ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー 作:トライダー
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「はぁ、間に合った……」
「うっぷ……気持ち悪い……」
大会の受け付けを完了して肩で息をしながらガッツポーズをするクレハ。
先程リョウが買った服を返品しようと店員を探していると受け付けギリギリになった為首根っこを掴み走りながらここまで来る事になり、再び振り回されたリョウは気分が最悪だ。
「結局服屋も見つからなかったし二人の体調も最悪、どう頑張っても優勝は無理そうね……」
リョウに服を売ったプレイヤーは非公式のショップだったらしく元の場所に戻った頃にはもう居なくなっていた。
グロッケン中を走り回ったせいで流石のクレハも疲れておりリョウの装備も整えることができず大会が始まる前から絶望的であった。
「まぁまぁ、気にすんなよどうせ優勝なんて最初から無理なんだから、気楽に楽しもうぜ」
「アンタに言われるのは腹立つけど……まぁそうね、目的はレアアイテムだもんね」
復活したリョウの軽い話し方に少しイラつくが彼の言う通りである。
あくまで目的はレアアイテム、それにリョウにこのゲームを楽しんで貰い興味を持ってもらう事こそが一番の目標であるからだ。
「ん?なんだあれ?」
ふとリョウはとある人だかりが目に入る。
その中心に居るのは一人の男性プレイヤー、すらっとした体形に高い背丈、整った優しそうな瞳のイケメンであった。
「あ、イツキさんだ!やっぱりすごい人気ねぇ」
「んだありゃ、アイドルか?」
「何言ってんのよ、あの人はトッププレイヤーのイツキさんよ、GGOでも最大クラスのスコード・ローン《アルファルド》のリーダーなのよ。強いし優しいしGGOプレイヤーの憧れの人なのよ」
「はーん?」
クレハの説明に面白くなさそうにする、理由は簡単取り巻きが全て女性プレイヤーなのが気に入らないのだ。
「なにお前、あんなのが良いのか? 止めとけってあんな誰にでも笑顔を振りまくような奴腹の中で何考えてるか分かったもんじゃないぜ」
「何よそのモテない男のヒガミみたいなセリフ」
「はぁ!俺別にモテない訳じゃねぇし!ただモテないようにしているだけでモテようと思ったらモテれるし!」
地雷を踏んでしまったのかヒートアップするリョウ、しまったと思った時にはもう遅かった。
こうなった時のリョウは恐ろしく面倒臭い事をクレハは知っている。
「いいかクレハ!男ってのは顔だけじゃ駄目なんだよ。見た目と中身を両立させてこそ良い男になるんだよ」
(銃買わずに服買って全財産使い果たした男がそれを言うか?)
熱くなっているリョウを無視しメニューを開き大会の出場者や装備などを点検するクレハ
そんな騒がしさに気付いたのかイツキがこちらへとやって来る。
「やぁお二人さん」
「え!い、イツキさん!?」
突然有名人に話しかけられたような感覚に陥り驚くクレハ。
「おいクレハ!俺の話はまだ終わってなぇぞ!真の漢と言うのはだな……」
「ふんっ!」
「げふっ!?」
いい加減しつこくなってきたリョウの溝内に肘を打ち黙らせる。
綺麗に入った肘鉄に無言で転げ回る、もしこれがフィールド外なら今のでキルされていたかも知れない。
「あはは、すみませんうるさくて」
「ははは構わないよ、君確かクレハくんだよね噂は聞いてるよ」
「え!アタシの事知ってるんですか?」
「うん、色んなスコード・ローンを渡り歩いてる腕の良いプレイヤーだって聞いたから一度見てみたかったんだ」
「あ、ありがとうございます!」
GGO内の有名人名前を覚えて貰えた事で自分もトッププレイヤーの仲間入りをした様な気分を味わう。
クレハと軽い挨拶を交わしたイツキは、今度はボディのダメージから復帰したリョウの方を見る。
「君は……初めて見る顔だね、彼氏かい?」
「ち、違いますよ!コイツはアタシの幼なじみで今日の為に来て貰っただけですから!!」
「へぇ、ならニュービーなのか、初めて早々大会に参加なんてすごい度胸だね」
「あーん?何だその言い方、文句あんのかコラ?」
「なんで喧嘩腰なのよ!?本当にすみませんイツキさん失礼な奴で」
「ぐぇえぇ……ギブギブっ!」
謎の対抗心を燃やしているのか番犬のようにガルルルッと唸り睨みつけるリョウ、今にも噛みつきそうなリョウの頭をヘッドロックで締め上げて黙らせる。
そんな二人のやり取りをイツキは面白そうに見ている。
「はははっ!いや構わないよ、ボクとしても彼のような血の気の多いプレイヤーは大歓迎だよ。スコード・ローンが大きくなってからボクに挑む人が少なくなってしまったからね、楽しめそうだよ」
「上等だぁ!その無駄に整った顔面に一発お見舞いしてやるよぉ!」
「馬鹿な事言わないの、アタシ達のレベルじゃあった瞬間負け確定でしょうが!」
「クレハくんにとってもトッププレイヤー入りを目指せる大きな大会だ是非頑張ってくれ、君もねリョウくん」
そう言うとイツキは行ってしまった、その後を取り巻きのプレイヤー達が追いかけようとしていたが側近らしいメガネを掛けた男に止められていた、恐らく彼がパートナーだろう。
「よし!気合入れていくわよ。目指せレアアイテム!」
「うっしゃぁっ!やってやらー!俺の方がカッコイイ男だってあのレディ達に教えてやるぜ!」
イツキとのやり取りのおかげで気合の入った二人は大会の為のフィールドダンジョンへと向かった。
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「ふっ!」
人型のロボットのようなエネミー、彼ら放つアサルトライフルの弾丸が尽きた瞬間に素早い動きで距離を詰めるとサブマシンガンを頭部と胴体に向けて放つ、一体目を素早く処理するとすぐさまもう一体へと突っ込む。
リロードを終えたエネミーがクレハへ銃口を向ける。
弾道予測線がクレハの体を赤く染めるが相手の動きを察していたクレハはすぐにその勢いのまま体を沈めスライディングの体制になる。
すると弾丸はクレハを外れ後ろのコンテナへと直撃する。
その低い体勢のまま引き金を引きエネミーの股下を潜り抜けながら弾丸をお見舞いする。
クレハがエネミーを全て倒すと同時に扉の向こうから別のエネミーの集団が現れる。
「グレネード!」
クレハは素早い判断で扉の方へと向かってプラズマグレネードを放り投げる、知能の低いエネミー達は足元のグレネードに気付かずに突っ込みその爆発に呑み込まれた。
物陰に隠れてリロードしているクレハに倒しきれなかったエネミーが立ち上がり銃を向ける。
「やらせるかよ」
だがその更に後ろからリョウの放ったエネルギーの弾丸がエネミーの頭部を捕らえる、いくら初期装備とはいえクレハが殆ど削ってくれたおかげでヘッドショット一発で終わらせられる。
倒されたエネミーの死体が分散し光のかけらへと変わる、それがこの辺りほ全てのエネミーを倒した証拠である。
「助かったわリョウ」
「余裕余裕」
光線銃を指でクルクルっと回して余裕の表情を見せるリョウ、最初はどうなるかと心配していたが思った以上の苦戦はしていなかった。
思っていた以上にリョウは射撃の腕が上手く殆どのエネミーをヘッドショットの数倍ダメージを出せているお陰で足を引っ張る事はなかった。
クレハの実力も本物で数こそ多いが唯のエネミーに苦戦する事はなく、未だにレベルの高いプレイヤーと接触せずに進むことが出来ている為余計なダメージも受けずにいる。
「だいぶ奥まできたよな?まだあんのか?」
「さっきくぐったゲートが中階層のゲートだからレアアイテムがあるのはこの辺りの筈よ」
今回のレアアイテムは低レベルのプレイヤーでも手に入るようにダンジョンの真ん中で手に入るらしく、もし優勝出来なくとも獲得のチャンスがあるのだ。
「にしてもここまで強いプレイヤーと出会わなくてほんとラッキーって感じよね。アンタって昔から運は良いわよね〜」
「おいおい、俺を運だけの漢みたいに言うなよな」
「あはは!ごめんごめん。でも思ったよりも上手く動けてわよね、おかげで思ったより苦戦してないし」
「ま、伊達に師匠に鍛えられてねぇし、仕事柄荒事には慣れてるからな」
「でもアンタが探偵やってるなんて意外よね。あの泣き虫のリョウちゃんがね〜」
「む、昔の事はいいだろ?! 男三日会わざれば って言うだろ?8年も経てばかわるっての!」
昔のリョウは小柄ですぐ泣く事からいじめの対象になりやすく、そんな時はいつも男勝りなクレハが助けてくれた。
「そう言う意味じゃクレハはいつも変わってねぇよな。昔のまま強くカッコいいクレハのままだ!ハハハッ!」
「う、うん……」
「?」
リョウが昔のことを懐かしみながら笑うのに対してクレハの声は深く沈んでいる。
リョウもクレハの声のトーンを不思議に思ったが、そのわけを今聞く事は出来なかった。
「ねぇ、もし「クレハ!」」
話を切り出した瞬間リョウがクレハへ向かって飛び掛かった。
「え? きゃあっ!?」
咄嗟の事に動けず彼に押し倒されるように地面を滑る。
「ちょ、ちょっと!何してんのよ!?」
いきなり押し倒される形で倒され僅かに背中に痛みを感じ恥ずかしさと怒りで文句の一つでも言ってやろうとした時、ドカーンと先程までいた地点に爆発が起きる。
敵のプレイヤーの急襲、それをいち早く察したリョウがクレハを庇う為押し倒したのだ。
「大丈夫か!クレハ!」
「え、えぇ大丈夫よ……ありがとう」
少し顔を赤めながらも直ぐ様体勢を立て直す。
「この仕掛け方はエネミーじゃなくてプレイヤーの筈、アタシがやるからアンタは何処かに「悪いけどそうは行かないよ」……っ?!」
クレハの作戦を打ち消すかのように優しくとも不気味な声が被さる。
「イツキ……さんっ!」
「そっちの彼がニュービーだって事は知ってるから先手を打たせて貰ったよ、まぁあの不意打ちを避けるとは思わなかったけど」
「一歩でも動けば撃ちますよ」
「くっ!」
煙が晴れると銃を構えたイツキとメガネの男に挟み撃ちにされていた。
直ぐにリョウと背中合わせになるがもう遅い。
例え一対一で戦っても勝てるか分からない相手に実質二対一の状況、しかも既に挟み撃ちの状態だ。
必死で思考を巡らしてこの状態を乗り越える方法を考えるが不可能だと嫌でも分かる。
「なんてね」
「え?」
後は引き金を引かれるのを待つだけの状況のなか、突然イツキが銃を下ろした。
「見逃してほしいかい?」
「……何のつもりですか?」
正面の銃が下されたからと言って油断は出来ない、寧ろ完全に有利な状況で銃を下ろすイツキにクレハはより警戒を強くする。
「あっはは!そんな怖い顔しないで、ほんの気まぐれさ、強いプレイヤーならともかく勝つのが分かってるニュービーに相手に無駄弾を使いたく無いだけだよ」
一見優しい提案ではあるが本気でトッププレイヤーを目指すクレハにとってはこれ以上の屈辱は無い。
「くっ!バカにしーー「クレハ!」」
突っかかろうとするクレハをリョウが抑え、耳元で小声で話す。
「落ち着け、俺たちの目的は何とか言うアイテムだろ? ここでやられたら何にも手に入らないぞ?」
リョウの言う通りまだレアアイテムを入手するチャンスを捨てる訳には行かない、そして何よりクレハはもう少しリョウとのGGOを楽しみたかった。
この大会が終わったらもう二度と一緒にプレイする事が無いのかも知れないのだから。
「条件は……何ですか?」
見逃すと言う以上勿論タダであるわけがない。
「話が早くて助かるよ」
「イツキさん!」
「いいじゃ無いかパイソンくん、せっかくの大会なんだから楽しまないと」
パイソンと呼ばれたメガネの男はイツキに言われて渋々銃を下ろす。
「条件は簡単さ、この奥に少々厄介なエネミーが居てさそいつを倒すことができたら二人を見逃してあげるよ」
「イツキさんが手こずる相手にアタシ達が勝てると思ってるんですか?」
「それって重要な事? エネミーにやられるかボクたちにやられるかの違いしか無いよね?」
「寧ろ幸運に思った方が良いですよイツキさんの気まぐれのおかげで生存率が上がったのですから」
「………嘘じゃないですよね?」
「ああ、ボクは冗談は言うけどウソは嫌いなんだ」
「わかりました、その条件呑みます。リョウもそれで良い?」
「ああ、良いぜ。最初から諦めるよりずっと良いさ」
GGOの事をよく知らないリョウはクレハに任せて成り行きを見守っていたが彼女の選択を信じている。
リョウの強い眼差しと言葉に自信なさげだったが彼女の表情が明るくなる。
「ええ、そうね!よし行くわよ!」
「おう! お前ら後ろから撃ったりすんなよ?」
「ははは分かっているよ」
頬を叩き気合を入れるとエネミーの待つ扉へと向かう、そんな二人をイツキは少しつまんなさそうに見ていた。
「ふーん、もう少し迷ってくれると思ったけど意外だな……パイソンくんせっかくだから賭けて見ないかい?」
「構いませんよ、ではわたしが勝つ方ですか?」
「いや、ボクが勝つ方に賭けていいかな」
「ふふ、意地悪な方ですねイツキさん」
「褒めてくれてありがとう」
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イツキ達と別れ少し行った所に先ほどまでと違い巨大な扉が現れる。
「イツキさんが言ってた厄介なエネミーってボスエネミーの事なのね」
「ボスって事はやっぱ強いのか?」
「うん、耐久力も高くて攻撃力も高い、しかもボス部屋は一度入ったら倒すか倒されない限り出る事は出来ないの」
「ん?ならあの二人は入ってないって事か?」
「そうなるわね、大会のボスだから警戒してたんでしょうね、アタシ達は様子見って所ね」
別のプレイヤーを向かわせる事でボスの強さがどれぐらいなのかを測るつもりなのだろう。
良いように利用されている事を理解し歯がみするクレハ、だが対してリョウは悠々としている。
「なんだアイツらが苦戦した訳じゃないのか、だったら勝てる可能性は高いじゃねぇか、だろクレハ?」
「でも……相手はボスだし強敵なのは確かよ。アンタとアタシで勝てるかどうか……」
「マイナスに考えんなって。さっきのメガネも言ってたろ?俺たちは運がいいってよ、ならまだ俺たちの運は尽きてねぇって事だ。幸運の女神様が微笑んでる以上何とかなるってよ」
「……ふふっ!そうね、よし開けるわよ!」
リョウの強気な発言に背中を押され巨大な扉を押し開く。
ギィィィっと思い音と共に扉が開くと二人は進む、そして部屋の中央に到達すると同時に扉が閉まった。
「来るわよ!」
「了解!」
天井が光るのに反応し武器を構えると同時に巨大なエネミーが姿を表す。
虫のような四本の脚に胴体らしき部分の下にレーザー砲を備えたエネミー、出張った足の一本一本は鋭く尖っており強固そうな装甲は生半可な攻撃なら弾いてしまうだろう。
「いい?アタシが囮になるからアンタは物陰に隠れながら隙を見て攻撃をしなさい、あのタイプのボスは遠距離武器はあのレーザーだけだからそれだけは気を付けて」
短く説明するとクレハはボスエネミーへと向かって距離を詰める、エネミーにはヘイトシステムが存在し近くの敵や攻撃に反応して襲ってくる、リョウへのヘイトを減らすためと距離を詰めサブマシンガンの攻撃力を増やす作戦だ。
リョウはクレハの言う通り近くの柱へと身を隠すと光線銃による援護を開始する、エネミー対しては実弾よりも有効な光線銃だが初期装備である上距離も離れているため有効打とは言えない。
クレハのサブマシンガンも対人戦の装備でありボスエネミーの装甲には有効とは言えない。
「くっ!」
クレハの射撃を豆鉄砲とでも言うかのようにダメージを気にせずに向かってくると巨大な鋭い脚を突き刺しにくる。
だがクレハは持ち前の素早さでそれを回避する。
クレハのステータスはかつてGGOではやったAGI型に耐久力を上げたタンク型である。
極振りしているプレイヤーほど速くはないが、巨大なだけでノロマなエネミーの攻撃は軽く避けられる。
回避の瞬間に二人で一斉射撃を喰らわせる、しかし《カウンター》で入ったにも関わらずHPゲージが僅かに減少するだけで効いた様子はない。
「……長引きそう、だな」
敵の攻撃は避けこちらの攻撃は効かない、そんな拮抗した状況のまま時間だけが過ぎていく。
「はぁはぁ……」
(クレハの動きが鈍い……無理もない、大会が始まってからずっと前衛で戦ってるんだからな)
VR空間では肉体的な疲れを感じ難いが精神面は別だ。
座ったままでゲームをするのにも集中力や体力が必要なのと同様、ずっと気を張っていれば激しい疲労感に苛まれる。
(このままじゃ……急がないと!)
ボスの攻撃を避けながらクレハは時計を見る。
正直言ってボスに勝つ事は難しくない、元々二人のプレイヤーで倒せる様に設定されている以上耐久力自体はそこまで高く無い。
たとえ装備が悪く実質一人で戦っているとしても時間をかけてじっくり挑めば問題は無い、だがクレハにとってはその時間こそが重要だった。
目的であるレアアイテムは早い者勝ち、たとえボスを倒しても他のプレイヤーに取られてしまってはただの骨折り損だ。
その焦りが余計にクレハの集中力を削り疲労感を強くしている。
「しまっ……きゃっ!?」
焦りからかクレハの足がもつれ動きが止まってしまったところにレーザー砲が飛んで来る、運良く直撃はしなかったが爆発に飲まれその体が浮かび上がった。
「おっと、セーフ!」
「う、リョウ……?」
地面へと叩きつけられそうになったクレハの体をリョウが受け止め、すぐさま物陰へと隠れる。
「クレハ、お前は休んでろ。あとは俺がやる」
「む、無理よ!アンタのレベルじゃ……せめてアタシも!」
「そうは言うが疲れてんだろ?動きが雑になってたぜ? それにその足じゃ難しいだろ?」
リョウに指を刺されクレハは自分の足を見る。
クレハの足は膝から下が無く断面は赤いエフェクトで覆われていた。
先ほどの爆発で部位破壊をされてしまったらしく、回復には時間がかかる。
「でも……」
「心配すんなって、言ったろ?荒事には慣れてるって。まぁ俺なりに上手くやるさ!」
「あ、リョウ!」
クレハに軽くウィンクするとボスが向かって来る方とは逆に飛び出してボスの背後に立ち、帽子に手を乗せ目元が隠れるぐらい深く被り直す。
(一つ、俺はアイツの気持ちを舐めていた)
正直リョウにとってはこの大会に大した重要性は無い。
所詮はゲーム、始まる前は適当にやってクレハが満足すればそれでいいと本気で思っていた。
だが大会が始まってその考えはすぐに無くなった、クレハのその目に一切の遊びはなく、全力でこの世界を生きているのが伝わってきた。
(二つ、俺が弱いせいであの優男に舐められた)
イツキの人を小馬鹿にした態度に腹が立っていたのはクレハだけでは無い。
リョウ自身もさっきのやり取りに腹を立てており、どうにかしてイツキ達をあっと驚かせてやりたいと思っている。
(三つ、そのせいで大切な人に怪我をさせた)
たとえゲームであってもクレハを傷つける者は許さない。
彼女に強くなった自分を見てもらう為に修行してきたのだから。
心の中で己の罪を数え、心を落ち着けながら己が戦う意志の炎を静かに燃やす。
彼が師匠に教えて貰った戦いの前に覚悟を決める儀式の様な者だ。
「舐められた分の借りは返すのが俺の流儀だ。まずは俺の大切なもんに傷をつけた罪、しっかり返してもらうぜ!」
帽子のツバを上げたリョウはボスへと向かって走り出す。
リョウの接近に気が付いたボスが、首を180°回し視界に入れると鋭い前足を振り下ろす。
だがリョウは脚が振り上げられる瞬間にブレーキを掛け後ろへと跳ぶ、そして振り下ろされた瞬間に光弾を頭部へと放つ。
「お、ラッキー!」
攻撃の瞬間への攻撃《カウンター》が決まりダメージが倍、《弱点部位》への攻撃で1.2倍、さらに運良く《クリティカル》発生により1.5倍のダメージが発生しボスの体力が多めに削られる。
『ーーーーー!』
ダメージから復帰したボスが、今度はレーザー砲を放とうとチャージを始める。
だがリョウはまるでチャージが始まるのが分かっていたかの様に素早くボスのと距離を詰める。
そしてレーザーが放たれた瞬間にはリョウは既にボスの前足に飛び乗り、それを足場としてジャンプし再び光弾を頭部へと当てる。
再び《カウンター》と《弱点部位》ボーナスが入り、更に5発撃った内3発が《クリティカル》を発生させる。
着地したリョウの姿を頭部を回して確認すると今度は後ろ足を振り上げる。
それと同時にリョウは、スライディングでボスの股下へと潜り込み光弾を連続で喰らわせる。
《弱点部位》では無いが、《カウンター》と10発の内8発もの連続《クリティカル》を発せさせた。
クレハとの戦闘を見ていたリョウは、ボスの攻撃がパターン化されている事に気が付いていた。
複数ある攻撃パターンを全て発生させないのは不可能、だからリョウは最も避けやすい《レーザー砲》と《前足を振り下ろす》の二つが発生する適切な距離を保ちボスの攻撃を先読みしていたのだ。
(よし、ヘイトが完全に俺に向いた)
攻防を続けていると、不意にクレハの足元に存在していたヘイトマーカーがリョウへと向けられる。
リョウの与えたダメージがクレハの分を超えたのだ。
「クレハ!さっきのグレネード全部転がせ! 栓は抜かずにな!」
「え? ええ、分かったわ!」
いきなりの指示に戸惑いつつも、直ぐに言われた通りに物陰から身を出しプラズマグレネードをボスへと転がす。
「よし、派手に行くから隠れてな!」
ヘイトがリョウに向いている以上、物陰からでたクレハが狙われる事はなくボスはリョウへと向けてレーザー砲をチャージしている。
対してリョウはボスの頭部へと光弾を連射している。
『ーーーーーッ! ジジジ……』
レーザー砲が最大までチャージされてプラズマグレネードがボスの真下に着いた瞬間、一定のダメージにより《ダウン》状態が発生してボスの動きが止まりベストの状態になる。
「ラッキー! 愛してるぜ女神様!」
自らに味方している幸運の女神に最大級の礼を言いながら、光線銃をボスの下に転がした切り札へと向ける。
「これで決まりだ」
リョウの放った光弾がグレネードへと着弾した瞬間、激しい閃光に包まれる。
グレネードの爆発と最大まで溜めたレーザー砲のエネルギーと混ざり合い通常の数倍の爆発を巻き起したのだ。
ボス部屋全体に広がる衝撃と爆音が轟き部屋全体を煙が覆い尽くされる。
煙が晴れた時そこに居たのはその巨体を逆さまに倒れていたボスエネミーの姿、その造形のため立ち上がる事が出来なくなっていた。
二つの爆発のエネルギーによって下から打ち上げられたエネミーはその巨体を浮かし逆さまに落下したことによってその自重で強固な装甲に覆われた弱点の頭部が砕かれていた。
『ーーーーージジッ、ジジジ』
「悪く思うなよ、お人形ちゃん」
武器を失い身動きの取れなくなり悔しそうに電子音を鳴らすエネミーの頭部へと止めの一撃を加える。
するとボスエネミーは光の粒子となり消滅した。
⭐︎
「すごいじゃない!まさか本当に勝っちゃうなんて、うんうんアンタは昔からやるときはやる子だと思ってたのよ!」
「痛い痛い!削れる削れる!」
リョウの大金星にクレハは自分の事のように喜び背中をバンバン叩いているが互いのステータス差のせいか少しずつリョウの体力が減っていく。
「あ、ごめんごめん。すぐに回復するわね」
ただでさえ爆発から逃げきれなかったせいで体力の八割が減っている状況、せっかく勝ったのにフレンドリーファイアで脱落したのでは笑えない、すぐさま回復アイテムをリョウの首へと打ち込み回復させる。
HPの少ないリョウにとっては一本で十分であった。
「いやぁ、まさか本当に勝っちゃうなんてね。驚いたよ」
「イツキさん」
ボスを倒した事で開いた扉からイツキ達がこちらへと向かってくる。
「これでアタシ達は見逃して貰えるんですよね?」
「ああ、構わないよ寧ろボクとしてはお礼を言いたいぐらいさ、君達のおかげで生まれて初めて賭けに勝てたからね」
「……そうですか」
『賭け』という単語に一瞬顔をしかめるがせっかく拾った命を無駄にする理由は無い。
イツキ達を無視し先に進もうとするが道が二手に分かれているのに気がつく。
「二手に分かれてますね……イツキさん達が選んで下さい、アタシ達は余り物でいいですから」
条件を満たしたからと言って油断は出来ない、機嫌を取るためにも相手に有利な提案をしたのだが、対してイツキはしかめっ面を見せる。
「イツキさん?」
「いやなにボクはどうにも、こう言ったくじ運が無くてね。この前も《無冠の女王》にレアアイテムを掻っ攫われたし……良かったら君達が選んでよ」
「そうですか……」
イツキに言われて左右の道を見比べる、しかしどちらにも大きな差はない、このどちらかにレアアイテムがあるかと思うと上手く決断できない。
「リョウはどっちが良い?」
「俺か?」
「ええ、アンタのビギナーズラックに任せるわ」
「はははっ、それは面白そうだね。君はどっちにする?幸運のニュービーくん」
「んじゃあ右」
苦渋の決断かと思われたがリョウは少しの迷いも無く右を選んだ、その迷いの無さにイツキも驚いている。
「いやアンタもう少し考えなさいよ!?」
「結局運頼みだろ?悩むだけ無駄だって、それに俺の感がこっちだって言ってんだよ」
そう言うとリョウはサッサと奥へと向かって行ってしまう。
「あ、待ちなさいよ! それじゃイツキさん失礼します」
「あぁ、またね」
話を切り上げサッサと突き進んで行くリョウ、クレハも軽く挨拶を済ませると彼の後をついて行った。
「……………ふふっ久しぶりに面白くなりそうだ」
そんな二人を見つめるイツキの眼はまるでオモチャを見つけた子供のようであった。
⭐︎
「もう何でさっさと行っちゃうのよ?」
「だってアイツら嫌いなんだもん」
「なんでそんなにイツキさんを嫌ってんのよアンタ」
「何となく話してると分かるんだよ、相手の内面っていうか考えてる事がな……アイツ目が笑って無いしなんつうか不気味な人形見てる気分だ」
「そんな捻くれた見方しなくても……」
「そう言えば結構歩いてるけどエネミーもプレイヤーも出てこないよな?」
「本当ね、多分プレイヤーは居ないはずよ、ボスを倒さないと先に進めない仕様みたいだし。エネミーがいないのはボスを倒したボーナスってところかしら?」
そんな推測を立てながらも真っ直ぐな何も無い廊下を世間話をしながら歩いていると一つの扉へと辿り着いた。
扉は自動ドアとなっており二人が近づくと自然に開く。
クレハが警戒しながら先行して様子を見るが部屋の中には敵の気配はなくただ大量の機械が並べられているだけであった。
「どうやらここは転送部屋のようね」
敵が居ないことを確認すると外で待たせてあるリョウを部屋へと招く、見たことのない機材を見たリョウは驚きの声を上げる。
「うおっ!すっげぇなこれ、昔見たSF映画みてぇだな」
映画の世界にでも入ったかのような感覚を味わい恐らく今一番テンションが上がっている。
「アンタって昔っからこう言う機械が好きよね」
「まぁな、クレハに無理矢理外に連れ出されなきゃずっと家で機械弄りばっかしてただろうな」
「無理矢理ってなによ、アタシはアンタを心配して連れ出してたのに」
「分かってるよ、実際楽しかったし感謝してるよ」
「なら良いけどさ」
そんなやり取りをしながらクレハは機械を操作している、リョウは邪魔にならないように部屋を静かに見回っている。
「こう言ったダンジョンには色んなところに転送してくれる装置が置いてあるのよ。えーと……こんな風にっと!」
意気揚々に操作をしていると部屋の真ん中の大きな機械が光を放つ、転送装置が作動したのだろう。
だが……
「え?」
黙って見学していたリョウがいつの間にか機械の中へと入ってしまっていたのだ。
驚く間も無く体が青い光に包まれる。
「え?……ええぇっ!?お、落ち着いて、直ぐに追いかけるから動かないで!」
クレハの驚いた声が光によって掻き消された。
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プロキシオンSL
GGOの初期装備、小型のハンドガンであり威力も低く光学兵器なのでプレイヤーには効果が浅い。
本来初心者はこれを装備し地下に潜り金策をする。
プラズマグレネード
通常のグレネードに電気を混ぜ、よりも威力と爆発範囲を大きくした物その分値段も高い
第四部 誰のサイドケースから見たい?
-
キリト
-
アスナ
-
クライン
-
エギル
-
シリカ
-
リズ
-
リーファ
-
シノン
-
ユウキ