ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー 作:トライダー
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「いらっしゃいませ」
ドアベルが鳴り響くと店内に居る威厳のある店長らしき初老の男が頭を下げる。
アンティークな店内と男の姿は絵になるとしか言いようがない。
「おーい、キリト君。こっちこっち!」
オレは真っ直ぐにその声の元へと向かう、そこには眼鏡をかけたスーツの男が居た。
「ご注文はいかがなさいますか?」
「ああ、えっと……」
「コーヒーとケーキを、この店で一番の物をお任せで頼むよ」
「かしこまりました」
店長らしき男が紳士的な態度でメニューを持ってくる、その大人の雰囲気に一瞬のみこまれそうになるが菊岡が適当に注文して難を逃れる。
「助かったけど、人前でその呼び方はやめてくれよ」
辺りを見回すがオレたちの他に客は一人だけ、それも昼寝をしている黒い帽子の老人だ、席も離れているし店長も奥へと入って行って聞かれる心配は要らないようだ。
だが人が多く無いとはいえゲーム内の名前を呼ばれるのは良い気分じゃ無い、オレは軽くこの男を睨む。
「つれないな、一年前に病院で目覚めた君の元に真っ先に駆けつけたのは僕じゃないか」
確かにそれは事実だ。覚醒した俺を最初に訪ねて来たのは対策チームのリーダーだったこの男、総務省の菊岡誠二郎。
今日はこの男に呼ばれこの店《エモシオン》へと来ていた。
「……で何の用なんだ? もうSAO関係の話は随分と喋ったはずだろ?」
数分して店長が持って来てくれたコーヒーとケーキを口に運びながら本題へと入る。
「ところが、今日はちょっと違っててね。これを見てくれ」
そう言うと菊岡はタブレットを操作し一人の男の写真を見せてくる。
「誰だ?」
「男の名前は茂村保26歳、二週間前東京都中野区の某アパートで迎えに来た友人が異臭に気づいた。これはということで電子ロックを開錠してもらい踏み込んで彼が死んでいるのを発見した」
瞳孔を開いた死体の頭部にはオレたちにも馴染みの深い機械を装着していた。
「部屋は散らかっていたが荒らされた様子はなく遺体はベットに横になっておりその頭に……」
「アミュスフィアか……」
「その通り、変死ということで司法解剖が行われ死因は急性心不全となっている……しかし理由は不明、死亡後時間が経ち過ぎていたし犯罪性が薄かったこともあってあまり精密な解剖は行われなかった。ただ彼は二日間何も食べないでログインしっぱなしだったらしい」
「その手の話はそんなにめずらしくないだろ。何があるんだ?このケースに」
ゲームにのめり込んだ者が食事をせず栄養失調になると言う話は昔はよくあった。
それだけで菊岡がオレを呼ぶとは思えない、この男が呼んだ以上何らかの理由があるはずだ。
「……インストールされていたゲームはガンゲイル・オンライン。知ってるかい?」
「それはもちろん。日本で唯一プロがいるMMOゲームだからな」
確か荒廃した世界で銃を撃ち合うゲームだ、SAOALOとは違いSFチックな世界でモンスターもロボットなどが多い。
オレは遊んだことがないが
「彼はガンゲイル・オンライン略称GGOで10月に行われた最強者決定イベントで優勝していた。キャラクター名は『ゼクシード』」
「じゃあ死んだ時もGGOに?」
「いや、MMOストリームという番組にゼクシードの再現アバターで出演中だったようだ。ログで時間がわかっている」
確かMMOゲームを主題とした番組だったな、ネットと繋いでいるからか下世話な内容が多くオレはあまり見ていないが。
「……で、ここからは未確認情報なんだが丁度彼が発作を起こした時刻にGGO内で妙な事があったってブログに書いているユーザーがいるんだ」
「妙?」
「とある酒場で問題の時刻丁度にひとりのプレイヤーがおかしな行動をしたらしい、なんでもテレビのゼクシード氏に向かって『死』や『裁き』を受けろなどと叫んで銃を発射したということだ。それを見ていたプレイヤーのひとりが偶然音声ログを撮っていて動画サイトにアップした。ファイルには日本標準時のカウンターも記録されていてテレビへの銃撃と茂村君が番組出演中に突如消滅したのがほぼ同時刻だった」
「そんなの偶然だろ?」
「だがもう一件、同じような話があるんだ」
「何?」
「今度のは埼玉県さいたま市某所、やはり二階建てアパートの一室で死体が発見された。新聞の勧誘員が中を覗くと布団の上にアミュスフィアを被った人間が横たわっていて同じく異臭が……ま、詳しい死体の状況は省くとして今度も死因は心不全。彼もGGOの有力プレイヤーだった、キャラネームは『薄塩タラコ』今度はゲームの中だね」
オレが聞き返すと再びタブレットを操作し別の男の写真を見せる、話の流れからして彼がもう一人の死亡者だろう。
「彼はその時刻グロッケン市の中央広場でスコードロン……ギルドのことらしいんだけど、の集会に出てたらしい。そこで乱入したプレイヤーに銃撃された」
「銃撃した奴はゼクシードの時と同じなのか?」
「おそらく。やはり『裁き・力・死』といった言葉の後に同じキャラクターネームを名乗っている」
「……どんな?」
「『デス・ガン』……発言から考えて死の銃って所かな?」
「……この二人の心不全っていうのは確かなのか?脳には損傷はなかったのか?」
オレはかつて使っていたナーヴギアの事を思い出す、あれと同じことが起きたのなら死因ははっきりしている筈だ。
「僕もそれが気になってね。司法解剖を担当した医師に問い合わせたが脳に異常は見つからなかったそうだ。それにね、かのナーヴギアの場合は信号阻止を焼き切るほどの高出力マイクロウエーブで脳の一部を破壊したわけだけどアミュスフィアはそんなパワーの電磁波は出せない設計だって開発者たちは断言したよ」
「随分と手回しがいいな、菊岡さん。こんな偶然と噂だけで出来上がってるようなネタに」
「偶然とは思えない理由があるから……かな?」
「なに?どう言う事だ?」
「EXTRAスキル……いや君にはユニークスキルって言った方が分かりやすいかな?《二刀流》のキリトくん」
「……随分と含みのある相方だな、それがどうしたんだよ?」
「GGOにも同じような物があるんだよ、それが《XTRAスキル》ユニークスキルと同じく謎な事の多いもので運営すら完全に理解出来ていないようなんだ。その中で一つ噂になっているスキルがあるんだ」
「……そのスキルって?」
「
「何だそれ?何でそんな物がGGOに……」
「GGOにはALOと同じように《ザ・シード》が使われている、それを経由してSAOのデータがGGOへと流れて来たんじゃ無いかって話だ。人を死に至らしめるデータがね……」
「そんな……」
オレは拳を強く握りしめる。
ザ・シードをばら撒いたのはオレだ、だがそれはVR世界の発展を願っての事だ決して死人を出す為じゃ無い。
「少し前にこの噂はデマだって話になっていたが、デス・ガンの話が広まって信憑性が出て来たと言うわけさ」
「デス・ガンにデス……繋がりはあるがそいつがそのスキルを持っていると言う証拠はあるのか?」
「エクストラスキルは発動の瞬間体がオーラに包まれ、背後に巨大な文字が浮き出るんだ。先程話に出たブログを書いているプレイヤーが目撃したようなんだ。デス・ガンが銃を向ける瞬間、彼の背後に死神の鎌のような"D"の文字がね」
「…………」
菊岡のおどろおどろしい言い方に過去の記憶が過ぎる。
ゲームの中で命を落としていくプレイヤー達、そして笑っている黒装束の軍団。
「やめだ!結論、ゲーム内からの干渉でプレイヤーの心臓を止めるのは不可能。銃撃と二人の心臓発作は偶然の一致、その噂もデマだ!」
頭の中のモヤモヤを振り払うようにテーブルを叩く、完全な否定、しかし対して菊岡は嬉しそうだ。
「そう言ってくれて助かるよ。ということで改めて頼むんだが、ガンゲイル・オンラインにログインしてこのデス・ガンなる男と接触してくれないかな?」
「……この流れでよく言えるな、ハッキリ言ったらどうだ?菊岡さん。撃たれて来いってことだろ?やだよ!何かあったらどうするんだよ!」
そう言って帰ろうとするオレの服を菊岡が掴み止める。
「さっきその可能性はないって合意に達したじゃないか! それにこのデス・ガン氏はターゲットにかなり厳密なこだわりがあるようなんだ」
「こだわり?」
「イエス。ゼクシードと薄さタラコはどちらも名の通ったトッププレイヤーだった。つまり強くないと撃ってくれないんだよ多分、かの茅場先生が最強と認めた君なら」
「無理だよ!GGOってのはそんな甘いゲームじゃないんだ!プロがうようよしてるんだぞ」
「それだ。そのプロってのはどういうことなんだい?」
「文字通りだよ。ガンゲイル・オンラインは全バーチャルMMOで唯一ゲームコイン現実還元システムを採用してるんだ」
簡単に言えば稼いだ金を現実の金としてペイバックすることが可能。
プロってのはGGO内で毎月コンスタントに稼ぐ連中、トッププレイヤーで月に20万から30万てとこらしい。
そういった理由でGGOの廃レベル連中は他のMMOプレイヤーなんか比較にならない時間と情熱をゲームにつぎ込んでる。
「俺なんかがノコノコ出て行っても相手になるもんか。他をあたってくれ」
「待った待った!他のあてなんかないってば! プロの相手は荷が重いということなら調査協力費という名目で報酬を払おうじゃないか、これだけ……」
「なんでそこまでこだわるんだ? ネットにありがちなオカルト話じゃないか」
菊岡が提示してきたのは30万と言う大金、高校生へのお小遣いには高すぎる金額だ。
何故ここまでするのかいまいち分からない。
「実はね、上の方が気にしてるんだよね。フルダイブ技術が現実に及ぼす影響というのは今や各分野で最も注目されている。この一件がそれを規制しようとする勢力に利用される前に事実を把握しておきたい。その確信が欲しい」
「そんなの直接運営に聞けば早いんじゃないのか?」
「GGOを開発運営しているザスカーはアメリカにサーバーを置いてるんだ。現実の会社の所在地はおろか電話番号やメールアドレスすら未公開。例のザシード公開以来怪しげなバーチャルワールドは増える一方だよ」
「う……」
「そんな理由で真実の尻尾を掴もうと思ったらゲーム内で直接の接触を試みるしかないんだよ、勿論最大限の安全措置は取る。銃撃されろとは言わない、君から見た印象で判断してくれればそれでいい。行ってくれるね?」
「…………分かった」
ザ・シードの一件はオレにも責任がある、それが原因となって人が死んでいるのならオレが止めなくてはいけない。
「今から聞いてもらうのは 死銃の声だ。何か手掛かりになればいいんだけど……」
菊岡がタブレットを操作すると、イヤホンから男の声が聞こえてきた。
『これが本当の強さだ!愚か者どもよ、この名を恐怖とともに刻め!俺と、この銃の名は……デス・ガンだ!』
これは最初の死銃による襲撃事件の音声ログだ。
籠っており聞きづらいが声の低さからして男だろう、その言葉は呪いの様に憎しみに満ちていた。
デス・ガン、一体何者なのか、何のためにこんなことをするのだろうか。
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キリトが去り、一人席に座っている菊岡へと一人の老人が近づく、店内で昼寝をしていた黒い帽子の老人だ。
「………あれが協力者か?」
「ああ、よろしく頼むよ」
「まだ子供じゃ無いか、話が違うぜ菊岡さん?」
「VR世界の問題なら彼以上の適任者はいないよ遼くん》」
老人が己の顔に手を伸ばし引っ張る、すると老人の顔が歪みべりべりと剥がれる。
剥がれた後にあったのは20代の青年、遼の顔だった。
「相変わらず凄い変装だね、話は聞いていたかい?」
「ああ、盗聴器もつけてたしな」
俺はテーブルの裏に付けていた盗聴器を剥がしポケットにしまうと菊岡と対面するように席へとつく。
「場所を提供してくれて助かるよ。こう言う話を他の人に聞かれたく無いからね」
「いえ、これも仕事の内ですから」
「今回君に依頼するのは彼のサポートだ。彼を手助けしながらデスガンを捕まえて欲しい」
今日俺がここへとやって来たのはこの人からの依頼を受ける為。
デスガンやエクストラスキルの件は俺も調べていたし、依頼自体に問題は無い。
だが一つだけ気に入らない事がある。
「何故素人の子供を危険に巻き込むんですか?」
俺は菊岡さんを軽く睨み付ける、協力者が居ると聞かされていたがそれがあんな子供とは聞いていなかった。
一般人、しかも未成年であるあの少年を死人が出ているような事件に巻き込む事が気に入らない。
「そんな怖い顔をしないでくれ。さっきも言った通り彼はただの高校生じゃ無い。SAO生還者、しかもあの《黒の剣士》だ、これ以上の適任者は居ないよ」
「黒の剣士……」
俺もその名は知っている、デスゲームであるSAOを開放に導いた伝説のプレイヤー。
確かにVR世界の経験なら俺よりも上だろう、しかし理屈は分かっても納得は出来ない。
「だったら尚更だ!あの子はとっくにあの事件から解放されてるんだ。これ以上大人のくだらない問題に巻き込むな!」
俺は仕事柄SAO被害者を多く見てきた、亡くなった者だけでなくその遺族の悲しむ姿を何度も何度も……。
だからこそ唯の一人の高校生である彼をこんな事件に巻き込みたくなかった。
「君の言いたい事も良くわかる、だが彼はSAOで名を馳せたプレイヤーだ。彼がGGO内で大立ち回りをすれば間違いなくデスガンは目をつける」
「……菊岡さんはデスガンがSAO生還者だと思ってるのか?」
「恐らく《ラフィンコフィン》の関係者だと僕は睨んでいる。炙り出すのに彼以上の人材は居ない」
「あの子を囮に使うつもりか?」
「言い方は悪いがそうなるね。彼に派手に踊って貰いデスガンを誘き出し、君は影ながらデスガンの動向を探り証拠を集めて欲しい。捜索がバレると逃げられる可能性が高いからキリトくんとの接触はなるべく控えて欲しい」
「チッ、注文が多いな」
「それに見合う報酬は払うよ。受けてくれるね?」
俺の探偵としての勘がこの男が全てを話していない事を感じ取らせる。
一見唯の優男に見えるが腹の中で何を考えているか分からない、正直言って俺はこの男が苦手だ。
だが断る事も出来ない、その理由がある。
「……師匠と関わりの深いあんたの依頼を断るのは師匠の名を汚す事になる。その依頼受けさせて貰う」
この人と師匠は俺が弟子入りするよりも前からの付き合いらしく、何度も依頼を受けて来たお得意様だ。
その繋がりを弟子である俺の一存で不意にするのは避けたい。
「いや〜助かるよ、氷室さんもいい弟子を持ったものだ。遠慮しないで好きなのを頼んでくれ僕の奢りだからね」
「はん!言われなくても……マスター!とにかく高いもん全部持ってきてくれ!」
笑顔を見せる菊岡さんにイラついた俺は少しでも高い物を多めに食すことにした。
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「さて、あの坊やがGGOに来るまで約一週間……やる事は多いな」
食事を済ませ店を後にした俺は事務所へと戻り計画を練る。
「一番の問題はどうやってあの子をGGOに慣らせるなだな……」
いくらVR世界に慣れているとはいえGGOの戦闘はSAOやALOとはまるで違う、俺が教えるのもアリだが接触を控えて欲しいと言われている以上少し難しい。
「なら誰かに頼むのが一番なんだが……」
とは言えツェリスカとクレハそれとアルゴには他に頼みたい事がある、イツキやオッサンに頼む訳にもいかないし……
「どうすっかな〜……ん?」
椅子をクルクル回しながら考えを巡らせていると、机の上にある書類の中から電子音が聞こえる。
俺とした事がプライベート用のスマホを事務所に忘れていたようだ。
「………うげっ!」
書類の山から救い出したスマホを確認すると大量のメールと着信履歴が残っていた。
相手はアイとシノンの二人だった。
《マスター約束の時間を過ぎていますよ?シノンが事務所にやって来ましたがとても怒ってます》
《遅い!約束の時間からどれだけ経ってると思ってるの?あと5分以内に来なかったらその頭撃ち抜くわよ》
「やっべ……」
そう言えば今日はシノンと約束をしていたんだった。
時計を確認してみるとメールの経歴から既に30分以上経過している。
慌てた俺は考えを後回しにし、アミュスフィアを装着しGGOへと向かった。
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第四部 誰のサイドケースから見たい?
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