ソードアート・オンライン フェイタルバレットー切札の弾丸ー   作:トライダー

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 バレット・オブ・バレッツ開幕 

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「よし!これでどうだ?」

 

「はい!これならマスターだって分かりませんよ!」

 

 ホームの中での着替えを終える。

 いつものスーツ姿では無く、草の生えたフードが付いた緑色のギリスーツを着ている。

 口元もマスクで隠しこれなら俺だとバレ無いだろう、それにミリオタの多いGGOでは決して珍しい格好では無い為目立つ事もない筈だ。

 

《でも本当に上手く行くの?》

 

 心配そうなクレハの声が聞こえる、彼女は今GGOでは無くリアルの住まいである翠子の家にいる。

 

「ツェリスカ達を信じろよ。それより俺の体を頼むぞ?」

 

《うん、でもアタシに出来るかな?》

 

「学校で習ってるだろ?」

 

《それはそうだけど、実際に使うのは初めてなんだもん》

 

 現在リアルの方の俺の体には菊岡さんが渡してくれたさまざまな器具が取り付けられいる。

 少しでも体調に異変があれば直ぐに伝えられるようになっており、念の為という事で渡されたのだ。

 看護学校に通っているクレハなら使いこなせると思い彼女に任せる事にした。

 

「今は信頼できる人間以外近くに置いておきたくないんだ、頼むよクレハ」

 

《わ、分かってるわよ!アタシだって何か役に立ちたいもの。せいぜい頑張るわよ!》

 

「そのいきだ。ツェリスカとイツキの方は順調か?」

 

《ええ、もう少しでザスカーのセキュリティを突破できるわ》

 

《こっちの方はもう少し時間が掛かりそうだ》

 

 イツキには本戦出場者の住所の特定を頼んでいる、プレイヤーの個人情報なだけあってまだ時間が掛かりそうだ。

 

《始まるまで残り五分を切ったわよ?》

 

「仕方ない先にフィールドに向かう、情報が分かり次第連絡してくれ」

 

《了解》

 

「ツェリスカ準備してくれ」

 

《もう出来てるわよ。本戦が始まり次第他のプレイヤーに紛れさせるわ》

 

 運営側の人間であるツェリスカとアファシスであるアイとデイジーの情報処理能力によってザスカーのプログラムをハッキングし俺をBOB本戦のフィールドへと送り込むという作戦だ。

 ツェリスカが言うにはBOBのフィールドは大会用に新しく製作されているらしく、その為少しプログラムが甘い所があるらしい、そこを付けば俺を擬似的な出場プレイヤーとして送れるそうだ。

 

《わたしが渡したプログラムはちゃんと持ってるかしら?》

 

「ああ、これは?」

 

 懐に忍ばせたキューブ状のプログラムを手に取る。

 

《それはサテライトスキャンを避けるためのジャミングプログラムよ》

 

「サテライトスキャン?それって確か……」

 

《プレイヤー達の位置を表すスパイ衛星の事よ。それが15分ごとに開始されるの、プレイヤーの数とスキャンの数が合わなかったら大問題でしょ?》

 

「それもそうか、サンキューツェリスカ。下手に見つかって通報されたら計画は全部終わりだからな」

 

 下手をすれば全員が二度とGGOをプレイ出来なくなる可能性が高い、慎重に動かなくてはならない。

 

「マスター……」

 

「ん? どうしたんだアイ?」

 

「気をつけてください。もしマスターが死ぬなんて事があったら、わたし……」

 

 今にも泣きそうな顔で俯くアイ。

 ったく、今から死ぬ事考えるなよな。

 

「辛気臭い顔すんな、幸運の女神が笑ってくれる限り俺は無敵だ。……だから笑ってくれ」

 

「……はいっ!わたしのマスターは最強ですっ!デスガンなんかに負けないのです!」

 

 眩しい笑顔を見せる、俺は大好きなその笑顔に背中を押されながら決戦のフィールドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 本戦が始まりすでに30分、今のところ犠牲者は出ていない、森の中の木々に身を隠しツェリスカ達と通信を交わしデスガンの位置を探ろうとする。

 サテライトスキャンではプレイヤー名まで分からないがカメラで探せば話は別だ。 

 

「スティーブンとか言う奴は見つかったか?」

 

《スティーブンじゃ無くて、Sterben(ステルベン)よ》

 

「え?そうなの? いや俺実は英語は苦手でさ」

 

《英語じゃ無くてドイツ語だけどね》

 

「よく知ってるな。んでステルベンはどこに居る?」

 

《それがおかしいの。さっきからカメラをハッキングして居場所を探しているのに何処にも居ないの》

 

「なに?どう言う事だ?」

 

《分からないわ、サテライトスキャンには的確な人数が映っているのに……》

 

 そう言えば菊岡さんの話ではデスガンは突然現れて煙のように消えるってのがあったな。何かトリックがあるのか……

 

「何らかの方法で姿を隠しているのか……?ならスキャンとカメラでプレイヤーの数が合わない地点がある筈だ。そこに向かおう」

 

《それなら、そこから北西にある大きな橋の所よ》

 

「了解だ、直ぐに向かう」

 

 通信を切り森の中を走る、UFGを使いたい所だがアレは目立つ上に持っているプレイヤーも少ない、俺の正体を知られる可能性がある以上使用は控えたい。

 

 

 

 

 

 

 

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(ビンゴ)

 

 敵プレイヤーのグレードを撃ち抜き誘爆を発生させる、爆発の後煙の中からDEADの文字が現れる。

 プレイヤーを倒すと同時にスキャンの時間になり、マップを開き現在の状況を確認する。

 

(生き残っているのは21……ダインの方が追われてるようね。リッチーは重機関銃で迎撃するスタイルだから自分からは動かないはず。狙うならダインたちの方が……)

 

 次の狙撃のための作戦を練っていると、ふと頭の中に彼の顔が浮かび上がりそうになるのを振り払う。

 

(遼……ううん、今はこっちに集中しないと。どうせ話を聞くならこっちも良い話を持って行きたいもの)

 

 ヘカートを抱え狙撃ポイントへと移動する、ダインは現在敵プレイヤーから逃げているらしくこっちへと向かってきている。

 この大きな橋で待ち伏せして二人まとめて倒してしまおう。

 

 

 

 

 

 

 待ち伏せすること数分、ダインが此方へと走って来るのがスコープで見える。

 

「くそっ!何なんだよアイツ。さぁさっさと出て来い!蜂の巣にしてやんぜ!」

 

(どんな時もチェックシックスよ、ダイン君)

 

 橋の向こうにいるであろうプレイヤーに気を取られ背後がガラ空きだ、様子を見ながらもいつでも撃ち抜けるように呼吸を整える。

 

「誰!?」

 

 背後に気配を感じ腰のグロック18を手に持ち振り向こうとするが、その手を弾かれ押し倒される。

 

 私を押し倒したのはキリトだった。

 

「待つんだ、提案がある」

 

「この状況で提案も妥協もあり得ない! どちらかが死ぬ、それだけよ!」

 

「頼む!向こうに気づかれたくないんだ!」

 

「……どういう意味?」

 

 あまりにも真面目な表情を見せるため仕方なく話だけでも聞こうとする。

 もがくのをやめたのを理解キリトは、私の上からどくと橋の方を指さす。

 

「あの橋で起きるペイルライダーの戦闘を最後まで見たい。それまで手を出さないでくれ」

 

「見てそれからどうするの?」

 

「状況にもよるがオレはここから離れる。君を攻撃はしない」

 

「私が背中から狙撃するかもよ?」

 

「それならそれで仕方がない。……来るぞ、もう始まる」

 

 こっちの了解も聞かずにダイン達の方へと視線を向けるキリト。

 隙だらけなその姿にため息が漏れる。

 

「ちょっとは警戒しなさいよ……もしあいつが移動しようとしたらその前に撃つから」

 

「わかった。いや、待った」

 

 森の中から青白い迷彩柄のスーツに身を包み、白いフルフェイス型のヘルメットで顔を隠した細く長身のプレイヤー、右手にはショットガンらしいものを持っている。

 ダインはアサルトライフルを構え、そのプレイヤーを迎え撃とうとする。

 それに対して右手にショットガンを持ち、鉄橋の真ん中をゆっくり歩いてダインに近づく。

 ダインのアサルトライフルが火を噴いた途端に飛び上がり軽々とそれをかわす。

 そして、鉄橋の柱につかまり、向かい側にある鉄橋を支えるワイヤーロープへと飛び移った。

 ダインは再び、狙おうとするが当たらない。

 

(あいつ強い! 装備重量を抑えて三次元機動力をブーストしているんだわ。しかもアクロバティックスキルがかなり高い。)

 

 右手に持っていたショットガンが火を噴きダインを怯ませる、更に数発攻撃を受けてダインは倒された。

 

「あの青い奴強いな。あいつがあのマントの中身なのか……?」

 

 キリトがぶつぶつ呟いているが、プレイヤーを倒した瞬間、それは最も隙ができる瞬間だ。

 このチャンスを見逃す理由は無い、私は容赦無く狙いを定める。

 

「でももしあいつがあの男なら……」

 

 キリトが言い掛けた瞬間、ペイルライダーが突然糸の切れた人形のように力無く崩れ落ちる。

 あの倒れ方、間違いない射撃によるものだ。

 

「銃声を聞き逃した?!」

 

「いや、間違いなく聞こえなかった。どういうことだ?」

 

「考えられるのは作動音が小さなレーザーライフルか実弾銃ならサイレンサー付きだったかだけど」

 

 もちろん私も撃っていない。

 しかしここまで人影らしいものは一つもなかった。それ程距離の離れた場所からのサイレンサー付きの狙撃。銃のランクも、それを扱う腕も高くなくては困難なもの。

 

「シノン。あいつのアバターに妙なライトエフェクトが……」

 

「あれって、スタンバレット!?」

 

 キリトの言う通りペイルライダーの胸には撃たれたエフェクトの他に、電気が迸るようなエフェクトが現れている。

 命中したあと対象に高電圧を生み出してスタンさせる特殊弾で、ペイルライダーが動かないのはあれが原因だろう。

 

「っ!?、アイツいつからあそこに……」

 

 キリトの視線の先を見る、すると先程まで誰も居なかった橋の真ん中に黒いマントを着たプレイヤーが居た。

 肩にはスナイパーライフルを担いでいて、その銃に見覚えがあった。

 

「サイレントアサシン!」

 

「それって、あのライフルの名前か?」

 

「そう、サイレンサー標準装備の高性能狙撃銃。GGOに存在するという噂は聞いていたけどわたしも初めて見た」

 

 私のヘカートと同レベルのレア銃。威力だけならヘカートの方が何倍も高いが、隠蔽性ならGGOトップクラスの銃。あの銃ならこの状況も納得がいく。

 

『オレとこの銃、真の名はデス・ガン。オレはいつか貴様らの前に現れる。そしてこの銃で本物の死をもたらす。オレにはその力がある。忘れるな、まだ終わっていない。何も終わっていない』

 

 男はライフルを肩に担ぐと、まるで儀式でもするかのように両手を広げ天を仰ぎ呪怨のように叫ぶと、奴の体がオーラに包まれ背後にDの文字が出現する。

 それはまるで死神鎌を模したような。

 

『イッツショウタイム!』

 

 その男は懐から拳銃を取り出し、倒れているペイルライダーへと向ける。

 種類は分からないが大きさからみてハンドガンだろう。

 

「ハンドガンなんかでトドメを刺す気?あのまま狙撃した方が早いのに」

 

「シノン、撃て……」

 

「え、どっちを?」

 

「あのボロマントだ! 頼む!撃ってくれ!早く! あいつが撃つ前に!」

 

 様子の変わったキリトが珍しく叫ぶ。

 慌ててヘカートをその男に向けるがもう遅い、既に銃口はペイルライダーへと向けられていた。

 

「や、やめろぉ!!」

 

 

 

 

 

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「お兄ちゃんなかなか映らないね」

 

 ALOにある空中都市《イグドラシル・シティ》

 そのなかにあるキリトとアスナが共同で借りている部屋に皆が集まりモニターを見ている。

 目的は一つMMOストリーム生中継で放送されるBoBだ、キリトの活躍を見守ろうと仕事で急いエギル以外が集まっている。

 それにGGOはVRゲームの中でも特にレベルが高くその頂点を決めると言う事は実質VRゲームで一番のプレイヤーと言っても過言では無い。

 VRゲームを愛する彼女達にとってキリトの事を抜きにしても非常に興味のあるイベントだ。

 

「戦闘はすべて中継されるんですよね。キリトさんのことだからてっきり最初から飛ばしまくると思ってたのに」

 

「いやいや。野郎はああ見えて計算高えからな。参加者が適当に減るまでどっかに隠れてる気かもよ」

 

「いくらキリト君でもそこまではしないわよ、ねえユイちゃん」

 

「そうですよ!パパならきっとカメラに映る暇もないほど一瞬で敵の後ろから不意討ちしまくりです」

 

「それはありそうだね。しかもガンゲーなのに銃じゃなくて剣でね!」

 

 あははっ!と皆で笑い合っているとモニターが切り替わり別の戦闘が映し出される。

 それは先程のダインとペイルライダーのものだ。

 

「おー! あの人強いね」

 

「ん?あの青い服の人?」

 

「確かにすごいですね!」

 

「うん、きっと今回の優勝候補に違いないわ!」

 

 ペイルライダーの軽やかな動きを見た女性陣が絶賛の声を上げる、アスナやクラインから見ても勝つのは難しく思えるほどの動きだ。

 

 と思いきや、ダインを倒した瞬間突然動きが止まり倒れ込む。

 

「おいおいダメじゃねえか」

 

「まだやられてないわよ!」

 

「なんでしょう?」

 

「おそらく一定時間対象を麻痺させる攻撃ですね」

 

「へぇ、まるで風魔法のサンダーウェブみたい」

 

 すると全身を隠すくらい丈の長いボロボロのフード付きマントを身に纏い、ガイコツマスクを被ったプレイヤーが未だ動かないペイルライダーへと近づく。

 

《オレとこの銃、真の名はデス・ガン。オレはいつか貴様らの前に現れる。そしてこの銃で本物の死をもたらす。オレにはその力がある。忘れるな、まだ終わっていない。何も終わっていない。イッツショウタイム!》

 

 不吉な言葉の数々、その姿にアスナはデジャブのようなものを感じる。

 

(私はあいつとどこかで会ってるような……でもどこで?……ううん、あそこしかない。《アインクラッド》の中で)

 

 アスナが記憶を遡ろうとしていると、ガシャッン!とガラスが割れる音が響く。

 後を振り向くとクラインがモニターを見つめているのが分かる、その足元にグラスの破片とお酒が飛び散っている。

 

「ちょっと何やってんの!」

 

「う……嘘だろ。あいつ……まさか……」

 

「知ってるの?あいつが誰なのか」

 

「あ、いや昔の名前までは……でも間違いねえ、野郎はラフコフのメンバーだ!」

 

「ラフィン・コフィン?まさかあいつはリーダーだったあの包丁使いなの!?」

 

「いやPoHの奴じゃねえ、野郎の喋りや態度とは全然違う。でもさっきの「イッツショウタイム」ってのはPoHの決め台詞だったんだ。多分野郎に近いかなり上の幹部プレイヤーだ……」

 

「そんな、キリト君……」

 

 心配そうな表情でモニターを見つめる、声は届かない以上今はただ彼の無事を祈るしか無い。

 

 そうしている間にもペイルライダーへと銃口が向けられる、その光景にアスナとクラインはかつてのあの地獄の様な光景を思い出してしまう。

 そんなはずが無いのにあのプレイヤーが死んでしまう、そんなような感覚に陥る。

 

「だ、ダメっ………」

 

 

 

 

 

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『グゥッ……』

 

「!?、どこから?」

 

 間に合わないと思った時、銃声と共にデスガンの拳銃が弾かれる。

 双眼鏡で銃声が聞こえた方角を見る、すると橋の向こうの森の中からデス・ガンへと拳銃を向けている緑色のギリスーツを着たプレイヤーの姿が見える。

 

(あの距離を狙撃したのか……いやそれ以上にあの男いつの間に)

 

 先程のサテライトスキャンでこの近辺に居たのはキリトやシノンを含め5人だけ、ダインは倒れペイルライダーも倒れ残りはデスガンだけな筈、その他のプレイヤーとの距離は1km以上離れておりこの数分で来れる訳がなかった。

 

(まさか31人目のプレイヤー!? デスガンと何か関係が……)

 

 キリトが思考を巡らせていると、ペイルライダーの体が光に包まれ消滅する。

 

「何今の、サーバーが切れたのかしら?」

 

「間違いない。あのボロマントがデス・ガンだ」

 

「デス・ガン?それってあの撃たれたプレイヤーは二度とログインしてこないって妙な噂の?」

 

「そうだ。あいつは何らかの方法でプレイヤーを本当に殺せるんだ」

 

「嘘よ、そんなまさか!」

 

「嘘じゃ無い。既に現実世界では二人死んでいる」

 

「そんな……そうだアイツは!……」

 

 慌てて吊り橋の方を見直すがデスガンは既に姿を消していた、まるで煙のように。

 

「くそっ!目を離した隙に……」

 

 木を叩きながら悪態をついていると、デスガンを狙撃した緑服の男もまた姿を隠そうと森の奥へと走り出すのが見える。

 

「あの男、何か知っているのかも知れない。オレはあいつを追う!」

 

「ちょ、ちょっとキリト!?」

 

 シノンが止める間もなくキリトはギリスーツの男を追い森へと駆けて行く。

 

「さっきの弾って……」

 

 デスガンの拳銃を弾いた弾丸、一瞬だがその弾に風のようなエフェクトに纏われているのが見えた。

 シノンはその弾に見覚えがあるように感じながらもキリトの後を追いかける。

 

 

 

 

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「くそっ!やっちまった!」

 

 森の中を駆ける。

 ペイルライダーを助けるためとは言え、プレイヤー同士の戦闘に介入するなど軽はずみな行動をしてしまった。

 

「ツェリスカ!ペイルライダーの方はどうだ?」

 

《無事強制ログアウトさせたわよ。間に合ったと良いんだけど……》

 

「それは心配無いと思う」

 

 はっきり言って奴等の殺害方法なら殺そうと思えば何時でも殺せる。

それなのにこんな回りくどいやり方をしてるって事はそれだけ拘りがあるってことだ。

 その拘りを破るぐらいなら『銃殺の瞬間に薬物を注入する』など面倒な手順を練る必要はない。

 殺しに美学など片腹痛いが、逆に言えばその拘りを崩してやれば止めることもしやすい。

 

「イツキ、ペイルライダーの住所は分かったか?」

 

《ああ、埼玉県の戸田市だ》

 

 ザクシードが東京の中野、薄塩タラコがさいたま市、丁度中間だな。やっぱり奴はこの辺りを起点に行動しているようだ。

 

「クレハはオッサンにこの住所を伝えてくれ、まだ犯人が近くに居るはずだ」

 

《わ、分かったわ!》

 

「イツキ、デスガンの住所は後回しで良い。先に他のプレイヤーがこの近辺に住んでいないか調べてくれ」

 

《了解だ。かなり数は減ってきてるしすぐに分かると思うよ》

 

 犯人の逮捕は大事だがそれ以上にこれ以上の被害者を出すのはごめんだ。

 それにデスガンが狙っているプレイヤーが分かれば先回りもしやすく、殺人をとめる事ができる。

 

《リョウ!キリトくんの反応が近づいているわ!》

 

「何だと!?」

 

 ツェリスカに言われ発信機の位置を確認する、キリトに持たせたナイフに仕込んだ反応がもの凄い速さでこちらへと向かって来ている。

 

「嘘だろ!? 何でこっちに来るんだよ!」

 

《やっぱりさっきの射撃で怪しまれたのよ!》

 

 どこでデスガンが見ているかも分からない以上事情を説明することも出来ない、下手に調査されていることがバレれば大会を棄権して逃げられるかも知れないからだ。

 足に力を入れて距離を離そうとするがキリトの方がAGIが高く、徐々に距離が詰められているのが分かる。

 

「くっ、仕方ない。カメラを操作して俺とキリトが映らないようにしてくれ! 当分通信の返事も出来なくなる」

 

《分かったわ!》

 

 耳の通信機を切り口元をマスクで覆い隠すと、袖から赤い光剣を取り出す。

 

「止めた?!」

 

 キリトの反応と俺が重なるのはそれとほぼ同時だった。

 不意打ち気味の斬撃を背中で受け止めると、そのまま後ろへとキリトの胴体を蹴り距離を離す。

 

「ぐっ!……お前何者だ!」

 

「……………」

 

「サテライトスキャンに写っていなかった、善良なプレイヤーじゃあ無いよな?」

 

「……………」

 

「……デスガンの仲間なのか?」

 

「……………」

 

「何か答えたらどうなんだ!!」

 

 キリトの質問に無言を貫く、声や喋り方で正体を特定される訳には行かない。

 しかしその姿がより彼の警戒心を高めてしまう。

 

「何も答えないって言うなら実力行使で行かせてもらうぜ?」

 

 キリトが光剣を構える。

 その構えから本気具合がわかる、前回の訓練の時とはまるで別人だ。

 デスガンを追う事に集中したいが今背中を見せれば、直ぐに追いつかれ切り刻まれてしまうだろう。

 

(こんな形でやる事になるとはな……)

 

 渋々ながら同じように光剣を構えた。

 

「はあっ!!」

「……っ!!」

 

 ほぼ同じタイミングで駆け出し、紫と赤の刃がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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第四部 誰のサイドケースから見たい?

  • キリト
  • アスナ
  • クライン
  • エギル
  • シリカ
  • リズ
  • リーファ
  • シノン
  • ユウキ
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