呪詛師殺しの僕(完)   作:藍沢カナリヤ

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第63話 呪詛師殺しー終ー

ーーーーーーーー

 

 

 

「極ノ番『うずまき』」

 

 

 

僕の所有する一級呪霊56体・それ以下の呪霊359体、すべての呪霊をひとつにして、高密度の呪力を集め放つ。

それに対して、針倉はそれを受け止める体勢に入った。

『吸針』ですべてを吸収し、取り込むつもりなんだろう。

上等だ。

 

 

「消し飛べ」

 

 

僕の手から離れた呪力の塊は針倉へ放たれた。

 

 

 

ーーーー霞視点ーーーー

 

 

ーービキッーー

 

「!」

 

 

『領域』にヒビが入っていく。

それはお姉ちゃんと針倉の戦いが終わった合図だ。

お姉ちゃんが話した通りに事が進んでるなら、ここから出てくるのはきっとーー

 

 

「死ぬかと思ったな」

 

 

その声の主は、お姉ちゃんではなかった。

 

 

「結果的に彼女がもつ呪霊を集めた呪力すら手に入れた」

 

「もう私の邪魔になるものはいない」

 

 

領域から出てきたのは、針倉優誠。

つまり、お姉ちゃんは……。

 

 

「菅谷霞か」

 

「っ、お、ね…………」

 

「声帯を呪力で補って発声しているのか。恐ろしい才能だが、まだ蕾。私の計画にはなんの支障もない。そして」

 

 

「菅谷長月は死んだ」

 

 

「……っ」

 

 

お姉ちゃんは死んだ。

針倉はそう言って、さっきまで領域があった場所に視線を送る。

そこには、横たわるお姉ちゃんの姿があった。

 

 

「っ」

 

 

駆け寄りたくなる気持ちを無理矢理に押さえつけて、わたしは彼と対峙する。

目は離さない。離せない。

たぶん気を抜けば、一瞬で殺される。

少ししか呪術を学んでないわたしでも、お姉ちゃんから呪力を奪った目の前の人の呪力がおぞましい程の量だってことは理解できた。

 

 

「ここで大人しくしてるといい。私の計画に少しでも役立ってくれたからね」

 

 

どうせ死ぬなら緩やかに死ぬことを許そう。

彼はそう言って、わたしの横を通り過ぎようとする。

それを、

 

 

ーーガシッーー

 

 

止める。

 

 

「なんのつもりだ、菅谷霞」

 

「…………」

 

 

声は出せない。

それでもこの人から目を離さない。

この人はここで足止めするんだ。

 

 

ーーバギッーー

 

「~~ッ!?」

 

 

見えないほどの速さで、わたしは殴られていた。

呪力による強化。

同じことはわたしもできる。

でも、これはレベルが違いすぎる。

 

 

「…………時間がないんだ。邪魔をしないで貰おうか」

 

 

血を吐きながら倒れ込むわたしには目もくれず、彼はまた通り過ぎようとする。

けど、

 

 

ーーガシッーー

 

「…………またか」

 

 

ーーバギッーー

 

 

「ッ、~~っ」

 

 

声はあがらないまま、またわたしは倒れ込む。

まだ……まだだ。

お姉ちゃんが作ってくれたチャンスを、わたしが台無しにするわけにはいかない。

ここで離すわけにはいかない。

 

 

ーーガシッーー

 

「しつこい」

 

ーーバギッーー

 

 

「~~ッ、は…………ない」

 

ーーガシッーー

 

 

離さない。

彼の一撃ごとに、体が壊れていくのが分かる。

骨が、内蔵が、壊されていく。

それでも、離すもんか……。

 

それを何回も繰り返して、手に力がもう入らなくなってきた頃。

諦めかけたその時、変化は起きた。

 

 

「鬱陶しい。折角拾った命、無駄にしたな」

 

ーースッーー

 

 

何度も掴み続けるわたしに苛立った様子の彼はそう言って、針を構える。

そして、その針はーー

 

 

 

ーーグサッーー

 

 

 

深く、深く刺さった。

わたしの手にある『降霊杖』に。

 

 

 

ーーーー回想ーーーー

 

 

「『降霊杖』は死人を生き返らせるという高度な術式のせいで、色々と発動に面倒な制約がある」

 

「制約……?」

 

 

無常さんにそれを訊ねると、彼女は頷いた。

無常さん曰く。

必要なのは、生き返らせたい人物に因果をもつ呪物。

それから膨大な呪力。

 

 

「問題はその呪力じゃよ」

 

「?」

 

「方法は実に簡単じゃ。『降霊杖』に呪力を供給するには、杖自体に呪力を流し込む。それだけでよい」

 

「じゃあ、何も問題はないんじゃ……?」

 

「ただのぅ……如何せん、融通が効かん」

 

 

「『降霊杖』が呪力を取り込み始めたならば、その術師の呪力をすべて奪うまで止まらん」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

『降霊杖』に呪力が吸われていく。

私自身の呪力も、今まで『吸針』で吸ってきた呪力でさえも。

針を離そうとしても離れない。

 

 

「まさか、これを狙ってっ!?」

 

「っ、~~っ」

 

「姉妹揃って、私の邪魔をするなァァッ!!」

 

 

杖のせいで、自身に呪力は込められない。

だが、こんな小娘を殺すのにそんな手間はいらない。

菅谷霞の首を締める。

 

 

「か……っ」

 

 

こんな小娘に邪魔をされてたまるか。

恐らく『降霊杖』は持ち主に依存する呪物だ。

ならば、この小娘を殺し、呪力を取り込んだ『降霊杖』の所有者を私にしてしまえばいい。

そうすれば、また『吸針』でこの呪物から呪力を私へと還元することができる。

だから、まずはこの小娘を殺す。

その細い首に、力を入れていく。

 

 

「死ね」

 

 

首が絞まっていく。

バタバタと見苦しく足掻く。

だが、もうーー

 

 

ーートスッーー

 

 

気づけば、私は貫かれていた。

得物はただの小刀。

捉えられたのは心臓。

そして、それを持つのは、

 

 

「待たせたな。よく頑張ったぞ、かすみ……」

 

 

白髪の老婆。

こんな人間、さっきまでいなかった……いや、違う。

こいつは、まさか……!

 

 

「菅谷……なが、つき……」

 

「おね…………ん」

 

 

反射的に、小娘の首を締めていた手を離した。

地面に落ちた彼女は苦しそうにはしていたが、まだ生きている。

 

 

「賭けは、僕の勝ちだ」

 

 

そこで、やっと思い至った。

 

呪霊操術 極ノ番『うずまき』

その特性を失念していた。

手持ちの呪霊を集め、高密度の呪力として放つ術式だけではない。

『うずまき』には準一級以上の呪霊の術式を抽出する術式効果がある。

つまり、それを利用して死を免れたという訳か。

 

 

「無常から『うずまき』の特性は……散々聞いていたからな」

 

「僕が抽出し、取り込んだのは『老剥神(おいはぎがみ)』」

 

「急激な老いと引き換えに、老衰以外の死因を一度だけ拒絶する術式」

 

 

ーースッーー

 

 

術式の開示をしながら、彼女は私の胸の小刀を引き抜いた。

瞬間、私の胸から血が吹き出す。

 

呪力もない。

『反転術式』も廻せない。

……そうか。

私は、これで終わりなのか。

倒れ込む。

少しずつ力が抜けていく。

 

 

「…………負けたよ、長月ちゃん」

 

 

地面に横たわる僕の口からそんな言葉がこぼれた。

計画は破綻し、僕だけが死ぬ。

もう少しですべて終わらせられた。

だが、ここで終わりだ。

 

 

「針倉」

 

 

老婆になった長月ちゃんが僕を見下ろしてくる。

 

 

「…………強くなったんだねぇ」

 

「あぁ、あんたや紡ちゃんのおかげで」

 

「フフ、どうやら……君を使おうとしたのは、間違いだったみたいだ」

 

「…………針倉、あんたはーーーー

 

 

 

 

そこから先の長月ちゃんの言葉は聞こえない。

 

意識が消えていく。

……あぁ、これが死か。

 

僕はちゃんと生きられたんだろうか。

君が死んだあの時から、僕は僕のしたいように生きられたのだろうか。

分からない。

けれど、これでーー

 

 

 

「今、逝きますね」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

そうして、針倉は僕の目の前で息絶えた。

あれほど狡猾で強大な術師だった彼も、その死に様は呆気ないものだった。

心臓を刺されて、死んだ。

これで、彼との決着はついた。

あとはーー

 

 

「霞、大丈夫……じゃないな」

 

 

霞の容態はよくない。

かといって、今の加速度的に老いが進行していく僕には彼女を運ぶこともできなかった。

 

 

「霞。ごめんな」

 

「お………ちゃ……」

 

「最期は抱き締めてやりたかったんだけど、もう霞の体がもたない」

 

 

それに、僕の体には老い以外のものも近づいている。

『紫鏡』の領域を使ったことによる僕自身の呪霊化が始まっていた。

体感的に分かる。

自我を保っていられるのも残り僅か、もう長くはない。

 

 

「…………ありがとう、ごめんな」

 

「っ」

 

 

僕の言葉に、霞はボロボロと涙を流しながら、首を横に振ってくれた。

会話はなくても分かる。

姉妹だもんな。

そんなことないよって、お姉ちゃんは悪くないよって、言ってくれてるんだ。

本当に……僕には過ぎた妹だよ、霞は。

優しくて、家族思いの素敵な女の子だ。

 

最期に、僕は霞の体に害が出ない程度に、頭を軽く撫でてあげて。

 

 

「貰ってくよ」

 

 

霞から『それ』を受け取った。

 

 

「…………」

 

 

膨大な呪力が込もった『降霊杖』。

そして、彼女を手にかけてから、ずっと持っていた『筆』を取り出す。

そして、僕は静かに、『筆』に『降霊杖』を突き刺した。

術式が展開されていく。

『筆』を媒介にして、肉体が再生されていく。

骨が、筋肉が、皮膚が再生されていく。

 

 

「…………」

 

 

1分ほどが経って。

僕の前に彼女は立っていた。

 

 

「………………ながつき、ちゃん……?」

 

「紡ちゃん」

 

 

流石、だと思う。

こんなに年老いた姿でも、僕だって分かってくれたんだから。

その時の彼女が、すべての状況を分かっていたとは思わない。

けど、僕の目を見た彼女は何かを悟ったようで、ただ涙を流した。

 

 

「霞を、おねがい……」

 

「っ、はい」

 

 

残された時間は少ない。

僕の大切な霞のことをお願いする。

あとは、なんだろう。

…………あぁ、そうだ。

あとはこれだけ言っておかなきゃね。

 

 

 

「元気でね」

 

「はいっ」

 

「大好きだよ」

 

「っ、私もっ……ですっ」

 

 

僕のもう1人の大切な人が、きっと元気でいますように。

そんな願いを込めて、告げた。

 

彼女は、静かに僕の方へ歩いてくる。

震える手には『筆』が握られていて。

そして、彼女は僕の体に『それ』を書き込んだ。

 

 

 

 

「さよなら、長月ちゃんっ」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

これは僕が彼女に殺されるまでの物語。

 

その物語の幕は、今静かに下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

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次作でもアンケートとってますが、主要キャラ落書き(デフォルメ絵)してもいいですか? ※未経験者なので雰囲気だけ伝わればよいものとする

  • よい・やってみせよ
  • 完結したんだからNG
  • いや、むしろ私が書こう(有能絵師)
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