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「長月ちゃんっ!!!」
叫ぶ。
だけど、それはおびただしい数の羽虫の音に阻まれ、掻き消されてしまった。
「っ」
言葉が出ない。
私の代わりに、飛び込んだ長月ちゃんはあっという間に蟲に覆われてしまって。
「くくくっ」
呆然とする私の耳に入ってきたのは、彼女の落としたスマホから流れ出した声。
不謹慎な笑い声。
「っ、針倉さんっ!!」
思わず声を張り上げる。
らしくない、そう思います。
けど、そうせざるをえなかった。
「さて、どう出るかな」
「あなたが焚き付けたんですかっ」
「んん? 何を怒ってるんだい?」
「長月ちゃんは、呪力を使えないんですよっ!」
「呪力を使えなくたって呪いを祓える人間はいるだろう。ほらほら、禪院家のーー」
「そういう話じゃないでしょっ!!」
呪術師の世界は実力主義。
一部の例外はあっても、強い術師には一定の敬意は払うものだと私は思っています。
それでもこれはーー
「揉めているところ悪いが」
「っ!?」
ーーブンッーー
不意打ちの蹴りが私の右頬を掠めます。
いつの間にか杭葉が私に接近していました。
「俺には時間がない。そう言ったはずだ」
そう告げる杭葉。
「見たところ三級程度か。呪言持ちというだけで任務に出されるとは可哀想に」
「それにそっちで俺の蟲に喰い尽くされている少女は、そもそも呪力も扱えない素人。論外だ」
「……っ」
熱を感じない声。
私と紡ちゃんの力を正確に分析してくる。
「…………電話から聞こえてくる声は仲間か。だが、この状況で出てこないということは補助監督かそれとも使えない術師か」
どちらにしても問題ない。
そう言うと杭葉は一歩、前進してきます。
「っ」
瞬時に懐から紙を取り出し、筆を走らせ、飛ばす。
『
けれど、それもーー
ーーゾゾゾゾゾッーー
防がれる。
蟲は燃えても、術師本人には届いていません。
蟲は、まだ……。
「蟲とは言うが、俺の呪力で蟲自体を覆っている。つまり、俺の呪力が残っている限りは燃えることなどない」
「つまり、無駄だ」
「そんな……っ」
もう手はない。
私の呪力量は決して多い方ではない。
それで消耗戦をしても勝ち目は……。
「はははっ、万事休すってやつだねぇ」
「何か……手はないんですか……」
「ないね。このままだと紡ちゃんは死ぬ。蟲に喰い殺されておしまいだよ」
「………………」
不謹慎だ、と言い返す気も起きません。
杭葉の言う通り、無駄だから。
「……ごめんなさい」
不意にそんなことを呟いていました。
誰への言葉かなんて、分かり切っています。
貴女を監視する?
『呪術師』へと導く?
そんなことを言っておいて、この様です。
本当は、貴女をすぐ高専へ送ることもできた。
『呪霊操術』という危険な術式を持つ少女は高専で身柄を預かり、コントロールする。
保守派の上層部はそんな考えだったようです。
でも、それをしなかったのは私の我儘で。
「私は、ずっと一人でした……」
狗巻家の術師として。
呪言を一部でも引き継いだ者として。
ずっと呪術師の世界に身を置いていました。
高専にも通わずに、一人で。
もちろん、今回の針倉さんのような同行者はいましたが、同年代で心を許せる術師なんて……。
だから……。
もしかしたら……。
なんて淡い期待をしてしまったんです。
その結果がこれ。
長月ちゃんは蟲に喰い殺され、私も殺される。
呪術師に後悔のない死なんてない。
誰の言葉だったかも思い出せません。
けれど、私の我儘のせいで彼女は死んだ。
私が殺してしまった。
そんなの、あんまりだ。
「覚悟は決まったか」
「…………」
杭葉が私を見下ろしている。
いつの間にか私は膝を屈していました。
終わりを、覚悟する気力もない。
私はそのまま顔を伏せて、その時をただ待ちます。
「……電話の男」
「ん? なんだい?」
「この少女は終わりだ」
「あぁ、そうみたいだねぇ」
「…………見込み違い、か」
なにか話しているのは聞こえます。
ただ頭に入っては来ません。
「……無駄な時間だったな」
ーーゾゾゾゾゾッーー
「これで終わりだ。哀れな呪術師」
ーーむしゃーー
「え……?」
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苦い。
まずい。
ただの虫じゃない。
名前通りの毒だ。
喉が焼けるし、それを飲み込むのを身体が拒絶してる。
でも、飲み込め。
呑み込むんだ、僕。
口の中に広がる不快感を僕はーー
ーーごくっーー
ーー呑み込んだ。
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「え……?」
何かを咀嚼する音。
それは蟲に覆われてしまった彼女の方からする。
「ふふふっ」
「……針倉、さん」
電話先の針倉さんに声をかけます。
彼はただ愉快そうに笑っているだけ。
「……何が」
ポツリと呟く声は杭葉のもので。
見れば、怪訝そうな顔をしていた。
この音は、蟲が人を食べる音じゃない……?
じゃあ、この音は一体?
ーーむしゃーー
ーーむしゃむしゃーー
また、食べる音がする。
その音はずっと続いて、徐々に長月ちゃんを覆う黒が減っていきます。
「……まさか!」
「喰っているのか、俺の『毒蟲』をッ!」
それに思い至った杭葉は顔の前で印を結び直す。
術式の再発動。
恐らく蟲を自分の元に戻そうとしたのでしょう。
でも、蟲は戻りません。
その代わりに聞こえてきたのは、
「………………まずい」
女の子が呟く声。
黒い影が晴れ、彼女のーー長月ちゃんの姿が見えました。
ーーーー長月視点ーーーー
「長月ちゃんっ」
視界がクリアになってすぐに彼女が駆け寄ってきた。
すごい勢いで。
「……ぐっ、つ、つむぎちゃん」
「よかったですっ、生きててっ」
どうにか受け止める。
勢いがつきすぎていたせいで衝撃が……。
「よかった……よかった……」
……まぁ、いいか。
「やぁやぁ、長月ちゃん。気分はどうだい?」
本当に空気を読まない人だ。
事も無げに彼は聞く。
こっちは死ぬかと思ったって言うのに……。
そう思うと腹も立つ。
「……最悪」
「それはよかった」
「でも、助かった」
「あぁ」
そんな会話を交わし、抱きついている紡ちゃんを落ち着かせる。
「紡ちゃん」
「っ、はいっ」
「僕はもう大丈夫だから」
「…………はい」
「僕がやる」
僕の言葉に頷き、彼女は一歩下がる。
僕は杭葉秋三と対峙する。
未だに蟲を従えているつもりの彼は、
「……数は減ったが、まだ俺の方に分がある」
「『毒蟲』!」
術式を再び発動する。
だが、
「…………『毒蟲』」
「………………なぜ、だ」
もう蟲は彼に従わない。
なぜなら、もうそれは僕のものだから。
顔の前で印を結ぶ。
彼がやったように。
「『呪霊操術・
ーーゾゾゾゾゾッーー
黒い影が僕を覆うように動く。
さっきとは違い、蟲は僕ではなく彼に向かう。
「なぜだっ!! 俺は、俺はッ!!」
「喰らい尽くせ」
僕の言葉一つで蟲が蠢いていく。
彼の元へ帰るように、彼を覆う。
数秒としないうちに、彼の姿は消えていた。
彼が着ていた黒いロングコートだけを残して。
「……任務完了、でいい?」
彼女にそう尋ねると、彼女は頷いて微笑む。
「はい、お疲れさまでした。長月ちゃん」
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菅谷長月が杭葉秋三を『呪霊操術』で喰らった2日後。
西合町のとある民家で、黒い影がその身体を起こした。
ーーゾゾゾゾゾッーー
「はっ、はぁ……はぁ……」
彼ーー杭葉秋三は生きていた。
辛うじて、ではあるが。
そこに現れるのは、黒いライダースジャケットを着た男ーー針倉優誠。
「やぁやぁ、杭葉くん。そのボロボロの姿、無様だねぇ」
「…………」
針倉は彼を見て笑う。
その言葉には答えない。
「…………話が違う。あの呪言師に俺を殺させる。そういう話だったはずだ」
「そうだねぇ。でも、予定が変わったんだよ」
長月ちゃんの前で、紡ちゃんに呪詛師を殺させるのはもう少し後にしようと思ってね。
それに思っていたよりも、長月ちゃんはイカれてた。
そう言って、ヘラヘラと針倉は笑う。
「……貴様は何がしたい」
「そんなこと言うわけないだろう?」
「元二級術師風情に」
針倉は笑っていた。
だが、その貼り付いたような笑みは決して喜の感情ではない。
「…………まぁ、いい。俺は再び力を取り戻す」
場所を移し、その日まで身を潜める。
そう続ける杭葉。
身を翻して、そこで気づく。
自分の左肩に『針』が刺さっていることに。
「なんのつもりだ」
「ん? ほら、反転術式で君の身体を治してあげようかと思ってさ。優しいだろう?」
「そんなことはーー」
一瞬の戸惑い。
治す?
反転術式を使えることは知っている。
だが、針倉優誠がそんな人間でないことは高専からの付き合いである杭葉はよく分かっていた。
つまり、その針はーー
「貴様、まさかーー」
「バイバイ、
「『領域展開』」
「『ーーーーーーーー』」
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次作でもアンケートとってますが、主要キャラ落書き(デフォルメ絵)してもいいですか? ※未経験者なので雰囲気だけ伝わればよいものとする
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よい・やってみせよ
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完結したんだからNG
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いや、むしろ私が書こう(有能絵師)