ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー   作:トライダー

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 道化師と氷の狙撃手

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「ふぁ〜あ……今何時だ……?」

 

 目を擦りながら身を起こす。

 少しだけ仮眠をとるつもりだったが爆睡してしまったらしい。

 

「おはよう遼」

 

「ん? ああ来てたのか翠」

 

 身を起こすと近くの椅子に座りノートパソコンを弄っている翠の姿が見える。

 鍵は閉めていたが、彼女と紅葉には何かあった時のため合鍵を渡しているので彼女が居るのは別におかしい事じゃ無い。

 

「コーヒーでも飲む?」

 

「一杯だけ貰うよ。この後依頼が入ってるからな〜」

 

『マスター! おはようございます!』

 

「ん? おおアイか、ツェリスカと話してたのか?」

 

 ノートパソコンの中にはGGOのホームにいるアイの様子が映し出されていた。どうやらリアルの方から通話していたようだ。

 

「でも話ならGGOですれば良いのに」

 

「今仕事中なの、休憩がてらにレイちゃんと話してただけよ」

 

「ふーん ズズッ……ん〜美味い♪」

 

 翠の淹れてくれたコーヒーは良い苦味と風味があり大人の味って感じだ。

 ほんとなんで同じ豆なのにここまで違うのだろうか……

 

『マスター! わたしが淹れたのとどっちが美味しいですか?』

 

「ん? ん〜そうだなツェリスカには悪いがアイが淹れてくれた方が好きかな」

 

『本当ですか!? やったーなのです!』

 

「あらあら〜良かったわねレイちゃん」

 

 翠が淹れてくれた味は好きだけどアイは俺好みの味で淹れてくれるからな、やっぱりこの差は大きい。

 

「リアルで飲めないのが唯一残念なんだよな」

 

『それならマスター!心配しなくて「レイちゃん?」……あ!そうでした……』

 

「ん?、何か言いかけたか?」

 

『な、何でも無いのです!』

 

 何か言いかけたのを翠に止められ慌てて口を押さえるアイ、何か隠しているようだが女の子の秘密には余計な口を挟まないものだ。

 

「そうか? お、そろそろ時間だし行ってくるよ」

 

『マスターすみません、もう少しツェリスカとお話ししてたいのです』

 

「構わないよ依頼人からも最小限の人数で来て欲しいって言われてるし今日は俺一人で行って来る。留守番は頼んだぞ?」

 

「はいなのです!」

 

「行ってらっしゃい」

 

 俺はアミュスフィアを装着すると再び横になって目を瞑る。

 

「もうダメよレイちゃん、クリスマスまでリョウには内緒だって約束でしょ?」

 

「えへへ〜ごめんなさいなのです。ふふっマスターの驚いた顔が楽しみなのです♪」

 

 小さな声でそんな話をしているのが聞こえる、そう言えばもう少しでクリスマスだったな、どうやら何やらサプライズを考えているようだ。

 その為に秘密にしているのか可愛い奴らだ、当日はわざと大袈裟に驚いてやろう。

 

 

 

 

 

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「あ、リョウさんこの前はありがとうございます!」

 

「おう、またなんかあったら言いな」

 

「リョウさん! 今度一緒にクエスト行ってくれませんか?」

 

「ああ、仕事のない日ならな」

 

 グロッケンに居る知り合いと軽く挨拶をしながら依頼主の所へとやって来る。

 GGOの中でも特に大きなスコードローンのホーム、今日の依頼人はここのリーダーだ。

 それだけに報酬も多い気合を入れて臨まなければ、もし失敗すればクレハに殺されてしまう。

 

「久しぶりだな道化師」

 

「ん? おお!『ヘビモス』じゃねぇか久しぶりだな」

 

 俺に話しかけて来たのはゴーグルを付けたマッチョなプレイヤーヘビモスであった。

 前にも依頼関係で出会い戦った事がある。

 

「次会ったらキサマに前の借りを返してやりたかったんだがな」

 

「要らねぇよんなもん。でもお前が一緒って事は今日の仕事は護衛か?」

 

 ヘビモスは金を貰い護衛などの用心棒を生業としている。

 だとすれば仕事の内容は想像できる。

 そんな話をしてると依頼人がこちらへとやって来る。

 

「いやそうなんだよ実は最近ウチのスコードローンの売り上げが減っていてね。と言うのもオレたちが狩場にしているルートに別のスコードローンの連中が待ち伏せしてるんだよ」

 

「あー確かにそりゃ困るわな」

 

 このスコードローンは大きいが決して強い訳ではない。

 あくまでモンスター狩りを専門にしている為金はあるがプレイヤーの腕は高くない。

 その上対人用の装備も揃っていない、大勢のプレイヤーに待ち伏せされれば手に負えないだろう。

 

「モンスター狩りを狙っての待ち伏せか……なら『ダイン』の所か?」

 

「ダイン? 誰だそいつ?」

 

「前のBOBで18位に入賞した()()トッププレイヤーだ。此処とは真逆の対人専門のスコードローンのリーダーでもある」

 

「一応って?」

 

「入賞こそはしているが実力は中堅。対人専門だと偉そうな事は言っているが、やっているのはモンスター狩りのプレイヤーを狙ったハイエナプレイだ」

 

「タチの悪い奴らだな、ぜってぇモテないだろ」

 

 まぁ、そう言う事ならばこちらとしてもやりやすい手加減の必要はないようだ。

 俺とヘビモスは依頼主から詳しい話を聞き準備を終えると目的の場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

      

 

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「おいダインよ、ホントに来るのか? ガセネタなんかじゃねえのかよ?」

 

「奴らのルートは俺自身がチェックしたんだ、間違いない。どうせモンスターの沸きがよくて粘ってるんだろ。その分分け前が増えるんだ、文句言うなよ」

 

 高台の岩場に身を隠し十人ほどのプレイヤー達が戦闘の準備を整えている。

 

「でもよ、今日の獲物は確か先週襲ったのと同じ連中なんだろ? 警戒してルートを変えたってことも」

 

「モンスター狩り特化スコードロンっていうのは何度襲われてもそれ以上に狩りで稼げればいいと思ってるのさ。俺たちみたいな対人スコードロンには絶好のカモだ。アルゴリズムで動くモンスターみたいなもんさ、プライドのねえ連中だ」

 

「あいつらの装備はモンスター用の光学銃ばっかだからな。防護フィールドさえ用意しておけば絶好のカモさ」

 

「けどよ、連中が何か対策立ててるかもしれねえだろ?」

 

「そうすぐに対人用の実弾銃を人数分用意できるわけないだろ。せいぜい支援火器を一丁仕入れるくらいが関の山だ。それに……そいつはGGO1のスナイパーが潰す。作戦に死角はねえよ、なあシノン?」

 

「……うん」

 

 そこには水色の髪の少女シノンの姿があり、その側には彼女の愛銃であるヘカートⅡも見える。

 

「ま、そりゃそうか。シノンの遠距離攻撃がありゃ優位は変わらねえや」

 

「そういうことだ」

 

「もし、万が一にシノっちが外しちゃったとしてもシノっちが移動して敵の認識情報がリセットされるまでの60秒間は、俺がバッチリ稼いでみせるから」

 

「おまえなぁ……」

 

 シノンの存在を思い出したモヒカンのプレイヤーが強気な発言をするのをダインは呆れた表情で見ている。

 

「でさ!でさ! シノっち。今日この後時間ある? いい品揃えのガンショップ見つけたんだ、ついでにお茶でもどうかなって」

 

「……ごめんなさい、ギンロウさん。今日はリアルでちょっと用事があるから」

 

「そっか、シノっちはリアルじゃ学生さんだっけ? レポートかなんかかな?」

 

「ギンロウさん、シノンさんが困ってるでしょ。リアルの話を持ち出すんじゃないですよ」

 

「そうそう、向こうではさみしいソロだからってさ」

 

「んだよ! お前らだって何年も春が来ないくせに!」

 

 そんな言い合いをしていると見張りをしていたプレイヤーがダイン達の元へとやってくる。

 

「来たぞ!」

 

「ようやくお出ましかい。確かにあいつらだ、先週より二人増えてるな。光学系ブラスターの前衛が四人、大口径レーザーライフルがひとり、それに……実弾銃持ちがひとりミニミだ。狙うならこいつだな、残りの二人は……マント被ってて武装が見えないな」

 

「マントってあれじゃねえのか? 噂のデス・ガン」

 

「まさか、んなの存在するものか。多分あいつ等はSTR全振り型の運び屋だな。稼いだアイテムやら弾薬やエネルギーパックを背負ってるんだ。戦闘では無視していい」

 

 ダインはそう言うがスナイパーであるシノンは何やら嫌な予感を感じていた。

 

「あの二人イヤな感じがする。最初に狙撃するのはマントの男にしたい」

 

「なぜだ?大した武装もないのに」

 

「根拠はないけど……不確定要素だから気に入らないだけ」

 

「それを言うならあのミニミは明らかに不安要素だろ。あれに手間取ってる間にブラスターに接近されたら厄介だぞ」

 

「わかった。第一目標はミニミにする。可能だったら次弾でマントの男を狙う」

 

「おい喋ってる時間はそろそろないぞ、距離2500だ」

 

「よし、俺たちは作戦通り正面のビルの陰まで進んで敵を待つ。シノン、状況に変化があったら知らせろ。狙撃タイミングは指示する」

 

「了解」

 

「よし行くぞ!」

 

 作戦会議を終えると分散しシノン以外のプレイヤー達が前線へと向かって行く、1分もしない内に配置は完了する。

 

『位置についた』

 

「了解。敵はコース、速度とも変化なし。そちらとの距離400、こちらからは1500」

 

『まだ遠いな、いけるか?』

 

「問題ない」

 

『よし、狙撃開始。頼むぜ、シノン』

 

「了解」

 

 短く返事をして深呼吸をする。

 その冷たい視線はまるで氷のよう。

 

(こんなプレッシャー、こんな不安、こんな恐怖なんて……距離1500……そんなの丸めた紙を屑籠に投げ込むようなものだ)

 

 ミニミを持ったプレイヤーへとカーソルを合わせる、多少の緊張はするが彼女にとっては些細な者だ。

 

(そう……あの時に比べれば……)

 

 

 

 

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「あー!くそ! だっさいマントだな〜」

 

「身を隠す為だ、静かにしてろ道化師」

 

 俺たちは正体を隠す為茶色いマントを羽織って移動している、用心棒がいるとわかれば攻撃を仕掛けて来ないからだろうからだ。

 しかしダサい、お陰でお気に入りの帽子が装備できないのが一番の問題だ。

 

「つか何で俺が荷物持ちなんだよ! お前が持てよSTR型なんだから!」

 

「オレには()()()を背負う仕事がある」

 

「相変わらずその不細工な銃使ってるんだな」

 

「ほっとけオレのポリシーだ」

 

 ヘビモスが背負っているのは、《GE M134ミニガン》GGOでも最強クラスの斉射力を誇る超レア武器。

 その分要求ステータスは多く、STR型のヘビモスですら移動ペナルティを受けるぐらい重い。

 俺たちはそれに合わせる為ゆっくり移動しているのだ。

 

(ん?……狙われてるな、対象は……)

 

 依頼主に言われた地点に近づくとハイパーセンスが反応しスナイパーの気配を感じる、そしてその気配は唯一の実弾銃持ちへと向いていた。

 

「おいミニミ! スナイパーだ右に飛べ!」

 

「わ、分かった!」

 

 作戦通り俺の指示に素早く従い転がるように横へと飛ぶ、その瞬間彼の背後にあった岩が大きく抉れる。

 

(距離はおおよそ1500、そしてこの威力は対物ライフルか)

 

「ふっ、お仕事の時間だな!」

 

「ああ、アイツらは俺たちが倒す! お前らはグロッケンを目指せ、スナイパーには気をつけろ対物ライフルを持ってる」

 

「分かった頼んだぞ二人とも!」

 

 ヘビモスがマントを投げ捨てるのを合図に同時に戦闘が開始する。

 

 

 

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(避けた!?)

 

 狙撃の腕には自信があった、集中すれば3000メートル向こうの的だって射抜ける。

 しかしミニミを持ったプレイヤーはまるで私の狙撃が解ってたかのように避けた。

 

「くっ! 狙撃に失敗もう一度試みる!」

 

『了解』

 

 弾を装填しスコープを覗くと二人のうち一人がマントを投げ捨てる、その背中にはアイテムボックスでは無く巨大な砲筒。

 

(ミニガン!? 来るのが遅かったのは移動ペナルティを受けてたから!)

 

 私が警告を出すのも間に合わず、ミニガンの大男が放った弾丸がギンロウさんを塵へと変える。

 

「くっ!」

 

 ミニガンの大男を狙いヘカートを構えるが、引き金を引いた瞬間物陰に隠れられる。

 今のは私のミスだ、バレットラインが出ているのにこんな安直な狙撃が上手く行くはずが無い。

 警戒もされている、もう1000メートル越えの狙撃は通用しないだろう、私はヘカートを背負うと最後のアタックの為にダインたちの元へと急いだ。

 

(あの男笑っていた……この戦場の中で……)

 

 戦場で笑える強さ、それは私が最も求めているもの、あの男を倒せば少しはその強さに近づけるかもしれない。

 

「あの男は私が倒す!」

 

 強くなるんだ、今度こそ、今度こそ……人を殺せるように

 

 

 

 

 

 

 

       

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「これで終わりだな」

 

 コルトパイソンをしまい辺りを見回す。

 これで俺の方へと向かって来たプレイヤーは全て倒し依頼人たちも無事逃すことに成功、依頼は終了だ。

 制圧は一時間も経たずに完了する、もともとハイエナプレイをしているような奴らだ大して強くは無い。

 

「ほんと流石の制圧力だな」

 

 とは言っても7割ぐらいはヘビモスのミニガンによって倒された、ヘビモスが目立ちヘイトを稼ぎながら俺が裏から数を減らしていくと言う戦略だ。

 技の俺と力のヘビモスってやつだ。

 

「しかしあいつどこに行ったんだ?」

 

 戦闘の最中にヘビモスの野郎とは逸れてしまったようだ、メニューウィンドウを開き確認すると名前の欄にドクロが付いている。

 どうやらやられてしまったようだ、俺よりも大勢を相手にしてたから無理もないが

 

(だがアイツもプロだ、不利になったのなら何らかの連絡をする筈……何の連絡もない間にやられたって事は即死だったのか? なら……)

 

 ドクッン

 

 ヘビモスを倒した相手を推理していると、ハイパーセンスが反応するどうやら推理は正解のようだ。

 俺は懐からコルトパイソンを取り出すと振り向いた方向へと引き金を引いた。

 

 

 

 

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 岩場に身を隠し最後の一人であるマントの男にヘカートの照準を構える。

 死闘の末ヘビモスの撃破には成功した、しかしそれと同時に片脚をやられてしまい重いヘカートを背負って逃げるのは不可能だと判断した。

 ならばやられる前にやるしか無い、移動は困難な上残ったプレイヤーも私だけ、でも状況は私の方が幾分か有利。

 

(相手はまだ私に気付いていない、それに私のヘカートならVIT極振りでも無い限り胴体でも倒せる……)

 

 ヘッドショットなど欲張らず的の大きい背中を狙い、氷のように心を沈めヘカートの引き金を引こうとしたその時……

 

(振り向いた!?)

 

 しかしその瞬間マントの男はこちらへと振り向きリボルバーを構えた。

 バレていた、でも逃げないのであれば好都合対物ライフルとハンドガンどちらが勝つかなど容易に想像できる。

 私は躊躇わず引き金を引く、私とほぼ同時に男も発砲する。

 大きさも威力も圧倒的なヘカートの弾丸が男の弾丸を撃ち破り、彼の体を貫くだろう。

 

 しかし私の考えは破られた。

 

(そんなっ!?)

 

 男と私の放った弾丸が衝突した瞬間、互いの弾丸の()()()()()()()()()のだ。

 それだけでは無く軌道が逸れた男の弾はそのまま私の隠れている岩場にぶつかり大きな砂煙を立ち上らせる。

 

「くっ!……」

 

 煙のせいで視界が奪われるが焦っては駄目だ、まだ距離は1000メートル以上ある、ならばもう一度チャンスはある。

 私は次弾を撃つ準備を終えると煙が晴れるのを待つ、天運が味方しているのか強い風が吹き煙はすぐに晴れる。

 

「ど、どこ言ったの?!」

 

 しかし男の姿は消えていた、煙が出ていた時間は10秒と無いその間にこの開けた荒野から姿を消す事は不可能の筈。

 

「ジ・エンドだぜ、お嬢ちゃん」

 

「っ!?」

 

 背後から男の声が聞こえ後頭部に鉄の物体が押しつけられる。

 横目で見るとマントの切れ端が見える間違いなく先程の男だ、その左手にはUFGが見える。

 

(あれはUFG……なるほどそれを使ってここまで距離を詰めたのね)

 

「勝負はついた、武器を捨てな」

 

「……分かったわ……、っ!!」

 

 私はサブウェポンのグロック18を捨て降伏するふりをし、ヘカートを強引に男へ向ける。

 

「きゃっ?!」

 

「おっと!やんちゃな嬢ちゃんだな」

 

 しかし私の最後の抵抗も虚しく押し倒される形で動きを封じられ眉間にリボルバーを突きつけられた。

 後は引き金が引かれるのを待つだけ、ここまで戦ったのにも関わらず敗北しヘカートを失うかと思うと悔しさに涙が出そうになる。

 

「ん? お前シノンか?」

 

 ぐっと目をつぶっていると突然名前を呼ばれ、ゆっくりと目を開く。

 

「……え?」

 

 私の名前を呼んだマント男がフードを脱ぎその顔を見せる。

 

「誰?」

 

「がくっ、そこは気づけよ!……ほらこれでどうだ?」

 

 しかしいまいち覚えていない、この紫色の瞳は見たことあるような気がするが、軽く落ち込んだ男は黒い帽子を取り出すと頭に乗せる。

 その瞬間記憶にあるシルエットと重なる。

 

「あ、リョウ!?」

 

「帽子で覚えてんのかよ……まぁそれはそれで嬉しいけど……」

 

 私の上からどいたリョウは岩場にあぐらをかいて座り込む、私も同じように起き上がり彼と向かい合うように座る。

 

「何であんたが此処にいるのよ?」

 

「依頼だよ依頼、最近ハイエナプレイヤーに困ってるって言われて護衛を頼まれたんだ。つーかお前せこい事してんなぁ」

 

「う、うるさいわね! 私だって不本意なのよ!」

 

 私としてもダインのやり方は好ましいものではなかった、痛いところを突かれ逆ギレのように返しまう。

 

「ん? お前足やられたのか?」

 

「え? ええ……」

 

「まぁヘビモス相手に足一本なら安いもんだな。待ってろ今スティムやるよ」

 

「……情けをかけるき? トドメを刺したらどうなの?」

 

 敗北した相手に見逃してもらいあまつさえ回復薬まで貰うと言うのは私のプライドが許せない。

 ここはGGO、いくら顔見知りでも油断は厳禁、私は敵意を込めた瞳でリョウを睨み付ける。

 

「アホ言うな、依頼人を逃した時点で勝負はついてんだよ。なんで無駄弾を使わないといけないんだよ、マグナム弾クソ高いんだぞ?」

 

「いや、それは知ってるけど……」

 

 しかし全力の殺気を込めたにも関わらずリョウは全く怯まずに前にも見た調子の良い顔で気の抜けるようなセリフを言う。

 私が断るのを無視して勝手に足に回復薬を打ち込む、足が治るのを確認すると立ち上がり私へ手を差し伸べてくる。

 

「せっかくだし一緒に帰ろうぜ?」

 

「何で私が……」

 

「しょうがねぇだろ? お前がヘビモス倒したせいで俺一人で帰らなきゃいけないんだからよ」

 

「じゃあ一人で帰ればいいじゃない」

 

「寂しいだろうがっ!! 自慢じゃ無いが俺はGGOに来てから一人でフィールドに出た事が無いんだよ! こんな無駄に広い砂漠歩いたら寂しくて死ぬわ!」

 

「知らないわよっ!!」

 

 確かにここの荒野は一人で帰るには広くたまに心細くなるが、さっきまで戦っていた敵にそれを言うのはどうなのだろうか。

 

「はぁ……貴方と話してると真面目に考えてる自分が馬鹿らしくなって来たわ」

 

 こっちが真面目に戦闘の意思を見せているにも関わらずこの調子、これ以上ここに居てもしょうがないすっかり毒気を抜かれてしまった私は彼と一緒にグロッケンを目指した。

 

「へぇ、じゃあリアルでは探偵をしてるの」

 

 何も無い砂漠をただ歩くだけと言うのも退屈という事で世間話でもしてみる。

 内容はリアルでの生活。本来オンラインゲームで話すなど常識知らずも良いところだけど、この男相手に常識を語っても無駄だと諦める。

 

「おうよ、ハードボイルドで超渋いスマートな探偵さ!」

 

(とてもそうは見えないけど……)

 

 渋いとは真逆のチャラいナルシストに見える。

 

「シノンは学生か?」

 

「え、ええ……よく分かったわね」

 

「何となくな。年齢なんて話し方や仕草で分かるもんさ」

 

 驚いた……渋いかはともかく腕の立つは事実みたい。

 

「男への耐性の薄さも考えて……中学生ってところか?」

 

「高校生よっ!!」

 

「マジか!? ガキっぽいからてっきり……」

 

「貴方ほんっと失礼ね……」

 

 まさか中学生に見られるとは……こう見えても大人びて見えるとよく言われるのに、確かに発育は周りの子より少し遅れてるかもしれないけど……。

 こんな風に世間話をしながら時折やってくるリョウのボケを私がツッコム形で話をし合う。

 私は決して人と話すのが得意なタイプでは無い、でもリョウが話し上手だからだろうか彼との会話は自分でも驚くほどすらすらと進む。

 

「ねぇ聞いても良いかしら?」

 

「うん? どうした、好きな女の子のタイプなら……」

 

「違うわよ!……どうやって私の狙撃を破ったの?」

 

「いや別に大した事はしてねぇよ。たまたま振り向いた方にお前が見えてこいつを撃っただけさ」

 

 そう言うと懐から緑色の弾を取り出し私に投げ渡す。

 

「これは……特殊弾? でも見た事ない弾ね」

 

「俺のお手製でな、そいつには風の力を符呪させる力があって多少の障害物なら風で弾けるんだよ」

 

「……理屈は分かったわ、でもいくら特殊弾でもこんな小さな弾で対物ライフルを弾けるものなの?」

 

「運が良かったんだろ? 運良く丁度いい角度に当たって、いい感じに弾けたんじゃね?」

 

「運良く私を見つけて運良く私の弾を弾けて運良く私の視界を遮ったって言うつもり?」

 

「そうなるな、やっぱ俺ってば幸運の女神様に愛されてんだよな〜」

 

「…………」

 

 確かに《道化師》の運の良さは有名だから知っている、でも私には彼が運だけのプレイヤーとはとても思えない。

 偶然見つけたと言っているが明らかに振り向く前に此方へと照準を合わせていた。

 そして視界を遮ってからの動きがあまりにも鮮やかだった、あれは明らかに計算しての動きだった。

 ゼクシードや友人は運が良いだけのプレイヤーだと罵っていたが、実際に戦っているのを二度も見た私には分かる。

 この人の強さは本物だと、だからこそ彼が実力を隠している理由が分からない。

 

「ねぇ、強いってどう言う事だと思う?」

 

「はぁ?何だよいきなり」

 

 私はつい聞いてみた、何故かは分からないけど彼なら私が追い求めている答えを知っているような気がしたから。

 唐突であやふやな質問、でも彼は意外にも腕を組んで真剣に考えている。

 

「ん〜難しい問題だな、たとえ格闘技の世界チャンピオンになったって一生答えが出ないだろうな……ただ」

 

「ただ……?」

 

「いや昔俺も似たような問いかけを師匠にした事を思い出してな」

 

「師匠?」

 

「ああ、俺の探偵としての師匠だ。凄え強くて凄えカッコ良くて俺の憧れなんだ!」

 

 先程までのお調子者の顔ではなく夢を見る少年のような笑顔へと変わる。その表情からその人を心から尊敬しているのが分かる。

 

「でも最初は弟子入りを認めてくれなくてさ、師匠以外に喧嘩で負けた事は無かったし自分は強い男だと思っていた。それなのに何で認めてくれないんだって師匠に聞いてみたんだ」

 

「……何て言われたの?」

 

「『お前は一度でもその拳を誰かの為に使った事があるか?』って」

 

「……………」

 

「短く一言だったけど、俺には効いたな。それを聞いて俺は初めて自分の拳を見つめ直してみた。確かに俺の喧嘩は全部自分の為のものだった、そう思ったら自分の拳がえらくちっぽけに見えたよ。その時初めて気づいたな『力』と『強さ』は別のものだって」

 

「力と強さは別……」

 

「ああ、だからさ俺が思うに強さってのは得た力の使い方で決まると思うな」

 

「力の……使い方……」

 

 彼の言葉を噛み締めついオウム返しになってしまう。

 私の大雑把な質問に対して、先程までのお調子者の顔ではなく真剣な表情で答えてくれる。

 それが少し嬉しかった。

 

「でもどうやって弟子入り出来たの? 聞いた話だと認めてもらうのも大変そうだけど……」

 

「あー……それはな〜。数年前にとある事件で大怪我をしたんだ。その時にこれ以上無茶しないようにって事でな。だからまだ完全に認められてないんだ」

 

「……その事件って?」

 

「話すような事じゃないよ。正直恥ずかしい話だしな」

 

 彼は胸を押さえ誤魔化すように笑うと歩く速度を上げる。

 その後ろ姿からは少しだけ私と似たものを感じ、私はその姿に強い興味を持った。

 

「ねぇ、今度暇? 良かったらクエストに付き合ってくれない?」

 

「お!なに逆ナン? シノンちゃんってば俺に興味持っちゃった? いや〜でも俺ガキは対象外……」

 

「…………」

 

「分かった、俺が悪かったからヘカートを押しつけるのはやめろ」

 

「馬鹿なこと言ってないでとっととアドレス渡しなさい」

 

「うっす!」

 

 自分でも驚くぐらい大胆な提案をしていた、後から考えると恥ずかしかったが後悔はしていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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第四部 誰のサイドケースから見たい?

  • キリト
  • アスナ
  • クライン
  • エギル
  • シリカ
  • リズ
  • リーファ
  • シノン
  • ユウキ
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