呪詛師殺しの僕(完)   作:藍沢カナリヤ

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第53話 無常ー弐ー

ーーーー手記ーーーー

 

 

息子を失った60年前のこと。

儂は自らの名を捨て、『無常』と名乗った。

 

なぜこの名にしたのか、その記憶は朧気だ。

不変ではないという意味の言葉であるのは、息子の死をーー変わることを否定した儂にとって、大いに皮肉である。

 

『膿腕』ーー有馬優を拾ったのは25年前だったか。

儂が『降霊杖』を諦めかけていた頃で、優の存在が儂の心を支えていた時もあった。

息子のように、変わりの優を育てた。

 

10年前、『才羽』ーー録松泰司は母親に自殺をされ、自らも首を括ろうとしていた。

それを止めたのは、儂自身を泰司に重ねたからだろう。

呪術を教え、呪霊と呪物集めをさせた。

 

死者の蘇生すら可能な特級呪物『降霊杖』を手に入れたのは、5年前。

これを皮切りに、儂は術師を引き入れた。

フリーの呪術師、呪術高専の呪術師、呪詛師。

バラバラの思想の奴らを協力関係にしたのは、いずれも死者の蘇生という手札があったからだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

真希さんと手を繋ぎ、辿り着いたマンションの一室。

壁もボロボロになっていて、部屋とは呼べないその場所で、その人の手記を見つけた。

書かれていたのは、今までのこと。

この人が殺してきた人、犯してきた罪のこと。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

2人とも無言で手記をめくっていく。

そして、最近のことが書かれたページに辿り着く。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

儂は今、息子を蘇らせるための手札をもう一歩で手にしようとしている。

儂の手にある『降霊杖』。

奴が持つ『ロッポウ』。

やっとだ。

これでやっと儂の悲願が叶う。

 

だが、1つ気がかりがある。

儂にシャーロットという術師を殺させてまで、長月と狗巻紡を殺し合わせて何がしたいのか。

儂を長月の妹の姿に変えさせて、何をしようとしているのか。

奴の真意が分からない。

 

協力関係にあるとはいえ、相手の目的が分からんのは気味が悪い。

儂は呪詛師に頼み、奴の隠れ家を探し出し、そこで儂が成り代わったはずの長月の妹を見つけた。

喉は抉られていたが、生きてはいる。

 

この子を逃がす。

長月へのせめてもの償いだ。

万が一のことを考え、『降霊杖』をこの娘に持たせ、逃がした。

 

 

これから儂は奴とともに、長月と狗巻紡の殺し合いを見届ける。

 

なんにしろ、これが終われば息子は帰ってくる。

あと少しだ。

待っていろ、高秋。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

手記はそこで終わっていて、続きのページは空白だった。

 

 

「なるほどな」

 

 

納得する真希さんの横で、わたしは考えていた。

この人のこと。

そして、お姉ちゃんのこと。

 

 

【あの、真希さん】

 

「なんだ?」

 

【この人は……】

 

 

それだけで察してくれたようで、真希さんは首を横に振る。

 

 

「死んでるだろうな」

 

 

やっぱり、ですか。

 

 

「呪詛師の言葉をそのまま鵜呑みにするわけではねぇけど、こいつが言う『奴』っていう奴が黒幕なんだろ」

 

【その人が、お姉ちゃんを人殺しにさせたんですね……】

 

「…………」

 

 

拳を握る。

お姉ちゃんはその『奴』っていう人のせいで、紡って人を殺した。

家入さんからは2人は友達だって聞いていた。

そんな友達を殺させるなんて。

 

 

「霞」

 

【なんですか?】

 

「もし今、その『奴』のせいで、姉ちゃんが人殺しになったって考えてるなら、それを恨むのはお門違いだ」

 

【え……?】

 

「オマエの姉ちゃんが棘のいとこを殺したのは、姉ちゃん自身の選択だ」

 

「それに多分だけどな、姉ちゃんももう手は汚してる。だから、『奴』のせいで人殺しになったわけじゃねぇよ」

 

「っ」

 

 

真希さんの言葉に、わたしは何も返せない。

わたしは呪術師じゃないから。

呪力は使えても呪術師じゃない。

だから、それには何も言えなかった。

……でも!

と、わたしがホワイトボードに書くより先に、真希さんはボソリと呟いた。

 

 

 

「だが、仲間同士を殺し合わせるってのは胸糞わりぃ」

 

 

 

隣の真希さんの雰囲気が変わる。

さっきよりもずっと刺すような鋭い雰囲気。

 

 

【真希さん】

 

「なんだよ?」

 

【真希さんって優しいんですね】

 

「ッ、うるせぇ」

 

 

友達の殺し合い。

それに怒る真希さんはきっと友達思いの優しい人なんだなって。

そう思った。

 

 

「……で! 何か思い出さねぇのかっ」

 

「!」

 

「こいつがオマエを助け出したんならこいつに関することとか、恐らくオマエを誘拐した『奴』のこととか」

 

「………………」

 

 

何か。

何か覚えてることはーー

 

 

 

ーーズキッーー

 

 

 

「っ」

 

 

ふと頭が痛んだ。

なにか……なにかが……。

 

「霞だけは……」

「せっかく私が苦しまないように殺してあげようとしてるのに、なんで抵抗するかなぁ」

「逃げろ、霞」

「逃がすと思うかい?」

 

血塗れのおばあちゃん。

そして、おばあちゃんを傷付ける男の人の姿。

なに、これ……?

 

「さてさて、君のおばあちゃんは死んだ」

「けれど、おめでとう。君には利用価値があるからねぇ」

 

そう言って男はわたしの喉をーー

 

 

 

ーーバツンッーー

 

 

 

そこでわたしの意識は途絶えた。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「………………」

 

 

針倉優誠の計画は順調であった。

『呪霊操術』ーー菅谷長月を、狗巻紡を蘇らせることを餌に、駒として動かせるようになったこと。

特級呪物『ロッポウ』を手に入れたこと。

そう。

順調であり、彼の目的の成就まであと一歩に迫っていた。

 

だが、2つだけ、計画にはないことが起きていた。

1つは彼の隠れ家に捨て置いていた菅谷霞の姿がないこと。

もう1つは『無常』の死体から『降霊杖』が見つからなかったこと。

それが堪らなく煩わしい。

 

 

「どうしたものか」

 

 

誰もいない部屋の中に、声が響く。

仮面を脱ぎ捨てた温度のない声。

彼自身の本物の声。

 

 

「針倉」

 

「!」

 

 

不意にかけられた声は、彼の駒である長月のものだった。

 

 

「やぁやぁ、どうだい? 調査は順調かな?」

 

 

仮面をつけ直し、訊ねる。

あの日以来、長月の目は虚ろで光がなく、まるで屍のように針倉の指示によって動いていた。

調査、というのは『降霊杖』の在処を探させていたものだ。

彼女の蟲は何かを探らせるには都合のいい道具であった。

 

 

「『降霊杖』の在処が分かった。呪術高専の中だ」

 

「なるほど。高専忌庫か」

 

「どうする、襲撃するか」

 

「………………」

 

 

考えている針倉のスマホが震えた。

その画面を見た彼はニヤリと笑い、襲撃を否定した。

 

 

「…………いやいや、まだ動かなくていい」

 

 

時期が来れば向こうから忌庫を開けてくれるさ。

針倉はそう言った。

 

 

 

「襲撃は10月31日の夜」

 

「忌庫から持ち出された『降霊杖』並びに呪具を強奪しーー」

 

 

「ーー君と私の目的を果たすとしよう」

 

 

ーーーーーーーー

次作でもアンケートとってますが、主要キャラ落書き(デフォルメ絵)してもいいですか? ※未経験者なので雰囲気だけ伝わればよいものとする

  • よい・やってみせよ
  • 完結したんだからNG
  • いや、むしろ私が書こう(有能絵師)
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