ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー   作:トライダー

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 氷血の記憶

 ⭐︎

 

 

 

 

 

 

 私は昔、人を死なせた事がある。

 

 

 私は父親の顔を知らない。私がまだ二歳にならない頃に交通事故で他界したと聞いている。

 事故の後、母と私は東京で祖母たちと共に平穏な日々を送っていた。

 

 だがその日常は唐突に破られることになる。

 

 5年前、銃を持った強盗が郵便局を襲った。

 後に分かったが、強盗犯は覚せい剤を投与していて躁状態だったらしく照準の定まらない目で銃を乱射した。

 職員の男性や他の客を撃つとついに倒れた母へとその銃口を向けた。

 

 私は母へと銃口を向ける強盗の腕へと噛み付いた。

 

 母は父が亡くなったショックで精神に傷を持っていた事を知っていた。私は母を守らなくてはとがむしゃらだった。

 振り払われると同時に強盗の銃も手放される、私は急いでそれを拾うと強盗へと向け引き金を………

 

 

 

 ………引けなかった。

 

 母を守らなくては皆を助けなくては、頭では分かっていても私の指は動かず腕から力が抜ける。

 

 勇気が無かったのだ、弱い幼少期の私には誰かを守る事よりも人を殺すことの方が怖かったのだ。

 

『このガキィっ!!』

 

『うぅっ……』

 

 銃を向けられ怒りを上昇させた強盗は目を血張らせると、私を殴りつけ銃を奪い返し逆に銃口を向けた。

 

『死ねぇっ……!!』

 

 鬼のような形相、黒い銃口が私を縛り付け身動きが取れなくなった。

 そんな私に狂った笑みを見えた強盗は引き金を引き弾丸を放った。

 

 しかしその弾丸が私を襲う事はなかった。

 

『……え?』

 

『が……はっ……』

 

 学生服を着た背の高い男が私と強盗の間に入り、身を挺して射線を塞いだのだ。

 弾丸は男の胸へと撃ち込まれる。

 

『う……うぉらぁっ!!』

 

『ぶふぉっ!?』

 

 痛みに耐えているのか震える拳を強く握りしめると強盗を力一杯殴り飛ばした。

 その一撃で力を使い果たした男性は私の目の前で倒れる、その胸は血で赤く染まっていた。

 

『お、お兄ちゃん! ち、血が……』

 

 私はその流れる血を止めようと必死に両手で押さえるが、私の小さな手は赤く染まるだけで一向に勢いは収まらない。

 

『このガキィィっ!!!』

 

 鼻血が流れる鼻を押さえながら立ち上がった強盗は先程以上に目を血走らせ再び私たちへと銃口を向ける。

 

 ガオッンッ!

 

 一発の銃声、しかし倒れたのは強盗であった。

 そのキャップを赤く染め糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 私は背後から聞こえた銃声に反応して振り向く。

 

 そこに居たのは白いスーツと白い帽子の中年の男性だった。

 スーツの男は手に持った拳銃をしまいながら此方へと走ってくる。

 

『こ、このお兄ちゃん私を守って……血が止まらなくて……』

 

『分かってる、後は俺に任せろ』

 

 流れる血を止めようとする私の手を優しくどけると自分のスーツを脱ぎお兄さんの体に括り付け血の流れを抑える。

 

『お、おやっさん……俺……初めて、人の為に……』

 

『喋るな。分かっている、絶対にお前を死なさん』

 

 その後やって来た警察と救急車により私を庇ってくれたお兄さんは運ばれて行った。

 それから彼がどうなったのか分からない、でも同じように撃たれた他の二人は死亡したらしく希望は薄い。

 

 あの時私が引き金を引いていたらあのお兄さんは死ななくて済んだのだ。

 私が弱いから、人を死なせてしまった。

 私に勇気があれば……

 

 もうあんな想いはしたくない、だから私は強くなる。

 

 もし同じような状況になった時迷いなく人を殺せるように……

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おい!さっさと歩けよ!」

 

 学校の帰り道に取り巻きの二人に捕まり路地裏へと連れて行かれる、そこにはリーダ格の遠藤さんが待っていた。

 

「わりい、朝田。わたしらカラオケで歌いまくってたら電車代なくなっちゃってさ。明日返すからさ、こんだけ貸して」

 

 そう言い指を一本立てる、千円や百円でないのは分かる。

 

「1万円……そんなに持ってるわけない」

 

「じゃあ下ろして来て」

 

「嫌……遠藤さん、あなたにお金を貸す気はない」

 

 バイトをしておらず祖母からの仕送りで生活をしている私にそんな余裕は無い、たとえあったとしてもこんな事に使いたく無い。

 

「てめえ、なめてんじゃねえぞ! またあの男にでも泣きつくもりかよ!」

 

「あの人は関係ない、もう行くからそこをどいて」

 

 前の一件から数ヶ月経ち彼女たちが絡んでくる事は無くなっていたが、ほとぼりが覚めたと思っているのだろうか。

 はっきりと断り踵を返そうとした瞬間遠藤さんは薄ら笑うと親指と人差し指だけを立て此方へと向ける。

 その瞬間胸が苦しくなり体が震え出す。

 

「バーン!」

 

 そのまま銃を撃つフリをした時私の震えはより大きなものとなり立っていられなくなる。

 

「なあ朝田、兄貴がさモデルガン何個か持ってんだよな。今度学校で見せてやろっか。おまえ好きだろ、ピストル」

 

 "ピストル"その単語を聞いた瞬間、過去の記憶がフラッシュバックする。

 私を殺そうとした男、そして私のせいで死んでしまったお兄さん、彼らの顔が思い浮びそうになるのを振り払う。

 凄まじいストレスに吐き気を感じる。

 

「おいおいゲロるなよ朝田、前あんたが教室でゲロって倒れた時すげー大変だったんだぞ。なぁ死神ちゃん?」

 

 どこで調べたのかは知らないが彼女たちは私の過去を知っている。

 私を死を呼ぶ『死神』だと噂を流し戒めてはこんな風にたかって来る、前にも学校で同じ事があった。

 

「朝田具合悪いみたいだし、とりあえず今持ってるだけで許して……」

 

「おいおい、何やってんだお前等?」

 

「ああん?」

 

 彼女たちが無理矢理鞄を取り上げようとした時、男の人の声が聞こえる。

 

「どう見ても穏やかな状況じゃあ無いよな?」

 

「ああ?関係ないだろおっさん……ってアンタはっ!」

 

 苦しいのを我慢して首を後ろへ向けると背の高い黒いスーツの男性が此方を向いている。

 着ている服は違えどその顔には見覚えがあった、前に私を助けてくれたお兄さんだった。

 

「誰がおっさんだ! 女は殴らないのが心情だが女の子を助けるなら話は別だぜ?」

 

 指を鳴らし鋭い眼光で彼女たちを睨みつける。

 

「ひぃっ!に、逃げるよ。覚えてろよ朝田っ!」

 

 前回の彼の強さを知っている彼女たちは軽く悲鳴をあげると急いで逃げて行った。

 それを見送ったお兄さんは私の方へと歩みを進める。

 

「大丈夫だったか嬢ちゃん?」

 

「は、はい……ありがとう……ございま……ごほっ!ごほっ!」

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 お礼を言おうとふらつく足に力を入れるが、緊張が解けた瞬間に堪えていたえずきが溢れ出し倒れそうになる。

 

「す、すみません……少し……」

 

「気にすんな、水か何か飲むか?」

 

「大丈夫……です。少しすれば収まります……から」

 

 倒れそうな私を抱き止め背中をさすりながらゆっくりと座らせる、彼のおかげか少しずつ治ってきた。

 

「もう大丈夫みたいだな」

 

「はい。あの、ありがとうございま……」

 

「こっち!こっちです!おまわりさん早く!」

 

「見つけたぞ!このロリコン野郎っ!!」

 

「へ? ぶへぇっ!?」

 

「お、お兄さん?!」

 

 お礼を言おうとした瞬間、眼帯をつけた警官がお兄さんをドロップキックで蹴り飛ばした。

 この人も覚えている、前に絡まれた時に来てくれたお巡りさんだ。

 

「大丈夫朝田さん!?」

 

「し、新川くん!お巡りさんを止めてっ!」

 

「え?」

 

 友人である新川くんがやって来る、恐らく彼がお巡りさんを呼んでくれたのだろう。

 しかし既に解決したせいか勘違いしたお巡りさんがお兄さんへと関節技を極めていた。

 

「オレの目の黒いうちは悪事なんざ見逃さなねぇぞっ!」

 

「ギブギブギブっ!! オッサン!俺だってのーー!」

 

 

 

 

 

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「ガッハハー!オレとしたことが早とちりしちまった悪い悪い!」

 

「悪い悪い……じゃねぇ! ったく、相変わらず人の話を聞かないんだからよ。だいたいオッサンは昔から……」

 

 後ろの席からそんな会話が聞こえる。

 何とか誤解を解いた私たちは新川くんを入れた四人で喫茶店へと来ていて席の都合上別の席に座っている。

 

 あの二人が話し終わらない事にはお礼が言えない、待っている間私たちはGGOの話に花を咲かせる、内容は前の強襲作戦の話しだ。

 

「聞いたよ、一昨日の話。大活躍だったんだって?」

 

「そんな事無いわ、作戦的には失敗だったもの。こっちのスコードロンが16人中15人もやられたんだから。待ち伏せで襲ってその結果じゃとても勝ったとは言えない」

 

「でもすごいよ。あのミニガン使いのベヒモスは今まで集団戦で一回しか死んだことがないって言われてたんだからさ」

 

「へえ、そんな有名な人なんだ。BOBのランキングで見たことないから知らなかった」

 

「そりゃそうさ、いくらミニガンが強力って言っても弾薬を500発も持てば重量オーバーで走れないんだ。BOBはソロの遭遇戦だから遠くから狙い撃たれて終わりさ」

 

 確かにあのプレイヤーは強かった、ゼクシードは隠れた名プレイヤーなど居ないと言っていたがそんなのは嘘っぱちだ。自分でフィールドに出てみないと分からない事も多い、事実は小説よりも奇なりって事。

 

「その分集団戦で十分な支援があれば無敵だけどね。反則だよ、あんな武器……」

 

「それなら、わたしのへカートⅡだって思い切り反則って言われてるよ。使う方にしてみればそれなりにいろいろ苦労はあるんだけどね」

 

「ちぇっ、贅沢な悩みだな。で、次のBOBはどうするの」

 

「出るよ、もちろん。前回20位までに入ったプレイヤーのデータはほとんど揃ったからね、今度はへカートを持っていくつもり」

 

 前に出た時はクレハと言うプレイヤーに負けたがヘカートの威力なら彼女のVITだって貫ける筈。

 同じ女性プレイヤーとしてリベンジに燃える。

 

「次こそは全員ころ・・。上位入賞を狙ってみる」

 

 つい出そうになった言葉を呑み込む、流石にこんな人の多いところで言うにははばかれる。

 

(敵をすべて撃ち倒してわたしが最強だと確信できれば、その時にはきっと……)

 

 あの過去を振り切ることができるはず、もし同じようなことが起きても確実に犯人を殺せる。

 もう私の弱さで誰かを死なせる事はない。

 

「そっか、すごいな朝田さんは……あんなものすごい銃を手に入れて、ステータスもあつらえたみたいにストレングス優先だったしさ。僕がGGOに誘ったのにすっかり置いていかれちゃったな」

 

「そんなことないよ、新川君だって前の予選じゃ準決勝まで進んだじゃない」

 

「いや、ダメさ。AGI型じゃよっぽどすごいレア銃でもないともう限界だよ、ステ振り間違ったな」

 

 彼のキャラのステータスは速さを起点としたAGI型、その速さと引き換えに強化な武器を装備する為のSTRが足りないとよく嘆いている。

 でも私はステータスや武器など関係無いと思っている、結局大事なのは自分の心の問題だ。

 

 だがそれを悩んでいる彼に言うのは憚られ、私は無理矢理話題を変える。

 

「じゃあ新川君は次のBOBにはエントリーしないの?」

 

「うん、出ても無駄だからさ」

 

「そう……うん、まあ勉強もあるもんね、医学部受けるんだっけ?」

 

「うん、うち病院だからね。父さんと医学部に入学するって約束したし、仕方ないよ」

 

「予備校の大検コース行ってるんでしょ、模試とかどう?」

 

「あ、うん。大丈夫、順位は学校行ってた頃を維持してるよ。問題ありません、教官殿」

 

「よろしい」

 

 そんな話をした後互いに笑い合う、友達の少ない私だけどこんな風にバカなことを言い合えるのは楽しい。

 

「でも新川君のログイン時間凄いからさ、ちょっと心配だったんだよ。いつ入ってもオンラインなんだもん」

 

「昼間はちゃんと勉強してるよ。メリハリが大事なんだよ」

 

「あれだけ潜ってれば随分稼いでるんじゃないの?」

 

「そんなことないって。AGI型じゃもうソロ狩りは無理だしさ……」

 

「……まあ接続料さえ稼げれば十分だよね!」

 

 気まずい空気になってしまう、フォローしたつもりだったがどうやら失敗したようだ。

 

「でも良かったよ」

 

「え?、何が?」

 

「最近朝田さん付き合い悪いからさ心配だったんだよ、スコードローンも止めたらしいし、誘っても他に用事があるって」

 

「そうだったかしら?」

 

「噂で聞いたよ?よく最近あの《道化師》と一緒に居るって……」

 

「え、ええ……最近知り合たのよ。一応実力者だしBOBの為にデータを取っておこうと思って……」

 

「そんな事する必要無いよ!道化師は運が良いだけのプレイヤーだよ? そんな偽物に僕達の()()()が……」

 

「ちょ!ちょっと!声が大きいわよ!」

 

 ヒートアップして来た新川くんを抑える、流石に人の多いこの場所でプレイヤーネイムを出して欲しく無い。

 理由は分からないが彼は道化師の事を強く嫌っている、自分が武器運に恵まれ無いので道化師の武勇伝が気に入らないのだろう。

 

 だからこそリョウと会った事を彼には秘密にしていたのだが……

 

「それに何度か一緒にクエストに行ったけれど、ゼクシードが言ってるようなプレイヤーでは無いと思うわ。新川くんだって彼の話に騙されたじゃない」

 

「そ、そりゃ僕だってゼクシードは嫌いだけど……道化師って女癖も悪いって話だし心配だよ」

 

「……まぁそれは本当だけど心配いらないと思うわ、あのバカお子様には興味無いよう……だ・か・らっ!」

 

「あ、朝田……さん?」

 

 怒りに任せケーキにフォークを力一杯差し込む、新川くんが軽く引いているが気にしない。

 つい あの男(リョウ)とのやり取りを思い出してしまう。

 

「毎日毎日人を子供扱いして……そりゃ私は高校生だけどだからと言って他の女性プレイヤーと扱いが違いすぎない?しかも昨日だって……ブツブツブツ」

 

「あ、朝田さん?大丈夫?」

 

「ええ、心配しないで今度こそあのバカの頭を吹き飛ばしてやるから!」

 

「え?えっと……が、頑張って?」

 

 そんな話をしていると先程のお兄さんが此方へとやって来る、どうやら話が終わったようだ。

 お巡りさんの方はもう帰ったのか姿が見えない。

 

「よう嬢ちゃん、さっきは脅かして悪かったな」

 

「あ、いえ。あの大丈夫ですか? 思いっきり蹴っ飛ばされてましたけど」

 

「大丈夫大丈夫、鍛えてるからな。にしてもまったく、人をロリコン扱いしやがって。中学生に手出すかよ」

 

「……あの、高校生です」

 

 なんだろう、前にもこんなやり取りをしたような気がする。

 

「あの、さっきは助けてくれてありがとうございます」

 

「ん?気にすんなよ、別に大した事じゃ無い」

 

「そんな事ありません。助けて貰うのはこれで2回ですから」

 

「2回目?」

 

「はい、前に彼女たちと男子三人に絡まれている時に……」

 

「んな事あったっけ? 似たような事が多くて、いちいち覚えてないんだよな」

 

「そうですか……」

 

 ようやくあの時のお礼が言えたが彼は覚えていないようだ。まぁあれから何ヶ月も経っているし無理もないのかも知れない。

 

「もう6時過ぎだ、学生は帰らないとな。暗いし送って行くよ」

 

「え?でも……」

 

「またあいつらが来るかも知れないし、大人としてここまで来たら最後まで責任とらないとな。迷惑ならやめておくけど?」

 

「あ……いえ、お願いしても良いですか?」

 

「勿論、ほら行こうぜ二人とも」

 

「わかりました。行こう新川くん」

 

「あ、待って朝田さん!」

 

 私たちはお兄さんの後ろについて行き店を出た。

 彼女達の様子を見るに当分来ることは無いだろうが、私はもう少しこのお兄さんと話がしたかった。

 

 それにすこし気になることがあった。

 

 

 

 

 

       ⭐︎

 

 

 

 

 

 店から私のマンションまでそこまで離れていないので数分もしないうちに辿り着く。

 私はその間無言でお兄さんの顔を見つめていた。

 

(前助けて貰った時にも思ったけどやっぱりこのお兄さん何処かで見たような……)

 

 見覚えのある顔、しかし思い出そうとする瞬間モヤが掛かったように記憶があやふやになる。

 

「ね、ねぇ朝田さん。着いたよ?」

 

「あ、本当だ。ありがとうございました」

 

「どういたしまして。次は新川くんの家だな」

 

「いや僕の家はもう直ぐなんで、ここで大丈夫です」

 

「そうか? なら俺も帰るわ、用事もあるしな」

 

 そう言うとお兄さんは踵を返し来た道を戻ろうとする。

 

「あ、あのっ!」

 

「ん?どうした嬢ちゃん?」

 

 帰ろうとしたお兄さん呼び止める、別れる前にこのモヤモヤを取り払っておきたかった。

 

「あの、以前何処かでお会いした事無いですか?」

 

「あ!朝田さん!?」

 

「お、なに逆ナン? 朝田ちゃんってば俺に興味持っちゃった? いやでも高校生はな〜俺捕まっちゃうよ」

 

「違いますっ!!」

 

 つい大きな声で否定してしまったが、確かにややこしい聞き方をしたと思う。

 

「うーん気のせいじゃ無いか? 俺は今日初めて会ったと思ってるぐらいだしな」

 

「……そうですか」

 

 お兄さんも心当たりが無いようだ、ならやはり私の思い過ごしなのかも知れない。

 

「あそうだ、一応これ渡しとくな。なんか困った事があったら連絡してくると良い。んじゃあな!」

 

「あ、お兄さん!」

 

 私が考え込んでいると、お兄さんは私たちに名刺を渡しそのまま走り去って行ってしまった。

 

 

 

   

        ⭐︎

 

 

 

 新川くん少し離した後、自分の部屋へと戻る。

 

「ふぅ……今日は疲れたわね……」

 

 荷物を置き上着を脱ぐ時にポケットの中を探り、先程貰った名刺を見てみる。

 

(氷室探偵事務所、右京遼……リョウ?……まさかね)

 

 あの男と似た名前だが流石に別人だろう、今時本名でゲームをプレイしている人が居るとも思えないし。

 

「でも、確かに少し似てたかも……」

 

 彼とのやり取りにデジャブを感じた、もしかして何処かで見た気がしたのはそのせいかも知れない。

 

「でも前のお礼が言えて良かったわ、右京さんは覚えていないみたいだけど……」

 

 路地裏での出来事を思い出して遠藤さんが突き出した手の銃が頭に浮かぶ、それだけで体が震え出す。

 

「………逃げていては駄目……」

 

 私は部屋の奥にある机の引き出しを開ける。

 その中にあるのはプロキオンSL、第二回BoBで22位入賞した時にザスカーに選択したところ送られてきたモデルガンだ。

 その銃を取り出し握ってみる、すると途端に鼓動が強くなりすぐさま手放す。

 私を殺そうとしてそして死んでいった男の形相が思い浮かび体が震える。

 しかしそれ以上に恐ろしいのは私が死なせてしまったお兄さんの姿だ。

 時折り夢を見る、あのお兄さんが私を殺そうとする夢だ。

 『お前のせいで死んだ』『お前が悪い』そう言いながら私の首を絞め、なんとか逃げ出そうとする私を銃で撃ち殺すと言うものだ。

 あの事件があってから何度もこの夢を見る、事件の後世間の目から逃げるようには祖母たちの実家へと引っ越したが悪夢だけは私を追いかけて来る。

 どれだけ離れてもどれだけ体が大きくなっても逃げられず私は捕まり殺される。

 仕方ないのかも知れない、これは私の"罪"だから。

 ならばせめて罪と向き合おうとこの街に戻って来たが学校の皆には死神と軽蔑されてしまう。

 でも死神と呼びたければ呼べば良い、GGOでプレイヤーを殺すたびに己が強くなっているのを感じる。

 今度こそ迷わず殺してみせる。

 

 その時私はあの悪夢から解き放たれるだろうから……。

 

 

「……そう言えば約束があるんだった……」

 

 約束の時間が迫って来ているのに気づいた私は、ベッドへ横になりアミュスフィアを装着した。

 

 未だ手が震えている。

 

 

 

 

 

      ⭐︎

 

 

 

 

「あ、シノン! こんばんわなのです!」

 

「こんばんはレイちゃん」

 

 待ち合わせ場所であるガンショップに着きレイちゃんと挨拶を交わす。

 待ち合わせ相手であるリョウはと言うと金髪に猫のヒゲのようなペイントをしたプレイヤーと話しているのが見える。

 

「おお! 来たかシノン」

 

「ならリーダー、オイラはもう行くヨ」

 

「ああ、またなんかあったら頼むなアルゴ」

 

 彼が私へ手を上げるのを見るとその女性プレイヤーは去って行った。

 

「今の人は?」

 

「わたしたちの仲間のアルゴなのです!」

 

「あいつ情報屋をやってるから、今日行くクエストの話を聞いてたんだ」

 

「おかげで凄いお宝情報屋を貰ったのです! これで貧乏スコードローンからおさらばなのです!」

 

「おう! 欲しかった新しい帽子も買えるしな〜」

 

「マスター? 無駄使いをするとまたクレハに怒られますよ?」

 

「う……わ、分かってるって!」

 

「でもクレハやツェリスカが来れないのは残念なのです」

 

「仕方ないだろ?二人とも忙しいんだから。まぁ年末が近いしな、休みの前にやることが増えるのは当然だわな」

 

「マスターは年中暇そうで良いですね♪」

 

「余計なお世話だ!? このアホシスが!」

 

「ふぇ〜!?ほっぺたをこねないでください〜!」

 

「相変わらず元気ね、貴方達」

 

 出会って数分もしないのにこのテンションの高さ、この二人には悩みなどないのだろ。

 だけど今の私にはこの空気はありがたかった、リアルでの霧が晴れていくような不思議な感覚を感じる。

 

「よし! 堪能したし行こうぜ二人とも」

 

「ふぁ〜い、なのです」

 

 二人が店の隣に止めてあるバイクへと乗り込む、私も彼らに続く。

 

「あ、そうだ!シノン、サイドカーに乗って良いぞ?」

 

「えっ?」

 

「いつも乗りづらそうにしてるだろ? 今更何かを盗むとは思わないしシノンなら問題ないだろ」

 

「さ、流石にそれは悪いわ……別にスコードローンのメンバーでも無いのにそこまで気を遣って貰う必要は無いわよ」

 

「そうか? まぁお前が良いなら良いけどよ」

 

 信頼してくれるのは嬉しいが、私たちは一緒のクエストに行ってるだけでまだフレンドですら無い。いつ敵になるかも分からない以上貸し借りは作りたく無い。

 それに後ろならいつ敵対しても背後をとれるし

 

 ……決して後ろに乗りたい訳では無い。

 

「たまにはわたしもマスターの後ろに乗りたいのですぅ」

 

「また今度な」

 

 私はバイクの後ろへ跨りリョウの腰に手を回す、するとその瞬間先程まで高まっていた鼓動が落ち着きを取り戻しだす。

 

(私ってこんなにバイク好きだったっけ?……)

 

 理由は分からない、だがこうしているとあの日の恐怖が薄まり安心するのだ。

 私がバイクが好きなだけなのか、それとも

 

「いやしかしこれがツェリスカならご褒美になるんだがシノンじゃな……」

 

「何か言った?」

 

「何でもないですっ!」

 

 それ以上先を言わせないように頭にグロック18を突き付ける。

 うん、やっぱりこの位置の方が良い、いつでもこの失礼な男の頭を撃ち抜けるから。

 

 手の震えは既に収まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⭐︎

第四部 誰のサイドケースから見たい?

  • キリト
  • アスナ
  • クライン
  • エギル
  • シリカ
  • リズ
  • リーファ
  • シノン
  • ユウキ
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