呪詛師殺しの僕(完)   作:藍沢カナリヤ

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第54話 無常ー参ー

ーーーーーーーー

 

 

瞼に感じる光で目が覚めた。

目の前に広がるのは白い天井。

少しして、そこが呪術高専の医務室だと気づく。

どうやらわたしは気を失っていたみたい。

 

 

「目が覚めたか」

 

「…………」

 

 

ベッドで眠っていたわたしの顔を覗き込むように、綺麗な髪が視界でゆらゆらと揺れる。

 

 

「例の場所で、気を失ったらしい」

 

 

身体をゆっくりと起こし、枕元にあったホワイトボードを手に取る。

 

 

「身体に異常はないか」

 

【はい】

 

「…………少し顔色が悪い。まだ休んでいた方がいい」

 

【家入さん……わたし、思い出しました】

 

「思い出した?」

 

 

家入さんにコクリと頷き、書き込む。

思い出したことを。

 

 

【誘拐された時のこと……おばあちゃんが殺されたときのこと】

 

「…………」

 

【わたし、おばあちゃんが殺されるのを見ていました】

 

「…………」

 

【おばあちゃんはわたしを庇って。わたしの手のなかで冷たくなっていきました】

 

 

思い出したくない。

だから、蓋がされていたんだ。

でも、思い出してしまった。

 

 

【家入さん】

 

「なんだ?」

 

【呪術高専は……おばあちゃんを殺したのはお姉ちゃんだって】

 

「……あぁ、彼女の残穢が残っていた」

 

【違いました】

 

 

わたしが見たのは、お姉ちゃんじゃない。

ここに保護されて見せてもらったお姉ちゃんと一緒に逃げているという男の人の写真。

わたしが思い出したのはその人物の顔だ。

その人物の名前はーー

 

 

【おばあちゃんを殺したのは】

 

 

 

【針倉優誠です】

 

 

 

身を呈して庇うおばあちゃんに、張りついたような笑顔で針を刺していくあの顔。

わたしから声を奪って連れ去ったあの人。

なんで忘れていたんだろう。

忘れてはいけないはずなのに。

 

 

「……やはり、か」

 

 

わたしの言葉を見て、家入さんは大きなため息を吐いた。

そして、

 

 

「だそうだ」

 

 

医務室の入口に向け、声をかけた。

誰かいるの?

目をやると、そこには長身の男の人。

眼鏡をかけ、スーツを着た姿は、呪術師というよりはサラリーマンと言われた方が納得するような印象を受ける。

 

 

「家入さんの勘が的中した、という訳ですか」

 

「残念なことに、な」

 

 

家入さんと話すその人は、ゆっくりとわたしの方に近づいてきて。

 

 

「初めまして。七海といいます」

 

 

近くに来ると思ったより大きくて、少し萎縮してしまうわたしに、家入さんは大丈夫だと声をかけてくれる。

 

 

「安心していい。脱サラ呪術師だから、そこいらの呪術師よりは常識のあるいい奴だ」

 

「……五条さんのようなことを」

 

「げ」

 

 

なにか苦虫を噛み潰したような表情をする家入さん。

とにかく、信頼していい人なんだよね。

 

 

【菅谷霞っていいます】

 

「よろしく」

 

【よろしくお願いします】

 

「家入さんから依頼されて、針倉優誠のことを探っていました」

 

 

他にも案件があり、随分遅れてしまいましたが。

そう言った七海さんから、一枚の紙を渡される。

報告書、と書かれたその紙には、針倉って人のことが書かれていた。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

詳しい専門用語は分からないけど、2人の様子からあまりいい情報でないことは分かった。

 

 

「非術師の家系に生まれながら、『針』を使った術式で準一級まで上がってきた生え抜きの呪術師」

 

「『反転術式』も使え、悟と同じように術式反転も可能。これほどの術師がなぜ一級に上がっていないのか。分からないな」

 

「……深いところまで調べることができませんでした。上からストップをかけられまして」

 

「ますますキナ臭い」

 

「えぇ、上にとっても不都合なことがあるのでしょう」

 

 

それから2人は針倉って人のことについて話して、今後の方針を立てていく。

そして、わたしの話になった。

 

 

「霞さん」

 

【はい】

 

「針倉は貴女のことを狙ってくる可能性があります」

 

 

それはなんとなく分かってた。

何もなければ、あの時ーーおばあちゃんを殺した時にわたしも一緒に殺されてるはず。

わたしを拐ったのには理由がある。

そう考えるのが自然だ。

 

 

「本来であれば、私が貴女の護衛をするのが理想なのですが、如何せん優先するように言われている任務が入っています」

 

「だから、霞には引き続き真希たちを護衛につける」

 

「私も任務が終わり次第合流します。それまで何も起きないとは限りません。ですから、私の権限でしか通らない申請をいくつかしておきます。それで少しは彼から身を守れるはずです」

 

 

頷く。

 

 

「動くなら早い方がいい。今から申請をしてきます。家入さん、あとはーー」

 

「あぁ、任せろ」

 

「では、また近いうちに」

 

 

席を立ち、医務室を出ていく七海さんを見送った。

医務室に家入さんと2人だけになる。

 

 

【家入さん】

 

「今日は色々あっただろう。真希を呼んでおくから一緒に寮に戻れ」

 

 

少しして真希さんが来てくれて。

その夜は更けていった。

 

 

ーーーー呪術高専グラウンドーーーー

 

 

【真希さん、呪具の使い方を教えてください】

 

「…………」

 

 

翌日、わたしたちは呪術高専のグラウンドにいた。

棘さんやパンダさんも一緒だ。

 

 

「……何を言い出すかと思えば」

 

【わたしは戦える力が欲しい】

 

「話は聞いてる。だが、私らが護衛としているんだ。それに一級術師も動いてるって家入さんに聞いてる」

 

「………………」

 

「はぁぁぁ……分かった、分かったよ」

 

 

そんな目で見るな。

真希さんはそう言い、パンダさんを呼んだ。

そういえば、前のマンションに向かった時も、パンダさんが真希さんの武器を運んでた。

 

 

「私が教えられるのは呪具の扱いだけだ。それに呪力を込めるのは他の奴に聞け」

 

【はい!】

 

 

そうして、わたしは真希さんから教えてもらうことにした。

 

 

ーーーー呪術高専寮内ーーーー

 

 

その夜。

わたしはベッドに横たわり寝込んでいた。

ずっと引きこもってたこともあって、思っていた以上に筋肉がなくなってたみたい。

それに、真希さんも結構なスパルタだったし。

でも、そのお陰で呪具の使い方が分かってきた……気がする。

パンダさんや棘さんも呪力の使い方を教えてくれたから、呪力を込める感覚も少しだけ掴めた。

まだまだ、だけど。

 

 

「…………」

 

 

それにしても、本当に身体が痛い。

なんだか風邪……ううん、それよりももっと酷いインフルエンザにかかった時のような症状で。

あ、これホントにヤバイかも……。

 

そういえば、前にインフルエンザにかかった時、お姉ちゃんが看病してくれたことあったっけ。

あの時は結局、そのあとお姉ちゃんもインフルエンザになって、2人して寝込んじゃった。

懐かしいなぁ、ふふふっ。

 

そんなことを考えながら、わたしは気を失うように眠りに落ちた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

夢を見た。

 

お姉ちゃんと話す夢。

他愛もないことを話す夢。

 

それから、その後に見たもうひとつの夢は、会ったことのない人と話す夢。

真っ白な、何もない場所にわたしとその人だけが存在してて。

これは、誰だろう?

おばあちゃん?

お母さん?

…………ううん、違う。

 

 

「どうやら無事に逃げられたようじゃの」

 

「え?」

 

 

意識が思っているよりもハッキリしてる。

そういえば、聞いたことがある。

自分の意思で動かすことができる夢、たぶん明晰夢ってやつだ。

というか、あれ?

 

 

「声が……出せる?」

 

「当然じゃな。ここはお主の夢の中。声帯を失おうとも話すことなど造作もないじゃろう」

 

 

その人は座ったまま、穏やかな声でわたしに話しかけてくる。

 

 

「まぁ、座れ。少し話でもしよう」

 

 

わたしの夢の中の人物なのに、その人はわたしの意思とは無関係に話し出す。

 

 

「……あなたはだれ?」

 

「ふむ。そういえば前に会ったのはこの姿じゃなかったのぅ」

 

 

そう言うと、その人はわたしの目の前で姿を変える。

 

 

「あっ!」

 

「この姿ならば少しは覚えているか?」

 

 

その人の姿が変わり、わたしの目の前には、わたしと変わらないくらいの年齢の女の子。

でも、口調は変わらず。

見た目と口調が合っていないこの感じは……。

 

 

「数日ぶりじゃな」

 

「あなたは……」

 

 

あの時のわたしはいっぱいいっぱいで。

それでもその姿は見覚えがあった。

 

 

「わたしを助けてくれた……」

 

「助けた……というと語弊があるがの」

 

 

「儂は『無常』」

 

 

その人はそう名乗った。

うん、知っている。

わたしに『降霊杖』を渡して、逃がしてくれた人だ。

 

 

「そのせつはありがとうございました」

 

「……止めろ、礼など言われる筋合はない」

 

「でもーー」

 

「儂は呪詛師。好き勝手に呪術を使い、人を大勢殺してきた。お主を逃がしたのもただの気まぐれじゃ」

 

「…………」

 

 

あの手記を読んで、この人がしようとしてたことは少しは理解してるつもりだった。

けど、目の前の『無常』さんの顔を見たら。

色んな感情が入り交じった表情に、わたしは何も言い返せなかった。

 

 

「……まぁ、いい。儂がここに存在できる時間は少ない。手短に話すぞ」

 

「は、はい」

 

「儂から話すことは2つ。特級呪具『降霊杖』の使い方と針倉優誠の術式について」

 

「!」

 

 

とても有益な情報だった。

わたしはそれらを黙って聞いた。

 

 

「ーーという訳じゃ」

 

「なるほど……」

 

 

そして、確信した。

この情報は、これからお姉ちゃんを探して、助けるのに必要な情報だ。

どちらも家入さんたちと話していた時よりも、ずっと詳しいことが聞けた。

これでさらに対策も立てられるはず!

 

 

「……あぁ、そうじゃ」

 

 

わたしが今聞いたことを必死に反芻していると、『無常』さんは何かを思い出したかのように声をあげた。

大切なことを忘れていた、と。

 

 

「そもそも儂がここにいるのは、お主に儂の魂の情報の一部を分け与えていたからじゃ」

 

「魂の情報……?」

 

「難しくは考えんでいい。儂も顔馴染みの婆さんから昔無理矢理聞き出したことじゃから、詳しくは覚えておらんしな。ともかく儂が死んだ後に、お主の『生得領域』に現れるように細工をしておいた」

 

「?」

 

「…………端的に言おうか」

 

 

 

「数日後、お主にとある『術式』が刻まれる」

 

「その『術式』はーー」

 

 

 

ーーーーーーーー

次作でもアンケートとってますが、主要キャラ落書き(デフォルメ絵)してもいいですか? ※未経験者なので雰囲気だけ伝わればよいものとする

  • よい・やってみせよ
  • 完結したんだからNG
  • いや、むしろ私が書こう(有能絵師)
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