呪詛師殺しの僕(完)   作:藍沢カナリヤ

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第7話 毒蟲徘徊ー弐ー

ーーーーーーーー

 

 

その日は結局、僕らをナンパしてきた男が目の前で被害に遭ったのを目撃しただけだった。

やはりその場には彼が着ていた衣類が残されており、その影ーーいや、蟲がこの事件の原因だと判明した。

 

その後、辺りを探したが、その蟲を使役する術師は見つけることができなかった。

つまりは……。

 

 

ーーーー深夜 宿ーーーー

 

 

 

「はははっ、任務失敗だねぇ」

 

 

電話口で愉快そうに笑う針倉術師。

スピーカーモードにした紡ちゃんのスマホから聞こえてくるその笑い声は正直不快だ。

 

 

「笑い事ではありません。それに失敗でもありません」

 

「目の前で一般人の被害を出したのに?」

 

「うぐっ……」

 

 

珍しく苦虫を噛み潰したような表情の彼女。

しつこくナンパしてきた相手とはいえ、被害者を出してしまったことは気にしているようだ。

僕だって若干は気にするくらいだから、彼女なら余計に、だろう。

 

 

「まぁまぁ、私にとっては一般人がどうなろうと知ったことじゃないから、気にしなくてもいいさ」

 

「っ、針倉さんっ!」

 

 

不謹慎です、といつかのように繰り返す。

流石に目の前で人が死んだのを見ると、彼女の言うことに同意せざるをえない。

 

 

「さて、どうやら私はあと数日は動けないようでねぇ」

 

「…………なぜですか。元々この任務は私と針倉さんへのものでしょう」

 

「高専の方から臨時で任務が入ったんだよ」

 

「まさか……そんなこと普通はないでしょう」

 

 

「『両面宿儺の指』の回収、と言えば分かるかい?」

 

 

「…………はぁ、なるほど」

 

 

普通じゃないのよね、という針倉術師の言葉を聞いて、彼女はため息を吐く。

それならば仕方がないといった風だ。

僕としてはよく分からないけれど。

 

 

「まぁ、呪詛師相手なら紡ちゃん負けないでしょ?」

 

「…………」

 

 

肯定も否定もしない。

ただ、確かに彼女の術式なら、人間相手に遅れをとることはないかもしれない。

 

 

「さて、本題に入ろうか。蟲を使役する術師か」

 

「心当たりは?」

 

「ないとは言わないよ。ある程度の等級の術師については頭に入っているからねぇ。もちろん呪詛師もね」

 

「教えてもらえますか」

 

「あぁ、勿論。蟲を使役し、なおかつ姿が見えないほどの遠距離からの操作ができ、さらに蟲が人体を捕食する。それらの条件から考えると、絞り込める術師は一人」

 

 

杭葉秋三(くいばしゅうぞう)

 

 

針倉術師曰く。

その男は黒い肉食の羽虫を使うという。

それを使い、裏の世界で依頼された人間を喰い殺し、金銭を稼いでいたらしい。

喰われた後には肉片も残らず、人間の衣類だけが残される。

 

 

「恐らくその男で間違いない、です」

 

「うん、そうだね」

 

 

こちらへ目を向ける彼女に頷く。

 

聞いた話すべて、今日目の前で見た現象と一致する術式だ。

一瞬で人を襲った蟲がなんの蟲か判断できなかったのは、蟲一匹一匹がとても小さな羽虫だったからだろう。

残された衣類といい、状況もそっくりだ。

 

だが一つ、疑問が残る。

 

 

「……一つ、いいですか」

 

「ん? なんだい、長月ちゃん」

 

「蟲が人体を喰ったというのは今日、僕たちが実際に体験したから分かったことですが、衣類の件は既に分かっていましたよね」

 

「うん、そうだね。依頼されたときの報告書にもあったことだ」

 

「心当たりさえついていれば、映像に写った影が羽虫のそれだと想定できないこともないはず」

 

「ふふっ、確かに」

 

 

楽しそうに、針倉術師は笑う。

 

……少し苛立つ。

試されているようで気に入らない。

けれど、答えを持っているのは彼しかいないのだ。

ならば、僕は問い掛けるしかない。

 

 

「ならば、なぜ今までそれを僕たちに教えなかったんですか」

 

 

僕たちにーーいや、僕はともかく直接相手と対峙するであろう彼女には、事件の原因だと想定される人物を教えてもおかしくないはずだ。

任務の成功確率を少しでも上げるためならば、例えそれが杞憂だったとしても教えない理由はない。

 

 

「術式の先入観なんて言わないでください。初見殺しの術式だってあるんだろうし」

 

 

彼女の術式のように。

それを故意に伝えない理由なんて……。

 

 

「…………」

 

「……私のことを疑ってるのかな」

 

「正直にいえば」

 

「ふふっ、正直者だねぇ、長月ちゃんは」

 

 

しばらくの沈黙。

スマホを見つめながら、答えを待つ。

そして、彼は敵わないねと笑い、話し出す。

 

 

「私も考えなかった訳じゃないさ」

 

「ただね、ご両人から話を聞くまで杭葉という可能性は除外していた」

 

「なぜなら、彼はーー」

 

 

 

「ーー自らの術式の暴走で死んでいるはずの人間なんだよ」

 

「羽虫に身体の半分以上を喰われて、ね」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「杭葉くん、身体の調子はどうだい」

 

「問題ない」

 

「君の可愛い子どもたちの調子も……どうやらいいようだね」

 

「人を喰らい成長している。呪力量もそれなりには戻った」

 

「それは重畳。今日も行くのかい?」

 

「あぁ、俺には時間がない」

 

「頑張ってね、杭葉くん」

 

 

 

ーーーー翌日夜 町中ーーーー

 

 

離れた相手の呪力を感知することができるという針倉術師と電話を繋いだまま、また夜の町に繰り出す。

私も忙しいんだけど、という彼を黙らせる紡ちゃんの姿は中々の迫力だったな。

 

 

「長月ちゃん」

 

「……なんです」

 

 

周りを警戒してるんだから、呪力を感知した時以外は黙っていて欲しいんだけど……。

 

 

「君は中々に肝が座ってるねぇ」

 

「別に」

 

「紡ちゃんが作った呪符があるとはいっても、流石に恐ろしいだろう? 人喰い蟲なんてさ」

 

 

私も身震いするくらいだ。

そんなことを芝居がかった口調で話す針倉術師。

 

まぁ、恐ろしいとかはともかく、正直自分でも無謀だとは思う。

僕はまだ術式や呪力を使えない。

それなのにターゲットになることを選んだ。

 

 

「理解不能だよ、ふふっ」

 

「…………」

 

 

……余計なことを考えるのは止めよう。

今は警戒してーー

 

 

 

「あっ、長月ちゃん」

 

「なんですか」

 

「来るよ」

 

「!!」

 

 

 

ーーゾゾゾゾゾッーー

 

 

 

足下から悪寒が走る。

それと同時に飛び退く。

 

 

「っ、はっ……」

 

 

間一髪、だった。

あと一秒でも反応が遅れていたら、きっと僕は飲み込まれていた。

 

 

「生きてるかい? 長月ちゃん」

 

「どうにかっ……」

 

「よかったよかった」

 

 

それよりも相手の場所は?

そう尋ねると、針倉術師はもう分かったと答える。

どうやらもう杭葉の位置を別の場所で待機している彼女に送信したらしい。

 

なら、あとはこの場を切り抜けるだけ。

彼女から預かった呪言が書かれた呪符は五枚。

 

 

「さ、どうしのごうか……」

 

 

 

ーーーー同時刻 長月のいる場所より南東に1kmーーーー

 

 

 

「杭葉秋三、ですね」

 

 

 

針倉さんから送られてきた場所は思っていたよりも近く、私が待機していた場所からすぐのところでした。

駆けつけると、そこには一人の男性の姿。

5月だというのに、真っ黒いコートを着ており、呪力は微弱にしか感じられなかったものの、明らかに一般人ではない雰囲気を醸し出しています。

 

 

「私は呪言師です」

 

「大人しく投降してください」

 

 

私が呪言を使うという術式の開示。

そうすることで術式効果をあげておく。

万が一、ということもありますから。

 

 

「…………」

 

 

杭葉は私の言葉には何も返さず、私の方を向きます。

街灯が少ないこともあり、彼の顔は見えない。

 

けれど、一瞬だけ。

月明かりが杭葉のことを照らします。

見えたのは、

 

 

 

ーーゾゾゾゾゾッーー

 

 

 

彼の周りの無数の蟲。

そして、

 

 

 

「顔がっ!?」

 

 

 

右半分しかない顔。

正確にいうと顔はありました。

でも、顔の左側は、目も鼻も耳も口も、まるで蟲に喰われたように穴だらけでした。

 

驚く私をよそに、杭葉は静かにこう呟いた。

 

 

 

「邪魔をするな」

 

「俺には時間がない」

 

「一刻も早く戦力を取り戻すのだ」

 

 

 

「喰い散らかせ、『毒蟲(どくむし)』」

 

 

 

迫り来る蟲を見て、私は筆を取ります。

 

 

……あぁ。

久しぶりですね。

呪詛師の相手はいつぶりでしょうか。

言葉を介する呪霊はともかく、五条悟が存在しているというだけで呪詛師は鳴りを潜めますから。

だから、これは本当に久しぶりの『ちゃんとした』戦闘です。

 

これなら思う存分ーー

 

 

 

 

 

「ーー殺せますね」

 

次作でもアンケートとってますが、主要キャラ落書き(デフォルメ絵)してもいいですか? ※未経験者なので雰囲気だけ伝わればよいものとする

  • よい・やってみせよ
  • 完結したんだからNG
  • いや、むしろ私が書こう(有能絵師)
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