 

ーー貴女は悪くありませんーー

ーー呪術師としてできることをしただけですからーー

 

 

なのに、なぜ、紡ちゃんとの日々を思い出すんだろう。

 

 

ーーお出かけしましょう、長月ちゃんーー

 

ーーはい、あーんーー

ーー美味しいですか? それはよかったです!ーー

 

 

あのあたたかい日々を思い出してしまうのはなんでだろう。

 

 

ーーねぇ、長月ちゃんーー

ーーこの先もずっとーー

 

 

僕は、霞を殺した彼女を憎んでいたはずなのに。

なんで……?

 

 

 

ーー友達でいてくださいねーー

 

 

 

「…………」

 

「………………あぁ、そうか」

 

 

僕の隣で、穏やかに笑う彼女は。

僕の大切な人を殺したはずの彼女は。

僕にとって、もうーー

 

 

 

「ーー『大切な人』になってたのか」

 

 

 

僕は、『大切な人』を守るために戦うと決めた。

けれど、その大切な人(紡ちゃん)大切な人(ばあちゃんと霞)を殺して。

そして、僕が大切な人(紡ちゃん)を殺した。

皮肉だ。

僕は自分で自分の戦う理由を殺してしまったんだ。

 

 

「どうすれば…………いいんだよ……」

 

「教えてよ」

 

 

僕に戦い方を教えてくれた時みたいに。

 

 

「紡ちゃん……」

 

 

彼女は何も言わない。

言えない。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

どのくらいそうしていただろうか。

ずっと僕が晒されていた雨を遮ったのは、1つの黒い傘。

 

 

「おやおや」

 

「傷心のようだねぇ、長月ちゃん」

 

 

彼は僕の顔を覗き込み、告げる。

 

 

「紡ちゃん殺しちゃったんだね」

 

「……喪って初めて分かる大切さってやつかい」

 

 

「………………」

 

 

 

「さてさて、長月ちゃん……私とおいで」

 

「紡ちゃんを蘇らせたいんだろう?」

 

 

ニヤリと、彼は笑った。

 

 

 

ーーーー呪術高専医務室ーーーー

 

 

 

「…………っ」

 

 

目が覚める。

ここは……?

 

 

「…………っ、!」

 

 

声が出ない。

呼吸はできるのに、声を出すことができない。

なんで……?

色んな疑問が浮かんで、それの答えがないままーー

 

 

「目が覚めたか」

 

 

わたしは声をかけられた。

白衣姿の女の人。

目の下の隈がすごい人だった。

家入、と名乗ったその人はわたしに聞いた。

 

 

「…………確認していいかな」

 

「君が……菅谷霞、だね」

 

 

「っ」

 

 

わたしはその人の言葉に頷いた。

 

 

ーーーーーーーー

次作でもアンケートとってますが、主要キャラ落書き(デフォルメ絵)してもいいですか? ※未経験者なので雰囲気だけ伝わればよいものとする

  • よい・やってみせよ
  • 完結したんだからNG
  • いや、むしろ私が書こう(有能絵師)
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