呪詛師殺しの僕(完)   作:藍沢カナリヤ

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第60話 呪詛師殺しー壱ー

ーーーーーーーー

 

 

21時30分。

針倉の携帯に連絡が入った。

「五条悟封印」

彼にとってそれは待望の瞬間だった。

これをもって、彼の計画は最終段階へと突入する。

 

 

ーーーー呪術高専ーーーー

 

 

「さてはて、長月ちゃん。これから高専忌庫を襲撃し、保管されている『降霊杖』を奪還しよう」

 

「…………あぁ」

 

 

そうは言ったが、私にとって『降霊杖』は重要ではない。

それよりも、術式行使のために必要な呪力を長月ちゃんに集めることが計画の要だ。

恐らく、今の彼女では膨大な呪力を制御できずに暴走する。

そう踏んでいた。

 

 

「……予想以上に静かだ」

 

「今、渋谷で大変なことが起こっていてねぇ。高専には数人の術師しかいないんだよ」

 

 

計画で一番厄介であった現代最強の呪術師・五条悟は封印され、戦闘不能。

それの救出のため、ほぼすべての呪術師がそちらへ向かっている。

ここには録な警備もおらず簡単に侵入できる。

いても忌庫番程度だろう。

そんな私の考えは裏切られる。

 

 

「と思ってきたんだけどねぇ」

 

 

高専に侵入しようとする私達の目の前には『帳』が下ろされていた。

脳裏に浮かぶのは『天元』の存在。

だが、思い直す。

『帳』は『天元』のものではない。

『天元』の結界は隠すことに特化していて、術師ならば一目で見つかるような結界を張ることはしない。

 

 

「……壊して入る」

 

「ふむ、それしかなさそうだ。長月ちゃん、頼んでいいかな?」

 

「…………」

 

 

静かに頷くと長月ちゃんは呪力を込めた拳で『帳』を打つ。

予想に反し、『帳』は呆気なく破壊された。

 

 

「?」

 

「行こう」

 

 

おかしい。

いくら渋谷の件があり、手薄になるとはいえ、呪術界の総本山をこんな弱い『帳』1枚で放っておくだろうか。

そう思いながらも歩を進める。

世界を終わらせる、その時が近いのだ。

五条悟もおらず、高専がここまで手薄になるのは今を置いて他にない。

順調だ。

 

 

「…………長月ちゃん」

 

「分かってる」

 

 

高専の校舎が目前まで迫ったその時、ふいに呪力を感じた。

強いものではない。

 

 

「誰か、いる?」

 

「…………」

 

「やぁやぁ、いいのかい? 君は渋谷に行かなくて」

 

「………………」

 

 

確かにそこに人影がある。

夜、人が少ないということもあり、暗くて顔は見えない。

その人物は一歩一歩、ゆっくりと歩を進めてくる。

街頭に照らされて、その顔を見た途端、私は言葉を失った。

やっと絞り出したのは一言だけ。

 

 

「なぜお前がここに……?」

 

 

いるはずのない人間。

そうだ。

ここに……いや、この世にいるはずのない人間だ。

なのに、なぜここにいる?

 

 

 

「『無常』」

 

「………………」

 

 

 

そう。

呪詛師・『無常』。

彼女は、菅谷霞に姿を変えさせ、紡ちゃんに殺させたはずだった。

『降霊杖』を使ったのか?

いや、一度彼女は『降霊杖』を使っている。

それから呪力を溜めるには時間がないはずだ。

 

 

「……今までどこに行っていた?」

 

 

混乱する私と違い、冷静に彼女に話しかける長月ちゃん。

当然だ。

長月ちゃんは『無常』が死んだことを知らない。

紡ちゃんに殺されたのは、妹だと思っているのだから。

だからこそ、自然に話しかけられる。

……これは良くない流れだ。

この流れを変えるには……。

 

 

「長月ちゃん……そいつに近づいてはいけないよ」

 

「お前を探していたんだ」

 

 

「っ、近づくなっ」

 

ーースッーー

 

 

針を飛ばす。

長月ちゃんと奴を接触させてはまずい。

もし、何かの拍子に、菅谷霞が生きていることが長月ちゃんにバレたら計画が狂う。

 

 

「『針灸』」

 

ーーパァァンッーー

 

 

針が奴に刺さるのと同時に、術式を発動させる。

これでーー

 

 

「……針倉」

 

「!」

 

 

針は奴に当たってはいなかった。

呪力は針を止めた黒い靄ーー『毒蟲』に当たっていた。

 

 

「邪魔するな」

 

「っ……長月ちゃん、そいつは偽者だよ」

 

「なぜそう言い切れる」

 

「呪力が彼女のものとは違うからねぇ」

 

「…………」

 

 

長月ちゃんは、私の言葉を受けて奴を見る。

 

 

「私は呪力感知が他の術師よりは優れているのは知っているだろう? 私には分かるんだ」

 

「…………」

 

「長月ちゃん、目的を思い出そう。こうしている間にも忌庫へ術師が向かうかもしれないぜ。そうすれば目的は果たせない」

 

 

どうだ。

正直、これで長月ちゃんが動くか五分だが……。

 

 

「……まぁ、いい。僕の目的は『降霊杖』だ」

 

 

そう言って、長月ちゃんは彼女の横を通り過ぎた。

肝を冷やしたが、むしろ事態は好転している。

 

 

「長月ちゃん、先に行っていいよ。道順は前に教えた通りだ」

 

「あぁ」

 

「すぐに追いつくさ」

 

 

さてはて、『無常』は戦闘向けの術式は持っていない。

すぐに始末して、追いつくとしよう。

彼女の姿が見えなくなってから、私は構える。

 

 

「さて、君の目的はなんだい?」

 

 

『ロッポウ』を奪うこと?

それとも裏切った私への復讐か?

どちらにしろやることは変わらないが、計画のリスクを下げるためだ。

そう考えて訊ねるが、

 

 

「…………」

 

 

彼女は答えない。

話す気はない、ということらしいねぇ。

ここでこの女を殺したとしても、この期間では『降霊杖』の発動に必要な呪力は貯まっていないだろう。

ならば、ここで始末するのが最善の選択だ。

 

 

「悪く思わないでくれよ。君だって好き勝手に生きただろう」

 

ーースッーー

 

 

 

「『針灸』」

 

ーーパァァァンッーー

 

 

呪力が針を媒介として流れ込み、爆発を起こす。

だが、これはこの女にはバレているはずだ。

爆発の煙の中に人影。

そこに追撃で、

 

 

ーーパァァァンッーー

ーーパァァァンッーー

ーーパァァァンッーー

 

 

三針打ち込んだ。

 

 

「さぁて、流石に死んーー」

 

「…………」

 

「ーー殺せたと思ったんだけどねぇ」

 

 

視界が晴れた先には、まだ彼女がいた。

しかも、何らかの呪具を手にしている。

それで針を防いだ、という訳か。

 

 

「じゃあ、これだ」

 

 

フッと膝から力を抜くと同時に縮地、彼女の死角に体を入り込ませる。

手にしている針を直接打ち込み、

 

 

「『吸針』」

 

 

呪力を吸う。

これで行動不能、反撃不能で私の勝利ーー

 

 

「…………は?」

 

 

ーー私は確かに死角に入っていた。

その上での攻撃は防ぎようがないはずだ。

なのに、

 

 

 

『こンンンにチワぁぁアぁァ』

 

 

 

なぜ呪霊がいる?

なぜ彼女を守るようにしているんだ。

『反魂香』か?

いや、あれは使えば花の焼けるような匂いがするはずだ。

そんな匂いはしていない。

 

 

「お前……何者だ……」

 

「…………」

 

 

その質問に彼女は答えない。

 

 

 

「答えられる訳がないだろ」

 

「!」

 

 

 

その声。

ここにいないはずの、先に目的を果たしに向かったはずの人物の声が聞こえた。

そこにいたのは、

 

 

「……長月ちゃん」

 

 

菅谷長月。

『無常』を守ったのは彼女だった。

 

 

「もう『降霊杖』は手に入れたのかい」

 

「いいや」

 

「……なら、なんで戻ってきたのかな」

 

「そもそも僕は『降霊杖』を取りに行く気がなかったんだよ」

 

「なにを言っている……?」

 

「だって、『降霊杖』はこの子が持ってるから」

 

 

そう言って、長月ちゃんは彼女の頭を撫でた。

『無常』の頭を。

そこで違和感を感じた。

 

目の前のこの女は本当に『無常』か?

 

あの女は確実に死んだ。

それは私も確認している。

ならば、これは誰だ?

この場にいる可能性があるのは誰だ?

 

繋がった。

 

 

 

「菅谷霞」

 

「正解だ」

 

 

 

長月ちゃんの言葉に呼応するように、姿が変わる。

それは『変身』の術式。

その手には先程とは違う呪具。

 

あぁ……なんてことだろう。

私が感じていた煩わしさ。

それが今ここで現れるとは。

 

 

「菅谷霞に『降霊杖』……両方が一度に現れるとはね」

 

 

そして、そうか。

 

 

「長月ちゃん、君はそちら側なんだね」

 

「あぁ」

 

 

菅谷霞を庇うように一歩前に出て、彼女は告げる。

 

 

 

「大切な人に仇を為す全てを祓うために、僕はいる」

 

「だから、針倉優誠」

 

「お前を祓う(殺す)

 

 

 

次作でもアンケートとってますが、主要キャラ落書き(デフォルメ絵)してもいいですか? ※未経験者なので雰囲気だけ伝わればよいものとする

  • よい・やってみせよ
  • 完結したんだからNG
  • いや、むしろ私が書こう(有能絵師)

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