呪詛師殺しの僕(完)   作:藍沢カナリヤ

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第56話 針壊ー弐ー

ーーーー呪術高専1年教室ーーーー

 

 

「さてさて、晴れて彼も呪術師の仲間入りだ」

 

「おめでとう」

 

「ようこそ、東京都立呪術高等専門学校へ」

 

 

拍手をする私に対して、2人のリアクションはない。

なんと薄情なことか。

 

 

「せっかく2人の同級生が3人に増えたんだぜ? もっと感情を露にして喜びを分かち合おうじゃないか」

 

「……あ、あの杭葉くん」

 

「慣れろ、こういう奴だ」

 

 

私に動揺する彼に、杭葉はあしらうようにそう言った。

こういう奴とは?

まったくたかが半年やそこらで私のことを知った気になるとは、杭葉もどうかしているな。

 

 

「……杭葉、何か失礼なことを考えてないかい?」

 

「さぁな」

 

 

まぁ、いい。

私は寛大だからね。

 

 

「おい、悪ガキ共」

 

 

そんな他愛のない会話をしていると、教室の入り口に人影。

ゆるいパーマのかかった亜麻色の髪。

それにネクタイまで真っ黒な喪服のようなスーツ。

そして、低身長。

我らが担任、柳沼女史である。

 

 

「悪ガキ……酷いですねぇ、杭葉はともかく……」

 

「おい、ごら」

 

「事実だろうが。杭葉に漣、そして、針倉。ほら、クソガキだ」

 

「えぇと……」

 

「慣れろ、こういう人だ」

 

 

あたしは子供が嫌いなんだよ。

そう言って、唾を吐き捨てる動きをする柳沼女史。

恐らく外であれば実際にしていたであろう。

聖職者らしからぬ言動だ。

……まぁ、教師である以前に呪術師であるから、その辺は『イカれている』の範疇だろうが。

 

 

「それでどうしたんです? 私と杭葉は、今、つい先日入学した彼に呪術の何たるかを教えていたところですが」

 

「嘘つけ」

 

「バレましたか。さてはて、何か用ですか?」

 

「授業も終わったんだから、寮に帰れ……と怒鳴り付けに来たんだけどな」

 

 

そう言って、彼女はため息を吐いた。

ふむふむ。

 

 

「任務か?」

 

「流石に杭葉は勘がいいな、陰湿なだけある」

 

 

陰湿!

彼女の言葉に爆笑を返す。

流石、的を射ているねぇ。

 

 

「……それで内容はなんですか?」

 

 

率先して、その任務の内容を訊ねる。

いい心がけだ。

だが、

 

 

「お前関連だ」

 

「………………え?」

 

 

柳沼女史は彼を指差した。

 

 

「またか。ついこの間、彼の護衛をしたばかりだと言うのに」

 

「あぁ、この短いスパンで面倒な任務を引き寄せる。さてはお前疫病神か?」

 

「そ、それは……」

 

 

柳沼女史は彼にメンチを切る。

ふふっ、本当に柄の悪い先生だ。

面白くて仕方がないね。

さて、性質の悪いタイプの元ヤンに絡まれて、彼も困っている。

助け舟でも出すとしようか。

 

 

「柳沼先生」

 

「あ?」

 

「任務は本日付ですか?」

 

「いや、3日後だが」

 

「なら、今日は寮に帰るとしましょう。彼の歓迎会の準備もしていますからね」

 

 

そう言って、彼に視線を送る。

昨日、入学手続きも終わり、やっとここに入ることが出来たのだ。

流石に歓迎会のひとつでも開いてやらなくてはね。

 

 

「先生も来ますか?」

 

「行かん。仕事終わりにまでガキと話すのなんてごめんだ」

 

「残念です」

 

 

3日後に任務だ。

忘れるなよ。

それだけを言って、柳沼女史は教室を後にした。

 

 

「さて、それでは寮に帰ってパーティーを始めようか」

 

「……あぁ」

 

「えぇと、いいのかな? 僕絡みの任務があるっていうのに……」

 

 

そんなことを言う彼は、どうやら物の道理というものが分かっていないようだ。

 

 

「いいかい? 2人の同級生が3人になった。これは大きなことだ」

 

「……は、はい」

 

「私はね、君にそういう楽しみも味わって欲しいんだよ」

 

「!」

 

 

そう。

彼にはその権利があるはずだ。

勿論、私たちにも。

 

 

「おい、杭葉!」

 

「なんだ」

 

「彼にちゃんと部屋の案内をしてくれよ」

 

「……言われるまでもないが」

 

「後はあれだ。飲むと酩酊できる麦飲料も準備してくれ」

 

「え、それって……」

 

「無論だ」

 

「えぇ!? 流石にまずいんじゃ」

 

「ふふっ、不味いものか。あれ程素晴らしいものはない」

 

 

そうして、彼の歓迎パーティーは開かれた。

杭葉が持ってきた麦飲料を飲んだ私たちは、次の日まで潰れていたのだが。

まぁ、彼にとってもいい思い出になるだろう。

 

 

 

ーーーー3日後 呪術高専1年教室ーーーー

 

 

任務の日。

遅れて教室に入ると、もう2人が揃っていた。

いや、3人か。

 

 

「やぁやぁ、おはよう」

 

「……おはよう」

 

「遅い」

 

 

2人と挨拶を交わし、席に座る。

教壇には柳沼女史がいて。

 

 

「遅ぇよ」

 

「いやぁ、申し訳ありません。準備が色々ありましてね」

 

「……まぁ、いい」

 

 

咳払いをひとつして、柳沼女史は話し出す。

曰く簡単な呪霊の祓除。

だが、

 

 

「彼に関連すること、という話なのでは?」

 

「……その呪霊の近くで、そいつの姉が目撃されている」

 

「え……? 姉さんが……?」

 

 

姉?

両親は殺されたと聞いたが……?

私や杭葉の疑問を察してか、彼は話し出す。

 

 

「僕の両親は呪霊に殺されました。けど、3歳上の姉は……行方不明なんです」

 

「行方不明?」

 

「はい。あの時、姉も呪霊に殺されたのかもしれない、そう思っていたんですが……」

 

 

そう言って、彼は俯く。

ふむ。

彼が7歳の頃に殺されたのなら……9年ぶりの再会という訳か。

 

 

「……まぁ、その姉が本人なのかは分からんが、呪霊の祓除と同時にその調査もしろって話だ」

 

「…………」

 

 

見ると、彼は俯いたまま喋らない。

立ち直り、前を向こうとした途端にこれか。

とにもかくにも、その姉らしき人物に会わない限り、彼は前に進めないかねぇ。

 

 

「善は急げだ。行こう」

 

「えっ!? ちょっと……」

 

 

彼の手を引いて、私は教室を飛び出した。

 

 

 

「はぁ、馬鹿か。どこに向かうかも聞かずに……」

 

「補助監督に話は通してある。高専の前に車を準備してるはずだ」

 

「…………」

 

「杭葉は行かんのか」

 

「行く。あの馬鹿ほどじゃないが、俺もあいつは助けてやりたい」

 

「そうか。じゃあ、とっとと行け」

 

「あぁ」

 

 

 

ーーーー針倉優誠が知り得ない情報ーーーー

 

 

柳沼は3人が出ていくことを確認すると、上着のポケットから携帯電話を取り出し、どこかへ通話を開始した。

5コール後に、電話の相手は着信に応じる。

 

 

「…………柳沼です」

 

「はい、3人は任務に向かいました」

 

「…………分かっています。去年の夏油傑のようなことにはなりません」

 

「はい……手筈通りに」

 

 

 

「手筈通り、針倉優誠の抹殺を」

 

 

 

電話の相手はその返答に満足そうな様子であった。

更に、その相手は念を押すように彼女への指令をした後、電話を切った。

 

 

「…………」

 

 

一級術師である彼女にとって、呪詛師を殺すのは日常茶飯事で。

上層部の利益のためならば、一般人を殺害することもある。

しかし、彼女にとって、教え子を殺すのは初めてのことだった。

 

 

「クソガキが……」

 

 

彼女は歯軋りをした。

そのせいだろう。

少し奥歯が痛んだ。

 

 

ーーーーーーーー

次作でもアンケートとってますが、主要キャラ落書き(デフォルメ絵)してもいいですか? ※未経験者なので雰囲気だけ伝わればよいものとする

  • よい・やってみせよ
  • 完結したんだからNG
  • いや、むしろ私が書こう(有能絵師)
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