ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー   作:トライダー

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第二部 氷の狙撃手 ファントム・バレット編
 リアルの仕事


⭐︎

 

 

 

 

 

 

 ブオーーーーーーン

 

 夜の海に船の汽笛の音が響く。

 季節は冬真っ只中、手袋をしているとは言え作業の為の薄い生地の為全く温まらない、冷える手を擦り一息かける。

 

「うう……さっぶ!……仕事とは言えこの季節は堪えるな……」

 

 普段の格好にコートを羽織っているがそれでもやはり寒い。

 腕時計を見ると二本の針が丁度深夜を回ったところ、今頃GGOは大盛り上がりだろう。

 なんて言ったって今日は《第二回BOB》の本戦だ、GGOで一番のプレイヤーが決まる大事な大会。

 うちのメンバーであるクレハも本戦に進んだ、俺も参加を勧められたが仕事を理由に断った。

 そもそも大会とかナンバーワンとかそう言うのには興味が無い、クレハやアイと一緒に楽しめれればそれで良いし、わざわざ血の気の多い場所に行くのはスマートじゃ無い。

 

 そうしていると仕事用のガラケーに着信が来る。

 

「はい、俺です」

 

《奴らが動いた、後三分後に到着する『掃除』を始めてくれ》

 

「了解」

 

 短くそう言い通信を切る、静かに深呼吸をし精神を落ち着かせる、いつでもハイパーセンスに入れるようにだ。

 

「ん?」

 

 目を閉じて瞑想をしていると今度はプライベート用のスマホに反応がある。

 

『マスター!クレハがBOBで13位に入賞しました♪ 13位ですよ13位!これで名実ともにトッププレイヤー入りですよ!』

 

 電話では無くメール、今日は仕事で忙しいから電話はしちゃダメと言う言い付けを守ったのだろうな、いい子だ今度褒めてあげよう。

 クレハは最近調子が良い、家を出てツェリスカと一緒に住むようになってリラックスしているお陰かメキメキ実力を付けている。

 リアルの方でも自信がついたのか近所のおばちゃん達にも普段の態度を見せられるようになってきた。

 彼女に笑顔が戻った事は何よりも喜ばしい事だ。

 

『そいつはめでたいな、今度みんなを誘ってお祝いでもしようか』

 

『はいなのです!マスターもお仕事頑張って下さいね♡』

 

 アイの可愛らしいメールについ頬が緩んでしまう、やっぱり彼女達との時間は俺にとって何よりの癒しになる。

 手慣れたとは言え少しは緊張する、それでもアイのおかげでリラックス出来た。

 

「ふぅ……よし、気合い入れないとな、あの場所に帰る為にも」

 

 気合いを入れた俺の元に羽ばたく音が聞こえる、とは言っても風の音で集中していなければ聞こえないだろう。

 

「おかえりバットちゃん♪」

 

 俺の手に収まったのはコウモリのような羽をつけた小型のドローン、師匠が仕事の為に使っていたものであり、折り畳めばデジカメとしても使え、遠隔での証拠の撮影などに使う。

 

「……よし、証拠の写真は取れたな、人数は……思ったよりも少ないな」

 

 カメラを操作し撮って来てくれた写真を確認する、大量のコンテナの置かれた倉庫で怪しい男たちが集まっている。

 彼らが開けているアタッシュケースの中には拳銃がいくつも入って、それに対面している男はざっと見て一億は入ったケースを開けている。

 

「これだけあれば十分だな……行くか」

 

 懐にしまっている相棒を確かめ倉庫の裏の窓からの侵入を試みた。

 

 

 

 

 

       ⭐︎

 

 

 

 

「さぁ次のブツだ……」

 

「その前に金だ、こいつは他のとは比べ物にならないからな」

 

「チッ! ほらよ……」

 

「………ふむ、足りないな後倍は貰わないとな」

 

「ふざけるなっ!! 話が違うじゃねぇかっ!」

 

「値上がりしたんだよ、ここ最近儲けが減っているんだからな」

 

「んなもんそっちの都合だろうが!」

 

「文句があるなら良いんだぜ? 他にも欲しがっている奴は多いからな、お前たちが敵対しているヤツらとかな」

 

「く……わ、わかった」

 

 男が屈し持っていたケース二つと取引相手のケースを交換しようとした瞬間。

 

「「なっ!?」」

 

 突如ケースの一つが浮き上がり上空に飛んで行く、そして天井の鉄骨に乗っている男の手元へと吸い込まれる。

 

「おいおいとっくに定時は過ぎてるぞ。随分とブラック企業なんだな、労働基準局に怒られるぜ?」

 

「な、なんだ貴様は!」

 

「うっわ! 爆弾かよあっぶねぇな、それにその大金……黒かったのは企業じゃ無くてあんたらの腹の中か?」

 

 男たちの言葉を無視し、遼はケースに括られた糸を左手首の腕時計に巻き戻すとケースの中を開く。

 中に入っていたのは小型のプラクティック爆弾、明らかに一組織が持つものを超えていた。

 

「質問に答えろ!何者だ!」

 

「ま、まさか……掃除屋(スイーパー)か!?」

 

「なにぃ!?」

 

 その単語に全員がどよめく。

 

 掃除屋……政府から直接依頼を任される世間には出回っていない組織、世間にバレるわけには行かない汚い仕事を隠れてする何でも屋。

 

「そう言う呼ばれ方は好きじゃない、俺はただの《探偵》さ」

 

 遼は帽子を左の人差し指で弾くと手首にスナップを効かせ左指を突き刺し、師匠と同じ口癖を叫ぶ。

 

「さぁ、お前の罪を数えろ!」

 

 一見カッコつけているだけに見えるが何処か様になっている、その姿に男たちは恐縮する。

 

「く……に、逃げるぞ!」

 

「待て! 掃除屋は複数では動かん、現場も見られている以上ここで殺しておくべきだ!」

 

 男の言う通り掃除屋とは政府は公認の組織でありながら世間一般には知られていない存在。

 そして必ず単独で行動する、その理由は失敗した時に簡単に抹消できるからだ。

 

「幸い奴はガキだ! 全員でかかれば楽に殺せる!」

 

 男の言葉に反応し全員が懐から拳銃を取り出し遼へと向けようとする。

 

「やれやれ、逃げられないのは有難いが舐められるのは不服だな」

 

 そう言うと鉄骨から飛び降りると腕時計からワイヤーを射出するとワイヤーは蜘蛛の糸のように鉄骨にくっ付くと彼の体を振り子のように釣り上げる。

 打ち上げ花火の如く破裂音が響き渡った、しかし遼には一発も当たるどころか掠りすらしない。

 彼の幸運、そしてハイパーセンスによる危機察知能力を生かし向かって来る弾丸をサーカスのように避ける。

 

「うぉらぁっ!」

 

 天井、壁、コンテナを跳び回り銃弾を回避しながら距離を詰めると一番近くにいた男の溝内を殴りつける。

 遼の太い腕と大きな拳で殴られ悶絶している。

 

「チッ!コイツ!」

 

 仲間を一撃で倒され舌打ちをしながら遼へと拳銃を向ける、しかし放たれるよりも早く遼はワイヤーを伸ばし、男達の拳を狙い鞭のように振るう。

 

「がっ!」

「うぅ……」

「ぐっ!」

 

 突然来る手への激痛に拳銃を落としてしまう、その隙を見逃さず一撃を入れていき次々と男たちを気絶させていく。

 

「おっと!」

 

 弾が切れた銃を捨てると素手なりナイフを取り出し向かって来る、しかし遼は捌いていく。

 拳、蹴り、掴み、向かって来た男たちの腕全てに対しカウンターを急所に叩き込む事で次々と数を減らしていく。

 

「調子に乗るなガキがっ!」

 

 怒った金を渡していたリーダー格らしき男が大きな音を立てながらアサルトライフルを取り出す、恐らく周りの荷物の中にあった物だろう。

 それを後ろを向いている遼へと構える。

 しかし引き金を引こうとした瞬間、遼は素早く振り向き懐に手を伸ばしコルト・パイソンを引き抜いた。

 

「ぎゃぁっ!?」

 

 空間を引き裂くような銃声の後、小さな爆発音が轟き男は気絶する。

 爆発したのは男が持っていたアサルトライフルだ、遼は男が放とうとした瞬間にライフルの銃口へと弾を放ち暴発させたのだ。

 他の男たちも落ちてる銃を拾い再び遼へ向けるがそれよりも早く遼はマグナムを放ち銃を撃ち落とす。

 向かって来る拳をナイフを弾丸を全て躱し、殴りつけ蹴りつけ投げ飛ばしゴム弾を撃ち込む。

 

 数十人の男たちは数分もしないうちに一桁まで数を減らす。

 

「ひ、ひいぃぃぃっ!!! ば、バケモノっ!!!」

 

 遼がたった一人でこれだけの大人数を片付けるのを見て恐れたブツを渡していたリーダーらしき男は、残った数人の仲間を連れ車へと乗り込む。

 よっぽど恐ろしいのかブツも金も全て放ったらかしのままだ。

 

「逃すかよ!」

 

 遼はガラケーを操作しながら倉庫を出て走って追いかける。

 最初の入り組んだ場所は追いつけるが開けた真っ直ぐな道となるとそうは行かない、スピードに乗ってしまった車にどんどん距離が離されて行く。

 豆粒のように小さくなる遼の姿を見てリーダー格の男は安堵の一息をつく。

 

「くそがっ! 取引が台無しだ。……あの小僧から足がつくだろうしどうする?」

 

 安心した後は怒りが溢れる、今回の一件で取引相手が捕まり情報が流れより肩身が狭くなってしまうだろう。

 

 ………しかし男にそんな心配をする必要は無い。

 

「ぼ、ボス!あのガキがっ!」

 

「な、なんだと?!」

 

 部下の言葉に敏感に反応した男はすぐさま後ろを振り向く。

 そこに居たのはヘルメット被り、黒と紫のバイクに跨った遼の姿。

 

「と、飛ばせっ!」

 

「は、はいっ!」

 

 2台による深夜の廃工場でのカーチェイスが始まる。

 何とか直線で撒こうとするが遼の乗るバイクの方が速い、通常の車でしかも5人も乗っていれば逃げられるわけがない。

 

「ぼ、ボス!大通りの方に逃げましょう!そしたら……」

 

「馬鹿を言うな!大事になれば警察が動く!そうなれば余計に逃げられなくなる! 意地でもここで仕留めろ、撃てっ撃てっ!!」

 

 男の指示で窓から身を乗り出しサブマシンガンを放つ、軽い連射音が連続で響き遼へと向かう。

 しかし遼はバイクを左右へ揺らして銃弾を回避する、これだけの弾幕にも関わらずバイクにすら掠らない。

 対して遼は反撃をしない、遼の腕前ならばすぐに撃ち倒せる筈だが黙って回避に専念する、まるで何かを狙っているかのように。

 

「今だっ!踏み潰せ!」

 

 そうしている内に場所は車一台分の細い道へと逃げ込む、これを勝機と思い車のブレーキを踏みしめ急激に速度を落とす。

 

(よし、ここだっ!)

 

 しかしそれは遼の計算通り、遼はブレーキを掛けるどころかアクセルを強く回し車と衝突する瞬間、バイクごとジャンプし車を跳び越える。

 

「なっ!?」

 

 その光景を見ていた全員が驚きの声をあげる、しかしそれだけでは終わらない。

 車を跳び越える瞬間、遼はコルトパイソンを引き抜き真下へと撃ち込んだ。

 撃ち込まれた弾丸は運転席のガラスを突き破りハンドルの付け根を貫いた。

 

「う、うおっおおおっ?!?!?!」

 

 突如ハンドルの操作が効かなくなり焦る運転手、もう彼に出来るのはアクセルかブレーキを踏むだけ。

 遼は跳び越えた後スピードを上げ、車との距離を取り曲がり角を曲がる。

 

「「「うわあぁぁぁぁっっっ!?!?!?」」」

 

 しかしハンドルを使えない彼らの車は曲がれずそのまま大量のゴミ袋が置かれている行き止まりへと突っ込んだ。

 ドカーンと大きな音が響き静寂が訪れた。

 

「これに懲りたらちゃんとシートベルトをするんだな」

 

 バイクを止め彼らの様子を確認する、音は凄まじかったがブレーキを掛けていたのと大量のゴミ袋がクッションになったお陰でそこまで大きな事故にはなっていないようだ。

 遼が直ぐに撃たなかったのはここへと誘導する為だ、あの場でもし銃を直ぐに撃ち、彼らを倒しても車に乗っている以上大きな事故になる可能性がある、最悪の場合爆発を起こす事も予想出来た。

 だからこそ最小限の被害で済ませられるこの場所まで誘導する必要があったのだ。

 

「これで決まり……だな」

 

 これで全員の身柄を確保、しかしまだ終わりではない。

 男達が完全に気絶しているのを確かめると仕事の事後処理と報告を行うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

       ⭐︎

 

 

 

 

 

「ふぁ〜〜あ………眠みぃ……」

 

 簡単な報告を終わらせると後は警察の仕事だ、しかし俺の仕事はあくまで一部の人しか知らないので見つからない内に現場をさる。

 けどまだ終わりじゃ無い、終わらせたのはあくまで簡単な報告だ、本当の報告はこれからになる。

 既に夜が明け昼前になる、俺が来たのは東京にある警視庁本部だ、ここに目的の人が居る。

 ドアが開き中へ入ると俺を迎えたのは美人な受付のお姉さん。

 

「やぁお姉さん、いや〜貴方の笑顔を見たら眠気も吹っ飛びますわ〜」

 

「あ、あの……何か御用でしょうか?」

 

「そうそう、早坂さん居るでしょ?」

 

「は、早坂さんですか!?」

 

「ああ、右京が来たって言ってくれれば良いから。お願い」

 

「わ、分かりました。ですがお忙しい方ですのでお時間の方が……」

 

「良いよ良いよ! 寧ろどんどん遅れてくれて良いから、その方がお姉さんと一緒に居られるし〜」

 

「は、はぁ……………え? あ、あの直ぐにお会いになるから好きに通してくれと返答が……」

 

「あ、そう? もう少し一緒に居たかったけどそっちを優先しないとな……んじゃまたねお姉さん!」

 

 何のことやら分かっていないお姉さんを置いて早坂さんの居る《警視総監室》へと向かう。

 

 

 

「失礼します!」

 

 ノックをして許可を貰った後、扉を開け中へと入る。

 

「やぁ久しぶりだね、遼くん」

 

「お疲れ様、遼」

 

「お久しぶりです早坂さん、渡辺さん」

 

 そこに居たのは前に紅葉達と行ったカフェ《エモシオン》のマスターの渡辺誠二さんだ、彼は店以外でマスターと呼ばれるのを嫌うのでこう言う呼び方をしている。

 そしてもう一人は渡辺さんと同じぐらいの年齢の制服の男性、彼こそが警視総監である早坂剛三郎さんだ。

 

「そう畏まらないでくれ、私と君の仲じゃないか」

 

「いや、寧ろだから何ですけど……」

 

 師匠とマスター、俺の頭が上がらない人トップ3の最後の人がこの人だ。

 ある意味この人が一番、と言うのも師匠は刑事時代にこの人によって鍛えられた、つまり俺にとっての大師匠になる。

 

「あれ?今日はエンジの奴は居ないんですか?」

 

「息子なら先程の現場に行っているよ。今日は非番だというのに」

 

「アイツらしいですね……」

 

「はははっ! それでは報告を始めようか……誠二」

 

「はい、武器の密売組織25名暴力団山形組構成員30名、合計55名全員の身柄を確保。怪我人はいますがどれも軽症で死者は出て居ません。証拠の写真に動画、物資の確保も全て無事完了しています。また深夜の騒ぎに気付いた者もおりません」

 

「素晴らしい結果じゃないか……流石はだな遼くん」

 

「ありがとうございます。ですがまだまだです、師匠ならもっと早く終わらせていました」

 

「謙遜する必要ないよ遼、その若さで上出来だ」

 

「そんな、渡辺さんの情報のおかげですよ」

 

 表向きは喫茶店のマスター、しかしその実態は政府とつながる情報屋。

 昔は早坂さんと二人でコンビを組んでいたらしく、早坂さんが出世し前面に出れなくなった後師匠を、そして今は俺へと仕事の依頼を持って来てくれるのだ。

 こんな過激な仕事を事務所で受けるわけには行かない、だから彼を経由して仕事を受けている。

 

「誠二の言う通りだ謙遜する必要は無い、まだ未熟な所はあるが直感だけは総一よりも上だろう」

 

「ありがとうございます、ですが直感に関しては素質と言うよりは『コレ』のお陰でしょう」

 

 左胸を押さえる、服で分からないがそこには小さなクレーターのような傷が付いている。

 それは銃痕だ、俺は昔銃で撃たれたことがある。

 まだ中学生の頃、弾が心臓を掠め弾が体に埋まると言った重傷だったが師匠の応急処置や医者のお陰で運良く一命を取り留めた。

 それからと言うもの俺は自分の危険に心臓が強く反応するようになった、恐らく撃たれ死の淵を彷徨ったことで体に恐怖が刻まれ危険に敏感になったのだろう、ハイパーセンスの正体がそれだ。

 俺が師匠より感が鋭いのはそれが理由、結局運が良かっただけで誇れるようなことでは無い。

 

「ところで聞きたいのですが……」

 

「何かな?」

 

「今回捕まえた奴らですが何者なんでしょうか? 暴力団が所持する武器のレベルを超えていました、もし出回っていたかと思うと……」

 

 先程の現場を思い出す、武器の密輸は今まで何度も経験してきたが今日の武器はどれも強力な物だった。

 ヤクザ同士の争いどころか戦争でも始まるのかと言うような武器の数々。

 

「うむ……まだ確証は取れていないが、アメリカの方の軍事組織が関係しているようだ」

 

「アメリカの……」

 

「軍事と言っても恐らく傭兵だろう、彼らが最近少しずつだが日本で行動を起こしているのが確認されている。そして裏の組織と問題を起こしているようだ、今回の装備はそれに対抗するための物だろう」

 

「いずれ仕事を依頼するかも知れない心しておいてくれ、奴らは強敵で犯罪者だ、今回のように()()()しないほうが良い」

 

「勿論いざと言う時は容赦はしません、ですが俺が憧れたのはあくまで探偵である師匠の姿なので……」

 

「まぁ、我々としては仕事さえしてくれれば良いからね。此方としても殺すよりも捕まえてくれた方が事後処理もやり易いしね」

 

 俺の答えが分かった上で殺しを推奨して来る、師匠がお世話になった人という事で尊敬はしているがやはりこの人は苦手だ。

 聖人君子な事を言うつもりは無い、けど俺は拳一つで俺を救ってくれた探偵としての師匠に憧れたんだ、無駄な殺しをするつもりは無い。

 

 報告を終え帰ろうとするがドアノブに手をかけた瞬間、ふと思った事を口にする。

 

「あの早坂さん、おやっさ……師匠の事なんですが……」

 

「……すまない、手掛かりは掴めていない。しかしきっと生きているさ、総一郎の実力は君がよく知っているだろう?」

 

「……はい、失礼します」

 

 二人に頭を下げ俺は警視庁を後にした。

 

 

 

 

 

 

 バイクを走らせ事務所を目指す途中、その間も先程の早坂さんとの話を思い出していた。

 

(おやっさん……)

 

 俺の師匠、氷室総一は現在行方不明になっている。

 

『遼、デカい仕事が入った、暫く留守にする。事務所も全権限をお前に託す。一年たっても俺が帰らなければお前が所長だ』

 

 二年前師匠はそう言うとお気に入りの帽子を俺に被せてくれた、本当ならそれは俺にとって何よりも嬉しい事だった。

 しかし師匠にとって帽子は一人前の証、まだ半人前の俺にそれを託すなど普通なら考えられなかった。

 

『ま、待ってくれよおやっさん! そんな事いきなり言われても……俺にはまだ帽子は早いよ……』

 

 師匠のその行動がまるで遺言のように思えてつい情けない事を言ってしまった。

 

『…………似合う男になれ』

 

 不安だらけな俺に一言だけ言うと師匠は事務所を去った。

 渡辺さん達に聞いてみたところアメリカに発ったそうだが仕事の内容は二人も知らないらしい。

 それから一年がたち、帰って来るどころか連絡すら付かず俺は氷室探偵事務所と師匠の仕事を引き継いだ。

 

「俺は……なれてんのかな? 似合う男に……」

 

 ふと感傷に浸りバイクを停め帽子を被ってみる、近くのガラスに自分の姿が映る。

 決して絵にならない訳ではない、しかし師匠と比べると中身が無いと言うか見た目だけと言うか……はっきり言って薄っぺらい。

 

「会いたいな、おやっさん……」

 

 帽子を深く被り目元を隠す、どうやら目にゴミが入ってしまったようだ。

 俺の頬を冷たいものが伝う。

 

「うん?」

 

 帽子を脱ぎヘルメットを被り直そうとした時、少し前で二人の若い男女がバイクから降りているのが見える。

 恐らくカップルだろう、男の方が屈んでバイクを触っているところを見ると何かトラブルがあったのだろう。

 

「やれやれ、もうひと仕事するか」

 

 眠い顔の頬を叩くとカップルの方へと歩く。

 正直有り難かった、こう言う沈んだ気分の時は機械を弄るに限る。

 

 

 

 

       ⭐︎

 

 

 

「ねぇキリトくん、やっぱりバイク屋さんに電話して来てもらおうか?」

 

「うーんそうだな」

 

 アスナを後ろに乗せバイクを走らせていると急に速度が出なくなり止まってしまった、何とか出来ないか見てみたがパソコンとかプログラムは兎も角こう言うのは専門外だ。

 

「悪いなアスナ、せっかくの休日なのに」

 

「気にしないで、それに2人で居られるなら何処でも変わらないよ」

 

 頭をかきながら謝罪するオレの手を優しく握り微笑む、彼女のこう言うところに何度も助けられた。

 

「よ、お二人さん! こんな場所でどうした?」

 

 そんなオレたちに黒い帽子を被った背の高い男が話しかけて来る。

 

「えっと……貴方は?」

 

「ただのお節介焼きさ。バイクのトラブルかい?それなら俺が見ようか?」

 

「え? いやでも初対面の人にそんな事……」

 

「この辺りにバイク屋は無いし近くに時間を潰せる店も無い、電話で呼んでも来るまで一時間くらいかかる、その間可愛い彼女を寒空の下に置いておきたいかい?」

 

「それは……いや、お願いしても良いですか?」

 

「おう、お兄さんに任せな」

 

 彼の言う通りアスナをこの寒い屋外で待たせたく無い。

 帽子の男は頷くと自分のバイクから道具を取り出すと作業を始める、その動きは滑らかで素人目から見ても慣れていることが分かる。

 頼んで正解だったかも知れない。

 

「坊や達はカップルかい? デートの最中かな?」

 

「ぼ、坊やって……」 

 

「はいせっかくの休みなので二人で出掛けようって話になって! お兄さんは何を?」

 

 確かに未成年だがもう17だ、いくら何でも坊や呼ばわりされる筋合いはない。

 しかし不服そうにしているオレとは対照的にアスナは嬉しそうだ、カップルと言われたのが嬉しかったのだろうか。

 

「俺か? 俺は仕事を終えて帰るところさ。徹夜明けでな、帰ったら泥のように眠るつもりさ〜」

 

 欠伸をしている姿から本当に眠たいのだろう、それでも手先の動きは変わらず器用なものだ。

 

「そうだったんですか、それなのにすみません助けて貰って」

 

「いいっていいって、困った時はお互い様。それに子供を助けるのは大人として当然の事だからな……っと。うーん古いとこは有るが特に異常が無い……ならバッテリーだな」

 

「あー、最近寒かったからな」

 

「俺のバイクを使おう、それで動く筈だ。おまけに油刺したり軽く整備しておくよ」

 

「いやそんな事までさせる訳には……」

 

「いいのいいの!ついでついで、同じバイク乗りとして気分良く乗って貰いたいしな」

 

 そう言うと帽子の男は楽しそうにバイクを弄る、よっぽど好きなんだな、彼に悪気はないようなので任せることにする。

 テンションが上がってからまるまる作業は進み10分もしない内に終わってしまう。

 

「よしお終い!乗ってみな」

 

「わかった」

 

 バイクに跨りエンジンを掛ける、するとさっきまで乗っていた時よりもエンジンの音が力強く轟きブレーキやハンドルの効きもいい。

 

「おおっ!」

 

 つい子供のようにテンションが上がってしまう。

 

「な?やっといて良かったろ? 今日一日はなるべく乗るようにした方が良い、エンジンを温めておくんだ」

 

「ああ、ありがとうございます。助かりました」

 

「ありがとうございます、何かお礼を」

 

「要らないよ、礼が欲しくてやったんじゃ無いしな」

 

「でもそれだとオレたちの気が済まないですし」

 

「うーんなら……ほれ」

 

 譲るつもりの無いオレたちにの気持ちが通じたのか、少し考ると一枚の名刺を渡して来る。

 

「これは?」

 

「出世払いだ。ガキから報酬は貰わない主義なんでな、二十歳を超えたら礼をしに来な、そん時は貰ってやるからよ。……んじゃ彼女を楽しませるんだぞ!」

 

「あ!待ってくれ!」

 

 オレが止めるのも聞かず帽子の男はバイクは跨り走り去ってしまった。

 

「良い人で良かったねキリトくん」

 

「ああ、そうだな」

 

 アスナと笑い合った後貰った名刺を見つめる。

 

 

 《氷室探偵事務所 右京遼》思えばこれがオレとリョウの初めての出会いになる。

 そしてこれから始まる物語の序章だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⭐︎

第四部 誰のサイドケースから見たい?

  • キリト
  • アスナ
  • クライン
  • エギル
  • シリカ
  • リズ
  • リーファ
  • シノン
  • ユウキ
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