ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー 作:トライダー
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「……ふぅ〜」
アンティーク家具によって囲まれた部屋、その真ん中に置かれた椅子に背をもたれコーヒーを一口。
まさにハードボイルドな男の姿、鳴り響く時計の音だけが俺を……
「マスター!わたしの淹れたコーヒーどうですか?」
「ぶっ!?……おいアイ、せっかく物思いにふけってるのに……」
大人の雰囲気に似つかわしくない元気な声に驚き吹き出しそうになる。
ここは現実では無くGGO、そこにある俺たちのスコードローン、R・A探偵事務所のホームになる。
ここも元は質素な部屋だったが俺のセンスによって大人な男の部屋へと様変わりしている。
やっぱり真の探偵の部屋とはこうあるべきだな、これも前回ヘカートを売った金を全部使って買った家具達のお陰だ。
「むぅ、だってマスター全然感想言ってくれないんですもん!」
「悪い悪い、美味いよ上達したなアイ」
「えへへ〜♪もっと褒めてください!」
「ああ、アイは可愛いな〜」
「えへへ〜♡」
アイは最近人一倍努力している、どうやら俺が買った探偵ものの電子小説を読んで興味を持ったらしい
『マスター!ここに書いてある相棒?とは何ですか?』
『ん?そうだな……心から信頼し合える真のパートナーの事だな』
『なるほど!つまりわたし達みたいなものですね!』
そんなやり取りをしてからと言うものの俺のサポートをより熱心にするようになった。
このコーヒーだって最初は合わなかったが今では俺好みの味だ、まぁ俺が少し甘党になったと言うのもあるのだろうが
この味がGGOでしか味わえないのは少し勿体無い、俺の淹れるコーヒーは飲めたもんじゃ無いからな。
「あ! マスターお客様ですよ?」
「客? 依頼人か?」
「はい、どうしましょう?」
「困っているなら来るもの拒まず、それがウチの心情だ。通してくれ」
俺からの許可をもらいアイは依頼人にホームへ入室のの許可を与える、ホームに入れるのは同じスコードローンのメンバーだけなので依頼がある時はリーダーの俺が許可を出す事で入室が可能になる。
「いや〜久しぶりダネお兄さん!」
「帰れ」
「いや早いって?! 話ぐらい聞いてくれヨ」
「何しに来たんだよアルゴ……また面倒な依頼だろ?」
やって来たのは猫のようなヒゲのペイントを付けた情報屋のアルゴである。
彼女はうちのお得意様ではあるが持ってくる仕事は大抵面倒なものばかり、しかも特別困っているわけでもなく仕事の手伝いをさせてるだけ正直気が乗らない。
「そんな事ないって!仕事の話だヨ!」
「お前の依頼って情報の裏付けとか素材集めだとか地味な仕事ばっかなんだよ。んなもんお断りだ俺はハードボイルドな探偵なんだ、雑用なんかお断りーー」
「リョウーーー!!!」
「ぎゃあぁぁぁ!!!」
「クレハお帰りなさいなのです!」
「アンタまた無駄遣いしたでしょー!!」
「いででででっ!!違うんだってクレハ!あの家具はあの場所になくてはならない……」
「そのアンタの浪費癖のせいでウチが火の車なんでしょうがっ!!」
「NOー! ギブギブギブっ!!」
クレハによるドロップキックの後の関節技が俺に決まる、最近調子が上がって来てからかお転婆ぶりに磨きが掛かったような気がする。
やはり黙って家具を買ったのは不味かったか、でもしょうがないじゃん俺の感が買った方が良いって言うんだから
「やぁクレハ姉さん、噂は聞いてるヨ」
「あら?アルゴじゃない今日はどうしたの?」
「いやそれが仕事の依頼に来たんだけどお兄さんが意地悪でさ〜」
「仕事! やるやるどんな依頼でもこのバカが直ぐに解決するわ!」
「いや俺が受けるのはもっとハードボイルドな……」
「あ"あ"ん?」
「うっす!やらせてもらうっす!」
断ろうとした俺を物凄い形相で睨み付ける、過去に体に染み付いた本能か怒ったクレハには逆らえない。
仕方ない、聞くだけ聞いてみるか……。
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アルゴの話を聞く為俺とクレハが座り直すとアイが淹れてくれたコーヒーを飲みながら話を始める。
「んで?何をして欲しいんだ?」
「今日お兄さんに頼みたいのは情報の裏付けさ、最近アップデートで追加された遺跡を知ってるだろ? そこで気になる情報が出て来ンダ」
「ああ、あそこね〜」
クレハが納得したような表情を見せる。
その場所は俺も知っている、何故か季節外れのホラー要素を足した墓地のような雰囲気を醸し出す遺跡だ。
「最近そこで亡霊が出るって噂サ」
「「亡霊?」」
「噂では骸骨の仮面を付けた不気味な男が居るんだとサ。プレイヤーなのかNPCなのか分からない、しかもそいつに撃たれたプレイヤーは現実でも命を落とすって噂ダ……」
「ひぃっ!」
おどろおどろしく言い方をするアルゴに怯えたクレハが俺の腕を抱き締める。
まったくさっきまであんなにイキってた癖に……まぁ可愛いから良いか、柔らかいものが当たって役得だし黙っていよう。
「しかもかなりの実力者らしくそいつと出会って帰って来た者は居ないとか……」
「馬鹿馬鹿しい、ゲームで撃たれて人が死ぬかよ。どんな理屈だっつうのSAOかっつうの!」
「っ! まぁ普通そう思うよナ、でももう一つその噂を裏付ける不可思議な情報があるんだ」
「?、どんな?」
一瞬彼女の表情に動揺が見えた気がした。
「これはエクストラスキルの情報ダ、《XTRA.No4
「エクストラスキル……リョウと同じ?」
「二人も知っての通りエクストラスキルは発動すると分かりやすくオーラが溢れ出す、どうやらその骸骨仮面からオーラが出てたのを見たプレイヤーが居るらしい」
確かに彼女の言う通り俺もジョーカーが発動した時は紫色のオーラが溢れ出した、とは言え発動したのはあの時だけでそれからは一度も発動していないが
しかしそうなると矛盾が出来るな。
「いやそいつにやられたら死ぬんだろ?生きてんじゃねぇか」
「真っ当なツッコミだネ、だからオイラも100%信じてる訳じゃない。でもその噂は一部の間で広がって怖がってるプレイヤーも多く居る、情報屋として間違った情報が流れるのは阻止したんダ」
「ふーん、成る程な……んで? もう一つの理由は?」
「え?」
「お前何か隠してるだろ? お前の声からは怯えの感情を感じる。お前自身はただの噂とは思っていないんじゃ無いか?」
「ちょっとリョウ?何言って……」
「……実はオイラも半分くらいは信じているんダ……」
「え?」
「調べてみたところエクストラスキルは全てザ・シードを経由して『あのSAO』から流れて来た物らしいじゃないか、もしかしたら最悪のケースが有るんじゃないかって思って……」
彼女がSAOの名を出す瞬間、彼女の声に重いものを感じる。
「アルゴ……やっぱりお前SAO生還者なのか?」
「あはは……やっぱりお兄さんは鋭いな。ご名答オイラは一年ほど前までSAOに居たんだ。一歩間違えれば死の世界、今回の噂を聞いて情報を集める内に少し思い出しちゃって……ね」
SAO生還者、文字通りあのSAO事件から生き延びた者たちの事だ。
二年間の命をかけた生活に未だに心を病んでいるものも居る、彼女は比較的マシな方なのだろうが、それでもこの噂を聞いてトラウマが蘇ってしまったのだろう。
膝の上に置いた拳を強く握りしめ小動物のように小刻みに震えている、そこには彼女のいつもの明るい笑顔は無く彼女の頬を一筋の光が流れる。
探偵として、いや一人の漢として女の子にそんな表情をさせる訳にはいかない。
「分かったぜアルゴ、その依頼喜んで受けさせて貰う」
「本当かい?」
「面倒臭い仕事だと思ったが、そう言う事なら話は別だ。その情報がおとぎ話だって証明して安心させてやるよ」
「ありがとう助かるヨ」
俺が依頼を了承するとアルゴは目を輝かせる、やっぱりアルゴはこっちの方がらしいな。
「おし、クレハ一緒に来てくれるか? 足の速い奴に来て欲しい」
「ええ、任せなさい!」
俺の頼みに力強く応えてくれる、クレハも怖いのは苦手な筈だろうに。
俺は彼女の優しさに甘える事にした、帰ったらお礼をしよう。
「マスター! わたしも……」
「いやアイはツェリスカをここに呼んで情報を共有しておいてくれ。彼女なら何か知ってるかもしれないからな」
「了解です!」
ザスカーの社員の彼女なら何か分かるかもしれない、前にエクストラスキルには直接関わりは無いと言っていたが専門家の意見を聞くに越した事は無い。
「アルゴはアイとここに居ると良い、ツェリスカとデイジーもすぐ来るだろから安心して大丈夫だ」
「良いのカ?お邪魔じゃ無いかい?」
「無理すんなまだ怖いだろ? 好きなだけ居るといい」
「はいアルゴ一緒にお話しましょう♪」
「にゃははっ、じゃあお言葉に甘えさせて貰うヨ」
いつも元気なアイと一緒に居れば不安な気持ちなんかすぐに吹っ飛ぶだろう、それにツェリスカ達とホームに居た方が何かと安心だ。
それぞれの役割分担を終えると俺とクレハはホームを飛び出した。
「結構いい男じゃないカ、あのお兄さん」
「はい!最高のマスターなのです♪」
「噂では女遊びの激しいギャンブル狂いのダメ男って聞いてたけど、やっぱり直接会わないと分からない物ダネ」
「当然です!マスターは言ってました、探偵とは依頼人の涙を拭う一枚のハンカチ、相手が男の人でも女の人でも例え人間で無かろうとも困ってるなら100%の全力で助けてやるんだって!」
「なるほどね、でもあのお兄さんなら女の子相手なら200%ぐらい出そうだけどネ」
「よく分かりましたねアルゴ!確かにそう言ってました!」
「にゃははっ!! それじゃあ二人が帰ってくるまでお兄さんの話でも聞かせて貰おうかな?」
「勿論です!マスターの話なら三日は話せるのです今夜は寝かせないのです!……あ、でもその前にテレビを見ても良いですか?」
「構わないけど見たい番組があるのかい?」
「はい、今日はイツキとジョーが出演する番組があるのです! 録画してマスター達にも見せてあげるのです!」
「ああ、あの二人もBOBで一桁台の好成績だったもんナ。あの番組に出るのも当然か、確か番組名は…………」
『今日の勝ち組さん』
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「リョウ此処よ」
「分かった」
サイドカーでフィールドマップを見ながらナビゲートしてくれているクレハの声に返事を返すとバイクを止める。
最近出来た為かフィールドの中でもかなり端の方、そこには二十メートルはある巨大な骸骨の石像が置かれている、それこそが遺跡への入り口。
確かに不気味さや不吉さを感じるが正直狙い過ぎてあんまり怖く無い。
そう言えばツェリスカもホラー系は苦手だったけ、まさか作るのが怖いからあえて安直な物にしたとか……んな訳ないか。
「ね、ねぇリョウ……ほ、本当に行くのよね」
「何怖がってんだよ、さっきまで乗り気だったじゃんか」
「そ、そうかも知れないけど、ほら寒気もするし……」
確かに彼女の言う通り少し肌寒い、恐らく恐怖を演出する為に寒さを感じるように作られているのだろう。
げどそれぐらいお化け屋敷でもやっている事だ。
とは言えこのまま怯えた状態で連れて行くのは可哀想だ、仕方がない少し発破をかけるか。
「おいおい、GGOトッププレイヤーともあろう者がなにビビったんだよ。BOBで闇風とか言うプレイヤーと戦った時に比べたら大したもんじゃ無いだろ?《紅い稲妻》のクレハさん?」
「ちょ、ちょっと!やめてよ恥ずかしいんだから!」
最近付けられた二つ名で呼ばれクレハは恥ずかしそうに照れている。
俺は直接見た訳じゃ無いがBOBでクレハが敗退した理由は《ランガンの鬼》とか呼ばれる闇風と当たったかららしい。
互いにAGI型である為勝負は長引きながらも闇風が勝利したがランキング2位相手に善戦、それもとある狙撃手と戦いで片腕を失った状態でだ。
その事を闇風は大いに称えており大会後のインタビューでも印象に残った戦いで優勝者のザクシードとの勝負を差し置いてクレハの名前を出していたぐらいだ。
そう言う事もあってか順位以上にクレハの評価は高くなっていた。
「そうか?道化師なんかよりもずっとカッコいいと思うけどな〜」
「もう、意地悪……そんな事よりも素直に褒めてくれれば良いのに」
「ははっ!悪い悪い、でも本当によく頑張ったなクレハ。ここで初めて会った時よりもずっと強くなってる、俺も嬉しいよ」
「そ、そう?、えへへ……」
意地悪をやめて真剣に彼女の瞳を見つめる、俺の言葉に照れる彼女は凄く可愛い。
やっぱりクレハは笑顔が一番だな、怒ったところや拗ねたところも可愛いが笑った表情が一番好きだ。
そんな事を思っているとクレハは顔を赤くし俯いている。
「ね、ねぇ……リョウ? 今って二人きりだよね……?」
「ああ、そうだな」
「此処って結構雰囲気良いと思わない?」
「ああ、現実で見たく無いがGGOでしか味わえない良い景色だよな」
「うんアタシも好きよ、それでその……一瞬だけなら仕事サボった事にならないんじゃ無いかなぁ〜って思って……」
「クレハ……」
俺だって鈍感じゃ無い、そこまで言われれば彼女が望んでいる事ぐらい簡単に分かる。
俺は運転席からサイドカーへ身を乗り出し顔を近づける。
「リョウ……」
髪の色と同じように頬を赤く染めながら瞳を閉じ俺を開け入れようとしてくれる。
彼女の想いに応えるように俺も瞳を閉じる。
ドクッンッ
人気の無い荒野には風の音すら聞こえない、あるとすれば己の心臓の音のみ、別にこれが初めてな訳じゃ無いそれでも緊張……
……………心臓の音?
「クレハっ!?」
「え?、きゃあ!?」
俺は慌ててクレハを抱き抱えると後ろへ倒れるようにバイクの裏へと身を隠す。
ドウンッ!
その瞬間、一発の銃声が響きバイクがガキッンッと金属同士がぶつかり合う音を聞かせる。
「ちょ、ちょっと!リョウ!? 気が早いって!流石に此処でするのは」
「狙撃だ!狙われてるぞ、構えろ!」
「……………へ?」
気の抜けた表情をしているが、意味が分かると直ぐさま武器を取り出し体制を立て直す。
彼女の衣装が薄く見える程に顔を赤くしているが触らないでおこう。
仕方ないお楽しみは仕事の後だな。
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(外した?……いや引き金を引く瞬間一瞬こちらを見た、まさか狙撃を察知したと言うのか?)
「何やってんのよ『エム』! あんな絶好のチャンスで外すなんて腕落ちたんじゃ無いのぉ!?」
リョウ達から千メートル以上離れた高台に二人組の男女が居た。
一人は緑色の迷彩服を着た190センチ以上はありそうな厳つい顔のヒグマのような男。
もう一人は動き易そうな黒いスーツを着た背の高いスレンダーな女性、長い黒髪をポニーテールに纏め顔にはタトゥーを入れている。
「外したんじゃ無い、道化師が避けたんだ」
「言い訳してんじゃ無いわよっ! 仕留め切れなかったのは事実でしょうがっ!!」
「うっ!……」
タトゥーの女がエムと呼ばれた男の脇腹を蹴り上げる、その様子から女の方が立場が上なのが分かる。
「まぁ、噂通りの実力なのは間違いないってことが分かって良かったわ。狙撃一発で終わっちゃったら拍子抜けだもの。でも今日はついてるわ、死を呼ぶ亡霊を調べに来たら噂の道化師と巷で人気のクレハちゃんがいっしょにいるんだもの。しかも二人の濡れ場を見れるなんてね〜♪」
「趣味が悪いんじゃ無いのか?『ピトフーイ』」
「戦場でラブロマンスなんかしてる方が悪いのよ、それじゃあ私は行ってくるから援護は任せたわよ、下手うったら殺すから♡」
「はぁ……了解した」
ピトフーイと呼ばれた女の自由気ままな言動にも、ため息をしながらも仕方が無さそうに再びスコープを覗き込む。
「さぁ、見せて貰うわよ道化師、
装備を構えリョウ達の方を見つめると満面の笑みを見せる。
しかしその笑顔はクレハやアイが見せるリョウが好きな眩しい笑顔ではなく、狂気に満ちたものであった。
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CB1300SF
GGOでリョウが乗っているサイドカー付きのバイク、サイドカーの方は大きく二人まで乗る事が可能で合計4人まで同時に乗る事が可能。
サイドカーの方はアイテムボックスにもなっており戦闘に不必要な物を預け、戦闘に使う物をアイに持たせている。
リョウがとにかく壊れない事を優先した為、パーツの一つ一つを宇宙船の装甲の素材でコーティングしており対物ライフルの狙撃にも耐える防御力となっている。
しかしその為値段もとてつもなく高く、リョウ曰く男のロマンらしいがローンを組んでまだ購入した事でクレハを激怒させた。
第四部 誰のサイドケースから見たい?
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キリト
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アスナ
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クライン
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エギル
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シリカ
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リズ
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リーファ
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シノン
-
ユウキ