ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー   作:トライダー

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 氷の狙撃手の罪

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「……………」

 

 次の日俺はエモシオンにて人を待つ、昨日頼んでおいた捜査の話しだ。

 俺が来てから数分もせずに一人の男が店内へと入って来る、約束の時間ぴったり相変わらずの真面目ぷりだ。

 

「待たせたな」

 

「おう、久しぶりだな『炎刃(えんじ)』」

 

 赤い革のジャケットを羽織った目つきの悪い男。

 彼の名は早坂 炎刃(はやさか えんじ)、警視総監である早坂剛三郎さんの息子で俺にとっては兄弟子に値する男だ。

 

「昨日はいきなり頼んで悪かったな」

 

「気にするな、この一件には俺も思うところがあったからな」

 

 早坂さんの息子だけあってこの男も警察官だ、しかも25歳という若さで警視という超エリート。

 彼の権限なら既に終わったこの事故を調べ直させるなど容易だと思い頼んでみた。

 

「それでどうだった?」

 

「お前の言った通りだ、二人の体から少量だが薬物が発見された。それと首筋に僅かながらの注射痕があった、針の痕は無かったが恐らく無針注射を使ったんだろう」

 

「薬物?毒じゃ無かったのか?」

 

「毒ならもっと早く発見されていた筈だ。発見されたのはサクシニルコリンと言う麻酔導入用の筋弛緩剤として使われる薬だ」

 

 筋弛緩剤……なるほどそれなら確かに発見はされづらいかも知れない。

 

「この薬自体の殺傷性は低いが過剰に摂取する事で死に致しめる。しかし時間経過と共に血液中の化学物質と反応して分解されてしまう性質がある為、もう少し捜査が遅れていたら発見出来なかっただろうな」

 

「正しい死因は薬の過剰摂取か……でもそんなのちゃんと調べれば直ぐ分かるんじゃ無いのか?」

 

「痛いところつくな。恥ずかしい話だが一昔前に多かったVRゲームプレイ中の心不全と言う事で解剖自体もあまり精密には行われなかったようだ」

 

「はぁ〜、ようは警察の手抜き捜査が原因か」

 

「全く。こんないい加減な仕事をするとはな、この件に関わった奴は全員処分するつもりだ」

 

「そりゃかわいそうに」

 

 とは言え人が死んでいるのだ、それなのに決め付けで適当な捜索をするなど論外だ。

 とくに炎刃は警察と言う仕事に誇りを持っており責任感の強い男だ、もしこいつがこの件に関わっていたらこうはならなかっただろう。

 

「でもその薬も注射器も簡単に手に入るようなもんじゃ無いだろ?』

 

「ああ、犯人は医療関係者かもな。その線で捜索をしている」

 

「俺に考えがある、この一件は俺に任せてもらえないか?」

 

「馬鹿な事を……と言いたいが、どちらにせよこの程度の証拠では組織を動かすには時間がかかる。被害者を減らす為にもお前に頼むしか無い」

 

「サンキュー、アニキ♪」

 

「やめろ気持ちの悪い」

 

 まぁそうだろうな。

 俺も自分で言ってて気分が悪くなるぐらいだ。

 

「しかしお前がゲームにハマるとはな、少し前まで興味無かった筈だが」

 

「やってみると面白いもんだぜ、炎刃もやってみるか?」

 

「バカを言うなそんな暇無い」

 

「でも息抜きも必要だろ? 仕事ばっかやってると奥さんに逃げられちゃうぜ?」

 

「……似たような事を丈二さんにも言われたな」

 

「まぁ考えておいてくれよ、GGOなら俺やオッサンが教えてやれるしな」

 

 あいつがゲームをしている姿など想像出来ないが、いつか一緒にするのも楽しそうだ。

 炎刃は俺に資料を渡すとエモシオンを出て行こうとする。

 

「もう行くのか?もう少し休んでいけば良いのに」

 

「そうはいかん。仕事中なのを抜けて来ているんだ、サボる訳にはいかない」

 

「最近物騒な話を聞くし、俺も手を貸そうか?」

 

「ふん、下らん質問するな。俺を誰だと思っている」

 

「それもそうか。んじゃな」

 

 

 

 

 

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「ムカつく!ムカつく!ほんっと、むっかつく!あのバカッ!」

 

 怒りに任せ公園に設置されている支柱を蹴る、蹴るたびにサビのついた破片が飛び散るが気にしない。

 

「め、めずらしいね、朝田さんがそんなストレートなこと言うの」

 

「だってさぁ!あいつの方から誘った癖にに他の女の子にデレデレしちゃってさ!応援してるって言った癖に大事な決勝見ないで帰っちゃうし。そりゃ本戦出場は決まってたけど……せっかく頑張ったんだから見ていきなさいよ!!」

 

 昨日の予選決勝相手は全大会の12位のプレイヤー、今までで最強の相手だった、自分でも最高の戦いが出来きそして勝利した。

 自分が強くなった事に初めて確実な手応えがあった、だからこそ一緒に戦って来たあいつに見てもらいたかったのに……

 

 しかし帰って来てみればリョウの姿は無かった、あのバカの事だからどうせ別の女の子のお尻でも追っかけてるんのだろう。

 私をほったらかしにして、私よりスタイルの良い年上の女性プレイヤーと楽しそうに話しているあいつの姿が容易に想像出来てしまう。

 そう思うと余計にムカムカしてくる。

 

「図々しくてセクハラ野郎でかっこつけであーもう!ホントにムカつく! まぁそのデレデレしてた子実は男の子だったんだけどね、ザマァ見なさいっての!」

 

 胸の内を少し吐き出したからか少し落ち着いた、ふと隣を見ると新川くんが不思議そうな顔でこちらを見ている。

 

「何?新川君」

 

「あ、いや。珍しい……って言うより初めてだから、朝田さんが他人の事そんなにいろいろ言うの」

 

「え? そう?」

 

「うん。朝田さん普段はあんまり他人に興味ないって感じだから」

 

「私怒りっぽいのよ、これでも」

 

「…………そうなんだ」

 

 まぁ確かに新川くん相手にあまり怒った事はない、もしかしたらこんな所を見せたのは初めてかも知れない。

 

「じゃあさ、どこかフィールドで待ち伏せて狩る?狙撃がよければ僕が囮やるし、んでもやっぱり仕返しするなら正面戦闘がいいよね。腕のいいマシンガンナー2・3人くらいならすぐに集められるよ!」

 

「あ、えと……ううん。そういうんじゃないの」

 

 あいつを倒すって言うのは賛成だけどそれでは意味が無い。

 

「なんていうかムカつく男だけど卑怯な事だけはしないから。だから私もフェアな条件で堂々とぶっ飛ばしてやりたいのよ」

 

 私がリョウと行動を共にしたのは、彼の近くに居れば力を得られると思ったから。

 彼を倒せる程の強さを手に入れるのが今の私の目的である、その為には正面からぶつかり合って確実な勝利を得なければ意味が無い。

 

「あのバカ、優勝したら次はあんたの番なんだから覚えてなさいよ!」

 

「え?」

 

「ん?何?」

 

「その……大丈夫なの?そんなことして」

 

 新川くんに指摘され自分の手を見てみる、人差し指を突き立てた銃の形、それはかつての私のトラウマを抉る筈のものだった。

 しかし私の体に前の様な発作は起こらず自然と落ち着いて居た。

 

「え?あ、うん……なんでだろ?怒ってるからかな?平気だった」

 

「そう……」

 

 ここ最近悪夢も見なくなった、あの男と一緒に居るとあの日の事が緩和される感覚に包まれる。

 

(何でなんだろう?あの男はあの事件と関係ない筈なのに……)

 

「朝田さん!」

 

「ど、どうしたの?新川君」

 

 リョウの事を考えていると、突然新川くんに手を握られる。

 

「なんだか心配で、朝田さんがいつもの朝田さんらしくないから」

 

「いつもの私?って言われても……」

 

 よく分からない、私は私。

 いつもと変わらないつもりだったけど……

 

「朝田さんっていつもクールで超然としててさ、何にも動じないで僕と同じ目に遭ってるのに僕みたいに学校から逃げたりしないしさ、強いんだよすっごく」

 

「強くなんかないよ、私。君も知ってるでしょ?銃とか見ただけで発作が……」

 

「シノンは違うじゃない。シノンはあんなすごい銃を自在にあやつってさ。僕、あれが朝田さんの本当の姿だと思うな。きっといつか現実の朝田さんもああなれるよ!」

 

 シノンは違う……?

 それってどう言う意味なんだろう、私とシノンは同じ存在のはず。

 

 それとも…………

 

「だから心配なんだ。あんな男の事で怒ったり動揺してる朝田さんを見ると、前までの朝田さんはもっと氷みたいに冷たくて鋭くてカッコ良かったのに、最近の朝田さんはおかしいよ!」

 

(私だってずっとずっと昔には普通に泣いたり笑ったりしてたんだよ。なりたくて今のわたしになったわけじゃないんだよ……)

 

 氷のよう……それは強くなる為には余計な物は必要無いと思って振り払って来たから、私はシノンになりたい訳じゃない。

 

「僕が力になるから!僕は君の事が……」

 

 私はただ……

 

「え?……朝田さん?」

 

 そのまま新川くんは私を抱きしめようとする。

 私だって鈍感じゃない、ここまでされれば彼が何を言おうとしているのか分かる。

 私は反射的に彼を押し退けていた。

 

「ごめんね。そう言ってくれるのはすごく嬉しいし君のことはこの街でたった一人心が通じ合える人だと思ってる。でもね今はまだそういう気分になれないんだ。私の問題は私が戦わないと解決しないって思うから」

 

「………そう」

 

「だからそれまで待っていてくれる?」

 

 彼は俯き静かに頷くと、踵を返し公園を去って行った。

 

「ありがとう」

 

 その背中にお礼を言うと再びブランコに腰をかける。

 

「はぁ……」

 

 ブランコをゆっくりと漕ぎ小さく溜息を吐く。

 別に新川くんと付き合うのが嫌なわけじゃ無い、彼の事は好意的に思っているし悪い気分はしない。

 でもそう思うと自分の中に大きなモヤモヤが現れる、これが解決しない内に決めてしまうのは後で後悔するように感じるのだ。

 

 

 

 

 

「ん?あれは……」

 

 少し離れた大きな木の下に子供たちが集まり、木の上を見上げているのが見える。

 その姿が気になり近づき声を掛ける。

 

「どうしたの?」

 

「あのね、この子のボールが気に引っ掛かっちゃったの」

 

「オレが力一杯蹴っちゃって、飛んで行っちゃったんだ」

 

「どうしよう、買ってもらったばっかなのに。パパに怒られちゃう……」

 

 ボールの持ち主らしき女の子が涙を浮かべる。

 

「ちょ、ちょっと待って何か………」

 

 その表情を見て何もせずにはいられなかった、私は自分の持っていた鞄の持ち手を持つとボールへ向けて構える。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 深呼吸し精神を整えながら狙いを定める、距離は10メートルも無い上に対象は動きもしない、普段の狙撃と比べれば難易度は天の地の差だ。

 狙いをつけ終わると力を入れ思いっきり鞄を投げる。

 

「あ……」

 

「「「あ……」」」

 

 しかしゲームと現実は違う、鞄はボールとは全く別の方に飛んで行き、掠ることすらなく同じ様に木へと引っ掛かった。

 その光景に全員が気の抜けた声が出る。

 

「う、上手くいかないものね……」

 

 私は特別運動神経が良い方ではなく木登りなんてしたことが無い、しかも木の高さは数メートル、枝だけでも私の背よりも高く手を伸ばしてもギリギリの高さで登るのは難しそうだ。

 

 ………シノンなら。

 

(っ!今、私……)

 

 そう心の中で呟いた瞬間、

 さっき新川くんが言っていた意味がわかった、強くなったのはシノンであって私じゃ無い。

 現実の私は何も変わっていないのかも、だから新川くんはあんな事を言ったんだ。

 

「う……ひっぐ……」

 

「な、泣かないで!大丈夫よ直ぐ取ってあげるから!」

 

 考えるのは後だ、今はこの子のために早くボールを取ってあげないと。

 

「どうしたんだお前ら?」

 

「あ!遼兄ちゃん!」

 

「え! う、右京さん!?」

 

 木に手を添え木登りを試みようとした時、右京さんが此方へとやって来る。

 皆の反応を見る限り知り合いのようだ。

 

「あのね、わたしのボールが木に引っ掛かっちゃって。おねぇちゃんが手伝ってくれたんだけど……うぅ……」

 

「ん? あーはいはい。だいたいわかった、だから泣くな。今取って来てやるからよ」

 

「あ、でも……」

 

「よっと!」

 

 いくら右京さんが長身とは言えこの木の高さを登るのは厳しいと言おうと思った、しかし私の心配は杞憂に終わる。

 駆け出し木の幹を足場にして飛び上がり枝へと捕まる、そのまま逆上がりの要領で枝の上に飛び乗ると凄い速さで木の上を登って行く。

 

「……すごい……」

 

 前に不良達を撃退していた時も思ったが、随分と人間離れした身体能力をしている。

 そうこうしている内にボールを回収し、私の鞄の方へと向かう。

 

「よっ!はっと、よしこれだな……あん?」

 

 カーッ!カーッ!カーッ!

 

「うぉっ!? ちょっ!止め、ぎゃぁっーーー!!」

 

 しかしその時木の中から複数の鳥の声が聞こえる。

 どうやら木の中にカラスの群れが居たらしく、鳴き声に混ざって右京さんの悲鳴が響く。

 暫くカラスの鳴き声が響いた後、木の上から右京さんが落ちてくる。

 ドカっと痛そうな音が聞こえ背中をさすっている。

 

「いちちちち………」

 

「お兄ちゃん大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫。それよりほら!これだろ?」

 

「うん!ありがとうお兄ちゃん!」

 

 心配そうに駆け寄る女の子に笑顔で応え、ボールを手渡す。

 回収する際にカラスに襲われたせいかその手と顔には痛々しそうな無数の傷がついていた。

 

「どういたしまして。おいシンジ、次からは気をつけろよ?」

 

「ぎくっ! 何でわかったの?」

 

「あんなとこまで蹴飛ばすのお前ぐらいだろうが、最年長なんだから力加減に気をつけな」

 

 けど彼は全く痛がる素振りを見せず子供たちと笑顔で察する、本当に痛く無いのか、それとも心配させない為誤魔化しているのかは分からない。

 

 何故だかその姿が『あの男』と被って見えた。

 

「ほらこのお姉ちゃんにもお礼を言って」

 

「「「ありがとう!」」」

 

「え、ええどういたしまして……」

 

 眩しい笑顔を見せお礼を言うと広場の方へと走って行った。

 

「あいつらが世話になったな、ほらコレ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 右京さんから自分の鞄を受け取る。

 

「でも私、特に何かした訳じゃ……」

 

 寧ろ自分の荷物も取ってもらって手間を増やしてしまった。

 

「あの子たちがお礼を言ったろ? それが証拠さ、世話になってない奴に礼なんか言わねぇよ。あの子たちには君の優しさが嬉しかったんだよ」

 

「右京さん……」

 

 また助けられてしまった、これで3回目だ。

 結局前も、その前のお礼も出来ていない。

 

「腹も減ったし俺はもう行くよ、またな朝田ちゃん」

 

「あ、待って!」

 

 帰ろうとする右京さんの手を掴み引き止める。

 ここで帰してしまったらいつもと変わらない、何かお礼をしないと思い思考を巡らせる。

 

「あの!私が作ります!」

 

「………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         ⭐︎

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

 部屋の真ん中に置かれた小さなテーブルにお茶をだす、座布団に座った右京さんがお茶を啜るのを見て食器などの後片付けをする。

 

「いや〜しかし美味かった。悪いな、昼飯ご馳走になっちゃって」

 

「いえ右京さんには何度も助けて貰ったから、何かお礼がしたかったので。寧ろこんな事しか出せなくて」

 

「なーに言ってんの!女の子の手料理以上の贅沢があるかよ」

 

 一人暮らしの上祖母達からの仕送りで生活している以上贅沢は出来なく、昨日の残り物ぐらいしか出せなかった。

 でも遼さんはどれも美味しそうに食べてくれた、笑顔を見せながらご飯をかき込む姿は少し可愛かった。

 

「けど、こんなに良くして貰ちゃって彼氏さんに悪いな」

 

「彼氏?」

 

「前に一緒に居た男の子だよ」

 

「だ、だから!彼とはそんなんじゃありません!」

 

「そうなのか?少なくとも向こうにその気がありそうに思ったんだけどな?」

 

「う……」

 

 流石に鋭い、先程告白まがいなことをされそうになった身としては否定しきれず言葉に詰まってしまう。

 

「彼はただの友達よ。それに恋愛なんかにうつつを抜かしている暇は無いですし」

 

「そうか?良いもんだぜ。恋をすると人は強くなるって言うしな」

 

「え?強く……ですか?」

 

 『強く』その単語に私はつい聞き返してしまう。

 

「ああ、人間一人で強くなるのはどう頑張っても限界があるからな。そんな時大切な人の存在が大きくなるんだ。恋人に限らず仲間とかな」

 

「仲間……」

 

 思えば私にそう言える者は居なかった、GGOで強くなるのに馴れ合いは不必要だと思っていたから。

 スコードローンを渡り歩いて来た時も情報を得る為最低限の付き合いしかして来なかった。

 それはリョウ達とも同じ、彼を倒す為彼を利用していたに過ぎない、そんなものを仲間と言えるわけがない。

 

「一人で住んでるのか?」

 

「はい、高校の為上京して来て」

 

「偉いな〜。俺は生まれも育ちもこの街でさ、家の近くの学校に行ってたから勉強とか適当にやってたな」

 

「じゃあ同じ高校なんですね」

 

「ははっ!そうなるな」

 

 片付けを終えた後、軽い雑談を交わす。

 自分でも驚くぐらいスムーズに会話が弾む、男の人それもずっと年上の相手なのに。

 

「それでよ、この前……」

 

「ふふっ!」

 

 この人は強い。

 先程の身体能力もそうたが子供たちや私のように困っている人を助けている、彼のような人を『強い』と言うのだろう。

 

 GGOだけで強くなっている私とは違う……

 

「ねぇ遼さん……人が変わるにはどうしたら良いと思う?」

 

「変わる?難しい質問だな。どう変わりたいんだ?」

 

「……強くなりたい。二度と私のせいで人が死ななくて良いように」

 

「詩乃のせい?」

 

 もしかしたら私はこの人に憧れを持っているのかも知れない、私が欲しがっている強さを持っているような気がしたから。

 だから私は話す事にした、あの恐ろしく悔しいあの事件を、私の『罪』を………

 

 

 

 

 

 

「………そうか、それでシノ……詩乃は強さを求めてるのか」

 

 私の過去を腕を組み真剣な顔で聞き、まるで納得したかのように頷く。

 

「はい、もしあの時私が引き金を引けたら少なくともあの人は死ななくて済んだ。だからもし次に同じ事が起こった時、人を殺せるように……」

 

「それは違うんじゃないか?」

 

「え?」

 

「お前が囚われているのはその事件そのものだ、殺せる殺せないは関係ない。例えその強盗を殺していたとしても、今度は人を殺した呪いを引きずる事になる。そうなれば今と変わらない」

 

「そんな事っ!……」

 

「人を殺すって事はな、殺される以上に怖い事なんだ。その重みに耐えられず、呪いのように付き纏う」

 

「!!」

 

 その言葉に昨日のキリトの姿を思い出す。

 あれだけの強さを持つ彼があそこまで強く怯えていた、まるで亡霊に取り憑かれたかのように。

 彼でさえあれだけの闇を抱え苦しんでいたのだ、幼い頃の自分が耐えられる訳がない。

 

「遼さんは……人を殺した事があるんですか?」

 

「……………あるって言ったらどうする?」

 

「っ!?」

 

「ふふっ、冗談だよ!詩乃が怖いこと言うからからかっただけさ」

 

 一瞬低くなった声に寒気を感じた、しかし直ぐに柔らかい声に変わり寒気は消える。

 唯の冗談だったのか、それとも……

 

「詩乃が囚われる必要はない、お前がするべきなのはまずその事件を乗り越える事だ。人を殺したって何も変わらない、寧ろより深い闇に引き込まれるだけさ」

 

「そんな、じゃあ私はどうしたら良いんですか………?」

 

「さっきも言ったろ? 人間一人で強くなるのはどう頑張っても限界がある。一緒に乗り越えてくれる仲間を作る事だ」

 

「そんなの私には……」

 

「だから一人で抱え込むな。俺ならいくらでも付き合ってやるし、もっと周りを見ろ、お前を大事に思っている奴は確かに居るんだからよ」

 

 私の両肩に手を乗せ真っ直ぐに見つめてくる、そのひとみに目を逸らしそうなるのを堪える。

 

「ありがとう……ございます」

 

 涙ぐみながらもお礼を絞り出し、彼の胸に飛び込んだ。

 私をあやす彼の手がより大きく感じた。

 

 

 

 

 日が暮れ始めたのに気付いた遼さんはコートを羽織り帰りの支度を始める、私も玄関口まで見送る。

 

「飯ありがとうな」

 

「いえ、私の方こそ相談に乗って貰っちゃって……」

 

「なっはっはっ!若人の相談に乗るのが大人ってもんよ!」

 

 しゃがみ込み靴を履こうとしている彼の姿、やはりこの背中には見覚えがある。

 

「……ねぇ、リョウ。明日のBOB優勝出来るかな?」

 

「どうしたんだよシノン、お前の腕なら大丈…………あ」

 

 私は思い切って仕掛けてみた。

 靴に気を取られていたせいか、いつもの話し方になっている。

 自分で言ったことに気付いたのリョウはしまったとでも言うかのような顔を見せる。

 

「やっぱあんただったのね」

 

「よく気付いたな?」

 

「嫌でも気付くわよ」

 

 ファッションといい、カッコつけな所といい、説教臭い所といい、ほんの少し頼りになる所といいGGOのリョウのまんまだ。

 

「あんたは何も変わって無いのね」

 

「え?」

 

「別に。あんたこそいつ気付いたの?」

 

「前に合った時、後ろの席でGGOの話ししてただろ?その時に会話が聞こえたんだよ。耳が良いんだよ俺は」

 

 前に喫茶店で新川くんとしていた会話だ。

 確かに私のプレイヤーネイムを出していた、周りも結構騒がしかったから誰にも聞かれていないと思っていたが気を付けなければ。

 

「心配しなくてもお前なら優勝できるよ」

 

「ふん、当然よ。誰かさんは応援してくれないみたいだけど?」

 

「しょうがないだろ? 仕事があったんだからよ」

 

「仕事?」

 

「ああ、BOBの日にちと仕事が被ってるから出場は出来ないって前にも言ったろ?」

 

「そう言えば……」

 

 何故出場しないのか聞いた時にその話を聞いた覚えがある、すっかり忘れていた。

 

「確か相手は前大会の入賞者だったんだろ? 帰ってから映像見たけど凄い戦いぶりだったじゃないか」

 

「……………ふん、あんたに褒められても嬉しく無いわよ」

 

「へいへい、そうですか」

 

 そっか、見てくれたんだ……別に関係ないけど明日の本戦は昨日以上に頑張ろう。

 

「あっ!そうだ」

 

 ドアを半分開けたところで遼は何かを思い出したかのように動きを止める。

 

「さっきの話のお兄さんの事だけどあんまり引き摺るなよ。死んだって決まった訳じゃ無いんだろ? 案外助かっていまごろは悩める女子高生の相談にのってるかもよ?」

 

 スーツのボタンを外し肌を少しだけはだけ胸元を見せてくる、突然の行動に驚きそうになったが彼の胸にある物に思考が止まる。

 丸く小さな窪み、銃の事を調べている時に写真などで何度か見た事がある。

 

 銃痕だ、それも心臓の近くにある。

 

「え?それって……」

 

「じゃあなっ!」

 

「ま、待って!」

 

 私が止めるのも聞かず部屋を飛び出して行く、追いかけようにも2階の高さから飛び降りさっさと去って行ってまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

       ⭐︎

 

 

 

 

 

 

 BOB本戦当日

 

 キリトは装備を点検しながら物思いにふける、その頭の中にあるのはデス・ガンの事。

 

(デスガンがラフィンコフィンだと言うなら今回の事件はオレの責任だ)

 

 デスガンはキリトの事を知っていた、それも姿だけで無く太刀筋まで。

 それはつまりキリトはSAO時代に戦った事があるという事、そして仕留め損なった事に責任を感じていた。

 

(これ以上死人を出させない、同じSAO生還者としてオレがお前を斬る)

 

 

 

 シノンはヘカートの調整をしながら昨日の事を思い出す、新川の一件もそうだが、それ以上に遼の事だ。

 

(あの傷間違いなく銃痕、なら遼が……)

 

 顔は覚えていないが年齢を逆算すれば辻褄も合う。

 

(だったら……ううん、今は大会に集中しよう。優勝しよう、全てが終わった後彼から真実を聞こう)

 

 

 

 

 リョウはホームで服を着替える、いつものスーツではなく草の生えたフード付きのギリスーツを着ている。

 

(まさかシノンがあの時の女の子とはな……そしてこの大会にそんな意気込みで参加していたとは。なおさらあのガイコツ野郎に邪魔させる訳にはいかないな)

 

 思い返すのはシノンそしてキリトの事。

 

(シノンもキリトも、もう誰も死なせない。探偵として必ずお前を捕まえるぞ、デスガン)

 

 

 

 

 暗がりの中に二人の影がある、その一人はデス・ガンだ。

 

『黒の剣士……きさまの命運も今日までだ』

 

「ねぇ兄さん……」

 

『ああ、分かっている。奴らを殺した後はお前の言う通り、道化師を殺す』

 

「た、頼むよ兄さん。あいつ邪魔だからさ!」

 

『ふん、オレを信じろ』

 

 デスガンの体が禍々しいオーラに包まれる、その背後に現れる死神の鎌のようなDの文字。

 

『この《D》の力をな』

 

 

 それぞれの思惑を含んだBOBが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

⭐︎

第四部 誰のサイドケースから見たい?

  • キリト
  • アスナ
  • クライン
  • エギル
  • シリカ
  • リズ
  • リーファ
  • シノン
  • ユウキ
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