ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー 作:トライダー
彼女の設定を少し弄っています、ご了承下さい。
⭐︎
ドウンッ
大きな破裂音と共に細長く鋭い弾丸がモンスターの頭部にある水晶へと吸い込まれる。
「すぅ……」
静かに深呼吸をすると再びライフルの引き金を引く。
ドウンッ
ドウンッ
ドウンッ
三発四発と何度も何度も狙撃を積み重ねる、一発撃つ度に呼吸を整える。
もう三時間もこの作業を続けている。
ソロで行動している以上多めに持っていた弾薬が一桁まで減ってしまっている。
一発も無駄に出来ない、その緊張感がより私の狙撃を研ぎ澄ませる。
「すぅ……」
パリンッ
最後の一発がモンスターの水晶を打ち砕いた。
どうやらギリギリ足りたようだ計算してはいたが上手くいってよかった。
私はライフルを背負うとモンスターが散った地点へと近づきドロップアイテムを手に入れる。
緑色のアイテムキューブ、かなりのレア物のようだ。
「ウルティマラティオ・へカートII……これが」
友人から聞いた事がある、連射性を犠牲にして圧倒的な破壊力を持つこの世界最強のスナイパーライフル。
「あの時これがあれば……」
前回のBOBでは赤髪の女性プレイヤーにやられてしまった。
私がスナイパー型なのに対し彼女はAGIVIT型。狙撃をしたが片腕を犠牲に防がれその後は距離を詰められ瞬殺、結果22位と言う結果に終わった。
あの時この銃があれば仕留められたかも知れない、まぁ言ってもしょうがない事だけど……
それに負けたのは悔しいけど相手が同じ女性プレイヤーなのは嬉しかった。女の子でも男に負けず強くなれると分かったから。
「次のBOBこそ優勝してみせる。本当の強さを手に入れる為に……」
強い覚悟と共にヘカートを力一杯抱きしめる、脳裏に浮かび上がるのは数年前の過去の思い出。
強くなるんだ、今度こそ………
……人を撃てるように
⭐︎
「今のところ大丈夫ね……」
ダンジョンを脱出してなるべく障害物が多くエネミーの少ない場所を選んで移動する。
ボスモンスターとの戦いのせいで全部の弾丸を消費してしまっている。
今他のプレイヤーやエネミーに見つかれば私のステータスでは逃げられない、そうなればせっかく手に入れたヘカートを失ってしまう。
慎重に進まないと……
「っ!?」
遠くからエンジン音が聞こえ慌てて身を隠す。
音の聞こえた方角から一台のサイドカー付きのバイクが向かって来ていた。
〜〜〜♪
「これは……歌声?」
バイクの音に混じり女の子の声が聞こえる。
目を凝らして乗っている二人をよく見てみる、スナイパーのスキルを持つ私はスコープが無くてもある程度遠くを見る事が出来る。
運転しているのは背の高い男性のプレイヤー、サイドカーに乗っているのは小さい女の子のプレイヤー。
「……よし!」
このまま一人で隠れながらグロッケンまで帰るのは不可能だろう、それに同じ女性プレイヤーなら話が通じるかも知れない。
私は覚悟を決めてバイクから見える位置へ飛び出した。
私の存在に気づいたのかバイクのスピードを落としてゆっくりと此方へと向かって来る。
まずいきなり撃たれる心配はないようだ。
「何か用かい、お嬢ちゃん?」
「お、お嬢……んんっ! ええ悪いのだけどグロッケンまで乗せて行って貰えないかしら? 装備が尽きてしまって帰れそうに無いのよ」
「装備が尽きた?この辺りにそんな強敵いたか? 見たところソロみたいだが弾薬の計算してなかったのか?」
「そ、それはそうだけど……」
彼の言うことは最も、私がさっきまで居たダンジョンは偶然落ちた隠しダンジョンでありこの辺りにそんな強力なボスは居ない。
たとえ居たとしてもソロで行動する以上、帰るための装備は計算して置くのは当然だ。
全弾薬を使いヘカートを手に入れた、それを悟られるわけにはいかない。レアアイテムを持っているともし知られたら狙われる可能性があるからだ。
「マスター助けてあげましょうよ。プレイヤー同士助け合わないと!」
「ま、レディを見捨てんのは漢じゃねぇわな。よし後ろに乗りな、グロッケンまで連れて行ってやるよ」
「う、後ろに……?」
「どうしました?」
「あ、いやその……」
恥ずかしい話私は異性とそう言う付き合いが無い、よく話す男友達はいるけど恋人とは言わない。
そんな私にとって男の人に抱きつくのは抵抗があった、厚かましいかもしれないが出来ればサイドカーの方に乗りたかった。
「……悪いが
「心配しなくても大丈夫ですよ、マスターは女の子には人一倍優しいですから」
「それって余計心配な気が……い、いえ!お願いするわ……」
私の視線に気付いた彼はそう言う。
無理も無い、確かGGOのサイドカーはアイテムボックスにもなっている、そんな場所に赤の他人を乗せるわけがない。
すこし気恥ずかしさを感じるがなんとか堪えて腰へと腕を回しバイクへと乗り込んだ。
⭐︎
「ぬーすんだバイクで走り出す!〜行先も〜分からぬまま!」
「……………」
「だーれにもしーばられたく無いと!〜逃げ込んだ……」
「だーっ!! やめろその歌、人聞きの悪い。盗んでねぇよ、買ったんだよっ!!」
「でもローンは残ってるのです」
「いや、そうだけど……てか何で○崎なんだよ……」
「ジョーが言ってました、バイクに乗るとこの歌を歌いたくなると」
「あのオッサン、うちの子の教育に悪い事を……つかあいつ警官くせに何教えてんだっ!!」
無邪気にに歌う女の子、私よりも年下だろうか?こんな子供が何故女性の少ないGGOにいるのだろう。
「……えっと二人はどう言う関係かしら? 兄妹とか?」
「違いますよ? わたしはマスターのものです!」
「も、物!? え、えっとそう言う関係……?」
彼女の意味深な言い方につい変な考えが身をよぎり顔が暑くなる。
「変な想像するなよ。こいつはアファシス、そして俺はそのマスターさ」
「はい、そして最高の相棒なのです!」
「ああ……そう言う意味……ってアファシス!? この子が?」
自分でも驚くぐらい驚きの声をあげる。
アファシスの存在は知っている、最近増えて来た業務用の人工AIで私は使った事はないがレンタルもしている。
しかし目の前にいる彼女はまるで人間のように笑っている、下手をすれば自分よりも感情が豊かかも知れない。
あれ?、そう言えば聞いた事があるような……人間のような超レアなアファシスを持ったプレイヤー、確か名前は……
「マスター! 多数のプレイヤーの反応です!」
「なに、正面からか?」
「いえ、後ろからです。追いついて来てます!」
「なんかの乗り物に乗ってやがるな……この辺りなら《覇王会》の奴らか、追いつかれると厄介だ飛ばすぞ、しっかり捕まってな嬢ちゃん!」
「え?ちょっと!?」
急激に上がったスピードに驚き抱きしめる力を強くする、気恥ずかしさが上がるがここで振り落とされる訳にはいかない。
大きな背中に体を押し付けながらも首を回して後ろの様子を見る、すると荒野の向こうから趣味の悪い装飾を付けたトラックとそれを囲むようにバイクが数台、物凄いスピードで迫って来るのが見える。
「マスター!追いつかれますっ!」
「やっぱ馬力は向こうが上か、今日はお客さんも乗せてるしな」
あっという間にバイクが私たちを取り囲み、真後ろにトラックが張り付く形で並走する。
トラックにはデカデカと覇王会と書かれている。
この名前は知っている、バイクなどの機動力で他のプレイヤーを襲いレア装備やアイテムを略奪する山賊のようなスコードローン。
それを表すかのように全員が世紀末のような格好をしている。
トラックに取り付けられた拡声器から男の声が聞こえる。
『よう!久しぶりだな道化師っ!』
「相変わらず趣味の悪いもんに乗ってるな!車検降りないだろそれ」
やはり彼が噂の……プレイ初日にアファシスを手に入れ急激にランキングを上げエクストラスキルを持つ元幸運のニュービー。
その実力、運の良さ、ちゃらんぽらんな性格、女癖の悪さ、カジノでの武勇伝などの様々な噂を合わせ付いたあだ名が《道化師》
『はっはっはっ!! いつまでそんな余裕が続くかな、見たところ仲間は無しでお荷物が一人か……お前たちの持ってるレアアイテムを渡すなら見逃してやっても良いぜ』
「んなもん自分で見つけなハイエナども!」
『だから探してるんだよ!この辺りにレア銃が手に入る隠しダンジョンの噂を聞いてな、ボスモンスターを倒すより付近のプレイヤーを狙った方が早いからな!』
恐らくヘカートの事だ。私も隠しダンジョンで見つけたもの、彼らが情報屋などで知っていてもおかしくない。
『案外そいつが持ってたりしてな、そのお荷物を下ろすなら見逃してやるぜぇ?』
「……っ!?」
つい図星をつかれ手が強ばり震える、今下されれば確実に負けヘカートを奪われる。
しかしこの人数、フレンドでも無い彼が見捨てても何も悪いことでは無い。
彼は腰に回す私の手に自分の手を重ねる、引き剥がされると思った私は震えながらも手の力をより強くする。
「捨てるつもりなら最初から拾わねぇよ、それが女の子なら尚更な!」
しかし彼は解くどころか私の手を優しく握る、まるで私を安心させるように微笑みながら。
『良いのか?この人数だぞ?』
「そっちこそ、この子はもう俺の依頼人だ。手を出すなら覚悟は出来てんだろうな?」
笑っている、既に取り囲まれ銃を向けられているこの状況でも彼は笑顔を崩さない。
それは彼が道化だからなのか、それとも……
『ひゃっははははっ!!! 良いねぇ、そう来ないとなぁっ! 野郎共遠慮はいらねぇ、汚物は消毒だーー!!!』
「「「「ヒャッハーー!!!」」」」
リーダーらしき男の合図と共に左右のプレイヤーから一斉に銃を向けられる。
そこから斉射されるバレットラインが私たちを覆い尽くそうとする。
「アイ、ニトロだっ!」
「準備できてます! いっきますよー!!」
彼の合図が分かってたかの如く反応すると私たちを乗せたバイクのエンジン音が大きくなりスピードが急激に上がる。
「きゃっ!?」
急に上がった速度に振り落とされそうになるが彼が手を握っていてくれたおかげで難を逃れる。
私たちが居なくなった空白の空間に無数の弾丸が放たれ、目標を失った弾丸は対面していた他のプレイヤーへと撃ち込まれる。
『くそっ! 追え逃すな!!』
自爆により仲間を数人失いながらもすぐに体制を立て直し追いかけて来る。
「撃て撃て!」
「擊ちまくれっ!!」
背後から射撃を開始するが彼はハンドルを巧みに扱い弾幕を回避する。
「アイ、ぶちかませっ!」
「はいなのです!」
メニューを操作すると大型の機関銃が出現しサイドカーの後ろに設置される。
彼女は後ろを向くと機関銃を握り背後のプレイヤーへと斉射を開始する。
「うおっ!?逃げ……」
「そらっ!」
「ぎゃあっ!?」
自分たちへと放たれる機関銃を避けそうとするが、彼がバイクを操作して射線を変える事で外れる筈の弾丸を直撃させる。
運転スキルだけではこれだけの細かい動きは不可能、恐らく彼はリアルでもバイクの運転に長けているのだろう。
そしてこのアファシスとのコンビネーション、互いの信頼が有るからこその動きだ。
「くっ! 反対側から回り込めっ!」
射撃から逃れる為サイドカーの無い反対側へと回り込もうとする。
しかし彼は全く焦らず懐に手を伸ばすとリボルバーを取り出し向かって来るバイクへと向ける。
「
リボルバーから放たれた弾丸は真っ直ぐに敵のバイクのタイヤを捉える。
それだけでは終わらず着弾した弾は反射し、付近を走っていたバイクのタイヤを次々と破壊していく。
「うおぉぉぉ!?」
「うぎゃっ!?」
『なにぃ!?』
彼の放った弾丸によってタイヤを破壊され、バランスを崩した男たちは派手に転倒し残り全てのバイクを巻き込みながらトラックと一緒に大きな爆発を起こした。
「やったのです!流石マスター♪」
「すごい……」
思わず声に出す、無理もないあれだけの人数がいたのにも関わらず彼が放ったのは一発だけ、それだけで勝負を決してしまった。
スナイパーとして感服せざるを得なかった。
『まだだぁー!!!』
爆炎を突き破り巨大な火だるまとなったトラックが突き進んで来る。
「まだ生きてたの!?」
「相変わらずしつこい奴だ。しかたねぇもっと強力なのをお見舞いしてやる。お嬢ちゃん腰の弾倉から赤い弾と青い弾を取ってくれ」
「え? ええ……」
彼の腰に回した腕を片腕だけ離し言われた通り赤い弾と青い弾を取る、よく見てみると小さく文字が書いている。
(Hに……T?何かしら……)
初めて見る弾に疑問を持ちながらも手渡す。
「サンキュー! アイ、運転は任せる」
「はいなのです!」
「え!? ちょっと!」
「怖がらなくても大丈夫だ、コントロールは相棒がやってくれる、お嬢ちゃんはハンドルを握るだけで良い」
私の片手をハンドルに握らせるとバイクの上に足を乗せバク宙をしながらバイクを飛び降りる。
彼の言う通りアファシスがコントロールしているのか自動で進んで行く。
『汚物は消毒だーー!!!』
「熱いのは嫌いじゃないが、少々スマートさに欠けるな」
降り立った彼へと炎の塊となったトラックが向かって来るが彼は表情ひとつ変えずに私から受け取った二つの弾丸を装填しゆっくりと構える。
「《トリガー・エクスプロージョン》!」
リボルバーが青く染まり彼の体を覆い尽くすほどの巨大な火炎放射が放たれ反動で後ろへと下がるのを堪える。
炎に包まれたトラックはそれでも真っ直ぐ向かって行くが、彼へと到達する前に完全に燃え尽き消滅する。
「おまえの言う通り、汚物は消毒すべき……だな!」
「……………」
リボルバーをしまい帽子を弾いて格好をつける、一見ナルシストに見える姿でも私はそんな彼の姿に目が離せなくなっていた。
⭐︎
「うし!着いたぜ」
覇王会を退けた私達は無事グロッケンへと到達する。
……と言っても私は何もしてないけど、そう言えば自己紹介を忘れていた。
「そう言えば自己紹介がまだだったわね、私は『シノン』今日は助かったわ」
「おっと! 俺とした事が俺はリョウ、コイツはアイ」
「よろしくなのです! レイちゃんって呼んでください!」
「ふふっよろしくレイちゃん、ところで二人はこれからどうするの?」
「この後は戦利品を売りにガンショップに行くつもりだ」
「わたしたちのスコードローンは金欠ですから、主にマスターの無駄遣いのせいで……」
「う、うるさいな……その分稼いでるだろ?」
「……ねぇ私も行っていいかしら? 少し用事があるし」
今日手に入れたヘカートの事をよく知っておきたいし、もう少しこの道化師の様子を探りたい。
「ああ、良いぜ。ならこのままバイクで行くか」
「ええ、お願いするわ」
自己紹介を終えた私たちは再びバイクを走らせリョウのお気に入りのガンショップへと向かう。
もう慣れたのか彼の背中に手を回すのに抵抗が無くなっていたことは後になって気づいた。
⭐︎
リョウが連れて来てくれたのは裏路地にある古い雰囲気のお店、ゲーム内で古くなる事は無いので店主の好みだろう。
「よう!チョウさん」
「ああリョウくん、今日の戦利品かい?」
「おう!今日のは凄えぜぇ、アイ見せてやんな!」
「はい!これでもくらえなのです♪」
リョウが指を鳴らすとレイちゃんはアファシスの倉庫機能を使って大量の武器を取り出すとカウンターへと乗せる。
それはどれもレアな武器ばかり、しかもランクも高い、相当な値段になるだろう。
「凄いわね……噂通りの幸運ね」
「はっはっはー!! もっと褒めて良いんだぜシノンちゃん♪」
「…………褒めて損したわ」
リョウの幸運ぶりに素直な感想を言うがその後の調子に乗った彼のの大声を聞いて気が変わった。
彼は褒めると調子に乗るタイプだ、これからは極力褒めない方が良いだろう。
「うーん……この分ならこれぐらいかな」
「ええ!? ちょ、チョウさん!安くねぇか?」
「いやリョウくんには悪いんだけど、正直君が持ってくる武器ってどれも同じような物ばかりだから在庫が余ってしょうがないんだよ」
「そんな〜、俺とチョウさんの仲じゃねぇか……」
「悪いけどこっちも商売だからね」
しかし店主が出した値段は恐らく10分の1ほど、レア武器ばかり手に入って逆に値段が下がるって運が良いのか悪いのか……
「うー……ならしょうがない、切り札を出すか。イツキやオッサンに売り付けようかと思ってたんだがな。アイ、あのじゃじゃ馬ちゃんを出してくれ」
「はいなのです!…………よいっしょ!重いのです〜」
「この銃は……!」
レイちゃんが重そうに抱える銃を見て声を上げそうになる、それは私が手に入れたヘカートと全く同じものだったからだ。
「こ、これは!?ウルティマラティオ・へカートIIじゃ無いか! 未だに10丁しか確認されて無いGGO最強のスナイパーライフル!! ど、何処でこれを?!」
「いや帰りの途中にそいつで撃たれかけてよ、返り討ちにしてやったらドロップしたんだよ。流石にビビったぜ、んなもんで撃ち抜かれたら即死だもんな」
(た、他人事とは思えない……)
もし乗せてもらうのでは無く、バイクを奪う選択をしていたら。
一歩間違えれば自分も同じ間に合っていた可能性がある、私はそのプレイヤーに深く同情した。
「んでチョウさん……いくらで買ってくれる?」
「こ、これだけ凄い銃なら3000万クレジットは出せるね」
「3000万クレジット!?」
その値段を聞いた私はつい大きな声を出してしまい慌てて口を押さえる。
(……どうしよう)
3000万クレジット、つまり現金で30万円になると言う事だ、高校生の一人暮らしでお小遣いが月3千円の私にとってはかなりの大金になる。
「でも売ってしまって良いのかい? かなり強力な銃だよ?」
「そいつの要求STR見てみろよ、ウチのメンバーに装備出来るやついねぇって。このドロップ率でこの要求ステータス、もし偶然手に入れて装備できる奴がいたとしたら運命の出会いじゃねぇか?」
「運命……」
その言葉に心動くものはあるが私の実家は決して裕福では無い、父も早くに亡くし母は心に大きな傷を負っている。
少しでも家族に楽をさせられるなら……
「あの……」
「ん?、どうしたのシノンちゃん?」
「そ、それはヘカート!き、君も持っていたのかい?」
「……………」
ヘカートを取り出したは良いが店員に渡せずにいる、頭では売ろうと言う気持ちがあるが何故か体が動かずヘカートを抱きしめる手が開かない。
「…………別に金だけが全てじゃ無いんじゃないか? 一目惚れを大事にするってのも良いと思うぜ?」
「私は……別に……その……」
「そうか?俺には初恋の女の子の顔にみえるけどな?」
「っ!!」
驚いて目を見開く、自分の中で有耶無耶になっていた思いをハッキリと言われてしまった。
リョウの言う通り私は初めてヘカートを見てから運命的なものを感じていた。
偶然落ちたダンジョンで運良く手に入れた物、もしかしたら自分の強くなりたいと言う気持ちに応えてくれたのかも知れないと。
私は一度頷くとヘカートをより強く抱きしめる。
「すみません、やっぱり売りません。私このヘカートと頑張ってみようと思います」
「そ、そうかい……まぁしょうがないよね……」
「ぬふふ〜さぁチョウさん?欲しかったら俺のを良い値段で買ってくれよなぁ?」
「さ、3000万クレジットじゃ駄目かい?」
「それって定価だろ〜? ならもっと釣り上げれるよなぁ?」
「そんな事言わないでさ、僕と君の仲じゃないか……」
「え〜さっきチョウさんが言ったんだろ?
「わ、分かった!3000万以上は出せないけど代わりにさっきの銃を高めに買うよ……それでどうだい?」
「毎度あり、いや〜チョウさんは話が分るな〜!」
「はぁ……勘弁してくれよリョウくん」
「悪かったよ。詫びとして何か困った事があったらいつでもウチに来な、無料で依頼を受けるからよ」
「なら目の前の詐欺師を追い出してくれないかな……」
「あらやだ!ここに居るのは
「……ねぇもしかして、自分のヘカートの値段を上げたかっただけじゃ無いの?」
「ご想像にお任せしますよ、お嬢様」
シリアスなのかふざけているのかイマイチ分からない、掴み所のない不思議な男。
彼が道化師と言われている理由が少し分かった気がする。
「ねぇ、一つ聞いても良い?」
「うん?どったのシノンちゃん?」
「ちゃん付けは止めて……貴方ほどの実力者がどうして BOBに参加しなかったの?」
「大した理由じゃねぇよ、その日は仕事だったし。それに大会とかに興味は無いし次も出るつもりは無いな」
「そう……」
「そうだ!シノンも良かったらわたしたちのスコードローンに来ませんか?」
「え?」
「そりゃ良いなシノンなら条件満たしてるし」
「条件?」
「可愛い子ならいつでもウェルカム!」
「遠慮しておくわ」
「あら?」
肩に置かれた手をパシッと叩く、彼のチャラい言い方にムカついたのもあるが理由は他にもある。
私の目的は次のBOBでの優勝、リョウから技術を盗むのも良いが当分は他のスコードローンで入賞者達の情報を集めたい。
噂の道化師のことも調べるつもりだったが出場しないのなら観察対象から外すべきだろう。
「んじゃ俺たちは行くわ」
「ええ、今日は本当にありがとう。このお礼はいつかするわ」
「そうだ、これをやるよ」
「?……名刺?」
「俺たちのスコードローンのだ、探偵業をやってるから事件の予感がしたらいつでもドアを叩きな。全力で解決してやるからよ!」
「ふふ、ええ期待させてもらうわ」
そう言うとリョウはレイちゃんとバイクに乗り去って行く。
騒がしいが面白い二人だった、誘いを断ったのは少し心残りだけど今は次のBOBの為このヘカートを使いこなせるように技術を磨くべきだろう、その為にはソロの方がやりやすい。
もし次のBOBで優勝出来たのなら彼らのスコードローンに入ってみても良いかもしれない。
《スコードローン R・A探偵事務所 所長 リョウ》
私は貰った名刺を大事な物に登録すると彼らが去った方と客の方へと歩き出した。
……にしても彼何処かで会ったような……?
⭐︎
R・A探偵事務所
リョウが作ったスコードローン、GGO内では《傭兵業》と言われる困っている依頼人の依頼を解決すると言う生業をしている。
メンバーは現在リーダーのリョウを入れて五人だけ、それでもトッププレイヤーのクレハやツェリスカが居て、アルファルドやバレット・ワークスと言ったトップスコードローンと同盟関係にあるため他のプレイヤー達から一目置かれている。
名前の由来はリーダーのリョウと相棒のアイの頭文字を取ったもの。
リョウの無駄遣いのせいで現在金欠中。
道化師
ニュービーを卒業したリョウに付けられた新しいあだ名、おちゃらけた姿やエクストラスキルから付けられた中傷。
愛称として読んでいる者もいるがリョウ自身は気に入っておらず呼ばれるのを好まない。
第四部 誰のサイドケースから見たい?
-
キリト
-
アスナ
-
クライン
-
エギル
-
シリカ
-
リズ
-
リーファ
-
シノン
-
ユウキ